習近平国家主席(シー・チンピン、70歳、2012年就任)は、軍事増強のみならず技術革新を猛烈に進め欧米先進国に肩を並べ、追い抜くと標榜してきている。その一環で、最初こそ日・独等の技術支援を得たとは言え、今や世界最大の高速鉄道網を築き上げていることを誇り、同国家主席の国内訪問先へは、航空機ではなくもっぱら安全・所要時間短縮可能な高速鉄道を利用している。
12月10日付
『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙(1903年創刊の英字紙)は、習近平国家主席が国内の訪問先への移動にもっぱら高速鉄道を利用していると報じている。
中国国営『新華社通信』は先週、“習近平国家主席が11月28日午後、上海先物取引所(SHFE、中国証券監督管理委員会管理下で2000年設立)を訪問するために北京から高速鉄道を利用した”とした上で、“下車後、SHFEに直行した”と報じた。
更に同紙は、“北京への帰路途上の12月3日、上海から約300キロメートル(186マイル)北西の江蘇省塩城(イェンチョン)にある新四軍メモリアルホール(1927~1947年に存在した国民革命軍新編第四軍の記念館)に立ち寄った”とも付記している。
同紙によれば、同国家主席が高速鉄道を利用するのは、安全面・柔軟性に優れていること、また、現場で何が起こっているかを直接見て回るのに至便であるからだという。
また、情報筋によると、北京~上海間は約1,300キロメートルで、高速鉄道で4時間半弱かかるが、“2時間15分かかる飛行機を使っても、各々の空港への移動時間を考慮すると、結局鉄道移動の方が短くて済む”とする。
更に、“鉄道利用によってより多くの側近が同行できるのみならず、国家主席自身、途中下車することによって様々な現地視察が可能になる”とした上で、“国家主席が利用することによって、世界に誇る中国の高速鉄道網(注後記)をよりアピールしようとする意志の表れだ”という。
今年、同国家主席はのべ13度の国内視察を行っているが、『新華社通信』報道より、今回含めて少なくとも4回は高速鉄道を利用しているとみられる。
(9月)東部の浙江省訪問後、北京への帰路途上、高速鉄道で山東省棗荘(ツァオチョワン、日中戦争激戦地)を訪問。
(7月)四川省南西部訪問後、故郷の陝西省漢中(ハンチョン)に高速鉄道を利用して訪問。
(5月)中国・中央アジア首脳会議の開催地である陝西省西安(シーアン)に向かう途中、山西省雲城(ユンチェン)まで高速鉄道を利用。
また、それ以前にも以下のように高速鉄道を利用している。
(2022年10月)中国共産党による革命運動の発症地として崇めている陝西省延安(イェンアン)を、高速鉄道を使って訪問。
(2020年6月)香港の中国返還25周年を祝うため、高速鉄道を利用して香港訪問。
なお、北京大学(1898年設立の国立大)の政治学研究者は、中国国内の移動には飛行機よりも鉄道の方が安全であり、かつ、移動途上で様々な地方都市を訪問できることから同国家主席が望んだ選択肢と考えられるとコメントした。
同研究者は、“飛行機の移動より、国家主席はより多くの場所を視察できるし、中国の航空安全に対する懸念を考慮すると、高速鉄道利用は航空機より遥かに安全だ”と言及している。
(注)中国の高速鉄道網:2023年1~11月に開通した1,488キロメートルを加えて総延長距離約4万3,700キロメートルと世界最大。2位はスペインの約3,700キロメートル、3位日本約3,300キロメートル。
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