オリンピックの招致や開催に当たっては、これまで何度も国際オリンピック委員会(IOC)理事のスキャンダルが発覚している。東京オリンピックについても、招致に関わる不正資金疑惑問題が依然未解決で燻ったままである。そうした中、2022年北京冬季オリンピック開催に当たっても、IOC理事と中国大手スポーツウェアメーカーとの癒着疑惑が報じられている。
8月7日付
『デイリィ・ビースト』(2008年設立のリベラル系メディア):「IOC競技担当理事とウィグル族強制労働に関わる中国企業との癒着」
人権問題を“大真面目に”懸念していると述べていたIOC幹部が、新疆ウィグル自治区におけるウィグル族強制労働問題に関わる中国大手スポーツウェアメーカーから多額の資金援助を受けていたことが判明した。
その人物はフアン・アントニオ・サマランチ・サリサックス氏(61歳)で、IOC競技担当理事として2022年北京冬季大会統括委員会会長の任にある。...
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8月7日付
『デイリィ・ビースト』(2008年設立のリベラル系メディア):「IOC競技担当理事とウィグル族強制労働に関わる中国企業との癒着」
人権問題を“大真面目に”懸念していると述べていたIOC幹部が、新疆ウィグル自治区におけるウィグル族強制労働問題に関わる中国大手スポーツウェアメーカーから多額の資金援助を受けていたことが判明した。
その人物はフアン・アントニオ・サマランチ・サリサックス氏(61歳)で、IOC競技担当理事として2022年北京冬季大会統括委員会会長の任にある。
同氏は、故フアン・アントニオ・サマランチ元IOC会長(1920~2010年、1980~2001年の間在職)の長男であり、サマランチ財団(2012年設立のスポーツ慈善団体)のトップでもある。
そのサマランチ財団は、中国大手スポーツウェアメーカーの安踏体育用品有限公司(ANTA、1994年設立)から多額の資金援助を受けていて、そのANTAは今年3月、ウィグル族の強制労働問題が明らかになった際に、同自治区産の綿を“継続的に購入”していくと宣言している会社である。
ANTAから同財団への資金提供は、2012年の財団設立当初から始まっていて、同社の丁市中会長(ディン・シーチョン)は同財団の副理事長を務めている。
そして、サリサックス氏が2016年にIOC副会長に昇格して以降、ANTAはIOC理事らが着用するユニフォームの提供契約締結に成功しており、2021年東京大会、2022年北京大会等でのユニフォームを提供している。
このような注目度の高い商談を獲得していることもあって、ANTAは今や世界で第3位の売上高を誇るスポーツウェアメーカーに成長している。
IOCは、ANTAがウィグル族の強制労働によって生産された綿を使い続けると表明しているにも拘らず、“同社の適正評価等を注視していく”としながらも、同社をIOC契約先から締め出す考えはないとしている。
また、西側諸国や国際人権団体等から、中国によるウィグル族等への人権蹂躙を理由として北京大会の開催地変更を求める声が上がっているが、サリサックス氏は2020年10月の世界アスリート代表らとの会議の場で、開催地変更は認めないとした上で、IOCとして人権問題に“正に真剣に”取り組んでいくと約束した。
しかし、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(1978年設立、本部ニューヨーク)中国人研究者の王亚秋氏(ワン・ヤーチウ)は『デイリィ・ビースト』のインタビューに答えて、“サリサックス氏が、強制労働に関わるANTAと個人的関係を有していることこそ、人権問題に真剣に取り組むとの同氏の約束を違えていることを意味する”とし、更に、“IOCは人権擁護を最優先するとの表明を偽っていることになる”と非難している。
なお、サリサックス氏と中国との密接な関係は同氏が始めたものではなく、同氏の父であるフアン・アントニオ・サマランチ元IOC会長が在職時の2001年に、2008年北京夏季大会を決定する際にIOC委員にはたらきかけたところから始まっている。
中国政府はこの返礼として、天津(ティエンジン)に14万4千平方フィート(約1万3千平方メートル)のサマランチ記念館を建造している。
更に、サマランチ財団が2012年に立ち上げられた際、中国政府は同財団の設立式典を人民大会堂で開催する程の支援を行い、また、中国オリンピック委員会及びANTA等の中国企業が同財団に多額の寄付を行っている。
かかる背景があることから、米国やその他数ヵ国が中国政府による“ウィグル族大量虐殺”を非難していることに対して、自治区政府等がサマランチ財団を通じて、“中国には人権蹂躙問題は起こっていない”という発信をすることによって、西側諸国を騙そうとしている。
ウィグル族人権問題監視グループのピーター・アーウィン上級研究員は、サリサックス氏とANTA及び新疆ウィグル自治区政府との癒着問題が放置されている限り、“IOC幹部らは、ウィグル族が虐待されていることを知っていても関心がない”ということを意味し、このままいくと“2022年北京大会では更に問題が深刻化する”と警鐘を鳴らしている。
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