少子高齢化に喘ぐ日本では、出生率向上を目論んで官民挙げて婚姻奨励に励んでいる。しかし、ジェンダーギャップ指数世界ランキング(注1後記)で最低レベルの評価となっている根本問題を改善しない限り、付け焼刃の奨励策は奏功しないと多くの専門家が酷評している。
2月16日付
『CBSニュース』は、「日本政府、出生率向上のため結婚斡旋に励むも専門家は効果なしと酷評」と題して、各自治体が試みている結婚斡旋施策に日本政府が補助金等を出して奨励しているが、男女格差是正という根本問題を改善しない限り、かかる付け焼刃の政策は奏功しないと酷評されていると報じた。
宮城県では、政府補助で立ち上げたAIによる結婚斡旋サービスにより、婚姻率上昇を目論んでいる。
愛媛県では、自治体が整備した未婚者紹介データを活用できるようにしている。
また、宮崎県では、未婚者用に文通等による出会いの場を提供している。
このように、今や日本全国で、官民挙げて未婚者用の出会いパーティや“人生設計セミナー”が催されている。
東京都では、話し方(自分のことだけ話してはダメ等)、紹介写真の写し方、スタイリストやメイクアップアーティストによる装い方等々の講座を設ける程である。
これまでの日本では、政府自らが音頭を取って結婚を斡旋するような歴史はなかったが、かかる動きは益々広がりを見せている。
岸田文雄首相(65歳、2021年就任)は先月、出生率低下の問題に対して“前例のない”方策で取り組んでいくとぶち上げた。
日本は、主要先進国の中で最も少子高齢化が進んでいる。
出生率をみると、1970年代(2.14~2.16)をピークにして下落傾向に転じ、現在は1.3と、“人口置換水準(注2後記)”を大きく下回っている。
そこで、政権中枢が長老で占められる日本では、この是正には婚姻率上昇が必要だと考えた。
内閣府広報担当官は、婚姻率を押し上げるため、“各自治体の取り組みに更に人員を割き、かつ新しい手法で取り組んでいくことになる”とコメントした。
仲介役を担うコンシェルジュ(総合世話係)を新たに雇って投入することになるが、政府がその人件費の75%を補填するという。
しかし、多くの専門家は、この根本問題を改善するには、政治や企業管理職を男性が占めるという状況をもたらしている、日本の悪名高い“男性が稼ぎ、女性が家事を担う”という風習を打破する以外にないと断言している。
ハーバード大(1636年設立の私立大学)の社会学者で日本研究専門のメアリィ・ブリントン教授は、日本の人口統計に関わる失策を解説する上で、“先進国の中で、例えばスウェーデンなどは、仕事や家事で男女間のバランスをうまく保つような施策を取ったことから、出生率が下落するような事態を招いてない”と、例を挙げて説明した。
彼女の分析によると、日本の女性は男性の5倍も家事労働に従事しており、言わば“セカンドシフト(通常の仕事に更に追加される業務)”を担うこととなり、これではとても2人目とか3人目とかの子供を持てるはずはない、と断罪している。
ところが、一部の自治体の首長は、この不公平さに対して口先だけの世辞を述べるような行動を取っている。
あるテレビ番組に出演した佐賀県・宮崎県・鹿児島県の知事らは、スーツ・ネクタイ姿の上に黄色のエプロンを着用して、掃除機をかけたり、アイロンがけをしたり、また、床等のブラシ掛けを行い、家事という膨大な量の根気仕事に驚嘆する姿を見せていた。
中央大学(1885年前身設立の私立大学)文学部の山田昌弘教授は、実存する危機から抜け出せるか疑問と評している。
同教授は『CBSニュース』のインタビューに答えて、“結婚を斡旋すれば済む問題ではない”とし、“多くの男性が、正規雇用であっても実質賃金が減少している現状から、結婚するよりも独身のまま両親と暮らす方が良いと考えるようになっているからである”と解説した。
更に同教授は、かかる施策を立案したのは高学歴のエリートから成る組織で、実情を全く理解していないとして、かかる政策を扱き下ろした。
何故なら、2021年時点で、男性の5分の1、女性の実に半分以上がアルバイトやフリーランスの非正規雇用者であるからだ、とする。
ブリントン教授も、非正規雇用の男性が抱える窮状をなくすため、平等主義や共働き、そして家事分担を推進すべきとする根拠であるとしている。
すなわち、“収入が不安定な職に就いている若い男性は、家族を持って養っていくことなどできないと考えるし、若い女性も、このような人を結婚相手として選びたいとは思わないからだ”と付言した。
また、山田教授は、米国や欧州に比べて東アジアの男性たちは特に、結婚して子供を養うために自身がより稼がなければならないと考える傾向にあるため、低収入であることを理由に結婚に消極的になりやすい、と分析している。
そこで同教授は、本当に効果的な施策は、老人よりも家族のために2倍も3倍も公金を投じて支援することだと主張した。
なお、同教授は、“このまま低い出生率で推移していくと、日本は益々沈んでいくことになる”とし、“韓国と中国も日本の後を追っている”と付言している。
(注1)ジェンダーギャップ指数世界ランキング:世界経済フォーラムが毎年発表している男女平等指数。昨年7月公表の2022年版では、対象146ヵ国中、日本は116位。特に政治面(衆議員や閣僚に占める割合等)で139位、経済面(労働参加率・賃金格差・管理職の割合等)で121位と低迷。なお、上位5は北欧諸国が占め、その他、10位ドイツ、15位フランス、22位英国、27位米国、99位韓国、102位中国、135位インド等となっている。
(注2)人口置換水準:人口が長期的に安定する出生率。先進工業国では2.1とされる。
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米社会に分断をもたらしたトランプ前大統領は、元側近の中でも各々発刊する「回想録」の中で賛否が分かれている。そしてこの程、2016年大統領選時に選挙対策本部長を務め、大統領顧問であった元側近の「回想録」が、最初のうちはそこそこ売り上げられていたものの、記載内容が気に入らないトランプからの攻撃を受けて俄かに売り上げを落としている。
6月5日付
『ザ・ラップ』オンラインニュース(2009年設立)は、「トランプ前大統領元側近のケリーアン・コンウェイ発刊の回想録、トランプから非難を浴びて売り上げ落ち込み」と題して、2016年大統領選時の選挙対策本部長を務めたコンウェイ氏が発刊した回想録「それで決まり」が、記載内容についてトランプから非難されたことから、売り上げを落としていると報じている。
ケリーアン・コンウェイ氏(55歳)は、2016年大統領選時のトランプの選挙対策本部長で、後に大統領顧問も務めた人物である。
彼女が5月24日に発刊した回想録「それで決まり」は、『ニューヨーク・タイムズ』紙が当初ベストセラー本一覧に掲載する程で、これまでに2万5千部売れている。
しかし、他のトランプ元側近等の暴露本に比べて、大した数字ではない。
『ジ・インテリジェンサー』紙(1804年創刊のペンシルベニア州地方紙)報道どおり、トランプ前大統領の姪に当たるメアリー・トランプ氏(57歳)が暴露本「過大で全く不十分(副題;世界で最も危険な男)」を2020年7月に発刊した際には、1日で95万部も売り上げた。
また、卓越したジャーナリストのボブ・ウッドワード氏(79歳、『ワシントン・ポスト』紙名誉編集委員、ウォーター事件報道でピューリッツァー賞受賞)が2020年に著した『憤怒』は、発売1週間で60万部を突破している。
しかし、コンウェイ氏の著書には、2016年大統領選時にトランプが投票数週間前に撤退を考えたとの逸話が掲載されていることから、トランプ自身から猛烈に非難された。
彼女は、発刊前の抜粋の中で、悪名高い「アクセス・ハリウッド・テープ」(注後記)報道がなされた際、選挙から撤退しようとしたトランプを説得したと言及していた。
これに対して、トランプの報道官リズ・ハリントン氏が『デイリィ・ビースト』オンラインニュース(2008年設立のリベラル系メディア)のインタビューに答えて、“コンウェイの回想録は「全くのでたらめ」”とコメントした。
また、トランプ自身も5月24日、彼が立ち上げたソーシャルメディア・プラットフォーム『トゥルース・ソーシャル』(2021年設立)に、“コンウェイは、自分が選挙に負けると思った等一切発言したことはなかった”とした上で、“もしそうだったとしたら、とっくに彼女を馘首していた”と投稿した。
更にトランプは、“彼女のクレイジーな夫と同様、ばかげている”として非難した。
コンウェイ氏の夫はジョージ・コンウェイ三世氏(58歳、弁護士・保守系政治活動家)で、トランプ再選阻止運動「リンカーン・プロジェクト」の共同創設者となっている。
なお、コンウェイ氏の回想録は、トランプの元側近クリス・クリスティ氏(59歳、元ニュージャージー州知事)の著作物(発刊1週間で3千部以下)や、メーガン・マケイン氏(37歳、作家・政治評論家、故ジョン・マケイン上院議員の長女)の著書「不快な共和党員」(発刊数日で僅か244部)より遥かに売れてはいる。
(注)アクセス・ハリウッド・テープ:米国大統領選挙の1ヵ月前の2016年10月、『ワシントン・ポスト』紙が報道した、当時の大統領候補ドナルド・トランプとテレビ司会者のビリー・ブッシュが2005年に「女性に関する非常にみだらな会話」をしたことについての証拠ビデオに関わる記事。
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