中国の電気自動車(EV)業界が、共産党政府からの多額の補助金をバックに安値攻勢を展開し、欧州及びアジア市場を席捲している。ただ、最大市場の米国については、米中間政治対立がどう展開していくか読めないため、市場参加に二の足を踏んでいるとみられる。
5月1日付
『AP通信』は、中国のEV業界が、公的支援を受けて安値攻勢をかけ、欧州及びアジア市場を席捲しているが、米国市場については、米中対立の先行きが不透明なことから二の足を踏んでいる、と報じている。
中国のEV業界が、共産党政府からの多額の補助金を糧に安値攻勢をかけ、欧州及びアジア市場を席捲しており、EV世界最大手の米テスラ(2003年設立)も脅威に感じている。
テスラのザッカリー・カークホーン最高財務責任者(38歳、2019年就任)は1月25日に開催された米財務アナリストとの会議において、中国EV業界は小型SUV(スポーツ用多目的車)を10万人民元(1万4,500ドル、約196万円)で積極販売を仕掛けてきており、“大変脅威となっている”とコメントしている。
中国EVはハイブリッド車 含めて、昨年690万台を売り上げており、実に世界の販売総数の半分を占める程となっている。
中国トップ5社の業容・戦略は以下のとおりである。
●BYD Auto(比亜迪汽車、2003年設立、本社広東省深セン)
・2022年の総輸出台数は5万5,916台と前年比4倍増で、主な輸出先はインド、タイ、ブラジル他の新興市場。
・メキシコの大手タクシー会社VEMO向けに昨年4月、1千台のEV販売契約を締結。
・英国、スウェーデン、ドイツ、オランダのディーラー企業と提携し、これらの国はもとより、ベルギー、デンマーク、オーストリア市場への供給も画策。
・欧州最大のレンタカー企業SIXT(1912年設立、本社ドイツ)向けEV販売契約が成立していて、今後6年間で10万台の供給見込み。
・日本では横浜に今年2月に展示販売店を開店。トヨタ、日産、BMW、フォルクスワーゲン、シボレー等、大手販売店が犇めく界隈に位置し、同店を皮切りに、2025年までに日本全国に100店舗開設意向。
・車好きのある日本人経営者が『AP通信』のインタビューに答えて、“運転がしやすい特色であることと、値段が購入の決め手”だとし、テスラ車の約4分の1の440万円(3万3千ドル)で購入とコメント。
・子供1人を持つある父親は、“運転がしやすいばかりか、車内の広さも十分あるのに価格が手頃だったから購入”とコメント。親族から、日中間の歴史問題等での対立にも拘らず中国車購入を非難されたが、“技術が卓越していることが決め手で、(最新技術を展開する)中国国民も尊敬している”と反論。
・一方、同社は、米国市場向けは慎重で、10年ほど前にロスアンゼルス郊外に組立工場を建設しているものの、“まだ米市場進出は過渡期”だと表明。
・世界的なデータ解析・コンサルティング企業のグローバルデータ(1999年設立、本社英国)アナリストのデビッド・リア氏は、“米中間の政治的対立のため、EVに限らず中国企業が米市場に投資促進することは難しいと判断している”と分析。
●NIO(上海蔚来汽車、2014年設立)
・中国国内で、同社製EVをテスラ並みの55万5千人民元(8万ドル、約1,080万円)で販売推進。
・今年、欧州市場に最新モデルの高級SUVを投入予定で、1回の充電で610キロメートル(380マイル)走行可能であるばかりか、音声操作システムも搭載。
・上海モーターショーの会場で、創業者兼最高経営責任者(CEO)の李斌氏(リー・ビン、48歳)は『AP通信』のインタビューに答えて、“当社最新モデルは、SUV高級車市場で十分戦える自信がある”と表明。
・ただ、李CEOも米市場については、“装置産業として大変な準備と資金が必要であり、簡単に進出できるものではない”と慎重なコメント。
●Geely(浙江吉利控股集団、1986年設立、ボルボ、メルセデスベンツ株主)
・今年、EVセダン及びSUVをオランダ、スウェーデンで販売開始予定。
・中国人及び欧州人の技術者をスウェーデン南西端のヨーテボリ在の、ボルボ本社隣接地の研究施設に常駐させて新車開発に投入。ただ、生産工場は中国東端の浙江省杭州市。
・同社子会社の高級車販売会社のスピロス・フォティーノCEO(元トヨタ、レクサス在籍)は『AP通信』のインタビューに答えて、“2030年までに当社高級EV車を欧州におけるリーダーブランドに仕立て上げる野望を持っている”とコメント。
●Great Wall Motors(長城汽車、1976年設立の中国最大に自動車メーカー)
・欧州において、小型EVを14万人民元(2万ドル、約270万円)台で販売促進。
・同社傘下の販売会社幹部は、“セカンドカーとしての販売戦略で、ショッピングや子供の送迎等に使用する主婦や母親が販売対象”と強調。
●BAIC(北京汽車、1958年設立の国営企業)
・今年1月、ヨルダンのディーラーが小型EVを1千台販売。
・更に、別の2つか3つのEVモデルを引っ提げて、南米、東南アジア、欧州向けに販売攻勢を仕掛ける意向。
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