北朝鮮情勢を追う(6月16日)
(北朝鮮に対し譲歩し過ぎる米国)
6月12日史上初の米朝首脳会談が行われた。会談後、両首脳が署名した共同声明には米国が要求していたCVIDは盛り込まれなかったため、北朝鮮非核化の実現性が疑問視され始めている。CVIDが盛り込まれなかった理由について、トランプ大統領は「時間が足りなかったため」と説明している。さらにトランプ大統領は会談後の会見で、米韓合同軍事演習を「金がかかるWAR GAME」と表現し、「米朝で非核化協議が行われている間は中止したい」との意向を示した。...
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(北朝鮮に対し譲歩し過ぎる米国)
6月12日史上初の米朝首脳会談が行われた。会談後、両首脳が署名した共同声明には米国が要求していたCVIDは盛り込まれなかったため、北朝鮮非核化の実現性が疑問視され始めている。CVIDが盛り込まれなかった理由について、トランプ大統領は「時間が足りなかったため」と説明している。さらにトランプ大統領は会談後の会見で、米韓合同軍事演習を「金がかかるWAR GAME」と表現し、「米朝で非核化協議が行われている間は中止したい」との意向を示した。さらに「将来的に在韓米軍を米国に戻したい」と在韓米軍の削減・撤退にも言及した。対中国、対北朝鮮強硬派で知られるハリス次期駐韓大使さえも議会上院の公聴会で、「北朝鮮を取り巻く状況が劇的に変化した。非核化を促すためには、大規模演習の中止が必要である」との見方を示している。これまでの米国の姿勢からすると、米国が北朝鮮に対し譲歩し過ぎているように見えなくもない。
(北朝鮮の後ろ盾として存在感を強める中国)
ポンペオ国務長官は米朝共同声明の文言にある「完全な非核化」にはCVIDが含まれているとの認識を示した。その一方で、北朝鮮・労働新聞は北朝鮮が主張する「段階的非核化」をまるで米国が受け入れたかのように報じ、米朝の間で認識のずれが早くも生じ始めている。15日に行われた中国・習近平国家主席とポンペオ国務長官の会談で習主席は、「半島問題は複雑であり、核問題の解決は順を追って進めるプロセスになることは避けられない」と指摘し「段階的非核化」を支持する姿勢を強調したが、北朝鮮の後ろ盾として存在感を強める中国と米国の対立が貿易摩擦問題も巻き込む形でますます露わになってきているといえる。
(関係各国を巻き込んだ神経戦が続く)
トランプ大統領は米朝首脳会談後に行われた会見で、北朝鮮の非核化が進展した場合、その支払いは米国でなく日本と韓国が行うと説明した。この発言に関し、安倍総理はIAEAなどが非核化の核査察などに参加する場合には、その費用は日本が当然負担することになると説明した。また経済援助という形の支援は拉致問題の解決がない限り行わないとしている。15日の平壌放送は「拉致問題についてはすでに解決済みであり、日本はこの問題を引き続き持ち出すことで、自国の利益を得ようと画策している」と報じているが、北朝鮮は拉致問題の敷居を高くすることで日本からの経済援助を更に優位に引き出したいと考えているように見える。しばらくの間、日本にとって厳しい状況が続きそうだ。
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米朝首脳会談:玉虫色合意の行方(6月15日)
「非核化を段階的に行う」ことで合意したと主張する北朝鮮に対し、トランプ大統領は非核化の時期や手順、検証については言葉を濁していることから関係する諸国で玉虫色の解釈が生まれている。これに続いて経済制裁の解除についての解釈も米朝の違いが明らかになっている。
北朝鮮は非核化を条件とせずに米朝関係改善に伴って経済制裁は解除されるとしているのに対し、米国は非核化以降に制裁を解除するとしている。韓国を訪れたポンペオ国務長官が韓国の康京和外交部長官と河野外相に明らかにしたもの。...
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「非核化を段階的に行う」ことで合意したと主張する北朝鮮に対し、トランプ大統領は非核化の時期や手順、検証については言葉を濁していることから関係する諸国で玉虫色の解釈が生まれている。これに続いて経済制裁の解除についての解釈も米朝の違いが明らかになっている。
北朝鮮は非核化を条件とせずに米朝関係改善に伴って経済制裁は解除されるとしているのに対し、米国は非核化以降に制裁を解除するとしている。韓国を訪れたポンペオ国務長官が韓国の康京和外交部長官と河野外相に明らかにしたもの。経済制裁の解除については、5月27日に板門店で始まり、米朝首脳会談の前夜シンガポールまで持ち越された米朝実務者会議で最後まで合意に至らなかったという。このため合意文書には書かれず、両者の解釈が異なる余地を残すことになった。
経済制裁の解除については、韓国は制裁を続けるといっているものの、韓国内では開城工業団地の再開を望む声が聞こえ、また文在寅大統領が鉄道連結なども盛り込んだ北朝鮮への協力事業への財政支出の検討を始めるなど、実質的な緩和の動きがでている。
一方トランプ大統領は「米朝対話が続いている間は」米韓合同軍事演習を中断すると述べていたのだが、中国では「米韓合同軍事演習の中止が北朝鮮の非核化の前提条件」(2018年6月15日「環球時報」)との解釈が生まれている。米韓合同軍事演習は朝鮮半島だけではなく、東アジアの安全保障にかかわる問題であり、中国はセンシティブな反応を示している。
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安倍首相・きょう拉致被害者の家族らと面会(6月14日)
安倍首相は米国・トランプ大統領と電話で会談し、北朝鮮・金正恩朝鮮労働党委員長に対し拉致問題解決の必要性を提起したことなど、会談内容の説明を受けた。
安倍首相はきょう、拉致被害者の家族らと面会し会談の内容などを直接説明したうえで、今後の要望を聞くことにしている。
政府は今後、日朝首脳会談での拉致問題解決を目指し、北朝鮮との協議を模索するものとみられるが、北朝鮮は解決済みとの姿勢を変えておらず、協議は難航することも予想される。
米朝首脳会談の評価(6月13日)
6月12日の米朝首脳会談によって東アジアに平和が訪れるのか。陰の主役中国はこの結果をどのようにみているか。
行程表も時間表もなく、査察についてさえ曖昧な合意は、北朝鮮に対し、誠意をもって核兵器や核技術に関し申告し、廃棄を迫るものではなくなっている。トランプ大統領は、「歴代の大統領がなし得なかったことをした」と自画自賛しているが、例えば2005年の6か国協議では「朝鮮半島の検証可能な非核化」「核廃棄不拡散条約(NPT)およびIAEA保障措置に復帰することを約束」していることからすれば、明らかに当時よりは低い水準での合意となる。...
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6月12日の米朝首脳会談によって東アジアに平和が訪れるのか。陰の主役中国はこの結果をどのようにみているか。
行程表も時間表もなく、査察についてさえ曖昧な合意は、北朝鮮に対し、誠意をもって核兵器や核技術に関し申告し、廃棄を迫るものではなくなっている。トランプ大統領は、「歴代の大統領がなし得なかったことをした」と自画自賛しているが、例えば2005年の6か国協議では「朝鮮半島の検証可能な非核化」「核廃棄不拡散条約(NPT)およびIAEA保障措置に復帰することを約束」していることからすれば、明らかに当時よりは低い水準での合意となる。もっとも6か国協議の合意も守られなかったことからすれば、「守れる約束」をしたのかもしれない。一方で13日の朝鮮中央通信は非核化について、段階的・同時行動の原則が重要との認識で一致したと報じており、早くも米朝の解釈の違いがでてきている。
なお来週にはポンペイ国務長官と金英哲副委員長との間で非核化の具体案を話し合うための高官協議が行われるという。米朝の認識を一致させることはできるのだろうか。
米韓合同軍事演習の中止については、一応「米朝の協議が継続している間」という前提条件はあるが、北朝鮮からの軍事的な脅威がなくなる保障はない。トランプ大統領は急ピッチで非核化交渉を進めるといっているが、「会議のための会議」ではない、非核化が進展する米朝協議が必要となってくる。米朝協議が破綻したと米国が判断し、米韓軍事演習を再開すれば、先に約束を破ったのは米国だとの口実を北朝鮮に与えかねない。また東アジアの安全保障上の問題は朝鮮半島だけではないので、そのような緊急事態がおきたときに、米国はどのような「口実」を設けるのか。またこの事態を受け、中国は当然THHAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の韓国からの撤去を要請することになろう。
金正恩委員長のシンガポールへのフライトの航空機の貸出などで存在感を高めている中国は米朝首脳会談をどうみているのか。中国がかねて言っていた「双暫停」すなわち、北朝鮮の核実験の暫時停止と、米韓合同軍事演習の暫時停止が、全面的に取り入れられたことになる。
6月12日(22:17)の「環球時報」ではさらに次のように述べている。米国が北朝鮮の安全を保証したこと、すなわち軍事力などを用いて政権の交代をしないことを約束したとして評価しているものの、安全の保証の内容は不確かだとして、その過程で中国の力が必要になるとみている。
新しい米朝関係については、相互に代表事務所を設置することなのか、国交を樹立することなのか、経済協力をすることなのか、どのような米朝関係になるかを注目している。
また朝鮮半島の非核化については、トランプ大統領が記者からのCVID(完全な、検証可能な、不可逆的な非核化)への質問にはっきりした回答をしなかったことに注目し、トランプ大統領が「検証可能な、不可逆的な」部分で妥協したのではないかと推測している。またトランプ大統領は北朝鮮が非核化しない限りは経済援助をせず、経済制裁を続ける、と言ったことに対し、中国と韓国が非核化までの経済協力をせざるを得ないことを意味していると受け取っている。
平和体制の構築については中国も平和協定に署名することが当然であること述べている。
今回の米朝首脳会談では、一時噂されていた米朝韓の首脳会談もなく、三国による朝鮮戦争の終戦宣言もなく、チャイナ・パッシングは起こらなかった。曖昧な部分も含めてほぼ中国の意向が通った形の米朝会談の合意文書に中国は我が意を得たり、の感を強くし、さらに政治・経済両面から北朝鮮への接近を図ることになろう。朝鮮半島情勢について、中国は「陰の主役」から「表舞台の主役」になる日をねらっているのかもしれない。
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米朝首脳会談終わる(6月12日)
6月12日9時(日本時間10時)米朝首脳会談が始まった。通訳をいれただけの二人だけの会談が終わった後、両首脳は笑顔を見せるまでになっていた。その後ポンペオ国務長官や金英哲副委員長などを交えた4対4の拡大会談が開催され、ワーキングランチとなり、その後予定では発表されていなかった合意文書の署名もなされた。
トランプ大統領は、会談前1分あれば交渉に足る相手かどうかわかると豪語していたが、金正恩委員長を交渉に足る相手と認定したようである。...
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6月12日9時(日本時間10時)米朝首脳会談が始まった。通訳をいれただけの二人だけの会談が終わった後、両首脳は笑顔を見せるまでになっていた。その後ポンペオ国務長官や金英哲副委員長などを交えた4対4の拡大会談が開催され、ワーキングランチとなり、その後予定では発表されていなかった合意文書の署名もなされた。
トランプ大統領は、会談前1分あれば交渉に足る相手かどうかわかると豪語していたが、金正恩委員長を交渉に足る相手と認定したようである。
合意文書の内容は、①米朝関係の正常化、②朝鮮半島の平和体制保障、③朝鮮半島の完全な非核化、④朝鮮戦争の遺骨送還、である。非核化については北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化であり「完全で、検証可能な、不可逆的な非核化(CVID)」という言葉は盛り込まれていなかった。
その後の記者会見で、トランプ大統領はCVIDという言葉は盛り込まれなかったが、米国と国際機関による検証は行うと述べているが、具体的にどこまで金正恩委員長に要求しているのかは疑いをもたせる回答であった。さらに「非核化のプロセスはまさに始まった、来月にはポンペオ国務長官との間で交渉が行われる」ということで、これから手続きについての長い交渉が始まることになる。
韓国との軍事演習についても「すぐにではないが、いずれやめる、なぜなら軍事演習には膨大な費用がかかるから」との理由であり、安全保障面での確証が得られたからなのではない。朝鮮戦争の終結については直接的な言及はなく、朝鮮半島の平和体制保障という文言になっていた。さらに金正恩委員長が求めていたとされる自身の体制の保証については、どのような約束がなされたのかは定かではない。
「今までどの大統領もなし得てこなかったことを成し遂げた」とトランプ大統領はいうものの、会談が行われる前に徐々に下げていた目標のハードルを再びあげることはなかった。会談前の硬い表情に比べ、首脳同士の会談が終わった後に金正恩委員長が笑みを浮かばせていたのは、思いのほか、トランプ大統領の追及の手が緩かったからではないか。その面では核開発を進めていたからトランプ大統領と対等に渡り合えたとする満足の笑みであったかもしれない。
トランプ大統領は拉致問題や人権問題にも会談の席でふれたという。これについて安倍総理は、トランプ大統領に謝意を述べ、あとは日朝間の交渉を行わなければならないとしている。残された家族の高齢化が進んでいる現在、拉致問題の解決には交渉時間を長引かせるわけにはいかない。
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