12月4日放送、ワイルドファイア 人類vs森林火災
今年の夏、世界中が山火事に襲われていた。北米の米国、ポルトガルやスペインなどヨーロッパの国々、炎は森林を焼き尽くし、人々が暮らす都市部にも迫った。南半球冬のアルゼンチン、海に囲まれ雨がよく降るハワイでも山火事が発生した。
地球上の至る所で発生している山火事は、その規模も拡大させている。今年2月、国連環境計画は山火事に関する緊急報告書を発表。このまま温暖化が進むと2030年には今より最大で14%、2100年には57%山火事が増える可能性があるとしている。...
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今年の夏、世界中が山火事に襲われていた。北米の米国、ポルトガルやスペインなどヨーロッパの国々、炎は森林を焼き尽くし、人々が暮らす都市部にも迫った。南半球冬のアルゼンチン、海に囲まれ雨がよく降るハワイでも山火事が発生した。
地球上の至る所で発生している山火事は、その規模も拡大させている。今年2月、国連環境計画は山火事に関する緊急報告書を発表。このまま温暖化が進むと2030年には今より最大で14%、2100年には57%山火事が増える可能性があるとしている。
世界有数の山火事多発地帯の米国・カリフォルニアはここ数年、異常な熱波に襲われている。2年前の9月にはロス近郊で49.4℃を記録した。熱波で水分が蒸発し、深刻な干ばつ状態が続いている。カラカラに乾いた植物が山火事の格好の燃料となるのだ。
CAL FIRE(カリフォルニア州森林保護防火局)は地上部隊、航空部隊合わせて1万人以上が所属する山火事のスペシャリスト集団で、年々巨大化する山火事に備えている。山火事における消火活動は建物火災への対応とは大きく異なる。
CAL FIREは最新テクノロジーを使い、山火事と闘っている。州内1300か所以上に設置されたカメラで山火事の発火を常に監視し、AI技術を駆使し火災の発生も予測することもできる。
その一方で、年々巨大化する山火事、それに伴う家屋やインフラ、人的被害など、巨大山火事との終わりの見えない闘いが消防士を追い詰め、自殺に追い込んでしまうこともある。ある研究によればカリフォルニアの山火事が米国にもたらす経済的損失は1年で21兆円に上ると推計されている。国連の報告書は山火事の監視や消防能力の強化だけでは限界があると指摘し、山火事の予防に予算を割くべきだと提言している。
山火事の原因の1つがドライライトニングと呼ばれる現象である。極度に乾燥した空気が途中で雨を蒸発させてしまい、雷だけを地面に届かせ、乾燥した木や草を直撃することで山火事を引き起こすのである。
落雷により多発した火災は各地で合流して大きくなり、消防隊の手におえない山火事に広がっていく。この時、山火事が作り出す雲である「火災積乱雲」が発生する。これは火を吐き出すドラゴンとも呼ばれている。
そのメカニズムは、まず山火事が起きると火災の熱で強い上昇気流が発生し、火災の周囲に空気が流れ込むことで、さらなる火災を発生させる。その雲は渦を巻きながら成長していき、その過程で飛び火することで新たな火災を生み出すという流れだ。
今、CAL FIREなどの消防機関や科学者、専門家たちが注目していることがある。それは火を災いのもととは考えず、火の恩恵を生かしつつ自分達の土地を守ってきた先住民ユロック族の野焼きである。
彼らは火災を予防する古来からの知恵を持っている。この知恵を消防士が学ぶことで山火事対策の突破口にしていきたい考えだ。過去には野焼きは禁止され、先住民が野焼きをしただけで、投獄されることもあった。今、野焼きによって、山火事の原因となる燃料となる下草が減ることもわかってきており、世界各地で見直され始めている。
野焼きを行うことによって例え火災が起きてもそれほど激しくなることはなく、制御することが可能だという。山火事が多いオーストラリアやカナダでは国を挙げた野焼きへの取り組みが始まっている。
ユロック族・マーゴロビンズは「われわれは自然を征服するのではなく、理解しようとする必要がある。きれいな水が飲めなければ、よい空気を吸えなければ、お金に何の意味があるのか。健全な生態系を持たなければ人類として存続することはできない」と語った。
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11月27日放送、世界“フードショック” 揺らぐ「食」の秩序
世界の小麦輸出3割を占めるロシアとウクライナの戦闘が長期化している。世界最大の小麦の輸出国ロシアは食料をいわば武器として使い世界の食料供給を脅かしている。食料の6割を輸入に頼る日本は食料安全保障の生命線が大きく揺らぐ事態になっている。
ロシアは小麦を武器にして世界に影響力を及ぼそうとしており、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界の穀物価格は投機マネーの流入を招き、乱高下を繰り返しながら上昇を続け小麦が3月に史上最高値を更新したほか、トウモロコシや大豆も同様の動きを見せている。...
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世界の小麦輸出3割を占めるロシアとウクライナの戦闘が長期化している。世界最大の小麦の輸出国ロシアは食料をいわば武器として使い世界の食料供給を脅かしている。食料の6割を輸入に頼る日本は食料安全保障の生命線が大きく揺らぐ事態になっている。
ロシアは小麦を武器にして世界に影響力を及ぼそうとしており、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界の穀物価格は投機マネーの流入を招き、乱高下を繰り返しながら上昇を続け小麦が3月に史上最高値を更新したほか、トウモロコシや大豆も同様の動きを見せている。
各国の食料安全保障を取り巻く環境は悪化し改善のめどは全く立っていない。UAE(アラブ首長国連邦)で開かれた中東最大規模の国際ビジネス展示会ではロシア企業が10社以上参加し食料や農業資材など、豊富な資源を売り込んで注目を集めた。ロシア企業7000社が加盟する経済団体の中東支部代表によれば今ロシアの食料は引く手あまただという。
日本の食料安全保障の最前線に立つJA全農の子会社・全農グレインはこれまでにない事態に直面していた。プーチン大統領が予備役の部分的動員を表明の結果、小麦やトウモロコシなどの価格高騰に拍車がかかってしまい窮地に立たされている。全農グレインは40年にわたり北米の農家から穀物を直接買い付けることで日本に安定的な穀物供給を図ってきたが、これまでどおりの価格では買えない状況に陥ってしまった。カナダでは去年、記録的な熱波による干ばつで小麦の生産が激減し、在庫が底をついていた。
東西冷戦後の1995年、自由貿易を促進するために国際機関WTO(世界貿易機関)が設立された。この時、加盟国に対し、国境を超えて必要な食料などを自由に売買できる体制が構築され、不足する食料を補い合うことで世界の食料安全保障の重要な柱となってきた。全農グレインはこうした世界の自由貿易体制とともに歩んできた。
その、全農グレインが、今、食料の自由な行き来が制限される事態に直面している。世界の主だった食料生産国が輸出規制を次々と打ち出しているためだ。輸出の停止や制限に踏み切った国は26か国、自国の食料確保を優先する自国ファーストの波が世界に広がっているのである。全農グレイン・川崎浩之副社長は「ナショナリズムが台頭し、自ら調達した穀物は自ら先に消費をし、自らの需要を優先的にあてがっていくという動きが出た場合、日本は食料安全保障という観点で極めて危ない立場に立たされる」と語った。
現在、家畜のエサとして米国から大量に輸入されているトウモロコシにも影響が及んでいる。トウモロコシを利用した飼料価格はウクライナ侵攻後に急騰し、この1年半で1.5倍になったことによって毎月数千万円の赤字に陥っている。生産すればするほど赤字額が膨らむ状況である。
どんなに飼料が高騰しても販売価格に見合うだけの上乗せができないため、30年にわたり取り引きしてきた大手ファストフードチェーンからの大規模受注を断り、生産ラインを縮小せざるをえなかった。今、全国の生産者団体は各地で集会を開き、窮状を訴えている。
自給率ほぼ100%の日本の主食コメの生産現場も危機的な状況に陥っている。なぜか?化学肥料(窒素リン酸カリウム)については輸入に頼っているためである。主にロシア、ベラルーシ、中国からの輸入に頼っている化学肥料はコメや野菜などの栽培に欠かせないが、彼らの輸出制限によって入手が困難になっている。
東北の農業法人からは「この状況が長期化すれば事業の継続は難しい」との声が出ている。農業系シンクタンクは肥料価格の高騰がこのまま続き、値上がり分を補助する国の対策がない場合、コメ農家の93%が赤字に陥ると試算している。
全農グレイン・川崎浩之副社長は事態を打開するためにブラジルを訪れた。40年にわたって北米で築いてきた穀物調達の軸足を南米にも置こうと考えたのである。しかしブラジルには既に先客がいた。
中国である。中国国営穀物企業「コフコ」は1500万トンの輸出能力のある新たな基地をブラジルに建設しようとしていた。全農グレインが穀物調達先の候補としたブラジル最大の穀倉地中西部のマトグロッソ州には既に中国の国営企業や民間企業が次々と進出していた。
実は、近年ブラジルと中国は急接近している。ルーラ次期大統領も中国との関係を重視する意向である。去年、中国がインフラ開発などでブラジルに投じた資金の総額は57億ドルと投資先の国の中で最も多く、全農グレインが進出しようとする地域でも中国資本による穀物企業の買収が進んでいる。
中国は輸出規制を行っている肥料を含めた農業資材をブラジルの農家に提供し、その資材を使って生産されたブラジル産穀物を買い取っており、ブラジルは穀物輸出大国として存在感を打ち出している。実にブラジルから輸出される大豆の7割が中国向けであり。今後、中国向けトウモロコシの輸出も増加するとみられている。
かつて大豆やトウモロコシの輸入額で世界一だった日本は今、中国の台頭によりイニシアチブを取る力は相対的に弱まっている。全農グレインの社内会議では「もはや日本の購買力のみでは厳しい。中国などとの連携も必要ではないか」との意見も出された。
海外からの調達が不安定化している日本の食料安全保障について、国はその戦略を見直し始めている。これまで国の食料政策の基本方針となってきた「食料農業農村基本法」の改正に向けた議論が始まっている。
「食料農業農村基本法」を策定した農林水産省・高木勇樹元事務次官は「策定当時は自由貿易体制が揺るがないものだと考えていた」とした上で「グローバルなルールが守られていて、お金があり、海外から、ある程度安く買えるのであれば食料の心配をしないでも済んだが、フェーズが変わった」と述べた。
9月、ロシアは中国国境に巨大な輸出基地を新たに建設し、食料を武器に世界に更なる存在感を示そうとしている。年間800万トンの穀物を中国に供給できる輸送ライン。プーチン大統領は「ロシアは友好国と協力し優位に立てると信じている」と語り、中国と更に関係を強化しようという意向である。
欧州復興開発銀行初代総裁・ジャックアタリはこれまでの食の在り方・豊かさの象徴としての「食」から「自らまかなう」生きる土台としての「食」という方向に意識を転換すべき時に来ていると指摘した。ジャックアタリは「まずは農業という仕事が魅力的であるという事実を作り出すべき」と日本に助言した。
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11月19日放送、「物価高どこまで上がる?・円安は?専門家25人の予測~」
物価高が実に40年ぶりという歴史的な水準で進んでいる。この先、物価高・円安・賃金はどうなるのかを金融機関で景気や市場動向の分析調査に当たるエコノミスト、シンクタンクやコンサルに所属する専門家、大学の研究者や日銀の元幹部など総勢25人に答えてもらった。
来年の物価について聞いたところ「物価上昇率のペースが今よりも上がる」と答えた専門家が2人。「今と同じか、やや低下する」と答えた専門家が23人となった。...
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物価高が実に40年ぶりという歴史的な水準で進んでいる。この先、物価高・円安・賃金はどうなるのかを金融機関で景気や市場動向の分析調査に当たるエコノミスト、シンクタンクやコンサルに所属する専門家、大学の研究者や日銀の元幹部など総勢25人に答えてもらった。
来年の物価について聞いたところ「物価上昇率のペースが今よりも上がる」と答えた専門家が2人。「今と同じか、やや低下する」と答えた専門家が23人となった。強弱はあるものの、全員が「来年も物価は上がる」と答えた。ペースを左右するポイントとして専門家たちが挙げたのが。エネルギーや食料の価格の動向であった。さらに「今年急速に進んだ円安が、今や物価上昇の主な要因になっている」と指摘する専門家もいた。
BNPパリバ証券・河野龍太郎は「輸入物価上昇は当初は資源高の影響だと言われていたが、今の要因は円安」と分析した。
来年の円安の予測を専門家・25人にしてもらったところ、1ドル120円まで動くという予測から逆に150円に向かうという多岐にわたった予測となった。その幅、実に30円に及び、最も多かった予測は1ドル130円台となった。
円安をもたらしている要因が円とドルの金利差である。米国の中央銀行にあたるFRBは記録的なインフレを抑えるために大幅な利上げを続けていて、円とドルの金利差がますます広がり、より利回りが見込めるドルの需要が高まることで、さらなる円安ドル高の構図が生まれている。
多くの専門家は今後も米国の金融政策が円相場に強い影響を与えるとみている。大和証券・岩下真理は「米国はまだ利上げを続ける。いつ利上げをやめるのかが2023年のテーマとなる。その一方で日本に関しては日銀が頑なに緩和の継続を訴えているので、そう簡単にはこの状況は動かないだろう。為替は米国要因で動いていく」としている。
学習院大学教授・清水順子は「正直なところ、為替を正しく予想することはファイナンス理論でも不可能。これだけ急激に円安が短期間で進んでしまったのは日米の金融政策の違い、金利差に加え、原油高、ウクライナ危機、それに伴う日本の貿易赤字拡大というような円安を示すような要素が大集合して、円安スイッチが入ってしまった。それに投機家が乗っかって、去年の今頃は誰も予測できなかった1ドル150円になってしまった」と分析した。
今後、鍵を握るのが物価の上昇に賃金の上昇が追い付いていくのかということ。専門家はどのように見ているのだろうか。大和証券・岩下真理は「まずはアルバイト、非正規の賃金の方から上がっている」「パターンとしてはアルバイトと非正規が上がって、実際に収益環境とともに正規の賃金が来年の春闘等でどれだけ上がっていくのかということが当面注目される」と分析した。
三菱UFJリサーチコンサルティング・小林真一郎は「企業はコロナショックによって落ち込んだ需要が元の水準に戻ってくると考え、回復する需要に対応するために雇用者を増やしていこうとしている。現在でも十分な雇用を抱えることができていない業種、企業にとってはさらに人を増やしていく必要に迫られ、そうなると賃金の方も自然に上昇していく」と予測した。
「いつになったら賃上げが実感できるのか」との一般視聴者からの質問に、政治経済コンサルタント・ジョセフクラフトは「やはり企業が儲からないことには賃上げできない。今、企業物価が9.1%、消費者物価が3.7%だが、この差が埋まらない限り、この差がある限りは企業の収益率が低下していく。経営者というのは、今年は儲かったから上げることができても、来年は儲かるかどうか不安で、そういう企業心理が賃上げを難しくしている」と答えた。
金融アナリスト・大槻奈那は「できることとしては、例えば時間を使い、もう一段のスキルアップを目指すとか、次のステップを目指していくべき。あるいは、この仕事が自分の持つ技術とかサービスに見合っていないと思ったら、積極的に働きかけて(賃金を)上げてほしいと言っていくべき」とアドバイスした。
学習院大学教授・清水順子は「サービス業の価格は物価上昇の中で低い方になっている。その辺りをどうやって上げていくのかは周りのお客や競争相手との感触を見ながらやっていかなくてはならない」とした。
岐路に立たされる日本。今の時代、何をすべきなのか。第一生命経済研究所・熊野英生は「明らかに日本ではイノベーションの力が弱まっている。アナログからデジタルに変わっていく中で周回遅れになっている。自分自身の競争力、サービスの品質の高さによって日本企業が海外で稼いでいく、そういう根本的な稼ぐ力自体が日本の未来を切り開いていくキーワードとなる」と語った。
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11月13日放送、「愛しき昆虫たち~最強の適応力~」
昆虫の超進化のカギは適応(アダプト)。昆虫は徹底してどんな場所にも適応することで多種多様な進化を遂げてきたが、そのために手に入れた最大のスキルが空を飛ぶことである。昆虫の9割以上は空を飛び、あらゆる空間に適応した。
実は、3億5000万年前から昆虫は空を飛んでいる。昆虫の祖先が現れたのは今から4億年ほど前のこと。最古の昆虫の祖先は現在のトビムシに近い仲間で、地球を覆っていたシダの花粉を食べていた。...
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昆虫の超進化のカギは適応(アダプト)。昆虫は徹底してどんな場所にも適応することで多種多様な進化を遂げてきたが、そのために手に入れた最大のスキルが空を飛ぶことである。昆虫の9割以上は空を飛び、あらゆる空間に適応した。
実は、3億5000万年前から昆虫は空を飛んでいる。昆虫の祖先が現れたのは今から4億年ほど前のこと。最古の昆虫の祖先は現在のトビムシに近い仲間で、地球を覆っていたシダの花粉を食べていた。羽がないので歩いて行く必要があった。その途中で何度も落下を繰り返した。ここから地球のあらゆる環境に姿形を変えて適応するという昆虫独自の進化が始まった。
全ての生物の中で昆虫だけが編み出すことができた適応能力、完全変態。完全変態が昆虫の適応を爆発的に加速させた。チョウの完全変態の場合。完全変態の進化が起きたのは羽を手に入れてからおよそ5000万年後で、それ以来、これまで適応できなかった場所に爆発的に広がっていった。
材料科学/マンチェスター大学・フィリップウィザース、動物生物学/グライフスヴァルト大学・フィリップレーマンらは、高解像度のマイクロCTを使って、蛹の幼虫から成虫になるまでの10日間、時間を追ってスキャンし、内部の姿を特殊撮影することに成功した。
1万枚を超えるスキャン画像を基に蛹を3D化してみると、あたかも緻密な設計図によってできあがったかのように短時間で大人の体を作り上げる蛹の実態が明らかになった。
現在100万種余りいる昆虫のうち完全変態をする種は89万種。昆虫独自の適応戦略によってほかの生き物にはない圧倒的な多様性を実現した。
小さく進化した昆虫たちもいる。9000万年前、地下の世界に進出し、爆発的に種を増やしたのがアリである。ハキリアリという大きさ1cmの小さなアリは、葉を材料にキノコを育てて、食料にする。1つの巣に暮らすのは100万匹。アリは複雑な社会を作ることで大集団での暮らしを可能にした。
アリの社会は皆、女王アリから生まれた一つの家族。絆は非常に強く、互いに食べ物を分け合い、いたわり合う。家族ごとに異なるにおいを持ち、触角でにおいを嗅いで瞬時に家族かどうかを判断。シロオビアリヅカコオロギは日本に住むアリの巣だけで暮らすコオロギの仲間。最新の研究によってアリもまた居候から恩恵を受けているケースもあることが分かってきている。
一生を地下で暮らすミツバアリの巣に適応したのがアリノタカラという昆虫。目はなく自分ではほとんど移動することもできない。アリノタカラが排出した余った糖分がミツバアリの唯一の食べ物となる。これが互いに相手に適応して進化した絶対相利共生と呼ばれる関係である。
小さく進化した昆虫たち。9000万年前、地下の世界に進出し、爆発的に種を増やしたのがアリである。ハキリアリという大きさ1cmの小さなアリは、葉を材料にキノコを育て食料にする。1つの巣に暮らすのは100万匹。アリは複雑な社会を作ることで大集団での暮らしを可能にした。
アリの社会は皆、女王アリから生まれた一つの家族。絆は非常に強く、互いに食べ物を分け合い、いたわり合う。家族ごとに異なるにおいを持ち、触角でにおいを嗅いで瞬時に家族かどうかを判断。シロオビアリヅカコオロギは日本にすむアリの巣だけで暮らすコオロギの仲間。最新の研究によってアリもまた居候から恩恵を受けているケースもあることが分かってきている。
一生を地下で暮らすミツバアリの巣に適応したのがアリノタカラという昆虫。目はなく自分ではほとんど移動することもできない。アリノタカラが排出した余った糖分がミツバアリの唯一の食べ物。これが互いに相手に適応して進化した絶対相利共生と呼ばれる関係である。進化生態学・エクセター大学・カールウットンは数百万匹ものハナアブがピレネー山脈を越えて最長2000kmも移動をしていることを突き止めた。季節に適応した大移動がヨーロッパ全体の植物に大きな恩恵を与えていることが分かってきた。
ハナアブが移動中に運ぶ花粉は推計30億から190億個。遠く離れた北と南の植物の交配を手助けしている可能性がある。日本では害虫として嫌われがちなシロアリが地球の気候変動から環境を守る重要な役割を持つことも分かってきた。
熱帯生態学・リバプール大学・ケイトパールは50m四方の区画を作ってシロアリを取り除きシロアリがいるエリアと比べる調査を3年間行った。シロアリのいないエリアはいるエリアに比べて土壌の水分量が3割以上減少し、幼木の生存率が5割も低い。シロアリがいるエリアには無数の微細なトンネルが張り巡らされている。この微細な隙間に雨季には水が浸透し水分が蓄えられる。それが干ばつの時に放出され植物の水源になったと考えられる。
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11月6日放送、「植物からのメッセージ~地球を彩る驚異の世界~」
植物生理学/埼玉大学・豊田正嗣は植物が動物のように感じているという驚きの研究成果を発表した。高感度実体蛍光顕微鏡を使い、「一匹の虫に葉っぱをかじられた時、植物に何が起きるのか」を世界で初めて映像で捉えることに成功した。
植物は虫に食べられると傷ついた細胞からグルタミン酸という物質を放出する。この物質を葉の細胞が受け取ることで信号を伝えるカルシウムイオンが発生。その信号が細胞から細胞へ伝わっていき、信号を受け取った葉に毒物質が作られ虫が来ないように遠ざける。...
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植物生理学/埼玉大学・豊田正嗣は植物が動物のように感じているという驚きの研究成果を発表した。高感度実体蛍光顕微鏡を使い、「一匹の虫に葉っぱをかじられた時、植物に何が起きるのか」を世界で初めて映像で捉えることに成功した。
植物は虫に食べられると傷ついた細胞からグルタミン酸という物質を放出する。この物質を葉の細胞が受け取ることで信号を伝えるカルシウムイオンが発生。その信号が細胞から細胞へ伝わっていき、信号を受け取った葉に毒物質が作られ虫が来ないように遠ざける。
実は人間の体の中でもグルタミン酸は神経をつなぐ情報伝達の働きをしている。つまり植物には人間の体内における情報伝達と似た仕組みが存在していることになる。植物は葉をかじる音、虫の唾液に含まれる化学成分などで敵の姿を捉え、相手に応じて攻撃に使う毒の種類や量を変えていることが分かってきた。
植物は葉に落ちる雨粒一粒、一粒の圧力を鋭敏に感じている。雨粒にはカビや細菌などの病原体が含まれる場合があるため、雨に気付いた葉は感染から身を守るため、いち早く抗菌物質を作り出す準備を始める。音、温度、重力、化学物質など周りの変化を感じ取るための植物のセンサーは20を超えるともいわれている。
化学生態学/東フィンランド大学・ジェームスブランドは、植物のある不思議な現象に着目した。森の中で一部の木だけが虫によく食べられ、なぜか周りの木は食べられない現象である。この現象を調べるため、アオムシのいる植物と、いない植物を並べて特殊な顕微鏡で観察してみたところ、葉をかじられると植物はそれを察知して毒を作り出す防御反応を始めたことがわかった。
虫に触れられてもいない植物がなぜ防御反応を起こしたのか。食べられた木からは10種類以上もの物質が発せられていた。この特有の物質の組み合わせこそが植物が発するメッセージである。
「食べられた」というメッセージを発する物質を、食べられていない葉が受け取ると防御反応を起こす遺伝子が働きだすのである。最新の研究で植物の発するメッセージには他にもさまざまな種類があることが分かってきた。
テントウムシはなぜ広大なフィールドの中で僅か数ミリの小さなヤナギルリハムシの幼虫を見つけることができるのか。これを調べるために、化学生態学/京都大学・高林純示たちはヤナギルリハムシの幼虫に食べられているというメッセージ物質を植物が発し、風に乗って飛んできたこのメッセージをカメノコテントウが受け取っていたことを突き止めた。
カメノコテントウは空気中に漂うメッセージを伝える物質を触角で受け取り、この信号は即座に脳へと送られ、触角葉という部位にキャッチされるのである。植物は植物以外の生き物にもメッセージを送っているのである。
微量成分を解析する技術の進歩によって、こうしたコミュニケーションの中身が次第に明らかになり始めている。大自然の中で虫や鳥は独力で食べ物を見つけているのではない。人間の知らない膨大なコミュニケーションが地球には存在している。
今から5億年前の地球は、陸地は砂と石がどこまでも広がる不毛の大地だった。海から上陸を果たしたのが植物の祖先である。陸というフロンティアに乗り出した植物は陸上を覆い尽くした。恐竜がいた白亜紀に、花粉が地球を一変させる大革命を引き起こし、陸上生物の種の数を劇的に増加させた。
僅か3ミリ程度の花の誕生こそが地球を一変させた大革命の始まりであった。「花粉があるよ」という花が発し始めたメッセージで自ら昆虫を呼び寄せることができるようになった。花粉を与える代わりに花粉を運んでもらう。植物は昆虫との画期的な関係性を花からのメッセージによって実現することができた。
これをきっかけに生き物たちの進化が一気に加速した。ある植物が特殊な形に進化すると虫もそれに合わせるかのようにして形を変えた。ある植物は虫がほかに行ってしまわないよう華やかな色を競い、昆虫は確実に花にたどりつくための飛翔能力を進化させた。
互いが互いを進化させる「共進化」と呼ばれる進化の応酬が起こった。その後、花や草木に集まる虫を食べる哺乳類が多様化し、花からできる栄養豊富な果実は霊長類の祖先の進化も加速させた。
こうした中、復元生態学/アルバータ大学・ジャスティンカーストたちは、植物が数億年をかけて築き上げたもう一つの驚くべき世界を明らかにした。それは森の地下に広がる木と木をつなぐ菌糸の巨大なネットワークの存在である。菌とはキノコを作り出す地下の微生物を指している。
菌糸の地下ネットワークの発見によって今、長年の科学の謎が解明されようとしている。
植物生理生態学/ワイツマン科学研究所・タミルクラインはそのネットワークに驚くべき働きがあることを発見した。大きな木々の下で日陰の小さな木が生きながらえていた理由は地下の菌糸ネットワークから必要な養分を得ていたことがわかったのである。
暗い森の陰でか弱き命は少しずつ成長を果たすことができる。常緑樹と落葉樹の間でも双方向に養分をやり取りしている実態が確かめられつつある。
夏に光合成を活発に行う落葉樹は近くの常緑樹へ養分を分け与え、秋になると今度は常緑樹が葉を失った落葉樹へ養分を送る。植物たちはお互いの厳しい季節を支え合うかのように分かち合って生きている。森の地下に広がる支え合いの世界こそが地球を覆い尽くす陸の王者植物が大事に守り抜いてきた生き方だったといえる。
今、研究者たちは世界各地の森に巨大な観測タワーを設置し、森から放出される植物のメッセージを伝える物質を365日モニタリングしている。その結果、今、環境汚染によって植物のコミュニケーションに異変が起きていることがわかってきた。排ガスなどから出来るオゾンが、植物が放出したメッセージを分解してしまうことも明らかになってきた。
肝心なメッセージが届かなくなると周りの植物への警報が効かなくなったり、花粉を集めるハチを呼べなくなったりする可能性がある。
森の地下ネットワークの働きを明らかにした復元生態学/アルバータ大学・ジャスティンカーストは「森林破壊が地下のネットワークに甚大な影響を及ぼし、森の再生を難しくしている。これまで生態系に恩恵をもたらしていたはずの地下のネットワークが働かなくなり、若い木が育たなくなってしまっている。われわれは自然に対してもっと謙虚であるべきで、人間と自然は別々のものではなく、本来ひとつのものであるはずだ」と警鐘」を鳴らしている。
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