既報どおり、米国による新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に関わる中国批判が更に高まっている。これには豪州政府も加担し、そして欧州諸国も後押しするところとなり、今週開催された世界保健機関(WHO)総会において、国際調査団によるCOVID-19感染問題の検証を促す決議案が採択された。中国は体面を保つため、表向きに同案に賛同したが、数の上での援軍を増やすべく、改めてアフリカ諸国の囲い込みに動き出している。
5月20日付
『CNNニュース』:「中国、COVID-19感染問題で西側諸国からの批判に対抗すべく、今まで以上にアフリカ諸国囲い込みに奔走」
習近平(シー・チンピン)国家主席は5月18日、オンライン会議方式によるWHO総会において演説し、途上国のCOVID-19対策を支援するため、今後2年間でWHOに20億ドル(約2,140億円)を供出するとぶち上げた。
この背景には、西側諸国を中心に、COVID-19感染問題に関わる中国の責任を追及する機運が高まっていることから、世界の衛生問題に積極的に取り組むという姿勢を示す狙いがあるとみられる。
そして、習主席の意図していることは、これまで盛んに財政援助をしてきたアフリカ諸国に対して、更に貢献する姿勢を示し、彼らが挙って中国支援に回るよう画策することである。
具体的に同主席は、新たにアフリカ諸国で30の病院建設を支援することを表明した。
このような具体策を表明せざるを得ないのは、今回のWHO総会において、これまで公式に中国の責任問題を表明していなかったアフリカ諸国代表も、欧州連合(EU)が提案した、COVID-19感染問題に関し、国際調査団による検証を促す決議案に賛同したからである。
ただ、アフリカ諸国のかかる態度は、先月に在中国アフリカ諸国大使らが、中国在住アフリカ人に対する中国当局等による差別行為に対して、中国政府が何ら対応を取らなかったことを不満に感じたためと考えられる。
そこで、習主席は、国際社会での孤立が進まないよう、まずアフリカ諸国の支援を盤石にすることが肝要だと考えたとみられる。
● アフリカが大切な外交相手国である所以
(1) 1971年、中国が台湾に代わって国連安全保障理事会常任理事国となると宣言した際、
賛成投票76票のうち、アフリカ諸国から26票を得て、大願成就。
(2)1989年、天安門事件(注1後記)発生の折り、西側諸国からの厳しい非難の声が上がったのに対して、アフリカ諸国がいの一番に、“他国の内政干渉は認めない”という中国政府方針を支持。
(3)2008年、北京オリンピック開催に当たって、西側諸国において中国の人権問題を理由にボイコットの話が持ち上がっていた際、アフリカ諸国が大会参加に積極支援を表明して無事開催。
(4)2019~2020年、米国が、中国通信機器大手メーカーの華為技術有限公司(ファーウェイ、1987年設立)に対して、中国政府画策によるトロイの木馬(注2後記)を忍ばせた機器を供給していることを理由に、世界からファーウェイ締め出しを提言しているが、ケニヤや南アフリカなどの主要国はむしろファーウェイ製品導入を歓迎。
米ウェイクフォレスト大(1834年設立、ノースカロライナ州私立大)政治学部のリナ・ベナブダラー助教授(中国・アフリカ関係専門)は、“中国が国際社会で孤立しているとか、友好国がないという雰囲気を全否定するため、長年の信奉者であるアフリカ諸国から改めて支援を仰ごうとしている”と分析している。
また、中国は、世界の保健衛生に貢献していることを示すべく、3月、4月だけで、280億枚のマスクを含め、710億人民元(100億ドル、約1兆700億円)相当の医療用品を供出している。
これに対しても、例えば、EU外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)のジョセップ・ボレル氏が、“政治的思惑のある気前の良さに要注意”と警告したのに対して、物資・資金不足に喘ぐ多くのアフリカ諸国が中国支援を歓迎している。
中国がアフリカ支援に動いたのは今回が初めてではなく、2014年11月、当時蔓延したエボラ伝染病対策支援のために7億5千万人民元(1億2,300万ドル、約132億円)を供出している。
ただ、このときには、米国・英国・ドイツから合計36億ドル(約3,852億円)が供出されており、大きな貢献とは言えなかった。
しかし、今回は、米国がWHOへの拠出金を大幅削減すると表明したり、また、米国及びEU主要国自身がCOVID-19問題で経済破綻危機に喘いでいて、とてもアフリカ支援に回れない状況にあることから、アフリカ諸国としても、中国支援を受け入れるしか選択の余地がないという背景がある。
● COVID-19問題の最中のアフリカ諸国との不和
(1)2020年2月下旬、中国国内でCOVID-19感染が深刻であった最中、中国南方航空の国際便で中国本土からナイロビ(ケニヤ)にやってきた乗客239人が、空港での検疫を全く受けずに入国。この問題が大きくなり、中国からアフリカへの国際便が停止されることになったが、そのとき既に中国国内の感染は下火。
(2)4月中旬、主要20ヵ国財務相・中央銀行総裁会議において、アフリカ諸国から、440億ドル(約4兆7,080億円)の債務免除を含めて総額1,000億ドル(約10兆7,000億円)の緊急支援要請が出されたが、債権総額の5分の1を占める中国は、他国と歩調を合わせるとのみ答え、特にアフリカ側希望に応えることはせず。
(3)4月下旬、中国南部広州(ガンジョー、広東省)滞在のアフリカ人らに対して当局が、旅行記録に関係なくウィルス検査を強制的に実施し、隔離する措置。また、アパートやホテル等から追い出された多くのアフリカ人がホームレス化。これに対して、在中国アフリカ諸国大使らが中国政府に異例の批判書簡を出状。
ナイジェリアの国際安全保障問題専門家のオビグウェ・エグーグ氏は、“これら一連の問題が、これまでの中国・アフリカ関係を棄損しかねないとの危機感から、習主席が今回、WHO総会の場で、アフリカ支援を声高にアピールする必要があった”と分析している。
ただ、同氏によれば、“(上記(3)記載の)アフリカ人が差別されている動画配信に憤った多くのアフリカ諸国首脳は、習主席の演説を聞き入れようとはしないだろう”とも付言した。
(注1)天安門事件:1989年6月4日(日曜日)に北京市にある天安門広場に民主化を求めて集結していたデモ隊に対し、軍隊が武力行使し、多数の死傷者を出した事件。民主化を求めるデモは、改革派だった胡耀邦(フー・ヤオバン)元総書記の死がきっかけ。胡耀邦の葬儀までに、政治改革を求める学生を中心に約10万人の人々が天安門広場に集結していた。
(注2)トロイの木馬:コンピューター・ウィルスの一種で、好ましい、または悪質ではないプログラムであるかのように見せかけるのが特徴。ギリシア神話で、中に兵士が入った木馬をトロイアの街に招き入れたように、ユーザーにそれを危険と思わないで招き入れさせることが偽装の目的であることから、そう呼ばれる。そして感染後に攻撃側が感染したコンピューターに自由にアクセスするための秘密の扉(バックドア)を作り、そこを通じて、新たなプログラム(悪質なプログラム)のインストール、デスクトップ画面の撮影やキーボードの入力情報の記録によるパスワード情報の盗取など、感染したコンピューターに含まれる多くの個人情報などにアクセスすることを可能にしてしまう。
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