2/19 「スピードスケート女子団体パシュート・五輪金メダルへ・究極の戦略」
ソチ五輪での歴史的大敗を喫したスピードスケート女子団体パシュート。メダル23個を獲得した絶対王者オランダに日本は12秒もの大差をつけられ屈辱を味わった。オランダで代表コーチを務めたヨハンデヴィットの教えの下、日本はナショナルチームを結成し、一から立て直しを図った。年間300日以上、過酷なトレーニングを積んできた。その結果、今シーズンW杯で3戦3勝。全てのレースで記録を更新し、オリンピック金メダルの最有力候補に躍り出た。...
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ソチ五輪での歴史的大敗を喫したスピードスケート女子団体パシュート。メダル23個を獲得した絶対王者オランダに日本は12秒もの大差をつけられ屈辱を味わった。オランダで代表コーチを務めたヨハンデヴィットの教えの下、日本はナショナルチームを結成し、一から立て直しを図った。年間300日以上、過酷なトレーニングを積んできた。その結果、今シーズンW杯で3戦3勝。全てのレースで記録を更新し、オリンピック金メダルの最有力候補に躍り出た。女子団体パシュート躍進の舞台裏を探る。
スピードスケート女子団体パシュートはスピードスケート唯一のチーム制。3人の選手が時速50kmの速度で、一列になって2400m(400m×6周)を疾走する。選手たちは隊列を組み、先頭を入れ替えながら滑る。なぜこんな滑り方をするのかといえば、競技中、選手を襲う強烈な風圧を先頭を入れ替えながら走ることで減らすことができるためだ。先頭の選手が大きな風圧を受ける一方で、後ろの選手は前の選手が壁となり風圧を抑えられ、空気抵抗が前を走る選手より20%以上少なくできる。
隊列を組む4人の1500mのベストタイムをオランダと比較してみると日本は高木美帆が世界歴代3位の1分51秒49、菊池彩花が1分54秒12、高木菜那が1分55秒25、佐藤綾乃が1分58秒25。オランダのレーンストラが1分52秒06、ビュストが1分52秒08、ファンピークが1分52秒95、デヨングが1分54秒51となっている。日本の武器は空気抵抗を極限まで抑える一糸乱れぬ隊列と高速の先頭交代。日本代表コーチ・ヨハンデヴィットはオランダに勝つという目標を達成するため高木美帆にさらに負荷をかける戦略に出た。
高木美帆のデビューは8年前のバンクーバー五輪。最年少、中学生で初出場した。銀メダルを獲得したパシュートのメンバーにも選ばれ、将来を嘱望された。だが、ソチ五輪の選考会で代表から外れた。当時を振り返って本人は「スケートに真剣に向き合う覚悟がなかった」と語った。ソチの屈辱から4年、飛躍的成長を遂げた高木。高木美帆を中心に考えられた新たな戦略の成功のカギを握るのが佐藤綾乃だが、スピードを上げられず隊列が詰まり、後ろの選手から背中を押されることもあった。この状況について佐藤は「先頭に出た時は全力でいくが、その後、疲れてしまい後ろにつけず隊列から離れてしまうという恐怖心があった」と語る。
2017年12月8日に行われたW杯ソルトレークシティー大会では高木美帆、高木菜那、佐藤綾乃の3人で挑み、2分50秒87と世界記録をさらに3秒縮めてみせた。日本代表コーチ・ヨハンデヴィットは「これで、どこの国よりも速く滑ることができると証明できた。平昌でも自分たちの力を出し切れば絶対に負けない」と選手にエールを送った。日本勢と平昌五輪で対決することになるオランダ代表コーチ・ヘルトカウパーは「オランダと日本の差はほとんどない。どちらが勝つか楽しみだ」と語った。
スピードスケート女子団体パシュート予選は2月19日、テレビ朝日で19時から、NHKBSでは20時20分からの放送になる。決勝は2月21日、日本テレビで19時55分から、NHKBSで20時00分から放送される。お楽しみに。
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2/12 「金メダルへの道・羽生結弦・連覇への苦闘」
ソチ五輪で金メダルを獲得して以来、4回転ジャンプを武器に世界最高得点を8回更新するなどフィギュアスケートの絶対王者として君臨してきた。だが、平昌五輪を前に右足首を負傷してしまった。羽生結弦は「悔しい思いはすごくあるが、今は一つ一つやっていくしかない」と現在の心境を話した。
自らが扉を開けたハイレベルな戦いの中で、若手が台頭し、羽生を脅かす存在になってきている。ネイサンチェンは「羽生選手はスケートの限界を押し上げ、モチベーションとインスピレーションをくれた。...
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ソチ五輪で金メダルを獲得して以来、4回転ジャンプを武器に世界最高得点を8回更新するなどフィギュアスケートの絶対王者として君臨してきた。だが、平昌五輪を前に右足首を負傷してしまった。羽生結弦は「悔しい思いはすごくあるが、今は一つ一つやっていくしかない」と現在の心境を話した。
自らが扉を開けたハイレベルな戦いの中で、若手が台頭し、羽生を脅かす存在になってきている。ネイサンチェンは「羽生選手はスケートの限界を押し上げ、モチベーションとインスピレーションをくれた。そのおかげで僕も成長できた」とした上で「五輪では金メダルを狙う」と話した。ネイサンチェンはフリーで史上最多の6本の4回転ジャンプを跳び、2017年の四大陸選手権では羽生選手に勝利した。この時、ネイサンチェンは羽生が飛んでいない4回転ジャンプを2種類成功させたが、出来栄え点で差をつけられた。そこで5種類飛ぶことで羽生を超えようとしている。また宇野も力をつけてきている。一方、羽生結弦は五輪で頂点に立つためのプログラムを明かした。
羽生の五輪で頂点に立つためのプログラムには合わせて7本の4回転ジャンプが組み込まれている。4回転ジャンプは踏み切り方の違いで5種類あり、中でも4回転ルッツは最も難しい。羽生は4回転ルッツをオリンピック連覇の切り札にしようとしている。このプログラムを成功させればこれまでにない点数が期待できる。去年10月、ロシア大会で羽生は4回転ルッツを試合で初めて成功させたが、優勝したのはネイサンチェンで羽生は2位に終わった。今回は4回転ルッツを目玉に絶対王者の意地を見せたい。羽生は「自分に限界はないと思っている。ずっと自分の限界というものを引き上げて、引き上げてこの構成をこなした上で自分の記録・記憶すらも超えたい」と勝利への意欲を見せた。
ネイサンチェンは「ユヅルが回復して最高の状態で頂点をめざし競い合いたい」と話し、宇野昌磨は「僕の中で一番の選手が羽生結弦。競い合うのが楽しみ」と話した。
台頭する若手、迎え撃つ絶対王者・羽生。熾烈な戦いが予想される。本番はもう目の前だ。
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2/4 「人体・神秘の巨大ネットワーク 第五回」「脳すごいぞ!ひらめきと記憶の正体」
今日のテーマは脳。
脳の神経細胞は、約1000億個あり、それがつながってネットワークを作っている。細胞と細胞の間には、少し隙間があり、電気信号がひとつの神経細胞の端にたどり着くと、「電気を発生させて」というメッセージ物質が大量に放出される。これが次の細胞に受け取られ、再び電気信号が生まれる。メッセージ物質の受け渡しにかかる時間は、1万分の1秒。脳は数十種類のメッセージ物質を用いることで、「一斉に電気を発生させて」など、電気信号の伝わり方にバリエーションを生み出している。...
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今日のテーマは脳。
脳の神経細胞は、約1000億個あり、それがつながってネットワークを作っている。細胞と細胞の間には、少し隙間があり、電気信号がひとつの神経細胞の端にたどり着くと、「電気を発生させて」というメッセージ物質が大量に放出される。これが次の細胞に受け取られ、再び電気信号が生まれる。メッセージ物質の受け渡しにかかる時間は、1万分の1秒。脳は数十種類のメッセージ物質を用いることで、「一斉に電気を発生させて」など、電気信号の伝わり方にバリエーションを生み出している。このメッセージ物質が「ひらめき」を生み出すカギになっているという。
脳の神経細胞は1000億個、メッセージ物質は数10~100個あり、ほぼ無限の組み合わせができる。さまざまな発見や科学技術の進歩は、メッセージ物質を使う脳の柔軟性のおかげともいえる。
米国・ドレクセル大学・ジョンクーニオス教授は何もしていないボーっとした状態が、ひらめきを生み出すと主張している。教授は「例えばあなたが何かに行きづまったと仮定しよう。だが、ある瞬間にその解決策が突然ひらめくことがある。それが起きるのは決まって全く関係ないことをしているときだ。朝目覚めてボーっとしているときなどにそれは起こりやすい。これはなんなのか。この状態をデフォルトモードネットワークと我々は呼ぶことにした」と話す。大雑把に言えば、何もしていない状態のとき、脳の電気信号が伸びる先は大脳皮質まで広がる。大脳皮質には、記憶の断片が保管されているのでそこから記憶の断片を引っ張り出し自由自在につなぎ合わせ、新しい発想を生み出すことができるということらしい。ひらめくためには、記憶の断片を蓄えておくことが必要なようだ。
デフォルトモードネットワークは、脳が使う全エネルギーの7割を消費しているとも言われる。古代ギリシャ時代、散歩をしながら思索を深めた哲学者グループがあったというがお笑いタレントで芥川賞作家の又吉は「先輩のネタを思いつくときを調査したが、散歩と風呂に入っている時が圧倒的に多かった」と語った。
次に脳の記憶力がどのように生み出されているのかについてみていこう。例えば人の顔を見ると、その情報は電気信号となり、脳の中にある海馬の中に存在する歯状回に伝わる。歯状回の細胞が電気を発生させ、歯状回の次の細胞へとリレーされていき、こうして電気信号のルートができる。このルートこそが記憶の正体だ。1つのルートに1つの記憶が対応すると考えられている。こうして作られた記憶は、数年のうちに大脳皮質に移され、生涯にわたり蓄えられていくとされている。米国・サンディエゴ・ソーク研究所のフレッドゲージ教授は、歯状回で新しい細胞が次々と生まれていることを突き止めた。ケージ教授は「生まれたばかりの細胞はとても敏感で、すぐに電気信号を発生させるため、わずかな刺激にも反応する。新しいルートを次々と作り出せる。生まれたばかりの細胞であればあるほど、私たちは記憶力を高めていける」と話す。
食事をすると、すい臓からメッセージ物質であるインスリンが出てきて「記憶力をアップせよ」というメッセージを脳に伝える。また筋肉から出るメッセージ物質であるカテプシンBも同様に「記憶力をアップせよ」というメッセージを脳に伝える。バランスのとれた食生活ですい臓を健康に保つこと、体を動かして筋肉を鍛えることが、記憶力アップの秘訣となる。
次に脳の認知症についてみていく。脳のネットワークがむしばまれ、記憶などを失っていくのが認知症で、中でも最も大きな割合を占めるのが、アルツハイマー病だ。この病気はアミロイドベータというたんぱく質が、神経細胞を壊すこために起きると考えられている。これまでアミロイドベータを分解する薬は作られてきたものの、その成分は脳の神経細胞まで届けられなかった。それというのも脳の血管の壁には隙間がないため、薬が脳に入りこめないのだ。血液中を行きかうメッセージ物資が際限なく流れ込むと、脳は混乱してしまう。そのためメッセージ物質の中で、脳の血管の壁を突破できるのは、インスリンなどごく一部に限られる。
脳は関門のような仕組みを持ち、薬が入ってこようとするとブロックしてしまう。この機能は脳を守るためには役立つが、薬は届かないというデメリットにもなる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校・ウィリアムパードリッジは、関門を通ることができるインスリンの動きに注目し他の薬と合体させ血管の突起にくっつく性質を持つ物質を作った。インスリンが血管の表面の突起にくっつくと、秘密の扉が開くように壁が陥没し、そしてカプセル状の膜に包まれ、脳の血管の壁を突破することができるのだ。薬を投与した8人の患者のうち7人に改善がみられ、パードリッジは「この戦略は多くの製薬会社から注目されている。間もなくたくさんの資金が集まり、臨床試験も盛んに行われるだろう。この方法でついにアルツハイマー病の治療へと乗り出すときがきた」と話した。
1000億の神経細胞が複雑に絡み合い、私たちの営みを支え続ける脳のネットワーク。スウェーデンのウプサラ大学では、脳の細胞を分析し、それがいつ生まれたのか割り出す検査をしている。健康な人の脳では、90歳近くまで歯状回で細胞が生まれているという。カロリンスカ研究所教授・ヨーナスフリゼンは「マウスでは年をとると、新しく生まれる細胞は急激に減っていくが、人間ではそれが起きていなかった。年をとっても高い認知機能を維持できるよう、人間の脳は進化しているのではないか」と話した。
このNHKスペシャルを見て、いまさらながら人間の身体はよくできていると思い知らされた。
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1/14「人体・神秘の巨大ネットワーク 第四回」「万病撃退!腸が免疫の鍵だった」
ダイエットや美肌、肥満解消などによいと「腸内フローラ(腸内細菌)」が大注目されているが、腸は人体の中の独立国家ともいうべき臓器。腸がインフルエンザや食中毒などあらゆる病気から我々を守る免疫力を司る働きをしていることも明らかになってきた。腸内細菌と免疫細胞をうまく使い全身の免疫力をコントロールしているのだ。今回は最先端の研究で見えてきた腸の驚くべき実像に迫る。
腸は食事から大量に栄養と水分を吸収し続けている。...
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ダイエットや美肌、肥満解消などによいと「腸内フローラ(腸内細菌)」が大注目されているが、腸は人体の中の独立国家ともいうべき臓器。腸がインフルエンザや食中毒などあらゆる病気から我々を守る免疫力を司る働きをしていることも明らかになってきた。腸内細菌と免疫細胞をうまく使い全身の免疫力をコントロールしているのだ。今回は最先端の研究で見えてきた腸の驚くべき実像に迫る。
腸は食事から大量に栄養と水分を吸収し続けている。そのとき、病原菌やウイルスも一緒に入ってきてしまうが、それら外敵を抑える仕組みも備わっている。腸は免疫力を司る臓器という風にも考えられ始めている。
腸の表面はピンク色で、透明な粘液に覆われている。またびっしりと、1mmほどの突起(絨毛)が並んでいる。絨毛の内部には、毛細血管が走っている。食べ物の栄養は絨毛から吸収され、血液にのって全身に運ばれる。腸には
腸内細菌と
免疫細胞が住んでいる。腸内細菌は粘液の中に約100兆個存在する。免疫細胞は絨毛の壁のすぐ内側にある。全身には約2兆個の免疫細胞があるが、その7割が腸にある。腸に病原菌が入ってくると、腸の壁の内側にいる免疫細胞が異変を察知、攻撃メッセージを伝える物質を放出する。それを受け取った腸の壁が殺菌物質を出し、病原菌を撃退する。
腸には免疫細胞の訓練場の役割をもつ部分がある。そこに腸内細菌が入ってくると、運び役の細胞が捕まえて免疫細胞のもとに運ぶ。体に害のない細菌だと、免疫細胞に学ばせている。害のある細菌が入ってくると、これも運び役の細胞が捕まえ、免疫細胞に「敵」として学習させ、敵と味方を教えている。訓練を終えた免疫細胞は、血液の流れに乗って全身に派遣される。
免疫には外敵を倒す役割があるが、免疫が暴走するとアレルギーになったり、自分自身の細胞を攻撃して病気になる。なぜ免疫の暴走が起こるのかは、まだわかっていない。有力な仮説として、腸内細菌の異常があげられている。また特定の種類の菌が少ないと、多発性硬化症や重症のアレルギーを起こす可能性があると言われている。
大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授は、外敵を攻撃するのとは違う役割を持つ免疫細胞を発見、「
Tレグ(制御性T細胞)」と名付けられた。Tレグは暴走している免疫細胞を見つけると、興奮をしずめる物質を放出し、暴走を抑える役割を果たしていた。Tレグは腸で生み出されている。
クロストリジウム菌は腸内で「落ち着け」というメッセージ物質を出すが、これを腸内の免疫細胞が受け取ると、形が変わってTレグになるのだ。腸で訓練された免疫細胞と同様、Tレグは血液にのって全身に運ばれる。たどり着いた先で暴走した免疫細胞を見つけると、異常な興奮を鎮めて暴走を抑える。全身の免疫本部である腸の役割は免疫力を高めるだけにあらず。ブレーキ役も生み出して全身の免疫力を程よくコントロールする役割まで担っていた。Tレグを増やすクロストリジウム菌が少ないと、免疫疾患を発症してしまうとされている。クロストリジウム菌は、食物繊維をとることでTレグをたくさん生み出すという。
ちなみに人体の細胞は約数十兆個あるが、腸内細菌は約100兆個もある。腸内細菌の種類は、
ビフィズス菌(腸内の調子を整える)や
バクテロイデス菌(脂肪の吸収を抑え、肥満を防ぐ)など約1000種ある。クロストリジウム菌は約100種類あり、病気の原因になる菌や、免疫を制御する役割を持つ菌もある。
ところで日本人の腸には食物繊維を好む腸内細菌が多いといわれるがなぜか。それには日本人の食習慣が大きく関わっている。日本人は昔から、キノコや木の実、穀物、根菜、海藻など、食物繊維たっぷりの食材を多く食べてきた。そのため長い年月の間に、腸内細菌が免疫力をコントロールする物質を出す能力が、欧米など11か国の人と比べると、群を抜くようになった。いままでアレルギーは、皮膚や呼吸器で起こる問題と思われていた。最近の研究ではそこに、腸も関わっているとわかってきた。今、日本で、アレルギーなどの免疫の暴走による病が増え続けている原因は、私たちの急速な食生活の変化にあるのかもしれない。突然食生活が変わり、腸内細菌が変化についていけないことが考えられる。食生活を意識してもう一度見直すことが今の日本人に求められている。
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1/8「人体・神秘の巨大ネットワーク 第三回」「最新科学が明らかにする・骨の意外なパワー」
単なるカルシウムの塊だとみられていた骨。実は全身の臓器に特別なメッセージ物質を届け、記憶力や免疫力を高めて若さを生み出しているといることが最新の研究でわかってきた。骨からのメッセージ物質が脳に届くと記憶力がアップし、身体の免疫力を高め、私たちを病気から守ってくれる。骨からのメッセージが途絶えた時には記憶力や免疫力は逆に低下し老化現象は加速する。今回は人体の若さを司る門番である骨を特集する。
若さを生み出す骨のメッセージ、その1は「記憶力」。...
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単なるカルシウムの塊だとみられていた骨。実は全身の臓器に特別なメッセージ物質を届け、記憶力や免疫力を高めて若さを生み出しているといることが最新の研究でわかってきた。骨からのメッセージ物質が脳に届くと記憶力がアップし、身体の免疫力を高め、私たちを病気から守ってくれる。骨からのメッセージが途絶えた時には記憶力や免疫力は逆に低下し老化現象は加速する。今回は人体の若さを司る門番である骨を特集する。
若さを生み出す骨のメッセージ、その1は「記憶力」。コロンビア大学教授・ジェラールカーセンティは、骨が脳に発するメッセージ物質「
オステオカルシン」を発見した。オステオカルシンが出ないと、新たな記憶を蓄える脳の部位である海馬の働きが低下してしまう。カーセンティ教授は「骨が記憶力までコントロールしているというのは非常に驚きで、メッセージ物質を介して、臓器は互いに会話をしている。その内容を知ることで、骨の力をさらに解明できる」と話した。
若さを生み出す骨のメッセージ、その2は「免疫力」。免疫力の低下は、肺炎やがんの原因になる。ドイツ・ウルム大学教授・ハームットガイガーは、年老いたマウスは骨の出すメッセージ物質「
オステオポンチン」が少なくなることを発見した。オステオポンチンが出すのは「免疫力をアップせよ」というメッセージだ。
オステオポンチンは状況により働きが変わる可能性があり、今、研究が進められている。一方オステオカルシンには、記憶力をアップするだけでなく、筋肉のエネルギー効率を高める働きもある。また、男性ホルモン「
テストステロン」を増やす働きも持ち、オステオカルシンがないと精子の数が減るという研究もある。骨を強くするために、カルシウムをとることは大切だが、それだけではだめだという。
骨は毎日、作り替えを繰り返している。3~5年で全ての骨が入れ替わる。骨を作り替えるのは、疲労骨折を防ぐためと、カルシウムを体に放出するために必要な作業。ハーマンハメルズマは骨を作るのをやめようというメッセージを発する物質「
スクレロスチン」を発見した。この物質は骨の作り替えのブレーキ役を担っている。骨を作るアクセル役の物質とのバランスで、骨の量が決まってくる。アクセル役のメッセージ物質は骨を作る「
骨芽細胞」に働きかけ、「
破骨細胞」が壊した骨を修復していく。ここにブレーキ役の「スクレロスチン」が届くと、骨芽細胞は新たな骨を作るのを止めてしまう。
骨の作り替えが、どのように行われているのかを見ていこう。骨を壊す「破骨細胞」はアメーバのような形をしており、カルシウムを一旦取り込み、粉々にして噴き出す。「骨芽細胞」は骨の壊された部分に入って液体を出し、セメントで固めるようにして骨を作っていく。骨にメッセージ物質「スクレロスチン」が届くと、「骨を作るのをやめよう」と細胞に伝えられ、骨芽細胞の数が減り、骨が作られなくなる。
骨の内部にある「骨細胞」は、アクセル役とブレーキ役両方のメッセージ物質を出す、いわば建設現場の監督に相当する。全身に数百億個あり、大きさは0.02mm。骨を作る「骨芽細胞」は、筋力・免疫力・精力・記憶力をアップさせるメッセージ物質を出す役割も担っている。
骨に衝撃がかかると、骨細胞がそれを感知し「骨を作るのをやめよう」というブレーキ役のメッセージの量を減らし、「骨を作って」というアクセル役のメッセージを発することで「骨芽細胞」を増やす。骨は私たちが活動的に動いている限り、骨芽細胞からメッセージ物質を出し、全身を若く保ってくれる。コロンビア大学教授・ジェラールカーセンティは骨が衝撃を感知する役割と、臓器の若さを保つという2つの役割を担った理由について「進化の過程で活動的な個体を生き残らせるため」と説明した上で「狩りをする筋力と記憶力、子孫を残す精力、このすべてが人間にとって必要ものだ。骨は私たちの活動状態を見張り、若さを保つ判断をする。いわば人体の若さの門番にあたる」と話した。
自転車をこぐのは非常に良い運動で、心肺機能アップやメタボ予防、筋力アップにつながるが、骨を刺激するという意味では、あまり効果がない。結論から言えば、骨のためには歩くことが非常に良い。ただし高齢者は膝が悪かったりするので、無理をして走ったり歩いたりすべきでははない。そういう方は水中ウォーキングやストレッチ、ヨガがお勧めだ。
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