香港のシンクタンクが、地球温暖化急進に伴う海面上昇で、輸入原油に依存する日本等東アジア主要国にとって、原油の積・揚げ荷役支障に大きな問題を招く恐れがあると警鐘を鳴らしている。
5月21日付
『ロイター通信』は、香港シンクタンクがこの程、地球温暖化に伴う海面上昇によって、輸入原油に頼る東アジア主要国にとって、原油積み出し・受け入れに大きな支障を来す恐れがあると警鐘を鳴らしていると報じた。
香港のNPO法人「チャイナ・ウォーター・リスク」(CWR、2010年設立)は5月21日、このまま地球温暖化が急進して海面上昇が深刻になると、輸入原油に頼っている日本・中国・韓国にとってエネルギー安全保障に支障を来す恐れがあるとする報告書を公表した。...
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5月21日付
『ロイター通信』は、香港シンクタンクがこの程、地球温暖化に伴う海面上昇によって、輸入原油に頼る東アジア主要国にとって、原油積み出し・受け入れに大きな支障を来す恐れがあると警鐘を鳴らしていると報じた。
香港のNPO法人「チャイナ・ウォーター・リスク」(CWR、2010年設立)は5月21日、このまま地球温暖化が急進して海面上昇が深刻になると、輸入原油に頼っている日本・中国・韓国にとってエネルギー安全保障に支障を来す恐れがあるとする報告書を公表した。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC、注1後記)が2021年にリリースした報告書は、現在の地球温暖化の傾向がそのまま続くと、今世紀末までに平均海面が1メートル以上上昇する可能性があると推定し、2メートルの上昇も排除できないと強調している。
そして、CWRの報告書によると、原油生産国の積出港及び輸入国の揚げ港15ヵ所のうち、12港が1メートルの海面上昇で影響を受けるとし、そのうち5港が東アジア主要国にあるとする。
同法人は、原油輸出港及び輸入港について「ストレステスト(注2後記)」を行ったところ、低地にあるインフラ設備が特に海面上昇に対して脆弱であると言及している。
同報告書によると、サウジアラビア・ロシア・米国・アラブ首長国連邦からの原油輸出量の最大42%が危険にさらされることになり、中国・米国・韓国・オランダへの原油出荷の45%に影響が出る恐れがあるという。
更に、最も大きな打撃を受ける可能性が高いのはアジア主要国であることから、原油からのエネルギー転換のみならず、港湾インフラの強靭性向上においても、率先して実施していくべきだとも説いている。
CWRのデブラ・タン創設者兼筆頭研究員は、“今こそリスク回避のための投資に注力すべきだ”とした上で、“エネルギー安全保障上、原油依存に将来はない”と強調している。
なお、同報告書は次のようにも警告している。
・日本及び韓国が輸入する原油の約4分の3が、1メートルの海面上昇で影響を受ける港から積み出されているばかりか、受け入れ港のほとんども影響下にある。
・気温上昇が1.5℃(2.7℉)内に抑えられなければ、海面上昇は3メートルに達するため、更に多くの港湾インフラを危険にさらす可能性がある。
・そこで、日本や韓国のエネルギー安全保障は大きく脅かされる恐れがある。
(注1)IPCC:国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構。1988年設立。地球温暖化に関する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それが無い場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供。数年おきに発行される「評価報告書」は、地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策に強い影響を与えつつある。
(注2)ストレステスト:不測の事態が生じた場合の損失の程度や回避策をあらかじめシミュレーションしておくリスク管理手法。具体的には、発生確率が低いと見られるリスク・シナリオを幾つか用意するとともに、ヒストリカルデータから同種の異常な環境下のものを抽出し、その発生確率や変動パターンを当該シナリオに当てはめて現状のポジションが抱える潜在的なリスク量を計測する手法。
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