日本は技術大国だという看板を掲げてきた。しかし、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題を契機に、実際はIT化が他国に比べて非常に遅れていることが明らかになった。今更ながらの、脱ハンコとかディジタル庁設立にみられるとおり、これまでPCすら自ら使いこなせない政財界トップに、IT化促進を主導できる訳がなかったとの指摘もある。そうした中、米メディアが、日本に長らく根付いてきている女性の社会進出を阻む慣習も一因であると報道している。
9月8日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「日本の女性がIT分野に進出し活躍する可能性はあるか」
松本杏奈さん(18歳、注1後記)は3年前、高校進学に当たって、もし当時の男性教師が言った“女子に物理科学(理工系)は難しい”との進言に従っていたら、悶々とした高校生活を送っていたかも知れない。
しかし、彼女はその進言に従わず、自らが希望した技術者になる夢を追いかけることにした。
日本はIT技術が発達した経済大国というイメージがあるが、現実的には、社会生活での主な通信手段がファックスであったり、文書認証等に例の「ハンコ」が日常的に使われているという、ディジタル化が非常に遅れている国である。...
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9月8日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「日本の女性がIT分野に進出し活躍する可能性はあるか」
松本杏奈さん(18歳、注1後記)は3年前、高校進学に当たって、もし当時の男性教師が言った“女子に物理科学(理工系)は難しい”との進言に従っていたら、悶々とした高校生活を送っていたかも知れない。
しかし、彼女はその進言に従わず、自らが希望した技術者になる夢を追いかけることにした。
日本はIT技術が発達した経済大国というイメージがあるが、現実的には、社会生活での主な通信手段がファックスであったり、文書認証等に例の「ハンコ」が日常的に使われているという、ディジタル化が非常に遅れている国である。
今回の未曾有のCOVID-19感染流行問題に遭って、IT化の遅延に危機感を覚えた菅義偉首相(72歳)肝煎りで9月8日、漸くディジタル庁が立ち上げられ、各省庁業務のオンライン化促進が図られることになった。
しかし、他国のIT化レベルに追い付くためには、IT技術者はもとより技術修得学生を多く育て上げる必要があり、その上で女性の採用も必須となろう。
何故なら、国連教育科学文化機関(UNESCO、1946年設立)資料によると、大学教育のIT分野では、日本の女子学生が占める割合は先進国中最低値となっていて、また、科学技術研究分野でも最も少数となっているからである。
従って、日本はまず、科学技術は男性専門の分野だとする考え方から転換する必要がある。
特にテレビ番組やコミックブックによく登場する、科学者や技術者になると女性は結婚できないと考える親たちの考えを改めさせることが肝要である。
先に登場した松本さんも、科学技術の世界から女性を排除するのは無駄であるし理屈も通らないとし、“何故なら、人口の半分は女性であるから”である上、“男性だけで世界を変革しようとしても、非効率的であるから”だと述べている。
彼女は今秋から、米スタンフォード大に留学して、ヒューマン・コンピューター・インターラクション(HCI、注2後記)を学ぶ意向である。
なお、経済産業省の調査資料によると、日本では2030年までにIT技術専門家が45万人も不足する見通しとなっているという。
また、国際経営開発研究所(1990年設立、スイス・ローザンヌ在の私立ビジネススクール)が編集している「世界ディジタル競争力ランキング」によると、日本の順位は世界27位で、アジアにおいても、シンガポール・中国・韓国等に後れを取って7位に甘んじている。
一方、今年6月にリリースされた「UNESCO科学レポート2021」によると、世界ではディジタル・オートメーション化が進んで単純作業が機械化されることにより、女性の方が男性より失職する割合が高いという。
背景には、世界中の女性にとって、今後益々必要とされる人工知能、機械工学、データエンジニアリング等の能力を身に着ける機会に恵まれていないことがあるとする。
千葉商科大(1950年設立の私立大学)の橋本隆子副学長(元リコー勤務のソフトウェア・エンジニア)も、“ディジタル化の進捗と共にいくつかの職種が失われることになるが、この影響は女性の方が受けやすい”と指摘している。
同副学長は、主要20ヵ国(G-20)国際会合グループに対して、女性に関する政策提言を行う民間主導グループW-20にも属している。
また、宇宙工学技士の伊藤美樹さん(38歳)は、十代の頃に宇宙の魅力に取りつかれたとき、女性の先駆者は僅かに向井千秋医学博士(69歳、日本女性初の宇宙飛行士)しかいなかったし、彼女が所属した宇宙工学部の90%が男子学生だったという。
彼女は目下、宇宙ゴミ回収の技術実証衛星の開発に取り組むアストロスケール・ホールディングス(2013年設立)の日本法人社長に就任していて、宇宙環境の持続利用に貢献すべく努めているが、日本社会においてはしばしば、“女性は理論的ではなくまた数学にも長けていない”という偏見にさらされているとする。
なお、IT化遅延に危機意識を持った日本政府は昨年、学童の頃からディジタル時代に即応できるよう、全国の小学校にコンピューター・プログラミング科目を設置するよう義務付けている。
ただ、世界中の多くの国では、高等教育になればなる程女性の比率が低い傾向となっていて、日本においてもまだまだ女性が少数という問題が残っている。
先のUNESCOレポートによれば、日本における大学課程理工学部の女子卒業生は14%、自然科学分野では25.8%と、米国のそれぞれ20.4%及び52.5%、またインドの30.8%及び51.4%と比べて依然低い状況となっている。
(注1)松本杏奈:徳島県文理高校出身、東京大学グローバルサイエンス(高校生のための科学技術人材育成プログラム)1期生。2021年米スタンフォード大(1885年設立のカリフォルニア州在私立大学)に合格して今秋留学予定。日本メンサ会員(メンサは、1946年英国で創設された、全人口のうち上位2%のIQの持ち主が会員となれる国際グループ)。
(注2)HCI:人とコンピューターの関連を調べることで、人がコンピューターをより効率的に使えるような設計を研究する分野。グラフィックデザインのほか、コンピューターサイエンス、情報科学、人間工学、認知エンジニアリング、心理学、社会学といった分野との相互関連も見られる。
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