日本は、米国が警戒するイランと親交が深く、安倍晋三首相(当時65歳)が2019年にイラン最高指導者を仲介訪問した程である。一方、イランと犬猿の仲のイスラエルとも関係強化に努めていて、2014年のベンヤミン・ネタニヤフ首相(当時64歳)の来日を契機に両国間投資協定等が発効している。かかる背景下、2021年の日本からイスラエル向け投資が前年比倍増となり最多を更新している。
1月9日付
『ジ・アルゲマイナー』(1972年創刊のユダヤ系週刊誌):「日本の2021年イスラエル向け投資総額が29億ドルと最多更新」
イスラエルのコンサルタント会社ハレル・ヘルツ・インベストメントハウス(HHIH、1994年設立、イスラエル・日本間投資に特化)が1月9日にリリースした報告によると、2021年のイスラエル先端技術部門への海外からの投資額が過去最多となり、そのうち日本からの投資額が多くを占めているという。
それによると、日本の企業の対イスラエル投資額は29億4,500万ドル(約3,387億円)と、前年比+190%と過去最多を記録している。
投資件数も、2019年70件、2020年63件だったのに対して、2021年は85件と、海外企業の対イスラエル全投資中の15.8%を占めている。
更に特徴的であることには、2015年当時の日本の投資先の61%が移動通信やインターネット分野であったのに対して、2021年には、先の分野が13%まで減少し、代わって生命科学、医薬品、フードテック(注1後記)、サイバーセキュリティ、フィンテック(注2後記)、クリーンテック(注3後記)及び自動車産業分野向け投資額が増加している。
2000年から現在までの対イスラエル投資額は、総計130億ドル(約1兆4,950億円)に上る。
特に、ベンヤミン・ネタニヤフ首相及び安倍晋三首相が相互訪問を行ったことを契機に、2015年以降の対イスラエル投資が活発化している。
これに伴い、2017年には日本・イスラエル投資協定(注4後記)や安全保障に関わる覚書が締結され、サイバーセキュリティ、宇宙開発、学術研究及び農業分野での相互協力が促進されてきている。
その上で、2020年に日本の銀行や証券会社がイスラエルに拠点を設けることが盛んになったが、2021年にはベンチャーキャピタルの進出が目覚ましい。
日本の大手IT企業のNTT(1952年創業)やソフトバンク(1984年前身の日本テレコム設立)を含めて、現在18社のベンチャー企業が進出してきている。
また、日本企業によるイスラエル企業の買収・事業提携も活発化していて、イスラエル医薬品メーカーのイタマー・メディカル(1997年設立)が総合化学メーカー旭化成グループ(1949年前身設立)傘下の救急医療機器メーカーのゾール・メディカル(2012年設立)に、医療機器メーカーのメディテイト(2007年設立)が光学機器・電子機器メーカーのオリンパス(1919年設立)に、そして半導体企業セレノ(2005年設立)が大手半導体メーカーのルネサス・エレクトロニクス(2003年日立・三菱の半導体部門の統合で設立)にそれぞれ買収されている。
HHIHのエルナハン・ハレルCEOは、上記の買収案件は全て“ディジタル媒介投資”案件で、ズーム会議等を通じての交渉の結果成立したものであり、正に新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題で対面交渉ができない時代の産物であるとする。
更に同CEOは、対面交渉を経ずにかかる合意に至る程、両国の企業間の信頼関係が深まっていることの証左だとする。
なお、HHIHによると、イスラエル企業にとっても日本の存在は大きいとする。
何故なら、米中貿易紛争や中国と東アジア諸国との緊張が激化していることから、イスラエル側にとってアジア地域における事業展開の拠点として日本を進出先とする考えが強まっているからである。
そして、目下多くのイスラエル企業が日本の提携先や支店設営を検討しているだけでなく、具体的に日本支店の責任者たる日本人マネージャーの雇用を始めているという。
(注1)フードテック:最新のテクノロジーを駆使することによって、全く新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術。例えば、植物性たんぱく質から肉を再現したり、単品で必要な栄養素を摂取できるパスタを開発したりすることが可能になることから、世界的に深刻化する食糧問題を解決する方法として大きな期待を集めている。
(注2)フィンテック:ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語。既存の金融機関が持つ総合的な金融サービスのうち、顧客が必要とする一部の機能のみに特化することで、低コストでサービスを受けることが可能。フィンテックは情報処理技術を用いて新たな金融サービスを作り出すという用語として使われ、例えば、情報処理を用いて株のオンライン取引を提供することがある。
(注3)クリーンテック:再生不能資源を使用しない、または利用する量を抑制した製品やサービス・プロセスを開発すること。例えば、太陽光発電やハイブリッド車の開発が挙げられる。
(注4)日本・イスラエル投資協定:2017年2月署名、同年10月に発効した、投資の自由化、促進及び保護に関する日本とイスラエルとの間の協定。
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