フィリピンは、親中政策を貫いた前大統領に代わった新大統領が一部軌道修正したこともあって、南シナ海における中国との領有権争いで頻りに中国批判を繰り返すようになっている。そうした中、比側調査の結果、中国漁船団による無謀な操業によってサンゴ礁が死滅させられていることが判明し、改めて中国側に非難の声を上げている。これに対して中国側は、環境汚染をとやかく言うなら、フィリピンこそ意図的に座礁させた軍艦を早急に撤去すべきだと反論している。
9月18日付フィリピン国営
『Philippine News Agencyウェブサイト』、9月22日付
『CNNニュース』は、フィリピンがこの程、南沙諸島の排他的経済水域(EEZ)内の二つの岩礁のサンゴ群が中国漁船団によって死滅させられたと、ビデオ映像を示して非難したと報じている。
フィリピン沿岸警備隊(PCG、1967年設立)は9月18日、中国の漁船団(実は暗躍する中国軍民兵船)が無謀な操業を行った結果、南シナ海のフィリピンEEZ内の二つの岩礁のサンゴ群が死滅させられていることが判明したと発表した。
フィリピン西端のパラワン島沖の西フィリピン海にある、イロコイ礁(ローズリーフ)及びサビーナ礁(エスコーダ砂州)付近の海底に生息していたサンゴ礁群で、PCG派遣のダイバーが潜って撮影した映像には、無残にも打ち砕かれたサンゴ礁の死骸が映し出されていた。
PCG報道官のジェイ・タリエラ准将は、“中国軍海上民兵の武装漁船団が、ローズリーフ及びエスコーダ砂州周辺で違法かつ無謀な操業を行ったため、このような惨憺たる結果を招いた”と糾弾した。
同准将は更に、8月9日から9月11日の間に、ローズリーフ周辺で33隻、またエスコーダ砂州周辺に15隻の中国船が確認されていたとも言及している。
フィリピン外務省は、“外国船舶によるEEZ内での生態系に悪影響を及ぼす行為について、再三にわたり警告してきた”との声明を出した。
駐比米国大使のメアリーケイ・カールソン氏(2022年就任)は9月18日、“生息環境の破壊は生態系を脅かすばかりか、我々の生活や命をも危うくしてしまう”と投稿して非難した。
また、駐比日本大使の越川和彦氏(66歳、2020年就任)も、“貴重な生態系を守るためにも、禁止行為の徹底が重要である”と言及している。
一方、中国外交部(省に相当)報道官は9月21日の記者会見席上、“フィリピンは既に南シナ海で生態系を脅かす行為をし続けている”とし、“セカンド・トーマス礁(1999年よりフィリピンが実効支配、パラワン島西北)近海にフィリピンが違法かつ意図的に座礁させた軍艦「シエラ・マドレ(注後記)」を可及的速やかに撤去すべきだ”と反論した。
同報道官は、“座礁艦によって下水が海に流れ出すのを妨げられ、また、同艦の腐食によって海を汚し、取り返しのつかない環境破壊を行っているからだ”と糾弾している。
(注)戦車揚陸船“シエラ・マドレ”:1976年に米海軍から移管された旧名“ハーネット・カウンティ”(1944年就役、1970年退役)で、フィリピンによって1999年、南沙諸島のセカンド・トーマス礁の前哨として使用するため、意図的に座礁させられた軍艦。
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少子高齢化に喘ぐ日本では、出生率向上を目論んで官民挙げて婚姻奨励に励んでいる。しかし、ジェンダーギャップ指数世界ランキング(注1後記)で最低レベルの評価となっている根本問題を改善しない限り、付け焼刃の奨励策は奏功しないと多くの専門家が酷評している。
2月16日付
『CBSニュース』は、「日本政府、出生率向上のため結婚斡旋に励むも専門家は効果なしと酷評」と題して、各自治体が試みている結婚斡旋施策に日本政府が補助金等を出して奨励しているが、男女格差是正という根本問題を改善しない限り、かかる付け焼刃の政策は奏功しないと酷評されていると報じた。
宮城県では、政府補助で立ち上げたAIによる結婚斡旋サービスにより、婚姻率上昇を目論んでいる。
愛媛県では、自治体が整備した未婚者紹介データを活用できるようにしている。
また、宮崎県では、未婚者用に文通等による出会いの場を提供している。
このように、今や日本全国で、官民挙げて未婚者用の出会いパーティや“人生設計セミナー”が催されている。
東京都では、話し方(自分のことだけ話してはダメ等)、紹介写真の写し方、スタイリストやメイクアップアーティストによる装い方等々の講座を設ける程である。
これまでの日本では、政府自らが音頭を取って結婚を斡旋するような歴史はなかったが、かかる動きは益々広がりを見せている。
岸田文雄首相(65歳、2021年就任)は先月、出生率低下の問題に対して“前例のない”方策で取り組んでいくとぶち上げた。
日本は、主要先進国の中で最も少子高齢化が進んでいる。
出生率をみると、1970年代(2.14~2.16)をピークにして下落傾向に転じ、現在は1.3と、“人口置換水準(注2後記)”を大きく下回っている。
そこで、政権中枢が長老で占められる日本では、この是正には婚姻率上昇が必要だと考えた。
内閣府広報担当官は、婚姻率を押し上げるため、“各自治体の取り組みに更に人員を割き、かつ新しい手法で取り組んでいくことになる”とコメントした。
仲介役を担うコンシェルジュ(総合世話係)を新たに雇って投入することになるが、政府がその人件費の75%を補填するという。
しかし、多くの専門家は、この根本問題を改善するには、政治や企業管理職を男性が占めるという状況をもたらしている、日本の悪名高い“男性が稼ぎ、女性が家事を担う”という風習を打破する以外にないと断言している。
ハーバード大(1636年設立の私立大学)の社会学者で日本研究専門のメアリィ・ブリントン教授は、日本の人口統計に関わる失策を解説する上で、“先進国の中で、例えばスウェーデンなどは、仕事や家事で男女間のバランスをうまく保つような施策を取ったことから、出生率が下落するような事態を招いてない”と、例を挙げて説明した。
彼女の分析によると、日本の女性は男性の5倍も家事労働に従事しており、言わば“セカンドシフト(通常の仕事に更に追加される業務)”を担うこととなり、これではとても2人目とか3人目とかの子供を持てるはずはない、と断罪している。
ところが、一部の自治体の首長は、この不公平さに対して口先だけの世辞を述べるような行動を取っている。
あるテレビ番組に出演した佐賀県・宮崎県・鹿児島県の知事らは、スーツ・ネクタイ姿の上に黄色のエプロンを着用して、掃除機をかけたり、アイロンがけをしたり、また、床等のブラシ掛けを行い、家事という膨大な量の根気仕事に驚嘆する姿を見せていた。
中央大学(1885年前身設立の私立大学)文学部の山田昌弘教授は、実存する危機から抜け出せるか疑問と評している。
同教授は『CBSニュース』のインタビューに答えて、“結婚を斡旋すれば済む問題ではない”とし、“多くの男性が、正規雇用であっても実質賃金が減少している現状から、結婚するよりも独身のまま両親と暮らす方が良いと考えるようになっているからである”と解説した。
更に同教授は、かかる施策を立案したのは高学歴のエリートから成る組織で、実情を全く理解していないとして、かかる政策を扱き下ろした。
何故なら、2021年時点で、男性の5分の1、女性の実に半分以上がアルバイトやフリーランスの非正規雇用者であるからだ、とする。
ブリントン教授も、非正規雇用の男性が抱える窮状をなくすため、平等主義や共働き、そして家事分担を推進すべきとする根拠であるとしている。
すなわち、“収入が不安定な職に就いている若い男性は、家族を持って養っていくことなどできないと考えるし、若い女性も、このような人を結婚相手として選びたいとは思わないからだ”と付言した。
また、山田教授は、米国や欧州に比べて東アジアの男性たちは特に、結婚して子供を養うために自身がより稼がなければならないと考える傾向にあるため、低収入であることを理由に結婚に消極的になりやすい、と分析している。
そこで同教授は、本当に効果的な施策は、老人よりも家族のために2倍も3倍も公金を投じて支援することだと主張した。
なお、同教授は、“このまま低い出生率で推移していくと、日本は益々沈んでいくことになる”とし、“韓国と中国も日本の後を追っている”と付言している。
(注1)ジェンダーギャップ指数世界ランキング:世界経済フォーラムが毎年発表している男女平等指数。昨年7月公表の2022年版では、対象146ヵ国中、日本は116位。特に政治面(衆議員や閣僚に占める割合等)で139位、経済面(労働参加率・賃金格差・管理職の割合等)で121位と低迷。なお、上位5は北欧諸国が占め、その他、10位ドイツ、15位フランス、22位英国、27位米国、99位韓国、102位中国、135位インド等となっている。
(注2)人口置換水準:人口が長期的に安定する出生率。先進工業国では2.1とされる。
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