5月31日、トランプ米大統領は地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定から離脱する方針を固めた、と米国の主要メディアが一斉に報じている。トランプ大統領は、「パリ協定に関する私の決断を数日以内に発表する。米国を再び偉大にする!」とツイッターに投稿した。
2015年12月のパリ協定は、2020年以降の温暖化対策に関する新たな枠組みであり、1997年採択の京都議定書に代わるもので、先進国だけでなく発展途上国を含む全ての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む初の枠組みとなっている。世界が産業化されて以来の地球の気温の上昇を2℃までに抑えることを目標とした(1.5℃以内に抑えることが、リスク削減に大きく貢献するとも言っている)。但し、地球の気温は産業革命以来既に1.1℃ほど上昇している。
各国はそれぞれの温室効果ガス排出量の目標を提出した。これを合計すると2030年までに、1,170億トンの二酸化炭素の大気への放出が抑えられる計算になる。協定は197か国によって合意され、これまで147か国が批准をしている。目標は任意であり、気候裁判所のような機関はない。求められるのは、計画とその進捗状況を報告することだ。
中国は世界最大の排出国であるが、2030年までにピークを迎え、そこから削減していき、一人当たりの二酸化炭素汚染量を2005年のレベル対比で60%削減するとしている。最近の調査では、中国の二酸化炭素排出量は既に高止まりしており、10年ほどその動きは早まっているという。中国の削減目標は全体の3分の1にもなるが、習近平主席は、責任ある大国の義務として、オバマ前米大統領とパリ協定の採択と早期発効に向けて協力してきた。
米国は世界第二位の排出国である。2015年までの温室効果ガスの排出量削減目標を、2005年のレベル対比でマイナス26-28%としているが、これは毎年16億トンの排出量削減となる。但し昨年の調査によれば、おそらくその8割程度しか達成できないとされている。米国の取り得るオプションは2つだ。1つは協定に止まり、削減目標の達成に向けて引き続き努力すること。削減目標は達成できないかも知れないので、目標を下方修正することも考えられる。もう1つは、完全に協定から離脱することだ。但し、その手続きには少なくとも1年、最長で3年半程度は要するものと見られる。
科学者の研究やコンピュータ・シミュレーションの結果によれば、もし米国が離脱した場合には、2℃の気温上昇は殆ど避けられない事態となり得る。但し、米国が引き続き協定に残ったとしても事態は変わらず、パリ協定以上の削減が求められるであろうとする意見も多い。米国だけが排出ガスを増加させる最悪のシナリオから、米国も既に天然ガスや太陽、風力エネルギー等クリーンな燃料に移行しつつあるので、今後も排出量が増えることはないという楽観的な予想まで、様々なシミュレーションがされている。
米国がパリ協定から離脱しても、同協定は有効なものとして継続する。殆どの国は自国の削減目標をコミットしているので、地球温暖化との戦いは続く。しかし世界第二位の排出国である米国が離脱すれば、協定の効力が落ち、地球温暖化対策は大きく後退することを免れず、その影響は大きい。時間との戦いと言っても良い現在の状態に鑑みれば、他の国々はこれまでの対応の変更を求められる。
欧州委員会(EC)のジャンクロード・ユンケル委員長は、5月31日、トランプ米大統領がパリ協定から離脱することを決めても、米国に立ち向かうことが「欧州の義務」だと述べ、「米国は協定から逃げられない。脱退には3-4年はかかる。国際協定に書かれていること全てがフェイク・ニュースというわけではない。」とトランプ政権を皮肉り、協定の意義を強調した。
EUと中国の代表団が6月2日にブリュッセルで会談し、米国が離脱するか否かを問わず、パリ協定に関する各国のコミットメントを再確認し、国際的な目標達成のために為すべきことを確認する予定であるとEUの高官が述べている。また、スペインのマドリードでは、スペインとインドの首脳が気候変動と戦うそれぞれのコミットメントを表明し、京都議定書とパリ協定の実行を支持していくことを再度確認した。さらに米国内からも、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が、離脱の動きに反対する立場を改めて表明する等、動きが出ている。
トランプ氏は大統領選中、地球温暖化はでっち上げと主張し、パリ協定からの離脱を公約に掲げて当選した。先週末にイタリアのシチリア島タオルミナで開催されたG7サミットの場では、他の6か国が残留を求めて説得をしたが応じず、メルケル独首相ら他の首脳らと対立した。現在トランプ大統領は、ロシアの大統領選介入疑惑などにより国内で厳しい追及を受けているため、公約とした政策を本当に実行する力があることを見せる狙いがあるとする見解もある。
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