米メディア、明治神宮外苑再開発プロジェクトは環境アセスメントが不十分等と批判的報道(2023/05/22)
東京都が2022年3月に決定した都市計画決定に基づき、民間の共同事業体が策定・提案していた「明治神宮外苑再開発プロジェクト(外苑再開発、注1後記)」が、2024年よりいよいよ本格工事が始められる見込みである。しかし、国際NGO国際記念物遺跡会議(ICOMOS、注2後記)の日本委員会による、同事業体が提出していた「環境アセスメント」に虚偽や事実誤認があるとの指摘に対して、都の環境アセスメント審議会が5月18日、全く問題ないとして再調査の必要性を否定する見解を発表した。そこで米メディアが、環境保護団体やスポーツ業界重鎮らの批判コメントを掲載して、開発事業そのものを疑問視する報道をしている。
5月21日付
『AP通信』は、外苑再開発に関わる環境アセスメントは不十分等と批判的に報じている。
外苑再開発は、神宮球場や秩父宮ラグビー場を解体した上で場所を入れ替えて建て替えたり、650フィート(約195メートル)の高層複合ビルを新たに建設する大規模プロジェクトである。
推進する共同事業体は民間企業が主体とされているが、本質的には、東京都の小池百合子都知事(70歳、2016年就任)、三井不動産(1941年設立)、及び外苑の土地所有者である宗教法人明治神宮(1951年設立)が主導していると言える。...
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5月21日付
『AP通信』は、外苑再開発に関わる環境アセスメントは不十分等と批判的に報じている。
外苑再開発は、神宮球場や秩父宮ラグビー場を解体した上で場所を入れ替えて建て替えたり、650フィート(約195メートル)の高層複合ビルを新たに建設する大規模プロジェクトである。
推進する共同事業体は民間企業が主体とされているが、本質的には、東京都の小池百合子都知事(70歳、2016年就任)、三井不動産(1941年設立)、及び外苑の土地所有者である宗教法人明治神宮(1951年設立)が主導していると言える。
何故なら、同都知事も、三井不動産前会長の岩沙弘道氏(80歳、2011~2023年在任)も、同宗教法人の理事職に就いているからである。
この点について、上智大学(1928年設立の私立大)政治学者の中野晃一教授(52歳)は、“宗教法人が関わる事業に私企業と政治家が関与するという利益相反問題が指摘される”とした上で、“日本の大手紙はほとんど報じていないばかりか、この指摘に関わる問題提起のメールについて知事事務局は無視している”と非難している。
また同教授は、同事業に関して、三井不動産、明治神宮、そして政治家である小池都知事及び森喜朗元首相(85歳、2000~2001年在任)は癒着の関係にあると断じている。
同教授によると、森氏は日本ラグビーフットボール協会(1928年前身設立)の元会長(2005~2015年)であったし、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会(2014年設立)の前会長(2016~2021年)であったことから、同事業に裏で深く関わっているに違いないとする。
更に同教授は、“神宮外苑はスポーツ施設を備えた公共公園であり、その再開発は公共事業であるはずなのに、政治家が関わった宗教法人と不動産開発事業者による民間事業として決定・推進されている”とした上で、“日本は第二次大戦後に政教分離がなされたはずなのに、この例でも明らかなように、政治と宗教が隠れた「依存関係」にある”とも問題提起している。
一方、ICOMOS日本国内委員会やその他環境保護団体等は、再開発で多くの樹木が伐採されることに伴う環境への悪影響や、名所のイチョウ並木の維持にも問題が生じかねないとして批判の声を上げている。
また、神戸親和大学(1966年設立の私立大)スポーツ教育学の平尾剛教授(47歳、1999~2007年ラグビー日本代表選手)は、“スポーツの名を借りて環境を破壊するこの再開発は、正に「スポーツウォッシング(注3後記)」であり、ラグビーを愛する我々にとって到底受け入れられない話だ”と非難して反対運動の署名活動を始め、既に25万筆の署名を集めている。
更に、今年3月28日に逝去した世界的音楽家の故坂本龍一氏(享年71)も、外苑再開発に反対する書簡を小池都知事宛に送っていたことが分かっている。
なお、再開発地の外苑には、東京オリンピック・パラリンピック大会用として2019年に建て替えられた新国立競技場があるが、その総工費は14億ドル(1,569億円、2019年当時のレート換算)で、建設工事に当たって約1,500本の樹木が伐採されている。
また、2021年の同大会開催後以降は、大きな事業収入が得られておらず、毎年1,500万ドル(約20億円)の赤字が税金で賄われている。
(注1)外苑再開発:新宿区、港区、渋谷区にまたがる神宮外苑の大規模事業で、神宮球場や秩父宮ラグビー場が場所をかえて建て替えられる他、商業施設が入る高層ビルが建設される。全体の整備は13年後の2036年に完了する計画で、総事業費は約3490億円。共同開発事業体は、三井不動産、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター(2003年設立)、及び伊藤忠商事(1858年前身設立)。
(注2)ICOMOS:世界の歴史的な記念物(あるいは歴史的建造物)、文化遺産および遺跡の保存に関わる専門家の国際的な非政府組織。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「記念物および遺跡の保存修復憲章」(通称:ベネチア憲章、1964年)に基づき、1965年に設置された記念物および遺跡の保護に関するユネスコの諮問機関。
(注3)スポーツウォッシング:2018年にオックスフォード辞書に認められた英語の新語のひとつで、国家や団体・人物などが、スポーツを利用して自らのイメージを高めようとしたり、不都合な事実から目を背けさせようとすること。
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ロシア傭兵組織ワグネル;ウクライナ戦争で3万人超死傷も、プーチン信奉者は活躍を称賛【米メディア】(2023/02/20)
米政府発表では、ウクライナ戦争に参戦しているロシア傭兵組織ワグネル・グループ(WG、注後記)の戦闘員3万人以上が死傷しているという。しかし、プーチン信奉者のひとりであるチェチェン共和国首長は、首長退任後に自身も同様組織を立ち上げると表明する程、同グループの活躍を称賛している。
2月19日付
『Foxニュース』は、「プーチン信奉者のチェチェン共和国首長、退任後に自身も傭兵組織を立ち上げると発言する程WGを称賛」と題して、プーチン大統領側近のチェチェン共和国首長が、ロシア傭兵組織WGの活躍を称賛し、自身も退任後に同様組織を立ち上げると発言したと報じている。
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長(46歳、2007年就任)はウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)の信奉者・側近であり、ウクライナ軍事侵攻を強く支持している人物である。...
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2月19日付
『Foxニュース』は、「プーチン信奉者のチェチェン共和国首長、退任後に自身も傭兵組織を立ち上げると発言する程WGを称賛」と題して、プーチン大統領側近のチェチェン共和国首長が、ロシア傭兵組織WGの活躍を称賛し、自身も退任後に同様組織を立ち上げると発言したと報じている。
チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長(46歳、2007年就任)はウラジーミル・プーチン大統領(70歳、2000年就任)の信奉者・側近であり、ウクライナ軍事侵攻を強く支持している人物である。
そして同首長は2月19日、ウクライナ戦争に参戦している傭兵組織WGの活躍を称賛した上で、自身も首長職退任後に同様の組織を立ち上げたいと発言した。
WGは、同大統領の最側近の一人でオリガルヒのエフゲニー・プリゴジン(61歳)によって立ち上げられた。
プリゴジンは、“プーチンのシェフ”との渾名を持っているが、これは、彼が営むレストランやケータリング事業が、しばしばプーチンと外国要人との夕食会等に使われていたからである。
同グループは、ウクライナ戦争に本格参戦する前、中東、アフリカ、ベネズエラ等の内戦で活動していた。
同首長は、ロシアSNSのテレグラムに投稿して、“WGが軍事面で示した気迫等より、(紛争等について)このような民兵組織が必要かどうかの疑問に明確に答えを出している”と称賛した。
その上で同首長は、“首長職退任後、プリゴジン氏の組織と競争できるような民兵組織を立ち上げたいと思う”とも明言している。
WGは目下、ウクライナに約5万人の戦闘員を派遣している。
ただ、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官(2022年就任)は先月、ほとんどの戦闘員は囚人で、参戦を条件に派遣されたものだとコメントした。
更に、ロシア国防省は長い間WGとの関係性を否定していたとし、また、米情報局の調査では、ロシア軍高官とプリゴジンとの間の亀裂が大きくなってきている、とも付言している。
なお、米財務省は先月、WGを多国籍犯罪集団と認定していて、“プーチンは、自身が始めたウクライナ戦争継続のために、WGを利用している”と言及した。
同省の1月26日付声明によれば、“WG戦闘員は、中央アフリカ共和国(1960年フランスより独立)、同西部のマリ共和国(同左)の内戦において、大量殺人・強姦・子供誘拐・拷問等の重大犯罪を犯している”とする。
同日付『ニューズウィーク』誌は、「プーチン側近、WGと競えるような民兵組織を立ち上げるとの意向表明」と詳報している。
WGは先日、中央アフリカ共和国やマリでの人権蹂躙犯罪容疑で告発されている。
米ブルッキングズ研究所(1916年設立、ワシントンDC本拠)の2022年報告によると、WGは、イエメン、シリア、リビア、モザンビーク、マダガスカルにおける紛争にも参戦しているという。
そのWGについて、プーチン信奉者のカディロフ首長が2月19日、“WGはこの程、異論がないほど立派な功績を残している”とした上で、“自身も首長職を辞した後は、プリゴジン氏と競合できるような民兵組織を立ち上げたい”とまで発言している。
その上で同首長は、“チェチェン共和国の特殊部隊「アクマット」を母体として、民兵組織に仕立て上げるのは最善かも知れない”とも言及した。
しかし、防衛・外交政策専門の米シンクタンク、戦争研究所(2007年設立、ワシントンDC本拠)は、プリゴジンはウクライナ戦争を利用して、ロシア政界における“(自身の)衰退しつつある影響力”を復活させようと目論んでいるだけだ、と批判している。
すなわち、同研究所は2月18日リリースの報告書の中で、“プリゴジンはカディロフと共謀して、ロシア国防省の力を削ごうとしているに過ぎない”と評価している。
更に、“カディロフがWGを称賛しているのは、プリゴジンが2月16日に負傷したチェチェン共和国特殊部隊司令官を見舞ったことの返礼の意味もある”とした。
その上で、“プリゴジンが2月18日に、WGはロシア国防省に属する団体ではないし、ロシア軍と何の関係もないと明言して、同省に対抗する意図を鮮明にしたことから、カディロフ自身もそれに追随する意図で、上記のような称賛コメントを出したものとみられる”と言及している。
(注)WG:2014年に勃発したドンバス戦争(ウクライナ東部ドンバス地方におけるウクライナ政府軍と親ロシア派間紛争)に参戦すべく、ロシア人オリガルヒ(新興財閥)でプーチン最側近のひとりであるプリゴジンによって組成。以降、アフリカ(スーダン・リビア)、シリア、ベネズエラ等の内戦に派兵。
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