ドナルド・トランプ米大統領は、5月の中東・欧州歴訪後2度目の外遊として、今月7、8日にドイツ・ハンブルクで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議主席のため欧州を訪問する予定であるが、主要同盟国の英国、ドイツ、フランスより先にポーランドを訪問することを表明しており、これを欧州他国は羨望あるいは憤慨の目で見ているという。ポーランドを訪問を優先する理由は、大西洋条約機構(NATO)の集団防衛強化が米国の優先事項であることを強調する点に加え、ポーランドでポピュリスト政党による熱烈な歓迎が待っていること、また注目すべきことに、東欧12か国間のエネルギー近代化と貿易関係強化を話し合う国際会議に出席し、東欧のエネルギーにおけるロシア依存脱却と米国資源輸出拡大から、米国経済と雇用の拡大につなげようという意図があると見られている。
7月2日付
『AP通信』は「ポーランド・ファースト:トランプは何故英国の前に旧共産国を訪問するのか」との見出しで以下のように報道している。
「トランプ大統領は欧州歴訪で、慣例に沿わず、同盟国英国、フランス、ドイツの前に中央ヨーロッパの旧共産主義国ポーランドを訪問する予定である。ホワイトハウスはこれに関し、NATOの忠実な同盟国であるポーランドの重要性と、エネルギー部門でのパートナーシップの可能性を強調しているが、他にも以下のようないくつかの理由があると思われる。
1つはポピュリストが歓迎される国であること。
同国で2015年に台頭した、欧州連合懐疑派で国家主義、反イスラム主義を掲げる(「法と正義」)保守派与党はトランプ氏と同調性がある。トランプ氏の訪問によりポーランド政府の存在感が増すのではないかと欧州国は懸念している。
2つ目にはポーランド訪問で市民の歓声を期待できる点。大歓声を浴びるトランプ氏の演説はTV報道が確約されているのだという。地元ポーランドのメディアによれば、同国政府はホワイトハウスに対し訪問の条件として熱狂的歓迎の設定を約束したのだという。与党関係者によると、地方の市民がトランプの演説を聞けるようにと、バスツアーまで用意しているというのだ。暖かい歓迎の声は、5月の欧州訪問で失敗し、またG20首脳会談では、パリ協定離脱決定や軍事費増強要求により冷やかな扱いを受けると思われるトランプに確実に有利に働くことだろう。
3つ目は軍事的理由。ポーランドは軍事費で国内総生産の2%を拠出し、トランプからは賞賛されるべき国。今年米国との同盟関係は強化され米軍5千人が派遣されている。NATO加盟国は、トランプ氏がNATO集団自衛権第5条(1か国への武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす)に同意する事を望んでおり、ロシアに近いこの地での同意表明が期待される。
4つ目には、米国大統領選挙で、ポーランド系アメリカ人が激戦区ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルバニア州でトランプ氏躍進を支えたという点。
5つ目は両国のエネルギー提携で、バルト海、アドリア海、黒海にまたがる12か国間のエネルギー近代化と貿易関係強化を話し合う首脳会談にトランプ氏は出席する予定である。その目的はロシアへの依存を減らし、米国の液化天然ガス輸出を増加し、米国経済を潤わせ、また米国の発言力を強める狙いと目論みがある。」
7月1日付米国
『ABC』は「他国首脳らはトランプのポーランド訪問を羨む」との見出しで次の様に報道している。
「ポーランドの与党議員らによると、トランプ米大統領がドイツでの首脳会談に先立ちポーランド訪問を予定している事を欧州他国は羨望の目で見ているとのことである。与党「法と正義」のジャロスワウ・カシンスキー党首は、特に英国は憤慨しており、これにより我々を攻撃してくると述べた。(英国のメイ首相はトランプ氏就任直後の1月、公式訪問に招いたが、日程は決まらずじまいだった。)
カシンスキー「法と正義」党首の発言は、イラク・アフガニスタン戦争でのポーランド同盟と、旧共産国と西欧EU諸国との過去の溝を感じさせるもの。同党は、ポーランドの発言権を巡りドイツ等EU諸国間を批判をしてきた。イタリアは難民流入への支援をEU諸国に求めているが、難民受け入れは「社会の崩壊」と生活水準の低下につながるとし反難民政策を掲げる同党のカシンスキー氏は市中演説でも、イタリアやギリシャからのイスラム教徒難民受け入れ反対を表明。ポーランドはローマ・カトリック教徒が多数を占めるため、保守政権の反イスラム難民政策へは教会幹部からの批判が高まっている。」
閉じる