ベトナムは、中国と南シナ海で領有権問題を抱えながら、最大の貿易相手国でもあることから、概ね良好な関係を継続させている一方で、米国が主導するインド太平洋枠組み(IPEF)に発足時から参画する等、米国とも緊密な関係を強めてきている。そうした中、ベトナム独自の立場を強化すべく、世界市場で求められているレアアース(注1後記)について、中国独占支配の牙城を崩すべく大増産計画を進めている。
9月25日付
『ロイター通信』は、ベトナムが中国独占支配のレアアース市場の牙城を崩すべく、来年以降大増産計画を推進していると報じた。
レアアースは、電気自動車(EV)のバッテリーやスマートフォンの製造に欠かせず、今後更に再生可能エネルギーへの転換が進むに連れて、益々その重要性が増している。
米地質調査所(USGS、1879年設立、内務省傘下の科学的研究機関)のデータによると、世界のレアアース埋蔵量は1億2,100万トンで、断然トップの中国が4,400万トン、2位がベトナム及びブラジルの2,200万トンである。...
全部読む
9月25日付
『ロイター通信』は、ベトナムが中国独占支配のレアアース市場の牙城を崩すべく、来年以降大増産計画を推進していると報じた。
レアアースは、電気自動車(EV)のバッテリーやスマートフォンの製造に欠かせず、今後更に再生可能エネルギーへの転換が進むに連れて、益々その重要性が増している。
米地質調査所(USGS、1879年設立、内務省傘下の科学的研究機関)のデータによると、世界のレアアース埋蔵量は1億2,100万トンで、断然トップの中国が4,400万トン、2位がベトナム及びブラジルの2,200万トンである。
生産量においても、2022年実績で中国が約21万トン(世界シェアの約7割)と群を抜いていて、2位米国4万3千トン、3位豪州1万8千トンで、ベトナムは僅か4,300トンであった。
そこでベトナム政府はこの程、レアアース市場で優位性を獲得すべく、来年以降大幅増産していく計画を策定した。
この背景には、中国独占を良しとしない西側諸国の支援もあって、中国の牙城を切り崩すとの思惑がある。
豪州の非鉄金属探査企業ブラックストーン・ミネラルズ(BML、西豪州パース本拠、ベトナム鉱山開発事業に関与)テッサ・クッチャー取締役によると、ベトナム天然資源・環境省(2002年設立)が年末までに北西部のドンパオ鉱山(注2後記)再稼働のための参画企業の競争入札を行うという。
競争入札時期、再稼働規模及び海外企業の参画率等の情報は依然公にされていないが、BMLパートナーとして同競争入札に参加しようとしているベトナム・レアアース社(VTRE、2011年設立の非鉄金属精製企業)ルー・アン・タン会長によると、ベトナム政府は中国のレアアース寡占化を打破するため来年には再稼働に漕ぎ着けたい意向だとする。
中国は、米中対立が激化する中、今年からレアアースの輸出量削減を発表している。
そこで、米国を含む西側諸国として、ベトナム産レアアースの大増産に大いに期待し、支援していく意向とみられる。
『ロイター通信』が12人の同産業界幹部、投資家、経済アナリスト等にインタビューしたところ、レアアースの一大拠点とするには困難が待ち受けていようが、中国の牙城を少しでも崩すという意味から、非常に期待されるプロジェクトだと異口同音に認めている。
BMLのクッチャー取締役によれば、同プロジェクトは1億ドル(約148億円)の規模であり、生産物はベトナム自動車メーカーのビンファスト(2017年設立のベトナム初の自動車メーカー)や米EVメーカーのリビアン(2009年設立)のEV用に供給されることになるとする。
また、VTREのタン会長によると、落札した暁には、2024年末までに同鉱山の年間生産目標値の3分の1に当たる約1万トンを生産する意向だという。
なお、ベトナム政府が今年7月に公表したレアアース等の長期開発計画によると、2030年までにレアアース生産量を202万トンまで大増産する目標で、上記ドンパオ鉱山の他、いずれも北西部のライチャウ省・ラオカイ省・イエンバイ省内の計9鉱山で再稼働や新規開発を進める意向だとしている。
この結果、ベトナムのレアアース生産量は、現在は中国の僅か2%に過ぎないが、2030年までには中国が将来計画としている数量の15%前後に匹敵することになる見込みである。
(注1)レアアース(希土類元素):31鉱種あるレアメタル(希少金属、和製英語で英語圏ではマイナーメタルと呼称)の中の1鉱種で、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素の計17元素の総称。レアアースは蓄電池や発光ダイオード、磁石などのエレクトロニクス製品の性能向上に必要不可欠な材料。具体的用途は、超強力磁石の磁性体(モーター、バイブレータ、マイク、スピーカーなど)、ガラス基板研磨剤(ディスプレイ、HDDなど)、蛍光体(照明、ディスプレイ、LEDなど)、光ディスク(DVD、CD、Blu-ray Disc)、石油精製触媒、自動車用排気ガス浄化触媒、レーザー、原子力産業(制御棒、核燃料添加剤など)、光学ガラス(望遠鏡、顕微鏡、カメラ、プリズムなど)、ニッケル・水素充電池、等広範囲。
(注2)ドンパオ鉱山:約700万トンのレアアース埋蔵量を誇るベトナム最大の鉱山。2015年まで豊田通商・双日の合弁企業が操業していたが、中国産レアアースの大規模生産・供給の波に押されて稼働停止。
閉じる