6月17日付
『ロイター通信』は、ブラジルが中国牙城となっているレアアース市場に割って入ることを画策していると報じた。
レアアースは、再生可能エネルギー生成や防衛装備品に必要な永久磁石等を作るためになくてはならない希少金属の一種である。
米国地質調査所(USGS、1879年設立)によれば、中国が世界埋蔵量(注2後記)の多くを保有しているのみならず、2023年の生産量が24万トンと世界第2位の米国の5倍以上であるという。
その上、米国及びその他西側諸国は、風力タービン・電気自動車・ミサイル用の永久磁石製造に使用される精製レアアースの約90%を中国に頼っている。
ところが、2020年初め拡大のコロナ禍でレアアース含めた供給チェーンに大きな混乱を来したこともあって、中国リスクを下げるべく、2027年までにレアアースの代替供給元を構築するとの方針を打ち出すに至った。
そこで新たな供給元候補として挙がったのがブラジルである。
ブラジル政府も今年2月、レアアースを含めた鉱物資源開発・生産体制強化のために10億レアル(1億9,453万ドル、約307億3千万円)を資金援助する方針を発表した。
鉱山エネルギー省は声明文で、当該鉱物の開発・生産のみならず、これら鉱物を精製してバッテリー・風力タービン・モーター用の合金を生産する工場まで立ち上げる意向だと言及している。
ただ、レアアース生産世界第3位の豪州や4位のベトナムと同様、ブラジルにおいても、中国のように大量精製する技術がまだ十分確保されていない上、直近2年でレアアース市場価格が70%も値崩れしていることもあって、現実問題として、新規プロジェクトの立ち上げには時間がかかっている。
まず、同国中東部ゴイアス州のセハ・ベルジ希土類プロジェクトは今年5千トン体制で立ち上げられるが、実生産まで漕ぎ着けるのに15年も要している。
ただ、セハ・ベルジのスラス・モレイティス最高経営責任者(CEO)によれば、2030年までに生産を倍増する計画で、同プロジェクトは長期的に競争力あるレアアースを生産・供給するとしている。
2番目のプロジェクトが、豪州のメテオリック・リソーシズが開発計画を進めている南東部ミナス・ジェライス州のカルデイラ・プロジェクトである。
同社は、2025年後半までに開発着手の投資決定を行う意向だとしているが、ニック・ホルトハウスCEOによると、資金手当てに難儀しているという。
ただ、同社は今年3月、米国輸出入銀行(1934年設立)から最大2億5千万ドル(約395億円)の融資を受ける話がまとまっている。
3番目は、ブラジリアン・レアアースズが同国北東部で進めようとしているプロジェクトである。
同社は、豪州富豪のジーナ・ラインハート氏(70歳、鉱物探査採掘会社ハンコック・プロスペクティング会長で豪州鉱山王の異名を持つ)から巨額の資金援助を受けている。
同社のベルナルド・ダ・ベイガCEOによれば、ブラジルにおける鉱山操業費は競争相手となる豪州鉱山より遥かに低く抑えられるので、技術確立次第であるが十分採算が取れるとする。
例えば、ブラジルの大型トラック運転手の給料は平均約1万5千ドル(約230万円)で、豪州の20万豪州ドル(13万3千ドル、約2,100万円)と比べて遥かに安いという。
なお、カナダの独立系金融サービス会社カナコード・ジェニュイテイのレッグ・スペンサー氏の分析・評価によれば、ブラジル在のこれら2、3のレアアース・プロジェクトが立ち上げられて、2030年までには世界第3位の豪州を凌ぐ生産量を達成する可能性があるとする。
(注1)レアアース(希土類元素):31鉱種あるレアメタル(希少金属、和製英語で英語圏ではマイナーメタルと呼称)の中の1鉱種で、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素の計17元素の総称。レアアースは蓄電池や発光ダイオード、磁石などのエレクトロニクス製品の性能向上に必要不可欠な材料。具体的用途は、超強力磁石の磁性体(モーター、バイブレータ、マイク、スピーカーなど)、ガラス基板研磨剤(ディスプレイ、HDDなど)、蛍光体(照明、ディスプレイ、LEDなど)、光ディスク(DVD、CD、Blu-ray Disc)、石油精製触媒、自動車用排気ガス浄化触媒、レーザー、原子力産業(制御棒、核燃料添加剤など)、光学ガラス(望遠鏡、顕微鏡、カメラ、プリズムなど)、ニッケル・水素充電池等広範囲。
(注2)レアアースの世界埋蔵量:約1億1千万トンで、内訳は中国4,400万トン(40%)、ベトナム2,200万トン(20%)、ブラジル2,100万トン(19.1%)、ロシア1千万トン(9.1%)、インド690万トン(6.3%)、その他610万トン(5.5%)。
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