大統領選挙が明らかにした米国の人種・文化による分裂(2016/11/15)
米国大統領選挙で当選したトランプ共和党候補は最初のスピーチでこれまでのトーンをガラリと変更して、すべての米国民の大統領となると宣言し選挙戦で生じた米国民の分裂を修復することを誓った。しかしトランプ氏当選後米国各地で反トランプの抗議行動が行われている。米国は移民による多民族国家であり様々な人種、民族が住みその多様性が米国の強みでもあったが、今回の選挙は人種間の分裂を広げる結果となり、米国の強みが弱みに転換してしまいかねない状況になっている。これを修復できるか否かは新大統領の手腕にかかっているが、今後暫く混乱の余波が続くことになるであろう。
2016年11月11日付
『NBCニューズ』は、「2016年選挙が如何に米国の人種的、文化的分裂をさらけ出したか」という見出しでこの分裂を分析している。
2016年の選挙は米国の人種、民族性、文化による深い分裂をさらけ出し、国をほぼ同じ人口規模であるが人種の構成や願望が極端に異なる二つの大きな連合体に切り分けた。この対比はトランプ氏が大統領に選ばれた数時間後には浮き彫りにされた。...
全部読む
2016年11月11日付
『NBCニューズ』は、「2016年選挙が如何に米国の人種的、文化的分裂をさらけ出したか」という見出しでこの分裂を分析している。
2016年の選挙は米国の人種、民族性、文化による深い分裂をさらけ出し、国をほぼ同じ人口規模であるが人種の構成や願望が極端に異なる二つの大きな連合体に切り分けた。この対比はトランプ氏が大統領に選ばれた数時間後には浮き彫りにされた。ラストベルト(赤錆地帯―かつて重工業地帯として繁栄し、今や新興国の進出により没落した米国東部・中西部の工業地帯)や田舎の有権者は、オバマ大統領の経済発展政策から置き去りにされていたが、新たに彼らの擁護者が現れたことを祝福している。一方で全米の都市部を中心に散らばっている黒人、ヒスパニック、アジア系などのマイノリティ、若者、女性は服喪期間に入ったようで、トランプ大統領の下で米国は暗黒、分裂の時代に入るという不満、恐れ、幻滅に動かされて街路での抗議に走っている。「二つのグループの間の大きな違いは都会と田舎の分裂であり、その亀裂は深まっている。この分裂は人種と政治色の違いを反映している。田舎や都市周辺に住む米国人は白人で一般に国内志向である。都市に住む米国人は多様で国際的である」とあるシンクタンクの政治学者は話す。
2016年の選挙で自分の所属する党派を超えて大統領候補を支持する動きは2012年の選挙と基本的には同じ流れであったが、一つだけ大きな違いはこれまでも共和党に傾いていた学歴が高卒以下の白人が圧倒的にトランプ候補に投票したことである。出口調査によるとこの層はトランプに67%が投票しクリントンに28%が投票したが、2012年はロムニー61%オバマ36%であり格差を大きく広げた。高卒以下の白人は一丸となってトランプに投票したが、クリントン候補にはアジア系、ヒスパニックの三分の二、黒人の9割が投票した。大卒以上の白人はほぼ両候補に均等にわかれたが、男性はトランプに偏り女性はクリントンに偏っていた。トランプ候補が大統領投票人数の獲得で勝利した一つの理由は、高卒以下の白人が多いミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン州で僅差の勝利となったことにある。
一方クリントン候補が獲得票数で勝った理由の一つは39%がヒスパニックであるカリフォルニア州という大票田で優勢であったためである。
「1992年の選挙では共和、民主両党とも白人のキリスト教徒が大半の投票者であったが、今では共和党は基本的には白人のキリスト教徒の党であり、民主党は多様な宗教、人種、民族の投票者の集まりの党となった。両党間には政治思想の違いだけでなく宗教・人種・民族構成の違いがあるので、政治的な亀裂は広がっている」とある政治研究者は語る。あるリベラル派の政治団体の指導者は、「人種で米国の政治は動いているというのが実際のところでありトランプ候補は白人により選ばれた。トランプを今回支持した層はオバマ大統領の8年間不満を抱えていたわけで、今度はクリントンを支持した層が不満を抱えることになる」と話す。実際大統領に就任する前から反トランプの動きが始まっていると結んでいる。
閉じる
「ニューヨークタイムズ」はトランプ候補を支持せず(2016/09/26)
『ニューヨークタイムズ』は9月24日の社説において米大統領選挙でクリントン候補を支持することを表明したが、9月25日にはなぜトランプ候補を支持しないかについて社説を掲載した。
「なぜドナルド・トランプは大統領になるべきでないか」という見出しの社説は以下の通り。
9月26日の両大統領候補の第一回討論会の前に、未だどちらに投票するか未定で政治に大きな変化を望む人は、じっくりとトランプ候補が見かけほどではないことを確認すべきである。また新鮮で既存の政治家の対局にあるという彼のセールスポイントをよく調べる義務がある。さもなければ、国民の幸福よりも自分自身を優先する人物にホワイトハウスをゆだねることになる。...
全部読む
「なぜドナルド・トランプは大統領になるべきでないか」という見出しの社説は以下の通り。
9月26日の両大統領候補の第一回討論会の前に、未だどちらに投票するか未定で政治に大きな変化を望む人は、じっくりとトランプ候補が見かけほどではないことを確認すべきである。また新鮮で既存の政治家の対局にあるという彼のセールスポイントをよく調べる義務がある。さもなければ、国民の幸福よりも自分自身を優先する人物にホワイトハウスをゆだねることになる。トランプ候補は次の点を売りにしているが、信用出来ない理由を上げたい。
「政府に魔術的な行政手腕をもたらす経営の天才である」
高層ビル数棟の持ち主ではあるが、破産や、詐欺だとの抗議を受け当局が捜査中のトランプ大学に代表される不透明な事業がいっぱいある。有権者は彼が税務申告書開示を拒否していることに注意する必要がある。開示すれば問題が発生することは間違いなく、脱税の可能性を示唆する資料もある。ロシアを初め世界中に行った投資は大統領になって家族が継承した場合、利害関係が生じる可能性がある。
「そのままをズバリ直言する」
シリアにいるイスラミックステートの戦士を打ち負かす用意があると言うが、具体的な案はなく、地上軍を投入するか否かも明らかにされていない。イスラム教徒の入国禁止とメキシコ国境の壁についても、中道の有権者獲得のため迷走している。オバマ大統領の出生に対する主張は後日間違いであったと認めた。「NBCニューズ」の調査では彼は117件の明白な政策変更を行っているが、記者がその点を指摘すると逆に中傷の罪で訴えると脅す始末。
「政府を変え、世界の指導者の一枚上手を行く交渉の名人」
政府債務の削減案や減税案は何れも荒唐無稽である。NATOや中国、イランに対する政策は外交安全保障に重大な問題を提起するだろう。地球環境問題については不信感を持っているようであるが、自分のゴルフコースでは海面上昇に対する対応を行っている。ロシアのプーチン大統領を敬愛するというが、プーチンが行っている殺人まがいの行為やメディアへの規制も認めることとなる。
数え上げればきりはないが、トランプ候補のパーソナリティに魅力を感じている有権者は、大胆で特異な政治家という性格についてもう一度よく考えてみる必要がある。これらは空威張りであり、批判者に対する嘲りであり、女性への下品なコメント、虚偽の陳述、国家や宗教に対する荒っぽい一般化である。大統領は我々の子供世代のロールモデルであるべきである。彼は子供たちへ望むモデルであるか、と結んでいる。
閉じる
その他の最新記事