3月21日付米
『ABCニュース』:「ロシアの新型コロナウィルス感染者数が異常に少ないのは隠蔽のせい?」
ロシア政府の3月20日時点の発表では、同国の新型コロナウィルス感染者数は253人とされているが、既に数千人の感染者を出している欧州諸国と比べて異常に少ない。
同政府によると、既に検疫は13万3,101人に行った結果だとしているが、この検査数は、ウィルス禍が非常に深刻な中国、イタリア、韓国に次ぐ多さである。
英オックスフォード大学(ロンドン北西、1096年設立の公立大学)の“世界のデータ比較(注後記)”によると、3月21日現在のロシア人感染者として公表されている305人という数値は、総検疫数に対して僅か0.21%となり、小国のアラブ首長国連邦(UAE)の0.11%に次いで、世界で2番目に低い数値である。
この数値は、ロシアの国土の大きさ、1億4,400万人の人口、更には発生源の中国と非常に長い国境で接していることから考えて、俄かに信じがたい。
例えば、英国では6万4,600人に対する検疫の結果、感染者が3千人以上出ており、ノルウェーでも4万4,000人の検疫に対して、1,700人余りの感染結果となっている。
英イースト・アングリア大学(英国東端、1963年設立の国立大学)健康保護専門のポール・ハンター教授は、『ABCニュース』のインタビューに答えて、“実際に検疫した数値がこれ程多いとしたら、感染者数は異常に低く、結果自体に疑念を抱かざるを得ない”とコメントした。
ロシアのこれまでの悪しき慣行、すなわち市民に都合の悪いニュースは隠蔽してきたという経緯より、ロシア内部においても疑念の声が上がっている。
例えば、ロシア共産党のアレクセイ・クリニィ議員は今週、“実際の感染者数は疑いもなくもっと遥かに高い”とした上で、“発表値の2倍か、それとも10倍か?”とツイートしている。
また、ロシア科学ウェブサイト『PCRニュース』(分子遺伝学が専門)の報告によれば、ロシア検疫は世界各国の基準法に従っているとは言え、機械自体の精度から、検体サンプル1ミリリットル当たり10万以上のウィルスが検出できないと陽性と判断できないという。
すなわち、例えば米国の例で言えば、僅か6,250のウィルスが検出された場合陽性と評価していることと比較して、ロシアの検査結果において、多くの陽性と疑われる検体が陰性とされている恐れがあるとする。
米臨床化学協会のカーメン・ワイリィ理事長は『ABCニュース』のインタビューに答えて、“米国に比して、10~16分の1程度の精度しかないことになる”とコメントした。
しかし、ロシア政府は、公表値は正確なものだと主張しており、医療部門幹部も、実際はもっと多いはずだとの噂を真っ向から否定している。
また、ウラジーミル・プーチン大統領も今週、“全てうまく制御できているし、他国に比べて非常に良い結果だ”と強調している。
3月22日付ロシア『モスクワ・タイムズ』紙:「ロシアにおける新型コロナウィルス現状」
世界で猛威を振るう新型コロナウィルス感染症は、直近で死者が1万3千人(*)を超えたこと、また、ロシアにおける感染者も306人、死者が1人出たこともあって、ロシア政府としても、対策強化に努めている。
(*)米ジョンズ・ホプキンス大学内研究機関集計データによれば、3月22日現在、感染者数30万7,297人(ロシアは世界46番目)、死者1万3,049人。
ロシアで取られている主たる対応は以下のとおり;
・首都モスクワでは、プール・フィットネスクラブ含めて全てのスポーツ施設を閉鎖。
・市民の多くが空気清浄機を買い求め、ウィルス感染防止に対応。
・ロシア最大の自動車メーカーのアフトバース(1966年設立)は、全従業員3万5千人のうち、初めて2人の感染者が出たというが、目下のところ生産継続の意向。
・モスクワの交通警官が、市内のタクシー運転手のマスク着用有無を確認するパトロール実施。
・プーチン大統領からの指示で、3月22日からロシア軍が協力して、イタリア向けに医療用品送達や医療従事者の派遣等の支援を開始。
(注)世界のデータ比較:英オックスフォード大学傘下の科学データ情報ネットワークで、主として、貧困、感染症、飢饉、気候変動、紛争、現実的リスク、不平等等世界の重大問題に関する主計データを提供。2011年にエコノミスト・哲学者そしてメディア評論家のマック・ローザー氏が創設。
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3月18日現在、新型コロナウィルス感染拡大は世界159ヵ国に及び、感染者22万2,642人、死者9,115人と、勢いは衰えない(米ジョンズ・ホプキンス大学内研究機関集計データ)。特に、中国以外の欧州並びに米国での感染拡大が深刻である。しかし、かかる状況下、ロシアは、世界最大の国土を持ち、また、ウィルス禍に苛まれる中国及び欧州と長い国境を接しているにも拘らず、感染者は僅か147人(全体の50位)であり、かつまだ死者も出ていない。そこで、国内外の批判的メディアから、ロシアドーピング問題(注後記)よろしく、今回の新型コロナウィルス感染検査でもまやかしがあると疑念の声が上がっている。
3月18日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「プーチン大統領、新型コロナウィルス感染の脅威は横に置いて強権力拡大」
ウラジーミル・プーチン大統領は3月18日、4月22日に予定されている、自身の支配力を現行任期末の2024年より更に伸ばすことを許容することになる、憲法改正に関わる国民投票について触れた。
クリミア半島併合から6周年を記念する式典で述べたもので、同大統領は、“目下のところ、世界を震え上がらせている新型コロナウィルス感染問題は、ロシアにおいては感染抑制の成果が出ている”とした上で、“但し、国民の生命・財産を守ることが重要なので、もし感染状況が悪化するようであれば、投票日を若干延期することもあり得る”とコメントした。
しかし、政権批評家らは、新型コロナウィルス対策に伴う制限と、本心では国民投票を強行しようとする対応に矛盾が生じているとする。
例えば、『モスクワのこだま』ラジオ放送(1990年設立)のコメンテーターのマトベイ・ガナポルスキィ氏は、“政権は左手で国民の行動制限を敷いておいて、右手で投票所に必ず来るよう四六時中迫っている”と指摘している。
また、同大統領が、“新型コロナウィルス感染に国境はないが、これまでのところロシアはうまく制御できている“と自賛していることにも、疑問の声が上がっている。
すなわち、政府の新型コロナウィルス対策チームが3月18日、感染者は147人になっているが、死者は出ていない、と発表したことに対して、まやかしではないかとの声がある。
例えば、専門家らは、ロシアは世界最大の国土を抱え、また、ウィルス禍に苛まれている中国、欧州と国境を接しているのに、何故これ程低く抑えられているのか理屈が通らないと批評している。
巷でも、国民を動揺させないように、政府が、新型コロナウィルス感染患者をインフルエンザやただの肺炎としてしまっているのではないか、との噂が飛び交っている。
また、分子遺伝学が専門のロシア科学ウェブサイト『PCRニュース』によると、ロシアの検疫検査研究所では実証されていない検査方法で新型コロナウィルス感染の検査を行っているので、検査結果が陰性と出ても疑わしいという。
同ニュースに投稿したエレーナ・クルシェンコ及びアレクセイ・トルガシェフ両氏は、“政府発表の感染者数は感染流行状況を正しく反映していないため、本当の脅威を覆い隠してしまう”と述べている。
なお、ロシア政府は遅ればせながら、3月18日に、外国からの来訪者を5月1日まで受け入れないと発表した。
また、米国、英国、アラブ首長国連邦(UAE)の往来便を全て一時停止とした。
更に、全校を3月23日から4月12日まで閉鎖し、期間中はオンライン授業を採用するとしている。
(注)ロシアドーピング問題:ロシアが国ぐるみで競技選手のドーピングに関わってきたことが発覚し、同国選手がオリンピックや国際大会へ出場することが禁止となった問題。2016年のリオデジャネイロ・オリンピックでは、陸上や重量挙げなど有力選手を含む100人以上が出場禁止となり、パラリンピックではロシア選手団が全面的に参加停止とされる事態に至っている。
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