揺らぐ欧州(6月25日)
世界の関心はウクライナ戦争から急激なインフレ、物価高、エネルギー危機、食料危機に移りつつある。
世界の物価上昇率は軒並み上がっており、ポーランドが13.9%、英国は9.1%、ベルギーは9.0%、米国は8.6%、スペイン8.5%、ドイツ7.9%、日本2.1%で、各国国民は生活への危機感を強めている。
ベルギーと英国では、物価高に反対し賃上げを要求するデモが行われ、社会が大混乱している。フランス議会選挙でもマクロン大統領の物価対策を批判する極右と極左が票を伸ばし、今後の政権運営に暗い影を落としている。...
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世界の関心はウクライナ戦争から急激なインフレ、物価高、エネルギー危機、食料危機に移りつつある。
世界の物価上昇率は軒並み上がっており、ポーランドが13.9%、英国は9.1%、ベルギーは9.0%、米国は8.6%、スペイン8.5%、ドイツ7.9%、日本2.1%で、各国国民は生活への危機感を強めている。
ベルギーと英国では、物価高に反対し賃上げを要求するデモが行われ、社会が大混乱している。フランス議会選挙でもマクロン大統領の物価対策を批判する極右と極左が票を伸ばし、今後の政権運営に暗い影を落としている。
ロシアは欧州に対して意外な手段を取った。自らドイツへの天然ガス供給60%を減らしたのである。いわばロシアから欧州への逆制裁という形である。これによってフランス・オーストリア、チェコへの電力供給にも影響が出ている。さらにロシアはイタリアへのガス供給も50%減らすなど、特に和平派と呼ばれる国々に的をしぼり欧州の分断を図っているように見受けられる。
一方、ウクライナへの武器支援で中心的な役割を果たしている米国においては、共和党が中心となって「ウクライナへの援助より国内のインフレ、ガソリン価格の上昇を何とかしろ」との露骨な声が出始めている。こうした声が高まれば11月に中間選挙を控えるバイデン政権は軌道修正を余儀なくされる。
少なくとも今後、ウクライナへの武器支援がスローダウンする可能性はないとは言い切れない。しかし、中途半端にウクライナ支援をやめてロシアの思い通りにさせてしまうと、ロシアがつけあがり、さらに勢力を拡大しようとすることは明らかである。
モルドバ、バルト三国に手を出す可能性も十分にでてくる。フィンランドやスウェーデンに対しても何らかの嫌がらせを行っていくだろう。こうしたことを許せば中国にとっても台湾侵攻をしやすくなる環境が生まれてしまう。ウクライナ情勢の扱いが今後の世界の行方を大きく左右することになりそうである。
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揺らぐヨーロッパ(6月19日)
ウクライナの戦争をどう終わらせるかをめぐり、ヨーロッパの結束が揺らいでいる。停戦交渉を早期に始めるべきで、そのためにはウクライナ側の多少の譲歩はやむを得ないとする「和平派」と、ウクライナは国土を取り戻すべきで、ロシアに侵略の代償を払わせ、戦闘の長期化や死傷者の増加はやむなしとする「正義派」とにヨーロッパが分断されているとする報告書をシンクタンク「欧州外交評議会」がまとめた。
国別にみると「和平派」はイタリアやドイツ、ルーマニア、フランスであり、バルト三国、ポーランドは「正義派」に分類される。...
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ウクライナの戦争をどう終わらせるかをめぐり、ヨーロッパの結束が揺らいでいる。停戦交渉を早期に始めるべきで、そのためにはウクライナ側の多少の譲歩はやむを得ないとする「和平派」と、ウクライナは国土を取り戻すべきで、ロシアに侵略の代償を払わせ、戦闘の長期化や死傷者の増加はやむなしとする「正義派」とにヨーロッパが分断されているとする報告書をシンクタンク「欧州外交評議会」がまとめた。
国別にみると「和平派」はイタリアやドイツ、ルーマニア、フランスであり、バルト三国、ポーランドは「正義派」に分類される。この報告書が出た直後に、フランス・マクロン大統領、ドイツ・ショルツ首相、イタリア・ドラギ首相、ルーマニア・ヨハニス大統領がキーウを訪問したことは非常に興味深い。
この4か国の首脳は外交交渉を優先させる姿勢で「和平派」に相当する。EU加盟への交渉開始を認めることと引き換えにウクライナに和平案を迫るのではないかとの憶測が事前に出ていたが、実際に4首脳は会見でウクライナのEU加盟への交渉を支持すると表明した。
この訪問から1日置いて、「正義派」の英国・ジョンソン首相が予告なくキーウを訪問し、「私達はウクライナが必要な装備を提供し続ける。そしてこれからは装備とともに必要になる訓練も提供する」と会見で語った。まさにロシアに侵略の代償を払わせる強気の姿勢である。
「正義派」はロシアへのエネルギー依存が少ない傾向にある、例えば英国のロシアへの天然ガス依存度は6%とかなり少ない。英国の風力は十分な量を伴い安定的に吹いており風力発電だけでもかなりの部分やっていけるとみられる。
一方、天然ガスのパイプラインが大陸中に張り巡らされ、ロシア経由のガスを融通し合っている大陸ヨーロッパは置かれた状況が大きく異なる。戦闘が長引き、ガスの供給がロシアから止められた場合、ヨーロッパでは大停電になる。冬に停電が起きた場合には死者が出ることすら予想される。こうした理由から大陸ヨーロッパとしてはなんとか冬前に停戦に持ち込みたいのが本音である。
ロシアにはある程度の制裁を続けつつ、ウクライナ側には多少の譲歩は呑んでもらい、秋までになんとか停戦に持ち込むたいというのがウクライナ戦争の一つの落しどころとなるのかもしれない。
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分断進む世界(6月12日)
今、国際社会は、最大の試練を迎えている。ロシアによるウクライナ侵攻は第1次世界大戦から100年を経て、再び世界を戦争の世紀に塗り替えようという動きのようにさえ見える。少なくとも欧米優位のパワーバランス、欧米由来の世界標準が崩れ、民主国家と専制国家への分断が加速していることは間違いない。
実は様々な対立軸がある。例えば地球温暖化問題においては、一律的な脱炭素基準を世界に当てはめようとする先進欧米諸国に対して、自らはこれまで出してこなかったCO2を出す権利があるとして、発展途上国が抵抗するなどの南北問題が生じている。...
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今、国際社会は、最大の試練を迎えている。ロシアによるウクライナ侵攻は第1次世界大戦から100年を経て、再び世界を戦争の世紀に塗り替えようという動きのようにさえ見える。少なくとも欧米優位のパワーバランス、欧米由来の世界標準が崩れ、民主国家と専制国家への分断が加速していることは間違いない。
実は様々な対立軸がある。例えば地球温暖化問題においては、一律的な脱炭素基準を世界に当てはめようとする先進欧米諸国に対して、自らはこれまで出してこなかったCO2を出す権利があるとして、発展途上国が抵抗するなどの南北問題が生じている。加えて新自由主義など政治体制による格差、貧困の問題、核保有国と核を持たざる国など様々なレイヤーが重ね合わさって世界はまだら模様となっている、その各々によって濃淡が異なっており一筋縄ではいかない状況である。
こうした中では手続きや話し合い、同意形勢に時間がかかる民主主義より、強権国家の方がよく見えることは確かであり、世界では民主国家よりも専制国家の数が増えている。
帝国主義は専制国家の典型的にみられるものであるが、ロシア・プーチン大統領はピョードル大帝を称賛し、力を剥き出しにして他国を征服する帝国主義への回帰思想を持っていることを公の場で表明した。そうした国が国連常任安全保障理事国の一角を占め、世界最多の核兵器を所有していたことは驚きである。ウクライナ戦争でロシアは弱体化し中国に吸収されるのではないかと言われているが、中国とロシアが接近した場合にはさらに状況は悪くなる。
一方、民主国家の代表格である米国は相対的に力を落としている。バイデン政権にもスキはあった。民主主義サミットを開催し民主国家とそうでない国を色分けし過ぎ、メキシコなど一部の中南米諸国からの信頼を失うなど、世界の分断を進めてしまった。
さらにはインドやトルコ、サウジアラビアなど民主国家と専制国家の真ん中に立つグレーゾーンのような国家群も存在し、単純にデカップリングできる状況でもない。今後、こうした状況をいかにうまくまとめていくかということが日本のような国家に課された役割なのかもしれない。
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トルコという特異な存在(6月12日)
ロシアとウクライナの仲介役を買って出るなど、トルコの存在感が増している。他のNATO諸国がロシアとの対決姿勢を示す中で、トルコはNATO加盟国ではあるが、イスラム系国家であり、EUではないという点で異彩を放っている。トルコは上海協力機構のオブザーバー国でもあり、強権主義者・エルドアン大統領はプーチン大統領と個人的にも親しい。
ウイグル問題で中国を批判しているものの、習近平国家主席とも個人的に親しく、なおかつウクライナともいい関係を保っている。...
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ロシアとウクライナの仲介役を買って出るなど、トルコの存在感が増している。他のNATO諸国がロシアとの対決姿勢を示す中で、トルコはNATO加盟国ではあるが、イスラム系国家であり、EUではないという点で異彩を放っている。トルコは上海協力機構のオブザーバー国でもあり、強権主義者・エルドアン大統領はプーチン大統領と個人的にも親しい。
ウイグル問題で中国を批判しているものの、習近平国家主席とも個人的に親しく、なおかつウクライナともいい関係を保っている。なかなか特徴を捉えにくい人物であり、国家と言うことができる。
トルコはフィンランドとスウェーデンがクルド人テロリスト「PKK」を匿っているとの理由で両国のNATO加盟に反対しているが、実は当のトルコ自身がNATOに加盟した理由がロシアの侵略を恐れたからであるという。トルコは16世紀・オスマントルコ帝国の時代から12回もロシアと戦争をしてきた経験からロシアの怖さを骨身に染みて知っているのである。一方、シリアとエルドアンは反クルドという点で近い関係にあり、そのシリアとロシアも近い関係にある点が興味深い。
トルコは古来より地中海と黒海をつなぐチョークポイントであるボスポラス海峡とダーダルネス海峡を支配してきており、本来であれば現在問題となっている食料輸出問題を一挙に解決できるポジションにいるはずである。エルドアンが派遣したチャブシオール外相は、国連も交え「安全回廊」実現に向けた具体策を提案したが、現段階ではなかなか進展を見せていない。トルコが機雷除去のほか、黒海での衝突防止に向けた監視活動など平和に向けた動きを提案していることは評価できる。
エルドアンが外交的に様々な動きをし、トルコが存在感を高めている背景には2023年6月に予定されている大統領選の存在が大きい。様々な駆け引きをすることで、より多くのポイントを稼ぎたいというのがエルドアンの本音である。ただし、例えばフィンランド、スウェーデンのNATO加盟問題などについて駆け引きの材料に出し過ぎればNATO諸国の中で孤立してしまうリスクも抱えている。
様々な顔を見せるトルコの特異な動きを今後も注目が集まる。
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最先端半導体を巡る台湾の動き(6月11日)
台湾の地政学リスクが何度もささやかれる中、台湾では総額16兆円規模の未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。台湾「TSMC」など4企業が台湾全土に20の新工場を建設中か、完成させたばかりである。
台湾が半導体の巨額投資に突き進んでいる背景には半導体大国として独自の存在感を示したいという思惑があるとみられる。TSMC・マークリュウ会長はかつて、米中両国を念頭に「将来的に情報交換が不自由になり、太平洋の両側で自国の供給網を自己完結化させる動きが出ている」とした上で、「開発と製造にかかる費用が増大する」などと懸念を示したことからもわかるように、米中の政治的な動きにからめとられたくないというのが台湾=TSMCの本音のところである。...
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台湾の地政学リスクが何度もささやかれる中、台湾では総額16兆円規模の未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。台湾「TSMC」など4企業が台湾全土に20の新工場を建設中か、完成させたばかりである。
台湾が半導体の巨額投資に突き進んでいる背景には半導体大国として独自の存在感を示したいという思惑があるとみられる。TSMC・マークリュウ会長はかつて、米中両国を念頭に「将来的に情報交換が不自由になり、太平洋の両側で自国の供給網を自己完結化させる動きが出ている」とした上で、「開発と製造にかかる費用が増大する」などと懸念を示したことからもわかるように、米中の政治的な動きにからめとられたくないというのが台湾=TSMCの本音のところである。
もうひとつ、台湾が最先端の半導体大国になることで、有事の際にもウクライナのように扱われないようにするという布石を台湾・蔡英文総統は打っているのかもしれない。例えばウクライナに核兵器があれば、ロシアの侵攻を招かなかったと言われているが、蔡英文総統は核兵器に代わるカードとして半導体を考えているのではないかという仮説も成り立つ。
一方、米国としては最先端の半導体工場をリスクが高い台湾から米国本土に移転させたいと思っているが、今回の台湾の動きはその思惑に逆らっているようにも見える。
米国の強みはアーキテクチャー系の半導体会社が多いことであり、台湾が最先端半導体に強くても、現段階では米国抜きでは立ち行かないことは確かである。
懸念されるのは中国の動きである。台湾への武力侵攻も当然危惧されるが、政治的に台湾統一を叫ぶ中国は本音のところでは台湾の半導体産業を手中に入れたいと考えている。
TSMCの上層部を完全に親中国に変えてしまう工作や、例えばロシアがウクライナの穀物の輸出入を妨害して世界に打撃を与えているように、中国が台湾からの半導体の輸出入を妨害するなど嫌がらせをして圧力をかけてくることも考えられる。その時、日本や米国、世界の産業界はどう動くのかといった様々なケースをシミュレーションしておくべき時を迎えている。
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