<環太平洋経済連携協定(TPP)>
2010年の交渉開始から5年余りかかって、参加12ヵ国間で漸く大筋合意をみたTPPは、来月3、4日にニュージーランドにおいて、閣僚会合と署名式の大団円を迎える。
TPPは、世界の国内総生産(GDP、77.3兆ドル)の約36%(28兆ドル)、人口8億人を抱える巨大経済圏であり、欧州連合(EU)の約24%(18.6兆ドル)・5億人を遥かに凌ぐ。
参加12ヵ国がお互いに門戸を開き、投資や進出をしやすくし、一方で、世界第2位に躍進した中国を牽制し、21世紀型の経済ルールを主導していく狙いがある。
従って、政治とカネの問題で甘利氏がTPP担当相を辞任したからと言って、TPPの合意事項に伴う今後の実践については、何ら影響を与えることはないとみられる。
ただ、署名式の後、早ければ3月にも政府はTPP協定の承認案と関連する法律の改正案を国会に提出するとみられるが、協定の内容は物品の関税や投資、知的財産など全30章にも及ぶことから、国会答弁には広範囲の知識が求められる。
そのため、後任に指名された石原元自民党幹事長の、経済運営の手腕に依るところが少なくないことは事実ではある。
では、TPPが日本にもたらす恩恵、影響はどうか。
まず恩恵であるが、米有力シンクタンクのピーターソン国際経済研究所の直近の試算によると、TPPの発効によって、2030年に日本のGDPを1,250億ドル(約15兆円)引き上げることになるという。
安倍政権が標榜している、2020年頃までに引き上げるとするGDP目標額600兆円の実に2.5%分にも相当する。
この背景は、TPPがない場合に比べて、2030年の日本の輸出額を23%増やすことになるからとする。これは、TPP参加12ヵ国のうち、ベトナム(輸出30%増)に次いで2番目に恩恵が大きいとしている。
しかし、上記試算はあくまで15年後の話であり、我々の関心事はやはり、これから数年後以内のことであろうから、大筋合意のうち、消費者に関係する主要事項についてみていく。
① コメ:当初3年は米国産5万トン、豪州産6千トンの無関税輸入枠。段階的に増やし、13年目以降は各々7万トン、8,400トン。
② 牛肉:関税38.5%を当初27.5%に。段階的に引き下げ、16年目以降は9%。
③ 豚肉:1kg当り482円を当初125円に。段階的に引き下げ、10年目以降は50円。
④ 乳製品:当初6万トン、6年目以降7万トンの低関税輸入枠。
⑤ 小麦:米国、カナダ、豪州に当初19.2万トンの輸入枠。7年目以降25.3万トン。
⑥ 水産物:マグロ、サケ、マスは11年目までに、アジ、サバは12~16年目までに関税撤廃。
⑦ ボトルワイン:8年目までに関税撤廃。
⑧ 車:米国が日本車にかけている2.5%関税を15年目から削減開始、20年目で半減、25年目で撤廃。自動車部品は8割以上で即時撤廃。
⑨ バイオ医薬品:製薬会社に独占的に販売を認めるデータ保護期間を実質8年と設定。
以上のとおり、直近2~3年のスパンでみる限り、恩恵がないとは言えないが、国民生活に大きく影響を与えることはないとみられる。もちろん、TPP輸入品が増えることで、消費者にとって選択肢が広がるメリットはあろうが、価格については、対ドルの円相場による影響の方がかなり大きく、一概には良し悪しは言えまい。
また、TPP輸入品に押されて、農家の廃業が少々増えるかも知れないが、高齢化による廃業が進んでいる農業界にあっては、むしろこの機会に、農協の保護主義の改革、株式会社化による集約・効率化向上による競争力増強等、日本の農業を中長期的に改革していく上で、良い意味の外圧になるのではないかと考える。
*TPP参加12ヵ国;日本、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、メキシコ、ペルー、チリ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ
*TPP参加希望の国;台湾、韓国、インドネシア、フィリピンなど
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