トランプ政権時代、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題によって経済的な影響を受けた中小企業に対して、事業運転資金を融資する「給与保護プログラム政策(PPP、注後記)」が実施された。しかし、支援実施を急ぐあまり審査等が手緩かったためか、この程、架空の会社をいくつもでっち上げて総額500万ドル(約6億7千万円)もの不正融資を受けていた男が逮捕・起訴され、懲役4年半の有罪判決を受けている。
2月18日付
『Foxニュース』は、「PPPローンとして500万ドルも不正融資を受け、高級スポーツカーを買い漁った男に有罪判決」として、不正融資の実態を報じている。
COVID-19に伴う支援融資政策に関わり、不正な方法で融資を受けたカリフォルニア州在の男が2月17日、連邦地裁で有罪判決を受けた。
ムスタファ・クァディリ被告(42歳)で、連邦検事局によると、懲役4年半、罰金2万ドル(約268万円)、不正取得残額286万1050ドル(約3億8338万円)の返還義務が言い渡されたという。
同被告は、“架空の企業をでっち上げて500万ドルのPPP融資を不正に受けて、フェラーリ(イタリア)、ベントレー(英国)、ランボルギーニ(イタリア)等の高級スポーツカー(いずれも3千万円超)の購入代金に充てたり、贅沢な休暇旅行他被告個人のために流用していた”という。
また、裁判所資料によると、当局が“当該スポーツカーを没収し、また、被告の銀行口座にあった残額200万ドル(約2億6800万円)も差し押さえた”という。
同被告は2020年5月と6月に、偽名や虚偽の社会保障番号を使って、4つの架空の会社に関わるPPPローン申請を行い、計3銀行から不正融資を受けていた。
なお、今回の事件は、国家安全保障省捜査部・中小企業庁監査局・連邦捜査局(FBI)及び内国歳入庁(国税庁相当)捜査部が立ち上げた金融犯罪合同捜査本部の捜査によって摘発されたものである。
2月19日付『ロサンゼルス・タイムズ』紙は、「COVID-19に関わる支援融資を不正に受けて高級車を買い漁ったオレンジ郡の男に有罪判決」と詳報している。
カリフォルニア州南部オレンジ郡アーバイン市在住のクァディリ被告は、トランプ政権下の2020年3月に議会によって制定されて実施されたPPP支援に関し、同市南のニューボートビーチ市登録の4つの会社をでっち上げて、虚偽申告の従業員を雇用維持するためとして不正融資を受けたものである。
連邦検事局によれば、当該4社は何ら事業実態がなく、従業員数、取引銀行口座、確定申告等全て偽造して不正申請していたという。
同被告は、融資を受けるや否や、高級スポーツカーを買い漁る等、全て被告個人のために流用したとする。
同被告の何人かの友人が裁判所に提出した陳述書によると、同被告はアフガニスタン出身で、幼い頃に父と死別し、後に母親と共に米国に移住してきているが、思いやりがあり優しい人物だという。
しかし、若い頃に事業で成功したものの、その後アルコール依存症に陥り、結果として道を踏み外してしまったという。
なお、クァディリ被告の事件は、PPPローンに関わる不正融資事件の一部であり、その他多くの金融犯罪が行われていて、摘発もされている。
(注)PPP:COVID-19によって事業運営に行き詰まった中小企業(従業員500人以下)に対して、雇用維持を支援する一環で、連邦政府が運転資金を貸し付けるとした政策。融資申請対象期間は2020年1月から2021年3月。通常融資と大きく異なるのは、一定の条件を満たせば債務免除となること。割り当てられた予算は、2020・2021年併せて9530億ドル(約127兆7020億円)。但し、2022年の評価の結果、実際に従業員に補償されたのが23~34%程度に止まったことや、200~300万人の雇用を確保するのに、1人当り16万9千~25万8千ドル(約2265万~3457万円)も支出される結果となっており、失政とされている。
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2月14日付
『ネクスター・メディア』(NMG、1996年設立、米最大のTV局所有グループ)は、「共和党上院議員、2024年大統領選候補が乱立するとトランプが返り咲く恐れと懸念」と題して、一般有権者の受けが悪いトランプが漁夫の利を受けることになると、大統領選のみならず上・下院議員選挙でも共和党勢が惜敗する恐れがあると、共和党上院議員の中で懸念する声が上がっていると報じた。
共和党上院議員の中で、2024年大統領選候補者が乱立すると、再びドナルド・トランプ前大統領(76歳、2017~2021年在任)が返り咲く恐れがあるとの声が日増しに強くなっている。
目下、立候補を正式に表明しているのは同前大統領のみだが、ニック・ヘイリィ元サウスカロライナ州知事(50歳、2011~2017年在任、2017~2018年国連大使)が2月14日に立候補を表明したことから、2016年時と同様立候補者の乱立となる兆しとみられている。
今後立候補するとみられているのは、マイク・ペンス前副大統領(63歳、2017~2021年在任)、マイク・ポンペオ前国務長官(59歳、2018~2021年在任)、ティム・スコット現上院議員(55歳、サウスカロライナ州選出、2013年初当選)、ロン・デサンティス現フロリダ州知事(44歳、2019年初当選)、エイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事(72歳、2015~2023年在任)、ラリー・ホーガン前メリーランド州知事(66歳、2015~2023年在任)、グレン・ヤンキン現バージニア州知事(56歳、2022年初当選)である。
マイク・ラウンズ上院議員(68歳、サウスダコタ州選出、2015年初当選)は政治専門紙『ザ・ヒル』(1994年創刊、NMG傘下)のインタビューに答えて、“最終的に15人、16人、果ては17人まで乱立恐れがある”とし、“(2016年時のようなことが)再び起こることは望んでいない”と表明した。
多くの共和党上院議員は今のところ中立という立場を取っていて、トランプの世間の悪評や、彼が再び同党候補者になることを望んでいない等について口を開く者はほとんどいない。
しかし、彼らは、(トランプ政権下での)2018年の下院議員選、2020年の大統領選及び上院議員選、更には2022年の上院議員選と、ことごとく敗退していることに辟易していて、その原因がトランプにあったと批判している。
そこで、立候補者乱立が追い風となって、再びトランプが大統領選共和党候補者となってしまうことを懸念している。
ジョン・コーニン上院議員(71歳、2002年初当選)は、“そのような事態となることを恐れている”としながらも、“自身ではどうしようもない”と嘆いている。
保守系団体「クラブ・フォー・グロウス(成長のための組織、1999年設立)」が行った直近の世論調査の結果によると、トランプ対デサンティスでみると49%対40%、また、これにペンス・ヘイリィ・ポンペオ・スコット・ヤンキンまで含めると、トランプ37%、デサンティス33%と、いずれの場合でもトランプが筆頭となっている。
コーニン議員は、“ヘイリィ氏は素晴らしい人物だ”と評したが、立候補表明をした途端に非難の声が上がったことについて、“かかることは覚悟しておかねばならない”と付言した。
実は2月14日、彼女が正式表明をするや否や、トランプ支持団体の「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン(米国を再び偉大に)政治活動委員会」(MAGAPAC、2015年設立)の広報担当が、彼女がかつて反トランプ派だったことを例に挙げた上で、彼女は“職業政治家”だと揶揄するコメントを発表していた。
かつてトランプの広報担当で、現在MAGAPAC代表のテイラー・バドウィック氏(25歳)は、“多くの職業政治家がそうであったように、彼女は自身のためだけの約束を果たしてきたに過ぎない”と批判している。
ただ、トランプ支持者の上院議員は、彼女の立候補表明を好意的に受け止めている。
トミー・タバ―ビル議員(68歳、アラバマ州選出、2020年初当選)は記者会見で、“彼女は偉大な候補者だ”とした上で、“トランプ氏自身も、多くの候補者が出てきて、共に戦うことを望んでいる”とコメントした。
また、リンゼー・グラム議員(67歳、サウスカロライナ州選出、2002年初当選)は、トランプがサウスカロライナ州で出馬表明をした際にいの一番で支持を表明していたが、彼女の州知事及び国連大使時代を評価した上で、“彼女は大統領予備選候補として立派に奮闘するだろう”とし、“今後多くの立派な候補者が出てくることで益々困惑してしまう”と述べている。
その他、J.V.・バンス議員(38歳、オハイオ州選出、2022年初当選)、エリック・シュミット議員(47歳、ミズーリ州選出、2022年初当選)、マークウェイン・マリン議員(45歳、オクラホマ州選出、2022年初当選)、以上5人の上院議員はトランプを支持している。
一方、マルコ・ルビオ議員(51歳、フロリダ州選出、2010年初当選)は、2016年大統領予備選ではヘイリィ氏の支持を受けていたが、彼女は“善戦するだろう”とした上で、(他に候補者が出ない)少人数での戦いになるとの話は即座に否定した。
同議員は、“誰でも立候補できるし、共和党の将来のためにも多くの候補者が戦うことが望ましい”と述べた。
ただ、同議員は『ザ・ヒル』のインタビューに答えて、“2024年の大統領選に自身が候補者として立つ考えはない”と言及している。
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