2015年6月末に北京において、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の署名式が行われ、協定交渉に参加した57ヵ国のうち、50ヵ国が設立協定に署名した。その後、各国が批准手続きを踏んで、いよいよ来年1月から営業開始となる模様である。しかし、出資比率・議決権が他を引き離してトップの中国が、拒否権の他、AIIB本部も総裁候補も取り込んでしまったり、また、融資用資金を調達する際に発行するAIIB債券の信用格付けを取得しないことが明らかになったりと、国際金融機関の船出としては前途多難とみられる。ただ、北米・中国メディアは、今のところ淡々とAIIBの成り行きを伝えている。
12月3日付カナダ
『ロイター通信』は、「中国主導のAIIB設立準備チーム幹部の陳(チェン)氏は12月3日、来年1月半ばにAIIBの営業開始式典を開催する予定であることを明らかにした。同氏によれば、ロシアやインド含めて、設立メンバーのうち50%以上が今月中に批准手続きを終えることになるため、営業開始の目処が立ったという。同氏はまた、(融資用資金を調達するための)AIIB債券を発行する際、信用格けが取得できるまでの間は、韓国に同債券を引き受けてもらう予定であるとも述べた。一方、韓国を訪問中の、AIIB初代総裁内定の金立群(キン・リークン)氏は、韓国政府・企業のAIIB支援について直接依頼したことを明かし、初年度は1億~5億ドル(約120億~600億円)の(無格付け)債券を発行する予定であり、また、立ち上がり当初数年間の融資規模は年間100億~150億ドル(約1兆2,000億~1兆8,000億円)になるとの見通しを示した。」と報じた。
12月5日付米
『NYSEポスト』証券取引ニュースは、「世界銀行の競合先とみられるAIIBの金初代総裁は、当面米ドルで貸し付ける予定であるが、将来的には人民元含めた他通貨建てで貸し付ける考えがあると述べた。また、アジアでは今後10年で、10兆ドル(約1,200兆円)に上るインフラ(道路網、エネルギー、通信設備等)のための資金が必要であり、国際金融機関が単独で融資するには限界があるため、AIIBの存在意義があるとも付け加えた。」と伝えた。
また、12月8日付中国
『グローバル・タイムズ(環球時報、人民日報英語版)』(
『新華社通信』記事引用)は、「ニュージーランドのビル・イングリッシュ財務相は12月8日、AIIB参加について同国の批准手続きが完了したことから、これでAIIB営業開始に足る50%超の批准が整うことになると述べた。同相によれば、ニュージーランドは西側諸国の先頭を切ってAIIB協定交渉参加を表明した国であり、かつ全体でも9番目に創立メンバーとなっており、今後もAIIBのアジア向け資金融資で存在感を示すとしている。」と報じた。
日米主導のアジア開発銀行(ADB)が発行する債券は、信用格付け会社から最高位の「トリプルA」を得ている。しかし、AIIBには日米は参加しておらず、最大の出資国である中国の格付けが反映されることになるため、ADBより低い「二流格付け」となり、金利は1%程度高くなるおそれがある等、資金調達面で不利になることが懸念される。更に、当面は格付けなしの債権を発行する予定とのことから、低格付け債である「ジャンクボンド」以下ともみなされる。専門家によれば、国際金融機関が格付けなしの債権を発行するのは、前代未聞の異常な事態だという。ただ、韓国のAIIB出資比率(注後記)が、常任理事を出せる中国、インド、ロシアの下で、更にドイツより劣る5位に甘んじていることから、中国に恩を売り、AIIBの中で少しでも存在感を増すため、リスクを覚悟で引き受けることにしたものと推察される。
(注)AIIB出資比率:1位中国297億ドル、2位インド83億ドル、3位ロシア65億ドル、4位ドイツ44億ドル、5位韓国37億ドル、6位豪州36億ドル、7・8位フランス・インドネシア33億ドル、9位ブラジル31億ドル、10位英国30億ドル。
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