スリランカ(1948年英国より独立、半大統領制と議院内閣制の混合体制)は目下、ロシア以上に対外債務弁済に窮しており、食糧等必須の生活物資が手に入らない住民が反政府運動デモを展開している。さすがに、現職大統領は失政を認めざるを得ず、また、その実兄である現職首相も大統領権限を減らし議会に移譲すると宣言するも、両トップとも退陣は拒否している。両トップとも、現在陳情している国際通貨基金(IMF、1945年設立、本部ワシントンD.C.)からの緊急融資獲得で急場凌ぎをしようとしているが、一方、対抗すべき野党陣営も議席保有数が4割弱と、圧倒的過半数の与党に対抗して組閣することはできず、同国政治は行き詰まり状態となっている。
4月19日付米
『AP通信』は、「スリランカ首相、大統領権限減らすと表明」と題して、財政危機を招いた現職大統領の責任を追及する一環で、実兄の首相が大統領権限の一部を議会に移譲する考えを表明したと報じている。
スリランカのマヒンダ・ラージャパクサ第24代首相(76歳、2019年就任、2005~2015年在任の第6代大統領)は4月19日、経済危機に喘ぐ住民による反政府運動デモの拡大に窮して、憲法を改定して大統領権限の一部を議会に移譲すると表明した。
これは、大統領及びその一族を政権中枢から追い出せとの住民要求に対応しようとしたものであるが、同首相としては、まず政権運営を安定させて、目下陳情を始めたIMFに対する緊急支援融資交渉を前進させるためだとしている。
同首相は議場で議員らに対して、“我が国の財政問題解決の道を探っているが、そのために必要なのは政治的安定だ”とし、その一環での大統領権限の変更を踏まえた憲法改定が改革の第一歩だと訴えた。
同首相の実弟であるゴーターバヤ・ラージャパクサ第8代大統領(72歳、2019年就任)は、大統領就任以来、大統領権限の強化に努めてきていた。
しかし、政府政策を非難する反政府運動が増幅し、経済危機を招いた大統領の責任を問う数千人の抗議者が大統領邸宅を包囲することとなった。
そこで、邸宅が包囲されて10日目となる4月18日、同大統領はついに、IMFへの緊急融資申請が遅れたことや、有機農業推進政策のため化学肥料の輸入禁止措置を取ったこと等、経済危機に陥った原因となる政策を進めた責任を認めた。
同大統領は同日、政権中枢メンバーを更迭し、閣僚や閣外大臣職に就いていたラージャパクサ一族を退任させたが、自身も実兄の首相も辞任せずに現職に留まることとし、政権運営上の影響力を保持しようとしている。
すなわち、仮に憲法を改正して大統領権限を減らしても、大統領・首相をラージャパクサ兄弟が務めている以上、同一族の影響力が減じられることはない。
野党勢力は、首相による挙国一致内閣組成の呼びかけを拒否しているが、与党・スリランカ人民党(SLPF、2001年設立)に6割以上の圧倒的過半数を握られていることから、野党勢力が団結して組閣することはできない状況である。
スリランカは、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題深刻化のため、主要産業であった観光業が大打撃を受けた。
そこで政府は、総額250億ドル(約3兆1,250億円)に上る対外債務のうち今年中に70億ドル(約8,750億円)を弁済する必要があるため、外貨流出を防ぐ一環で食料や食材の輸入を禁止した。
しかし、折からのCOVID-19に伴う景気後退もあって、必要不可欠な食料や料理用のガス燃料、ガソリン、更には医薬品まで品薄、価格高騰となり、何ヵ月も我慢を強いられた住民の不満が爆発して大規模抗議運動に繋がっていた。
なお、政府は先週、アリ・サブリ財務大臣(51歳、2022年就任)を米国に派遣し、4月18日からIMFとの緊急融資交渉に入ると表明した。
更に、燃料や食料品購入資金捻出のため、中国やインドからのつなぎ融資を受けるべく交渉を始めている。
一方、同日付インド『PTI通信』(1947年設立のインド最大の通信社)も、「スリランカのマヒンダ・ラージャパクサ首相が憲法改定を提案」と題して、同国政権の直近の動静を報じている。
四面楚歌に陥っているマヒンダ・ラージャパクサ首相は4月18日、反政府運動鎮静化の一環で、議会に対して責任ある政権を再構築することを目的として憲法改正を提案した。
同首相は声明で、住民の要請に応えるため、行政、司法、立法府の改革を含めた内容の憲法改正となると言及した。
同時に、ゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領も4月18日、同首相を除くラージャパクサ一族を閣僚メンバーから外し、新たに17名の閣僚メンバーを任命した。
同大統領は、自身が推進した有機農業のために講じた化学肥料輸入禁止措置が失政であったこと、及び経済学者等から要求されていたIMFへの緊急融資申請交渉を留めていたことの責任を認めた。
しかし、大統領・首相とも退任することは拒否しており、同国の反政府運動がすぐにも鎮静化するとはみられない。
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シャハバス・シャリフ新首相は、「公正さの勝利で、悪ものは退治された。」と宣言した。4月11日、月曜日の国民議会の投票で342議席中、174議席がシェハバズ・シャリフ新首相に票を投じたと議長代理が発表した。
国民議会は、イムラン・カーン前首相の所属するPTI党(パキスタン公平社会運動の党)の大多数の議員によりボイコットされ、イムラン・カーン前首相をはじめとしてPTI党議員たちも辞職を表明した。カーン前首相は69才で、元は有名なクリケット選手で2018年に選ばれたが、今回パキスタン政界で初めて内閣不信任決議により辞職に追い込まれた。
ところで、シェハバズ・シャリフ新首相はパキスタン・イスラム信者団体(PML-N)の代表であり、70才でようやくパキスタン人、2.2億人の頂点に立った。
ところで、シェハバズ・シャリフ新首相は、2017年まで3期にわたって首相を務めたナワズ・シャリフ氏の兄弟の末っ子にあたる。そのナワズ・シャリフ氏は汚職容疑で投獄されたが、その後、健康上の理由で2年後に釈放され、英国に政治亡命している。
なお、シェハバズ・シャリフ新首相の最初の役務は、これまで対立関係にあった自党PML-Nとパキスタン人民党(PPP)で結成された連合政権の閣僚を選出することである。 新シェハバズ・シャリフ首相にとって、閣僚の人選が重要で、これからの安定した政権運営の鍵を握るものと見られる。
インドと対抗する南アジアの国で核兵器所有国でもあるパキスタンの今後の新政権の動向に着目していきたい。
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