11/5「人体・神秘の巨大ネットワーク 第二回」「驚きのパワー!脂肪と筋肉が命を守る」
今回のテーマは「脂肪と筋肉」。これまで脂肪と筋肉は人体の臓器とさえ見なされず、軽く扱われてきたが、最近の研究で身体の中で重要な役割を果たしている臓器であることが明らかになってきた。実は脂肪は全身に情報を伝える特別なメッセージ物質を出している臓器である(番組では細胞から細胞へメッセージを伝える物質を、「メッセージ物質」と呼んでいる)。
これが脳に働きかけて欲望を操ったり、免疫の働きを左右したりしている。...
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今回のテーマは「脂肪と筋肉」。これまで脂肪と筋肉は人体の臓器とさえ見なされず、軽く扱われてきたが、最近の研究で身体の中で重要な役割を果たしている臓器であることが明らかになってきた。実は脂肪は全身に情報を伝える特別なメッセージ物質を出している臓器である(番組では細胞から細胞へメッセージを伝える物質を、「メッセージ物質」と呼んでいる)。
これが脳に働きかけて欲望を操ったり、免疫の働きを左右したりしている。筋肉もまた情報を伝えるメッセージ物質を出し、がんの増殖を抑えたり、記憶力をアップさせたりしている。番組では脂肪と筋肉の最新情報を紹介する。
皮下脂肪や内臓脂肪の正体は、実はひとつの大きさが0.1mmの脂肪細胞の塊であり、脂肪細胞は人間の食欲を抑える物質「レプチン」を出している。この物質を発見したロックフェラー大学教授・ジェフリーフリードマンは「脂肪が出す物質は、食欲のコントロールを担うとても重要なもの」と述べた。
食事でとった糖分や脂は、この脂肪細胞の袋にため込まれる。たまった脂が増えるにつれ、メッセージ物質・レプチンが細胞の外に押し出される形で放出される。レプチンは血管に入り、血流にのって「エネルギーは十分たまっている」というメッセージを脳の視床下部にある神経細胞に伝える。この神経細胞の表面には、レプチンだけを受け取る特別な装置がある。レプチンを受け取ると、脳は「もう食べなくていい」と判断し、食欲が収まることになる。脂肪はレプチンのほかにも、栄養や酸素が欲しいときに血管を作るメッセージ物質や細菌やウイルスをやっつけろというメッセージ物質など、約600種類のメッセージ物質を出しているという。
一方、人間の体には、全部で400種類の筋肉がある。筋肉の細胞は、長いものでは10cm以上もあり、トレーニングをするとこの細胞が成長し、太くなっていく。最新の研究で、筋肉細胞も様々なメッセージ物質を出していることがわかってきた。筋肉の出すメッセージ物質の中には「がんの増殖を抑える」「うつ症状を改善する効果がある」というものもある。筋肉の細胞から出るメッセージ物質の中のひとつである「カテプシンB」は、記憶を司る海馬の神経細胞を増やし、人間の記憶力を高める働きをしている可能性がある。
ここで一つの疑問が出てくる。本来「レプチン」が正常に機能していればコントロールできるはずの食欲がなぜ「メタボリックシンドローム」に陥った人はコントロールできなくなるだろうか。メタボの人の身体の中を特殊なカメラで見てみる。内臓脂肪の周囲を見ていくと、煙のように糖分や脂が漂っている。脂肪細胞の表面にこの脂の粒がぶつかると、脂肪細胞が細菌などの敵だと勘違いし、「敵がいるぞ」という誤ったメッセージ物質を出してしまう。このメッセージ物質は血管にのって全身に流れ、免疫細胞を活性化させてしまう。免疫細胞は次々と分裂し、「敵がいるぞ」というメッセージを次々と拡散させていく。この免疫細胞の暴走こそ、メタボを引き起こす元凶だ。暴走した免疫細胞は血管の壁の内部に入り込み、溢れた脂を「排除すべき異物」と判断して次々と取り込んでいく。膨れ上がった免疫細胞はやがて破裂し、有毒物質をまき散らし、これが原因でメタボ特有の病気すなわち心筋梗塞や脳梗塞、腎臓病、糖尿病などを引き起こすのだ。
実はこれを防ぐのに筋肉が出すメッセージ物質が鍵を握っている。免疫の暴走を抑えるメッセージ物質を、筋肉の細胞が出してくれるのだ。コペンハーゲン大学教授・ベンテペダーセンは、足の筋肉を動かしたときにどんなメッセージ物質が出るか、詳しく分析し、その結果、メッセージ物質「IL-6」が大量に見つかったという。8人の被験者に、運動後に出るのと同じくらいの量のIL-6を注射すると、「敵がいるぞ」というメッセージ物質の量が半分以下に減ったという。IL-6を受け取るのは、暴走している免疫細胞。このIL-6が伝えるのは「戦うのはやめて」というメッセージ。これを受け免疫細胞の戦闘モードは解除され、免疫の暴走が収まるという。ペダーセンは「私たちの体は動くことを前提に作られている。だから動かずにいれば、筋肉からの大切なメッセージ物質が出なくなり、病気に陥る。とにかく筋肉を動かせば命が守れる」と語る。筋肉を活性化させることで「IL-6」を出すことが重要なのだ。
ちなみにメッセージ物質「IL-6」は日本人が発見したもので、従来はむしろ免疫を活性化するメッセージ物質として知られていた。「IL-6」は状況によって働き方が変わるという報告が多数あり、現在、詳細な研究が続けられているという。
これまでは臓器とさえ思われていなかった「脂肪と筋肉」。その未知のパワーはまだ解明され始めたばかりだ。今この瞬間も身体の中でメッセージ物質を出し続けている。
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10/1「人体・神秘の巨大ネットワーク 第一回」「長寿のカギは腎臓にあり」
最先端の科学が、腎臓の驚くべき姿を次々と明らかにしている。実は腎臓は、尿を作るだけでなく人体の司令塔の役割を果たしていて、全身の臓器に向かってメッセージを伝える物質を、常に出し続けている。腎臓のパワーを生かすことで、さまざまな病気の治療にも革新が起きている。番組では腎臓の最新事情を紹介する。
酸素が体内に不足すると、腎臓がエポ(EPO)という物質を出し、ほかの臓器に「酸素が欲しい」というメッセージを伝える。...
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最先端の科学が、腎臓の驚くべき姿を次々と明らかにしている。実は腎臓は、尿を作るだけでなく人体の司令塔の役割を果たしていて、全身の臓器に向かってメッセージを伝える物質を、常に出し続けている。腎臓のパワーを生かすことで、さまざまな病気の治療にも革新が起きている。番組では腎臓の最新事情を紹介する。
酸素が体内に不足すると、腎臓がエポ(EPO)という物質を出し、ほかの臓器に「酸素が欲しい」というメッセージを伝える。エポは血液の流れに乗り、骨に入っていく。骨には血管が出入りする穴があり、内部の空洞で血液が作られている。骨にエポが入ると、酸素を運ぶ赤血球の増産が始まる。こうして赤血球が増えると、全身の筋肉に、より多くの酸素が届くようになる。腎臓がエポを作れないと、重度の貧血になる。
これまでの人体のイメージといえば、脳が司令塔となり、他の臓器はそれに従っているだけというものだったが、実際には、あらゆる臓器がメッセージ物質を出し、他の臓器と直接会話していることがわかってきた。体内には臓器をつなぐ情報のネットワークがある。物質を運ぶ回線は、全身に10万kmあるとも言われる血管網だ。腎臓はこのネットワークの要として、数多くのメッセージ物質を出し、体内をコントロールしている。
「肝心かなめ」という言葉があるが、もともとは心臓を意味する「心」ではなく、腎臓の「腎」の字を使っていた。この言葉からもわかるように腎臓は、体内のネットワークの情報回線である血液を取り仕切る「血液の管理者」だ。心臓が送り出す血液の約4分の1は、腎臓に行っている。腎臓は、血液中のさまざまな成分の調整も行っていて、血液中のカリウムが多すぎると、不整脈が起きることもある。カリウムの量を正常値に保つのも、腎臓の役割だ。腎臓がカリウムの調節をできなくなると、カリウムを大量に含んでいるバナナが食べられなくなる。
腎臓の内部を見ると、太い血管がびっしり張り巡らされている。腎臓に入ってくるのは、老廃物を含んだ血液。腎臓はそこから尿を作るとき、同時に成分を調整した血液も同時に作り出している。原尿が通る管「尿細管」の壁には、びっしりと細かい毛「微絨毛(びじゅうもう)」が生えている。ここで体に必要な成分だけを選び取り、血液に戻す作業が行われている。余分な成分を外に出すのも腎臓の重要な役割だ。微絨毛の表面には、無数の小さなポンプが並び、ポンプごとに吸収する成分が決まっている。こうしたポンプを巧みに操り、血液に吸収する量を絶妙に変化させている。微絨毛で吸収された成分は、血管の中に運ばれていき、ミクロの世界の驚異的な再吸収システムにより、血液成分が絶妙に調節される。腎臓は片時も休むことなく、血液を管理し続けているのだ。
血液の成分調節は、腎臓が全部判断するのではなく、ほかの臓器同士の会話を聞いたうえで、再吸収の量を決めている。例えば心臓が疲れた時にだすメッセージを受け取ると、腎臓は塩分の再吸収を減らし、体から塩分を排出する。塩分が減れば血圧が下がり、心臓が楽になるからだ。。
大量の血液が流れる腎臓は、人体で最も多く薬にさらされる場所であり、複雑で精緻な仕組みゆえ、薬からのダメージも受けやすい。腎臓の機能不全が、多臓器不全のきっかけになる。日本でもこの問題は重視されている。腎臓のために余分な薬は飲まないほうが良いが、処方された薬はきちんと飲むことが大切。
腎臓を守る治療は、日本でも始まっている。京都大学では、腎臓の専門医が新たな取り組みを始めた。腎臓以外の病気の治療に積極的に関わり、主治医と連携しながら使う薬の量などをきめ細かく調節する。人体をネットワークとしてとらえ直すことで、医療の新たな道が見えてきた。腎臓は私たちの体の中で、いまこの瞬間も働き続けている。
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