既報どおり、前回の米大統領選で激戦区だったジョージア州において、今秋の中間選挙に臨む党候補者を決める共和党予備選で、トランプ前大統領が推す候補が反トランプ派に惨敗した。この勢いが続くとみられたが、同じく激戦区だったアリゾナ州の直近の予備選の結果、トランプ派が大勝した。しかし、対抗する民主党陣営としては、今回勝ったのが泡沫候補であり、むしろ本選では民主党が戦いやすいと強気のコメントをしている。
8月4日付
『NBCニュース』は、「共和党トランプ派:トランプ推薦候補がアリゾナ州・ミシガン州で大勝したことから、トランプは“最強の人物”と称賛」と題して、共和党陣営が、アリゾナ州・ミシガン州における直近の共和党予備選で、下馬評を覆してトランプ前大統領が推した候補が大勝したとして、改めてトランプの影響力の強さを絶賛したと報じている。
今年前半に実施されたいくつかの州における共和党予備選で、ドナルド・トランプ前大統領が推薦する候補が軒並み敗退し、トランプの神通力もこれまでかとみられた。
しかし、8月2日に行われたアリゾナ州・ミシガン州においては、トランプが支持する候補が大勝を収め、改めてトランプの影響力の強さが示された。
例えばアリゾナ州では、トランプが推した同州代表連邦上院議員、同州務長官(大統領選等選挙結果証明の任)、同州上院及び下院議員の予備選に立候補した12人のうち、実に11人が勝利した。
これらの候補は全員、2020年大統領選は不正選挙だと根拠のない主張をするトランプを称賛している。
当時、激戦区となったアリゾナ州・ジョージア州では、両州知事及び州務長官ともトランプによる選挙結果を覆せとの指示に抵抗していたが、ジョージア州で5月に行われた予備選でトランプ推薦候補が大敗していたことから、アリゾナ州でも同様の結果が想定されていた。
しかし、アリゾナ州ではトランプ派が大勝した訳だが、同日の予備選ではミズーリ州・カンザス州でもトランプ推薦の候補が勝利を収めた。
更に、ミシガン州では、トランプ前大統領の弾劾裁判において共和党議員でありながら賛成票を投じた10のうちの1人であったピーター・マイヤー下院議員(34歳、2021年初当選)が、トランプが推したジョン・ギブス候補に敗退しており、改めてトランプの影響力の強さを示している。
この結果を受けて、ミシガン州共和党元議長で同党顧問のソール・アヌジス氏(63歳、2005~2009年在任)は、“トランプは「800ポンドのゴリラ(注後記)」だ”とし、“彼は絶大な影響力を持っている”と称賛した。
まだ数州の予備選が残っているが、トランプ陣営によると、これまで実施された予備選では、トランプ支持の候補188人が勝利、負けたのは14人だけで、他2人は立候補を取り止めたか立候補を認められなかったという結果になっているという。
しかし、かかる結果に対して民主党陣営は、トランプの影響力は確かに独特なことは認めるものの、彼の推薦した候補は、アリゾナ州・ミシガン州のようにどれも中心州とは言えない場所だと言及している。
更に、アリゾナ州の民主党首席顧問のD.J.クィンラン氏は、“トランプが推薦したアリゾナ州の候補者は誰も極論者ばかりで、発信する言葉が余りにも管理・統一された表現となっている”として、同州知事候補のカリ・レイク氏(52歳、同州フェニックスTV局元ニュースジャーナリスト)、連邦上院議員候補のブレイク・マスターズ氏(35歳、投資ファンドのティール財団代表)、州務長官候補のマーク・フィンケム氏(同州下院議員、2015年初当選)を酷評した。
ただ、同氏は、“民主党には逆風が吹いていることもあり、トランプやレイクが奮い立たせる影響力を侮ってはならない”と釘を刺している。
一方、ミシガン州教育省所属で同州民主党女性党員代表のパメラ・プーフ氏は、同州のような民主党・共和党が拮抗している州では、トランプの息のかかった候補で、しかも人種差別主義者や同性婚否定論者等極端な人物が出てきているので、むしろ11月の中間選挙では民主党に優位にはたらく、とコメントしている。
なお、共和党連邦議員でありながら、トランプの弾劾裁判で賛成票を投じた10人のうち、6人の議員は立候補を断念していて、上述どおりミシガン州のマイヤー下院議員はトランプ派候補に敗退しており、カリフォルニア州のデビッド・バラダオ下院議員(45歳、2021年初当選)のみがトランプ支持候補を破っただけである。
ただ、ワシントン州のハイメ・エレーラ・ボートラー下院議員(43歳、2011年初当選)及びダン・ニューハウス下院議員(67歳、2015年初当選)はいずれもトランプ支持候補より多くの支持率を獲得している。
同日付『ABCニュース』は、「アリゾナ州のトランプ推薦候補が共和党予備選に勝利したが、一部の共和党関係者は今秋の中間選挙本選に懸念」と、トランプ派に勢いがつくことで民主党より不利になる恐れを抱いていると報じた。
『ABCニュース』他のメディアは、まだアリゾナ州の共和党予備選の最終結果を確認していないが、トランプ前大統領の支持を得ていた同州知事選候補のカリ・レイク氏は8月3日、勝利宣言をした。
彼女は、前大統領が2020年選挙に不正があったと主張しているとおり、“自分の勝利によって、この主張が裏付けられた”とし、“MAGA(米国を再び偉大な国に)運動が依然活気づいていることが証明された”と豪語した。
記者団から、『AP通信』が対立候補のカリン・テイラー・ロブソン氏(57歳、宅地造成業者代理人弁護士)の勝利に言及していると問われたのに対して、レイク氏は、“『AP通信』は民主党に肩入れしている問題あるメディアだ”とした上で、“最終集計をみれば自分が勝っていることが明らかになる”と強調した。
これに対して、ロブソン氏は、“最終結果が判明していないのに勝利宣言するのは言語道断だ”とし、“(トランプ同様)欺瞞に満ちている人物は、アリゾナ州知事になどなる資格はない”と反論している。
しかし、同州の共和党選挙対策顧問のブライアン・シーチック氏は8月3日、『ABCニュース』のインタビューに答えて、“(レイク氏含めた)トランプ支持の候補者が軒並み予備選に勝利したことで、同州が再び共和党の州に戻ることは確実だ”とコメントした。
その他、アリゾナ州においてトランプ推薦で予備選に勝利したと言われているのは、連邦上院議員候補のブレイク・マスターズ氏(人種差別主義者で同性婚反対論者)、同州務長官候補のマーク・フィンケム氏(極右政治家で反政府民兵組織オウスキーパーズ(誓の守護者)所属)、同州司法長官候補のエイブ・ハメイデ氏(マリコパ郡検察官だが、同郡の2020年選挙結果を根拠なく誤りと主張)等がいる。
かかる背景もあって、『ABCニュース』が同州の共和党支持者にインタビューして回ったところ、“トランプ時代に国も州も分断されてしまい、結果として三十有余年共和党の州であった同州がバイデン民主党に覆ってしまった”と嘆いた上で、“例えばレイク氏にしても、トランプが支援していることだけを理由として、共和党ではなく民主党候補に投票する人が多く出てくることを懸念する”とコメントする人が複数存在した。
(注)800ポンドのゴリラ:〔特定の分野・市場などを独占・寡占・支配している〕巨大な存在、巨人、絶大な[ただならぬ]力、巨大[ガリバー]企業、大きな影響力を持つ人、有力者、支配者、等を意味する米俗語。
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米共和党においては、トランプ前大統領に反旗を翻す者もいるが、大勢は依然トランプ支持者が多い。ただ、既報どおり、民主党主導で進められている下院特別委員会(昨年1月の議事堂乱入事件を調査するために設立)の調査及び重要参考人の証言によって、前大統領に逆風が吹き始めている。そうした中、前回大統領選で激戦区となり、前大統領から票の数え直し等様々な圧力をかけられたアリゾナ州・ジョージア州において、今秋の州知事選候補者を決める共和党予備選で、トランプ派と反トランプ派の間で激戦が繰り広げられている。
7月17日付
『AP通信』は、「共和党重鎮、アリゾナ州知事選候補予備選でトランプ派候補撃退に奔走」と題して、反トランプ派の現職知事が、トランプ前大統領が送り込んだ対立候補を撃退すべく奔走していると報じている。
アリゾナ州のダグ・デューシー知事(58歳、2015年就任で2期目)は、前回大統領選で激戦区となった同州の知事選候補者を決める共和党予備選で、自身の後任として推す反トランプ派の候補者支援に注力し、ドナルド・トランプ前大統領(76歳)が送り込んだ対立候補を撃退しようと努めている。
同知事は、共和党内で数少ない反トランプ派の重鎮で、これまで無名だった宅地造成業者代理人弁護士のカリン・テイラー・ロブソン候補(57歳)に肩入れして知名度を引き揚げている。
そして、トランプ前大統領が推している対立候補のカリ・レイク氏(52歳、同州フェニックスTV局元ニュースジャーナリスト)を退けるべく、同じく反トランプ派の元ニュージャージー州知事のクリス・クリスティ氏(59歳、2010~2018年在任)もロブソン候補支持を強く打ち出している。
かかる反トランプ派の積極的活動は、ジョージア州現職知事のブライアン・ケンプ氏(58歳、2019年就任で2期目を目指す)が今年5月下旬の同州共和党予備選で、トランプ前大統領が推す対立候補のデビッド・パーデュー氏(72歳、2015~2021年の間同州選出の上院議員)を大差で破ったことで勢いを増している。
実は前回大統領選時、アリゾナ州・ジョージア州の両知事は、トランプ前大統領から選挙結果を覆すようにとの圧力をかけられたが、これを拒否していたことから、トランプ前大統領が立腹し、同陣営から対立候補を送り込む等の嫌がらせを受けてきていた。
従って、ジョージア州に続いて、8月2日に投開票となるアリゾナ州における共和党予備選でも反トランプ派候補が勝利するとなれば、2024年の大統領選への立候補を検討しているトランプ氏にとって、痛手となる可能性がある。
デューシー知事は『AP通信』のインタビューに答えて、“アリゾナ州では、ジョージア州と同様、最も適任となる候補者が勝利すると思う”とし、“ジョージア州ではブライアン・ケンプ氏が信任を得たので、アリゾナ州ではカリン・テイラー・ロブソン候補が選ばれることを期待している”と語った。
目下のところ、ロブソン候補が、同州富豪で宅地造成業を営む夫のエド・ロブソン氏(91歳)の強い後ろ盾もあって優勢となっている。
一方、レイク候補は、トランプ前大統領から後押しされているものの、十分な選挙運動支援金が集まらず苦戦を強いられている。
なお、ロブソン候補に対して、予備選から撤退したマット・サーモン氏(64歳、2013~2017年の間同州選出の下院議員)に加えて、当初トランプ派だった同州国境警備隊職員組合も支持を表明している。
ただ、トランプ前大統領と袂を分かったマイク・ペンス前副大統領(63歳)は、ジョージア州のケンプ知事の再選を支持していたが、アリゾナ州ではどの知事候補を支援するかまだ態度を明らかにしていない。
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