調査報道・新世紀・中国“経済失速”の真実~(11/5放送)
恒大グループや碧桂園など不動産大手の経営危機が相次いで発覚し、今、中国では関連する業界に不況の波が押し寄せている。今回の調査では中国経済の専門家や香港のNGO、元IMFの職員などと連携し、独自の分析を試みた。そこから浮かび上がってきたのは公式の統計には表れない巨額の債務がはらむリスクだった。更に中国政府が発表する高いGDPの値が経済の実態を反映していない可能性が見えてきた。
1800兆円余りにまで膨れ上がっていた地方政府全体の債務。...
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恒大グループや碧桂園など不動産大手の経営危機が相次いで発覚し、今、中国では関連する業界に不況の波が押し寄せている。今回の調査では中国経済の専門家や香港のNGO、元IMFの職員などと連携し、独自の分析を試みた。そこから浮かび上がってきたのは公式の統計には表れない巨額の債務がはらむリスクだった。更に中国政府が発表する高いGDPの値が経済の実態を反映していない可能性が見えてきた。
1800兆円余りにまで膨れ上がっていた地方政府全体の債務。個々の政府の財政はどこまで悪化しているのかについて番組では地方政府ごとの債務比率を調べることにした。31の省や直轄市などのうち、債務の比率が特に悪い10か所を見てみるとワースト1位は天津。債務の比率は1000%を超え、債務の残高は50兆円を超えていた。2位の重慶以降は内陸側に集中。西安のある陝西省はワースト10位で債務の比率が506%で、債務残高は56兆円余り。陝西省に加え3位の湖南省と9位の河南省は賃金未払いのデモが多発していた。ワースト7位の黒竜江省ではおととし鶴崗が事実上財政破綻をしたとみられている。
2000年代に入って年平均8%という中国の高いGDP成長率を支えてきた公共インフラへの投資は地方政府に総額1800兆円余りの債務を負わせ、中国経済にとっても大きなリスク要因となっていた。債務比率が最も悪い地域の一つ、内陸部の貴州省の省都貴陽市を現地取材すると、目立ったのは真新しい超高層ビルの数々だったが、街の郊外に出てみると山と山をつなぐ巨大な橋があちこちに造られ、6車線もある幹線道路を通るのは車ではなく歩く人だった。工事が中断されたまま放置されたビルや道路も少なくなかった。それらは無駄な公共インフラにしか見えず、GDPの成長率に比して地域の経済がそれほど発展していない実態が痛感された。
今、世界中の研究者から中国のGDPの値を巡り疑いの声が上がっている。米国・シカゴ大学・ルイスマルティネス教授は衛星画像から見える夜間照明の強さを分析することでGDPを推計している。経済活動を夜間の照明の光の強さと密度で数値化し、それらを計算することによりGDPの推計を可能にするこの手法は近年、世界銀行などの国際機関からも経済規模をはかる新たな指標として注目されている。この手法で見ると中国のGDPの値は疑わしいという。
香港大学名誉教授・スタンフォード大学客員研究員・シュチェンガンは「中国の役人はGDPの成長率を押し上げるためにあらゆる手立てを講じている。そのトリックのひとつが巨大なインフラ建設を進めることだった。労働力を費やしたり、お金を費やしたりして何かに取り組んでいれば、仮に生産しているものが冨を産まなくてもGDPは成長する。こうしたことを考慮すると中国のGDP統計は富の創造とは無関係である」と語った。
富を十分に生まなくてもGDPを押し上げようとしてきた地方政府。なぜそこまで執拗にGDPにこだわり続けてきたのかについて、地方政府で開発を担当してきた現役職員に問うと「GDPは非常に重要な数字で、昔も今も変わらず決定的な指標。その年に地方政府が何をしたのかを中央政府はGDPを通じて把握することができる。指標が良ければ報酬が与えられ、悪ければ冷遇されるので、全ての地方政府の幹部は本当にストレスを抱えている。今のようなGDPの成長モデルを続ければ地方政府は必ず破綻するだろう」と答えた。
改革開放以降、高い経済成長率を達成することで政権への批判を封じ込めようとしてきた中国。今回の取材から見えてきたのは経済が失速する中で全国で多発していた賃金の未払いだ。その陰には1800兆円余りの巨額の債務を抱えた地方財政の危機的な状況があった。これまでの不動産やインフラ投資に依存してきた成長モデルも限界を迎えようとしている。構造的な問題こそが経済の長期低迷を引き起こす元凶となる可能性がある。中国経済の先行きにはこれ以外にもさまざまな課題が横たわっている。その一つが個人の抱える債務が経済全体に与える影響である。これまでマンションなどへの投資の動きが活発だった中国だが、今は不動産の売買が低迷している。住宅ローンなど中国全体の家計が抱える債務は増加し続け、現在1400兆円余りに拡大している。
債務の返済が負担となり、今後、個人消費が伸び悩む可能性があると指摘されている。更にもう一つの課題が今後進むと見られる人口減少で、去年、中国は国全体で61年ぶりの人口減少に直面した。地方政府の中には社会保障費がこの10年で4倍に増加した地域もある。一部の地方政府では年金の積立金が底をつくなど、財政を圧迫し、債務を膨張させる要因となっている。こうしたさまざまな要因が重なり、IMFが今年発表した試算では2027年にGDPは3%台にまで低下するという。世界や日本にも波及しかねない中国経済の長期低迷の可能性。番組では今後も取材を続行していく。
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ハマスとイスラエル・対立激化どこまで~(10/22放送)
世界が置き去りにしてきたパレスチナ問題は今、これまでにない激しさで世界を揺さぶっている。
ガザ北部にとどまり、連日激しい空爆にさらされているパレスチナ人・サイードマカドマは「30分後、私が生きているかどうかもわからない。国際社会が今、起きている問題の根源に目を向けることを願っている。これは今、現れた問題ではないのだ」と語った。
ハマスとイスラエルの対立の背景には2つの民族がたどった苦難の歴史がある。...
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世界が置き去りにしてきたパレスチナ問題は今、これまでにない激しさで世界を揺さぶっている。
ガザ北部にとどまり、連日激しい空爆にさらされているパレスチナ人・サイードマカドマは「30分後、私が生きているかどうかもわからない。国際社会が今、起きている問題の根源に目を向けることを願っている。これは今、現れた問題ではないのだ」と語った。
ハマスとイスラエルの対立の背景には2つの民族がたどった苦難の歴史がある。ユダヤ人、アラブ人双方にとっての聖地エルサレムの一帯はパレスチナと呼ばれ、長きにわたってアラブの人々が暮らしていた。
一方、世界各地に離散したユダヤ人は迫害の歴史を歩んでいた。第2次世界大戦中ナチスドイツによるホロコーストで600万人が虐殺されたユダヤ人に対し終戦後、欧米を中心に同情の声が寄せられ、アラブ人が住んでいたパレスチナを分割し、ユダヤ人に与えることが国連の決議によって決まった。
ユダヤ人は、約束の地での建国という悲願を果たした形だが、その地に以前から住んでいたパレスチナ人は逆に故郷を追われることになった。これに反発する周辺のアラブ諸国とイスラエルとの間で以後、戦争が繰り返されていく。
欧米を後ろ盾とするイスラエルは軍事力で圧倒し、国際的な取り決めに反してパレスチナ全土を占領下に置いた。世界が手をこまねく中、パレスチナ人は投石やテロによってイスラエルへの抵抗運動を繰り返した。
1993年、和平への機運が高まった。パレスチナの暫定自治を認める合意がなされ、イスラエル軍が段階的に撤退することになった。ところがパレスチナの国家樹立を目指すこの交渉は暗礁に乗り上げ、再び衝突が勃発した。
そのころ、武装闘争を掲げて台頭したハマスの拠点となっていたのがガザ地区で、そこでハマスはイスラム原理主義の教えを説き、イスラエルに対する武装闘争を呼びかけ、軍事部門を強化していった。
ハマスはアラブ諸国から寄せられる資金を使い、家や家族をなくした人々への見舞い金や物資の支援なども行っていた。パレスチナの人々がさらに孤立を深める要因となったのがイスラム過激派による米国同時多発テロだった。
世界がテロとの戦い一色に染まる中、イスラエルも自分たちを攻撃するハマスをテロ組織だとしてガザへの攻撃を激化させた。住民の犠牲は増え続けたものの、米国は一貫してイスラエルを擁護。国際社会が長年にわたってパレスチナ問題を置き去りにしてきた中で今回の事態が起きた。
今、パレスチナを巡る緊張が世界の至る所に火種を広げ、各地で分断が深まっている。米国最大規模のユダヤ人コミュニティーがあるニューヨークではイスラエルを支持するデモのすぐそばでパレスチナを支持するデモが起きていた。互いの憎しみは殺人事件にまで発展するなど、テロへの警戒も高まっている。
イスラエル政府とハマス双方は双方が子どもを題材に自分たちに有利な物語を作り、SNS上で対立感情をあおっている。さらに世界中の市民たちが分断を加速させるこうした投稿を拡散させていった。
国連ではイスラエルを擁護する国とパレスチナを支援する国が対立し、安全保障理事会に提出された一時停戦を求める決議案は米国の拒否権発動によって否決された。
東京大学大学院・鈴木啓之特任准教授は「仲介者のいない戦争。ウクライナ情勢、米中関係によって各国に軸ができていて国際社会が一丸となって地域紛争に取り組むということがますます困難になっている。今の事態をなるべく推移を見守り、覚えておくことが将来への希望をつなぐことになるだろう」と指摘した。
慶應義塾大学・錦田愛子教授は「当事者を含め、一度クールダウンをして頭を冷やすべき。人命優先の対策をとることが求められている。ラファを通しても民間の支援物資を入れることによって戦闘に関係ない人々がそこで命を次々と落とすような状況にならないように国際社会が圧力をかけていく必要がある」と提言した。
ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがかつてない攻撃を仕掛けてから2週間余り。イスラエル軍の地上侵攻が始まるのも時間の問題だとみられている。
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地球科学の最前線・天変地異の秘密に迫る~(BS1:2022年3月23日の再放送)
地球が誕生して46億年。その間、火山噴火、巨大地震、大型ハリケーンなど天変地異を繰り返してきた。天変地異はなぜ起こるのかについて科学者から様々な説が発表されている。
台風は地震の引き金となり、火山の噴火は海流を変える。さらには氷河の変化が火山活動を引き起こすことにつながっている。
まずは地震と台風の関係から見ていく。今、気候変動の影響による台風の大型化が懸念されているが、それらが地震の引き金になると主張する科学者がいる。...
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地球が誕生して46億年。その間、火山噴火、巨大地震、大型ハリケーンなど天変地異を繰り返してきた。天変地異はなぜ起こるのかについて科学者から様々な説が発表されている。
台風は地震の引き金となり、火山の噴火は海流を変える。さらには氷河の変化が火山活動を引き起こすことにつながっている。
まずは地震と台風の関係から見ていく。今、気候変動の影響による台風の大型化が懸念されているが、それらが地震の引き金になると主張する科学者がいる。
フランス・レンヌ大学の地形学の専門家・フィリップステア博士は地下200メートルに設置した計測器で台風が通過した後の地殻変化を調べた。その結果、髪の毛の直径のわずか100万分の1未満という歪みを感知した。博士によれば「台風が通過する時のメカニズムは大きく分けて2つあり、台風は低気圧なので、海であれ陸であれ、わずかであるが、地面の表面を上に引きあげる力を発生させる。さらに大雨が影響し降り注いだ雨が地中や川にたまっていく。こうして蓄積された大量の水の重さが地殻にのしかかる。この一連の伸び縮みが地殻を刺激することにつながり、地震を引き起こす可能性がある」と主張している。
次に火山の噴火が海流を変化させることについてみていく。フランス国立科学研究センターのディディエスィンケドゥ博士は火山の噴火と海流の関係性を調べている。北極圏で冷やされた水は冷やされた重みで海底に沈むが、この動きが原動力のひとつとなり、海流となる。今度は北極圏の海水の動きに呼応して大西洋の熱帯域で温められた海水が北へと運ばれるが、その海水は北極圏で冷やされ海底に沈み、地球規模の海水の循環が続いていくことになると博士は説明する。
その上で博士は海流の循環は火山噴火によって変わってしまうとする。1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火によって太陽光が遮られた結果、地球の平均気温は0.4度下がり、その結果、北極圏における冷たい水が増え、水の沈み込む勢いが増し、メキシコ湾流のスピードが速まる状態が20年以上続いたという。海流の循環が速くなると赤道付近の暖かい空気も通常より多く運ばれた可能性がある。火山噴火と海流という一見無関係な自然現象が複雑に絡み合っているのである。
最後は氷河の変化が火山活動を引き起こすことの関連性についてみていく。
地球温暖化によって南極の氷が融けていることは疑う余地はないが、実はもうひとつのファクターがあると主張するのがミネソタ大学の科学チーム・マックスバンウイックドゥブリスである。彼らはアイスランドの氷河が南極大陸と似ていることから、南極の氷の下にも大陸があるのではないかという仮説に基づき研究を進めた結果、南極の西側に一列に並ぶ火山群約3000キロメートルが埋もれていることが判明した。
氷の下の地面には氷の重さで圧力がかかり、それがマグマの上昇を防いでくれているが、氷が融ければその圧力が弱まりマグマは上昇し、ついには噴火が起きる。噴火が起きると氷がより早く融け、氷が融けると噴火が増えるという最悪のサイクルが生まれることになる。
南極大陸の氷が全て融ければ海面が50メートル以上も上昇し多くの都市が海に沈んでしまうことになる。地球の行方を左右する科学者たちの研究は今日も続けられている。
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映像記録・関東大震災-帝都壊滅の三日間~(9/3放送)
1923年9月1日、帝都・東京を関東大震災が襲った。10万5000人余りが亡くなり、帝都東京は壊滅状態となった。
当時、日本一高い建物だった12階建ての浅草凌雲閣は8階から上が折れ、炎を噴き出していた。
関東大震災の被害を広げたのは地震以外にも、火災によるところが大きかった。火災を広げたのは当時、吹いていた風速10m前後の強風で、東京の至る所134か所で火災が発生させることとなった。
9月1日午後4時前、隅田川沿いの軍服工場が移転したあとにできた広大な空き地・陸軍被服廠跡(両国)に震災で家屋を破壊された4万人にのぼる人々が避難した。...
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1923年9月1日、帝都・東京を関東大震災が襲った。10万5000人余りが亡くなり、帝都東京は壊滅状態となった。
当時、日本一高い建物だった12階建ての浅草凌雲閣は8階から上が折れ、炎を噴き出していた。
関東大震災の被害を広げたのは地震以外にも、火災によるところが大きかった。火災を広げたのは当時、吹いていた風速10m前後の強風で、東京の至る所134か所で火災が発生させることとなった。
9月1日午後4時前、隅田川沿いの軍服工場が移転したあとにできた広大な空き地・陸軍被服廠跡(両国)に震災で家屋を破壊された4万人にのぼる人々が避難した。
何かが起きれば「被服廠跡に行けばよい」というのが当時の地元住民の合言葉だった。
被服廠跡は避難した4万人でごった返していた。これで助かったと思ったのか、みなが安堵の表情を浮かべていた。
ところがその数時間後、高さ数十mにも及ぶ炎の竜巻、火災旋風が避難民を襲った。驚くべきことに3万8000人が命を落としてしまった。被服廠跡は焼け焦げた遺体で埋めつくされていた。
火災旋風は風の流れに偏りがあるところで発生しやすいという特徴がある。隅田川の上は障害物がないので風がまっすくに通りやすいのに対し、市街地は家屋等の障害物があり風の流れが緩やかになっている。この2つの境界で速度の違う風がぶつかり合い、偏りが生じて火災旋風が発生したと考えられる。
火災旋風はあたかも狂暴な獣のように被服廠跡2万坪の広場を駆け回り人々を舞い上げ、焼き尽くしていった。
被服廠跡に避難した人々は自身の家財道具一式を持ち避難していたため、それが燃え草となって火災の領域を拡大させ火災旋風の通り道を作ってしまった可能性が高い。
東京シネマ商会のカメラマン・白井茂が後年、焼き尽くされた被服廠跡の様子を「後世の為に撮っておきたい」と警官に断りを入れて撮影しようとしたところ、「いいでしょう。撮りなさい」と許可を得ることができた。
ところが、この警官は「ここの死骸の山だけは撮らないでくれ」と言ってきたという。
理由を聞いたところ、「これは私の家族なんだ」という答えが返ってきたという。まさに関東大震災とそれに続く火災旋風の恐ろしさを感じさせるエピソードである。
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わが子が“闇バイト”に手を染めるとき~(8/27放送)
強盗や特殊詐欺など連日のように報じられる闇バイトをきっかけとした事件。警察庁によると去年特殊詐欺に関わって検挙された2458人のうち、66%が10代から20代の若者だった。なぜアルバイトで稼げる以上の金を持っているのか、疑心暗鬼に陥る親が増えており、都内の探偵事務所には今わが子の素行を調査してほしいと依頼が相次いでいるという。
NHKでは全国の少年院を対象に闇バイトに関するアンケート調査を実施し、587人からの回答を得た。...
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強盗や特殊詐欺など連日のように報じられる闇バイトをきっかけとした事件。警察庁によると去年特殊詐欺に関わって検挙された2458人のうち、66%が10代から20代の若者だった。なぜアルバイトで稼げる以上の金を持っているのか、疑心暗鬼に陥る親が増えており、都内の探偵事務所には今わが子の素行を調査してほしいと依頼が相次いでいるという。
NHKでは全国の少年院を対象に闇バイトに関するアンケート調査を実施し、587人からの回答を得た。このうち闇バイトをしたことがあると答えたのは120人。動機として最も多かったのが「遊ぶ金が欲しかった」で、全体の45%を占めた。家庭の経済状況を尋ねると66%が「平均以上の家庭だった」と回答したことから、生活の苦しさとは関係なく闇バイトに関わる若者がいることが分かった。闇バイトを犯罪だと認識していたのは8割近くに上っていた。
その一方で、3割は罪悪感が乏しいままだったことがアンケート結果から見て取れる。罪の意識なく闇バイトに手を染めたあと、失ったものの大きさに気が付く若者もいる。半年にわたって闇バイトを繰り返し、懲役1年8か月の実刑を受けた男性は、コロナ禍で仕事を失い、パチンコなどで借金を作り、闇バイトでクレジットカード情報の不正使用などを繰り返すようになり、逮捕されたが、その後も自分の不遇を嘆く日々が続いた。
こうした考えが変わるきっかけになったのは毎月2通以上送られてきた父親からの手紙だった。この手紙によって自分の罪がどれだけ家族を苦しめることになったのかを思い知ったという。男性は出所後、一から仕事を探し、今は家電修理の職を得て、「地道に稼ぐ姿を家族に示したい」と思っている。
全国の少年院のアンケート調査では「家族に悩みごとを相談できたか」という問いに対して闇バイト経験者の6割が「相談できなかった」と回答した。内訳を見ると「家族関係に問題はない」という回答と「悪かった」という回答がほぼ半々で、家族関係のよしあしにかかわらず家族に相談できない状況があることが分かった。
かつてSNSで闇バイトの実行役を集めるリクルーターの役割をしていたという男性は、家族に相談できない若者の心理を逆に利用して犯罪に引き込んでいたとその内情を語った。
高齢者からキャッシュカードをだまし取るなど4件の特殊詐欺の犯行に関与した女性は、家族と暮らしている自宅の住所を知られており、「(詐欺の仕事を)断れば家族がどうなっても知らない」と脅されたため、家族に相談できなかったと話している。
交通事故によって亡くなった際に、尋常でない数のSIMカードが部屋から発見され闇バイトをしていたことが発覚した大学生は、亡くなる5日前、「闇バイトに足を踏み入れてしまった自分はどう生きていけばいいのか」「光の世界で金を稼ぎ、生きていくのか、闇の世界で稼ぎ生きていくのか。そろそろ新しい世界へ旅立たないといけない」などと語る動画をSNSに投稿していた。父親は「未成年ということを考えれば、親の責任は逃れられないと思う」と後悔の念を隠すことはなかった。
父親は息子がまだ闇バイトをしていなかった頃に2人旅をしたことのある広島を再び訪れてみた。当時と変わらない穏やかな海辺がそこにあったが、砂浜を歩き続けていた父親の後ろ姿は寂し気にみえた。
闇バイトという若者の未来も家族の絆も全てをのみ込んでしまう底なしの闇は今も甚大な被害を生み出し続けている。
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