昨年、アメリカの連邦裁判所で同性婚が認められて話題になった。しかしながら、そ
の後もケンタッキー州で同性婚者の結婚証明書の発行を拒否した女性職員が収監され
騒ぎになるなど、社会の中では未だ同性婚に対する偏見が根強い。アメリカ、ユタ州
裁判所で行われた少年審判手続きで、レズビアンのカップルの下で養育されていた赤
ん坊が「同性婚の夫婦による養育は不適切」との理由で、養親から引き離されようと
していることが明らかとなった。この決定には各方面から異議が唱えられており、各
メディアも裁判所の決定には否定的な見解が多いようだ。
11月12日付
『ロサンゼルス・タイムズ』は「AP通信」の記事を引用し、ユタ州の判事がレ
ズビアンの同性夫婦の親権をはく奪し、異性夫婦に親権を与える決定を下したことを
伝えている。「チャイルド・アンド・ファミリーサービス」(米の非営利団体)のユ
タ支部には波紋が巻き起こり、この決定に対して異議を申し立てることができるかど
うか現在弁護士と検討中だという。
今回の決定はジョナセン判事により下され、ホーグランド氏(38歳)とピアス氏(34
歳)の同性夫婦への通常の養親となるための聴取の手続き上で発表されたのだとい
う。同人らは昨年夏の連邦最高裁の同性婚を認める判決により結婚し、ユタ州で養親
となることを許可されたのだという。
州当局によれば、正確な数は不明であるがユタ州内には多数の同性婚夫婦の養親がい
るはずであるという。
同記事は「KUTV」(ユタ州の地元紙)の記事を引用し、赤ん坊は1歳の女児であり、3
週間にわたり養育してきたが、1週間以内に夫婦のもとを離れることになっており、
当該夫婦は今回の決定に困惑し、憔悴しきっていると伝えている。当該夫婦は、今回
の決定を下したジョナセン判事は異性夫婦に育てられた子どもの方が、同性夫婦に育
てられた場合よりも発育などの面で良い結果が望めるという調査結果があるとした
が、判事の決定はおそらくは宗教上の信念に基づくものだろうと語ったという。
同記事は当該夫婦が「ソルトレークシティー・トリビューン」(同じくユタ州の地元
紙)のインタビューに答えている記事も引用している。「我々は赤ん坊を愛していた
し、我々は何も間違ったことをしていない。我々の理解するところでは、法的に結婚
していれば養子を受け入れ養育することができるはずだ。女児の実母も我々が養親と
なることに賛成している」。
ユタ州の裁判所の広報担当によれば、決定の取り消しが求められた場合、その適否の
判断については法律上、ジョナセン判事は加わることができないという。また、今回
の決定の内容は公にはされていない。というのも子どもの養育に関する事案は、子ど
もを保護する観点から非公開とされているためだからである。
子どもの養親となるためには、全ての養親は審査を受けなければならず、「チャイル
ド・アンド・ファミリーサービス」の広報担当であるサマナー氏は「養子に必要なの
は愛情ある家庭であり、夫婦の形は問わないはずだ」と語ったという。同氏は決定の
詳細は明らかにできないとしながらも、当該夫婦の主張は筋が通っており、養親とし
ての適格性についても問題はないという。つまり、養親がレズビアンであるというこ
と以外に決定の要因が見当たらないのだという。
今回の決定には「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」(米の非営利組織)からも批
判が上がっており、ゲイの人権擁護団体からも「今回の決定はショッキングであり、
不公平なものであり、怒りを覚える」とのコメントが出されているという。
11月12日付
『NYSE・ポスト』(アメリカ)によれば、当該夫婦は今回の決定に驚いた
ものの、取り消しを求めるために弁護士を探しており、女児の実母と「チャイルド・
アンド・ファミリーサービス」の揺るぎない支援を受けていると伝えている。
同記事も前出の「KUTV」による取材を引用し、ジョナセン判事のコメントを載せてい
る。同氏は「異性夫婦の方が、同性夫婦よりも子どもの発育の面で非常に良いという
調査結果が数多く出ているのは事実である。法的に婚姻関係にある夫婦で、養親とな
る他の要件を充たせばもちろん養親となるのは歓迎だ」と述べながらも、調査結果の
出処については明らかにしなかったという。
同記事によれば、たしかに異性夫婦の方が、特定の分野では同性夫婦よりも子どもの
発育に良い影響をもたらすという調査結果がいくつかはあるという。しかしながら、
同性の夫婦の方が異性夫婦に比べて2倍、活動的で意義ある時間を子どもと過ごした
とする調査結果も存在すると伝えている。
「アメリカ心理学会」や「アメリカ医師会」などの主要な医療関連団体は今回の決定
に対し、「同性夫婦が異性夫婦に比べて、育児の面で劣るという科学的根拠は一切無
く、ましてや同性夫婦に育てられた子どもが異性夫婦に育てられた場合に比べて心理
学的に不健康であるとか、環境に適合しにくいなどということはない。こういった問
題はまさに養子と養親の組み合わせによるものであり、我々も今回の決定には驚いて
いる」と語ったという。
11月11日付
『CBSニュース』は養子を取る手続きにも触れている。法的な婚姻関係に
ある夫婦は「チャイルド・アンド・ファミリーサービス」による家庭内調査、身元調
査、面談のステップを踏んで初めて養親となる資格が認められるのだという。当該夫
婦ももちろんこれらのステップを踏んでいたとされる。
同記事も「KUTV」の記事を引用し、「チャイルド・アンド・ファミリーサービス」の
理事長であるプラット氏のコメントを載せている。「養子を取っている同性夫婦の数
を確認する正確な記録はないが、養親は不足しており、ユタ州内だけでも現在2600人
はいるという養親を求める子どもの親になってくれる夫婦を求めている」。同団体の
ユタ支部で養親となる夫婦のトレーニングを担当するリンドナー氏は正確な記録はな
いものの同性夫婦の養親は約20組程度ではないかと語ったという。
日本国憲法は24条で婚姻が「両性の合意」にのみ基づくと定めており、同性間の婚姻
は認められないと解釈されている。しかし渋谷区が同性パートナシップ条例を公布し
たこともあり、そう遠くない将来に同様の問題が起こらないとは言えないだろう。も
しかすると9条よりも24条の改正が先になる日が来るかもしれない。
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