10/8 「マネーワールド~資本主義の未来~第2集・仕事がなくなる!?」
今世界でAIやロボットの実用化が急速に進んでいる。日本の大手金融グループがAIなどを使って業務を効率化し1万9000人を削減すると発表。更にほかの大手グループもAIなどを使った大規模な業務の削減を発表するなどしている。
2030年までに人間の仕事の3割がAIやロボットに置き換わるという予測も出ている。AIやロボットを所有するひと握りの人に富が集中する一方で多くの人々が仕事を失い賃金を得られなくなる不安が高まっている。...
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今世界でAIやロボットの実用化が急速に進んでいる。日本の大手金融グループがAIなどを使って業務を効率化し1万9000人を削減すると発表。更にほかの大手グループもAIなどを使った大規模な業務の削減を発表するなどしている。
2030年までに人間の仕事の3割がAIやロボットに置き換わるという予測も出ている。AIやロボットを所有するひと握りの人に富が集中する一方で多くの人々が仕事を失い賃金を得られなくなる不安が高まっている。NHK取材班がAIの未来にメスを入れる。
ゲストのソフトバンクグループ・孫正義社長は「かなりの部分でAIやロボットに奪われていく仕事もあるが、逆に新しく生まれる仕事も出てくるだろう」と指摘した。
国立情報学研究所教授・新井紀子氏は「特にホワイトカラーの仕事が奪われる可能性が高い」と指摘したが、AIに置き換わる確率が90%以上の仕事はレジ係、路線バス運転者、一般事務員、銀行窓口係、倉庫作業員、スーパー店員、ホテル客室係、宅配便配達員、警備員、機械組み立て工、プログラマー、税務職員、行政書士、税理士、機械修理工など。60%以上が公認会計士、不動産鑑定士、司法書士、証券外務員、ディーラー、翻訳者などだ。
AIやロボットによる自動化で最も影響を受ける国は、米国の調査会社によれば日本だという。2030年までに最大で52%の作業が自動化される可能性があるという。その結果、現在の雇用の30%ぐらいが失われると分析している。AIやロボットの活用を積極的に推し進めている孫社長は、優れた技術を持つベンチャー企業を次々と買収し、さまざまな分野でロボットの実用化を目指し、AIという頭脳を得たロボットが資本主義経済のメインプレーヤーになると見ている。AIロボット、AIによる各国のGDP(2030年まで・PwC調査)は中国が26.1%、日本が10.4%、北米が14.5%など世界平均で14%となるとみられる。
孫社長は「従来型のブルーカラーと従来型のホワイトカラーの7割ぐらいは置き換えることができる。残り3割のところが本当に数的に減るかというと、逆にそこでいろんな工夫をするとか新しいデザインをするとか、開発をするとかで新しい雇用が生まれてくると思う。今AIは中国とアメリカの2大競争になっているが、日本はAIの世界では完全に2周遅れぐらいになっている。AIを日本が怖がって引っ込んでしまったら次の時代その次の時代には本当に根底から置き去りにされてしまう」と指摘した。
新井紀子氏は「我々にはロボットは人間がつらくて単純で負担が多い仕事を代わりにやってくれる存在だというイメージが強いが、実は介護をロボットで置き換えることは非常に難しい。逆にAIに得意なことであればものすごく知的なことでも簡単に置き換わってしまう。AIは自分が得意なところから人間の仕事を奪っていく」と指摘した。
孫社長は「将来必要とされる仕事って何だろう、需要のある仕事って何だろうとまず考えるべき。今すぐ欲しい人材はAIのエンジニア。あとはデザイナー。必ずしもハイテクの知恵がいるというだけじゃなくてハイタッチで人の心に感動を与えるようなパティシエなどが必要とされる」と指摘した。この指摘に新井氏が「0.1%くらいの創造クリエーティビティーのある人とか才能のある方はいいが、99.9%の方は実はなかなか難しい。その中で多くの人が不安を感じている」と反論した。
孫社長は「AIがやって来たあとの社会はある意味ローマ市民が実験したような社会で、ひとりの人間にとっても会社にとっても、国家にとってもそう言えると思うが、常に進化している世の中を悲しいと思うか、チャンス到来かと思うかで自ずと結果は全然違ってくる。変化が楽しいと思えば必ずそうなってくる」と指摘した。
この発言に新井氏は「AI化で明らかにメリットを感じているのはわずかな資本家なわけで、孫さんもそういう資本家のひとりだ。その資本家が実際に仕事を奪われる人に対して、それは気持ちの持ちようだとか、もっと前向きになっていったらどうかなどという発言をするのは無責任ではないか。本来であれば資本主義が続かないと困るという立場の人が再分配の問題をきちんと解決するべきなのに、みなが生きていけるような新しい船を作らなければ社会が持続可能ではなくなってしまう。それを気の持ちようなどという言葉で終わらせるべきではない」と猛反論した。
再分配であるベーシックインカムには賛成の立場であるという孫社長は、「仕事が置き換わっていってなくなってしまう人たちに対して最低限、ちゃんと生きていけるという安心感を提供する安全装置というのは社会としても必要だと思う。ベーシックインカムの問題点は財源で、国そのものがベーシックインカムを提供する財源を持てるほど豊かな国であり続けなければならない。そのためには中長期の抜本的解決としては日本国が転げ落ちないように日本企業は前に前にどんどんやっぱり攻めていくべき。中長期と今の問題との両方をやらないといけない。具体的な解決は攻めのところをまずしっかりやる。それも全速力でやらなきゃいけない。勝って得点した企業からベーシックインカムに配分していくべきだと思う」とまとめた。
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10/6 「マネーワールド~資本主義の未来~第1集・お金が消える!?」
今、現金が急速に姿を消し始めている。スマートフォンによるデジタル決済、人体に埋め込むICチップ。目や顔の認証を使ったシステム。仮想通貨やブロックチェーンの拡大。いま私たちの暮らしから、どんどん現金が姿を消している。新たな決済システムが出てきている。今回、NHKは総力をあげてキャッシュレス化の“深層”に切り込んでいく。
スウェーデンでは現金を使うことをやめる試みをしたところ、経済が活性化したという。...
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今、現金が急速に姿を消し始めている。スマートフォンによるデジタル決済、人体に埋め込むICチップ。目や顔の認証を使ったシステム。仮想通貨やブロックチェーンの拡大。いま私たちの暮らしから、どんどん現金が姿を消している。新たな決済システムが出てきている。今回、NHKは総力をあげてキャッシュレス化の“深層”に切り込んでいく。
スウェーデンでは現金を使うことをやめる試みをしたところ、経済が活性化したという。多くの店で「現金お断り」とした結果、現金流通量の割合は1.3%に激減した(東短リサーチ推計)。代わって広がったのがスマホ決済だ。スウェーデンではスマホ決済アプリ「Swish」で暮らしが成り立っている。レストランでの食事、街での買い物、路上パフォーマンスのおひねり、教会の寄付までスマホで支払う。その結果、経済が以前より活性化し、GDPは5年で24%増加している。キャッシュレス研究の第一人者、スウェーデン王立工科大学准教授・ニクラスアービットソンは「デジタル決済だと人は頻繁にお金を使う傾向があることが明らかになってきた。経済にポジティブな影響があることは間違いない。産業や社会にお金を回すにはとても有効な方法だ。現金をやめれば物を買う心理的なハードルが下がり、より手軽に支払うようになる」と分析している。さらにICチップを手に埋め込む人たちも出てきた。手をかざすだけで支払いが可能。キャッシュレス化は犯罪にも有効で、銀行強盗も激減しているという。
ドイツでも個人や企業にお金をどんどん使ってもらうための斬新なアイデアが注目を集めている。約90年前、世界恐慌の影響で不況に陥っていた時代。人々はお金を使わなくなり、経済が停滞する悪循環が起きていた。その打開策として経済学者・シルビオゲゼルが提唱したお金に使用期限をつけるスタンプ紙幣。これが今、最新のテクノロジーによってよみがえろうとしている。トラウンシュタインで買い物に使われる地域通貨「キームガウアー」のカードでは利用者はユーロと1対1で両替し、専用の口座にポイントがデータとして入金される。使わなければ年間6%目減りする。両替した額の3%が加算され、利用者は全額を好きな団体や施設に寄付することができる。キームガウアーの寄付が集まった教会ではパイプオルガンが故障していたが、新たなオルガンを購入できた。地元サッカークラブはこの寄付金でユニフォームやボールを買った。キームガウアー代表・クリスティアンゲレリは「キームガウアーが明らかにしたのは多くの人がお金をため込む選択をやめ、積極的に使うようになったことで、これは停滞した経済にとってひとつのヒントとなるものだった」と話した。
お金にとって欠かせないのは信用。かつてそれを支えたのは金だった。希少性が信用となり、金と交換できる兌換紙幣が世界経済を支えたのがいわゆる金本位制である。経済規模が拡大するにつれ、国は無限に印刷することのできる不換紙幣に切り替えた。信用は国家が支えることになった。かつて金の採掘で栄えたスイス・ゴンド村。鉱山が廃れたいま、村に設置されているのはコンピュータで仮想通貨を生み出している。仮想通貨とはネット上でやりとりされるデジタル通貨のこと。仮想通貨は世界各地で巨額の盗難事件が相次いでいることで話題になることが多いが、この発想であるブロックチェーンという仕組みは画期的なものである。現在のお金は各国の中央銀行が管理しているが、仮想通貨では管理者がおらず、発行量はプログラムによりあらかじめ決められ、勝手に増やすことができない(ビットコインの場合)。国境の概念のない独自の通貨のため大企業の倒産や金融危機、為替、貿易摩擦などによって価値が左右されることもない。取引記録はネット上の利用者全員が共有し、一部で不正があっても他の無数のパソコンで正しい記録が保たれる。信用をテクノロジーが支える仕組みとなっている。タフツ大学教授・バスカーチャクラボルティは「まだ黎明期の仮想通貨には課題が多く残されているが、目指す信用のあり方には可能性がある」と指摘する。
仮想通貨に可能性はあるのか。これまでは国家の力が信用を支えていた。仮想通貨は今までの信用のあり方を国家からテクノロジーが支える方向に切り替えた。ここでは米国や日本という国家を信用するのか、数学を信用するのかという話になってくる。米国や中国のように覇権を持っている国は仮想通貨をあまり面白くないと感じており、仮想通貨は使わないでほしいという政策をとっている。実は日本は先進国の中では仮想通貨には積極的であり、その可能性にかけている国のひとつである。通貨の強い国は従来の仕組みでコントロールしたいと考えているが、日本が仮想通貨を導入しようとしているわけは米国が昔コンピューター産業で国をV字回復させたように日本は仮想通貨という新たなテクノロジー、ブロックチェーンで経済をV字回復させたいという思いがあるためである。現状は99%が投機目的で送金・支払いに使っている人はわずかに1%未満だという。
現金が将来、技術的になくなるのは間違いない。ただし日本に話を戻せば、今の円を中心に回っている経済が劇的にすぐ変わるということはないだろう。あくまでも今の循環の中で現金・キャッシュだったものがスマホ決済に代るとか、カードが普及するというだけの話であり、全部ビットコインにいくとかいう話ではない。それには相当程度の時間がかかる。しばらくはいろいろなシステムが共存していくのではないだろうか。ノーベル経済学賞受賞・スタンフォード大学名誉教授・マイロンショールズは未来の通貨について「従来の通貨はキャッシュレス化によって取引をさらに加速していくことだろうその裏で使った人のデータが集められ分析され経済を回すための試みは極限まで進むだろう。同時に個人をつなぐ全く異なる価値観の通貨が次々と生まれてくる。進化する従来の通貨に新たに生まれた通貨が挑むマネー新時代が訪れる」と語った。
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9/15 「人工知能・天使か悪魔か」
人工知能の爆発的進化で、未来が正確に予測できるようになってきた。未来が未知のものでなくなろうとしている先には、どんな未来が到来するのだろうか。人工知能の最前線をNHK取材班が総力取材した。
7月上旬、西日本を襲った豪雨は200人以上の命を奪う大惨事となった。気象庁が「西日本に記録的な大雨のおそれがある」と警戒を呼びかけたのは7月5日午後2時だった。その14時間前、すでに世界最大の民間の気象情報会社・ウェザーニューズ社はインターネット上で「歴史的な豪雨となるおそれがある」との警告を発していた。...
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人工知能の爆発的進化で、未来が正確に予測できるようになってきた。未来が未知のものでなくなろうとしている先には、どんな未来が到来するのだろうか。人工知能の最前線をNHK取材班が総力取材した。
7月上旬、西日本を襲った豪雨は200人以上の命を奪う大惨事となった。気象庁が「西日本に記録的な大雨のおそれがある」と警戒を呼びかけたのは7月5日午後2時だった。その14時間前、すでに世界最大の民間の気象情報会社・ウェザーニューズ社はインターネット上で「歴史的な豪雨となるおそれがある」との警告を発していた。最も危険なのは広島、岡山、愛媛と、場所も正確に予測していた。ウェザーニューズ社は今年2月に人工知能を導入した。予測の材料はなんと雨雲レーダーの画像だけである。過去3年分の雨雲の画像を学習し、雨雲が時間とともにどのように変化するかのパターンを導き出した。それを現在の雨雲の画像にあてはめ、今後雲がどのパターンにのっとって変化していくかを予測することができる。この人工知能を開発した責任者の西祐一郎は「必ずしも因果関係がはっきりしていなくても答えが出てくる。これがいちばん確率が高いということを考えてくれるのが人工知能のすごいところだ」と胸を張った。
鹿児島県姶良市は過去度々台風の被害を受け、土砂崩れなどで多くの犠牲者を出してきたが、今年から人工知能を使ったウェザーニューズ社の気象予測情報を導入した。人工知能の予測に従い、先手先手の決断を打ち出していくことができた。姶良市危機管理課・庄村幸輝課長は「人工知能がピンポイントで情報を流してくれるのが、すごく助かった。新しい武器になっている」と話した。
世界的な気候変動では農業や漁業も翻弄されているが、この分野でも人工知能が助けとなっている。漁業でも最近の天候異変でこれまでの経験や勘は通用しなくなり、不調が続いている中で、漁で使うための人工知能の開発が進んでいる。例えば海の表面温度などからミズダコが生息する海底の水温を読み解き、どこに獲物がいるかを予測することができる。さらに農業でも人工知能の開発が進んでいる。いつ種をまき、いつ農薬を散布すべきか、最適なタイミングを人工知能が予測してくれるという。
一方、米国で急速に普及しているのが、犯罪を予測できる人工知能だ。ネブラスカ州リンカーン市警察では2年前から犯罪捜査に人工知能を導入し、数時間以内に起こりそうな犯罪の種類や場所を予測し、指示を出している。開発したのはベンチャー企業・Azavea社だ。米国で12か所の警察がこのシステムを導入している。人工知能が学習したのはリンカーンで起こった犯罪の記録5年分、11万件ものデータだ。近隣の店の営業時間、犯罪発生時の天気、月の満ち欠けに至るまで30種類の情報を掛け合わせ、いつ、どこで犯罪が起きるかをピンポイントで予測することができるという。開発責任者・ジェレミーハーフナーが「警官がいつ、どこをパトロールすれば最大限の効果を上げられるのか、人工知能が警官に指示することができる」と語った。人工知能がこの日の午後犯罪が起こると予測したのは普段は事件とは縁遠いスーパーマーケットだった。パトロールに向かった結果、登録が切れている車から麻薬を発見し、男が麻薬所持で事情聴取を受けることになった。このように人工知能は犯罪捜査で威力を発揮している。抑止効果も手伝って米国では人工知能を導入する前の年に比べて暴力事件や性被害などの犯罪が9%、盗難は半分にまで減ったという。
しかし、人工知能による犯罪予測がもたらすことは必ずしも良いことばかりではない。ひと月70件の割合で殺人事件が起きる全米最悪の犯罪都市、シカゴは未来の犯罪者を予測することができる人工知能を導入した。シカゴ警察が導入したシステムは犯罪に関わる可能性のある人物を人工知能が予測し、リストアップすることができる。リストを作るにあたり、2013年にシカゴで起きた400件の凶悪犯罪のデータを人工知能が学習し、ネット上の交友関係までたどり、将来犯罪に関わる可能性のある人物まで洗い出した。予測者リストに挙げられた人物は40万人にも及んだ。警察はリストに載った人物のもとを訪ね、犯罪に関わる可能性があることを事前に警告した。ディストリクトオブコロンビア大学・アンドリューファーガソン教授は「問題なのはリストの人物が加害者ではなく被害者なのかもしれないということだ。人工知能は容疑者予備群を作り出してしまっている」と話す。
2020年に五輪を迎える東京だが、日本でも犯罪防止のために人工知能を導入しようという動きがある。警視庁や神奈川県警でも人工知能導入の検討が始まっている。東京に設置された防犯カメラは年々増え続け、早くも25万台を突破した。こうした中、民間の警備会社ではカメラ1台1台に人工知能を搭載しようとしている。急にしゃがみこんだり、あたりをきょろきょろするなどの異変の兆しを人工知能が見つけると、すぐに警備員へ連絡し、事件を未然に防ぐシステムとなっている。東京スカイツリーに高性能カメラを取り付ける計画も進んでいる。ドローンカメラも飛ばして東京中にくまなく人工知能の目を光らせる計画である。ALSOKセキュリティ研究所・桑原英治所長は「事前に予知、予兆をとらえることは今までにない画期的な変革点であり、警備モデルの大きな変化だ。いずれそんなに遠くない時代に、街中の至るところにあるこのカメラが知能を持って不審な動きをチェックするモデルに変わっていくと思っている」と話す。
人工知能は私たちの人生の予測まで始めている。臓器移植の中で提供を受けるのが最も難しい心臓移植。米国ではドナー3000人に対し、移植希望者は4000人。心臓をどの患者に移植すべきか、答えを出してくれる人工知能が出現した。これはロサンゼルス・UCLA病院が開発したもので、人工知能に過去30年間のデータを学習させ、患者の今後10年の生存率が心臓を移植した場合、どれだけ高まるか、上昇幅をはじき出す。医師は人工知能の予測をもとに患者の移植順位を決める。手術をするかどうかは人工知能が決めるのだ。人工知能により移植にふさわしい患者とみなされ、手術を受けた男性は術後の経過も良好だという。
さらに向こう2年間でアルツハイマー病になるかどうかを予測する人工知能も登場した。開発したのはカナダ・モントリオール・マギル大学の研究チームである。予測対象はアルツハイマー病の一歩手前、MCIの患者。予測に使うのは脳の画像検査の映像データだ。アルツハイマー病になった人の脳にはアミロイドβというたんぱくがたくさんたまっている。ただ、アミロイドβがたまっていてもアルツハイマー病には進まない人もいる。研究チームは人工知能にMCIとアルツハイマー病の患者275人の脳画像を学ばせた。人工知能はアルツハイマー病に進行しやすい人を決める場所が9か所あることを発見し、この9か所のアミロイドβのたまり具合のパターンの違いでアルツハイマー病に進行するかどうか、90%近い精度で予測できるようになった。マギル大学老化研究センター・セルジュゴーチェ教授は「これまでより3年早く診断を下すことができる。飛躍的な進化を治療の突破口としなければいけない」と話している。問題点は2年以内にアルツハイマー病に進むと人工知能によって予測されてもそれを止める根本的な方法が見つかっていないということである。
日本にも新しい動きが出ている。なんと婚活支援サービスに人工知能を導入する企業が現れたのだ。最適な伴侶探し・マッチングに人工知能の未来予測を活用するという。人工知能が解析するのは面談の際に結婚希望者がどんな結婚を望むか、休日の過ごし方などについて記した文章である。こうした文章をバラバラに分解し、使われている単語や接続詞、助詞、使う順番などから人間には分からないその人特有のパターンを見つけ出すのだという。過去結婚に至った1600組の男女がそれぞれどんなパターンだったか調べ、よく似たパターンの組み合わせの男女を選び出す。この人工知能は人物の隠れた特性を見抜けるとして他の企業でも人事評価などに活用され始めている。まもなく人工知能がすすめるカップルが初めて誕生する予定だという。人工知能の進化と共に未来予測はますます精緻なものとなり、世界を覆いつくしていくことが予想される。未来が未知のものではなくなっていく中で人間の幸せの形は変化せざるを得なくなるだろう。
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9/3 「MEGAQUAKE」
最新の科学によって南海トラフ巨大地震が起きるXデーが日本に近づいている。最新の研究をNHK取材班が総力をかけて検証した。
今年、日本列島周辺で発生した震度5弱以上を観測した地震は8回に上る。6月の大阪府北部で起きた震度6弱や7月の千葉東方沖での震度5弱など。そんな中で今、最も懸念されているのは東海から九州にかけて広がる南海トラフ巨大地震といえるだろう。最大マグニチュード9、震度7の激しい揺れと10m超の巨大津波が各地を襲うといわれている。...
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最新の科学によって南海トラフ巨大地震が起きるXデーが日本に近づいている。最新の研究をNHK取材班が総力をかけて検証した。
今年、日本列島周辺で発生した震度5弱以上を観測した地震は8回に上る。6月の大阪府北部で起きた震度6弱や7月の千葉東方沖での震度5弱など。そんな中で今、最も懸念されているのは東海から九州にかけて広がる南海トラフ巨大地震といえるだろう。最大マグニチュード9、震度7の激しい揺れと10m超の巨大津波が各地を襲うといわれている。もしこれが起きてしまった場合、東京、大阪、名古屋など日本を代表する大都市の機能がマヒし、経済損失は1410兆円と国の年間予算の10倍を超える規模となる。最新の科学によって南海トラフ巨大地震が起きるXデーがより近づいている事をNHK取材班は捉えた。中でも不気味なのがスロースリップ現象である。この現象は地下深くで地盤がゆっくりずれ動くことを指す。こうしたスロースリップが発生場所を少しずつ変えながら地震の震源域にひずみを溜め続けている可能性がある。
南海トラフ巨大地震が、今後30年間に起きる確率はこれまで70%とされてきたが、今年2月に70~80%に引き上げられた。東京大学地震研究所・小原一成所長は「ピンポイントで地震の発生を予測する事は非常に難しいが、マグニチュード8以上の巨大地震の中で、今後30年以内80%と予測されているのは南海トラフと根室沖の2か所だけしかない」と指摘する。名古屋大学減災連携研究センター・福和伸夫センター長は「東日本大震災で亡くなった人は約2万人。それに対し南海トラフでは最悪32万3000人以上の犠牲者が出ると言われている。この数には東京、大阪、名古屋など大都市圏の人も含まれている。何としてもこの被害を事前に減らす努力が必要となってきている」と指摘した。
東北大学・高木涼太助教が注目しているのがスロースリップはプレート同士が強くくっつき合った固着域周辺で発生する。陸側のプレードの一部がゆっくりとずれ動く現象で、人が揺れを感じる地震を起こさないため、これまで危険なものとは考えられていなかった。しかし、東日本大震災やメキシコ・パパノア地震、チリ・イキケ地震では地震発生前にスロースリップを観測していることが明らかになり、スロースリップが巨大地震の発生に繋がっている可能性が浮かび上がってきた。一方、南海トラフでは高木助教の最新の研究によりスロースリップの不気味な動きが見つかった。見つかったのは南海トラフの西の端、日向灘周辺の海底だった。そこでは2002年、2006年、2013年とスロースリップの発生場所が固着域に向かって移動していくような現象が繰り返されていた。高木助教はこのスロースリップの移動現象が巨大地震を切迫させる要因である可能性が高いとして警告している。移動現象が起きる度に固着域にひずみが加わり、固着域を圧迫し、ひずみが限界に達すると巨大地震が引き起こされるというメカニズムだ。
東京大学地震研究所・小原一成所長は「南海トラフではかなりひずみが溜まっている状況にあることは確かだ。さらにスロースリップが発生しひずみを加えるため、その切迫性がさらに高まっているといえる。日向灘~豊後水道~四国へ、スロースリップが固着域に向かって移動する様子が明らかになってきている。また近畿水道、浜名湖周辺でも起きていて、ここでも移動を伴う現象が起きているかを観測している。1回1回のスロースリップの発生、移動の巨大地震に対する影響は微弱といえるものだが、スロースリップが最後の一押しになる可能性があり、十分に注意を払う必要がある」と指摘した。
どうすればより正確に巨大地震の前兆を捉えられるのだろうか。今、最新の研究が進んでいる。岐阜・旧神岡鉱山跡地のある地下トンネルで、ごくわずかな地震の兆候を捉えようという試みが行われている。東京大学・新谷昌人教授はレーザーを使って地盤のごくわずかな動きを観測する超高精度の装置を開発している。巨大地震が起きる直前、震源域で岩盤がごくわずかにずれ動き始める可能性があると考えられているが、こうした現象を捉えることが新谷教授の目標である。観測精度は従来の100倍で、約10万分の1mmの動きも捉えられるという。新谷教授はこの装置を南海トラフの震源域の近くに設置し、これまで観測された事のない巨大地震の前兆を捉えたいと考えている。
巨大地震の前兆を宇宙からの目で捉える挑戦も進んでいる。北海道大学・日置幸介教授は巨大地震の前に電離層で異変が起きると考えている。東日本大震災の当日の東北地方上空の電離層で観測された電子数の変化を見ると、巨大地震が発生する約40分前から電子数が以上に増えていたという。2000年以降に起きたマグニチュード8以上の巨大地震を調べた日置教授は同様の変化を13の大地震のうち10で確認した。2004年のインド洋のスマトラ島沖巨大地震では上空の電子数は1時間以上も前から変化していた。2014年のチリ・イキケ地震と時も20分前からデータに変化がみられた。電離層の異常は地震の前触れなのではないかという仮説に基づき、日置教授は今後 慎重に検証を重ね、南海トラフ巨大地震の予測に繋げたいと考えている。
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8/13 「真珠湾攻撃77年目の真実~日米ソの壮絶“スパイ戦争”~」
太平洋戦争直前のルーズベルト政権内部には200人を超すソ連のスパイが暗躍していたという。これらスパイのターゲットは日本だった。さらに日本から一人のスパイが米国・ハワイに送り込まれ、真珠湾攻撃の計画を具体化させていった。番組では日米ソの「極秘スパイ資料」を基に、知られざる歴史の真実を検証していく。
日本海軍少尉・吉川猛夫はハワイのホノルル日本総領事館にスパイとして日本から送り込まれた。...
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太平洋戦争直前のルーズベルト政権内部には200人を超すソ連のスパイが暗躍していたという。これらスパイのターゲットは日本だった。さらに日本から一人のスパイが米国・ハワイに送り込まれ、真珠湾攻撃の計画を具体化させていった。番組では日米ソの「極秘スパイ資料」を基に、知られざる歴史の真実を検証していく。
日本海軍少尉・吉川猛夫はハワイのホノルル日本総領事館にスパイとして日本から送り込まれた。吉川は情報収集能力に長け、英語が堪能でハワイでは「森村正」という偽名を名乗っていた。日中戦争以降、米国は日本への圧力を強めており、連合艦隊司令長官・山本五十六率いる日本海軍は極秘裏に真珠湾攻撃の計画を進めていた。77年前に発行された吉川の旅券交付書には、「外交」のスタンプが押されていることからもわかるように、国のお墨付きを得て吉川は偽名で海を渡っていた。吉川は日本料亭・春潮楼に通って芸者遊びをしていたという。この春潮楼のドアを開けるとすぐ見えてくるのはヒッカム米空軍基地で、吉川はここから望遠鏡で米軍の空母や艦船などの出入りや数を調べ、日本に報告していた。
一方、米国本土、それもホワイトハウス内でもスパイが暗躍していた。米国の情報公開法に基づき明らかとなった極秘文書「ヴェノナ文書」が全米を震撼させた。これまで最高機密として封印されてきた。第二次世界大戦前後に米国国内にいたソビエト連邦の工作員とモスクワとのやりとりを米国の情報機関が秘密裏に傍受し、解読していた記録であり、この文書によるとルーズベルト大統領につけられたコードネームは「キャプテン」。この文書によって当時のルーズベルト政権内に200人超のソ連のスパイが潜入していたことが明らかになった。
コードネーム「ペイジ」は米国大統領行政職補佐官・ラフリンカリーのことで、「ユーリスト」は財務次官補・ハリーホワイト。「アレス」は国務省特別政治問題担当局長・アルジャーヒスのコードネームだ。驚くべきことにルーズベルト大統領の側近中の側近たちがみなソ連のスパイだった。当時のソ連最高指導者・スターリン書記長は日本やドイツに対し、大きな脅威を感じていたというが、その理由は国際ジャーナリスト・春名幹男によれば「日本がソ連に対して参戦すると、東は日本、西はドイツから挟み撃ちにあう」ためだという。ソ連としては日本が米国を攻撃してくれるのが一番いいシナリオだった。ルーズベルト研究が専門のダニエルマルティネスは「ソ連が日米開戦を望んでいたことは間違いない」としている。
真珠湾攻撃の5か月前の1941年7月、密かに日本を爆撃する計画書が米国・ルーズベルト大統領に提出された。中国から戦闘機を飛ばし、日本の都市を空爆するという計画で、そこには長崎、神戸、大阪、東京までの距離が記されていた。この爆撃計画を推し進めたのは米国大統領行政職補佐官・ラフリンカリーという男で前出の「ヴェノナ文書」で「ソビエト連邦のスパイ(コードネーム:ペイジ)」と暴かれた人物である。元KGB将校は「米国に愛国心を持ちながらソ連を助けることができたことが重要だった」と語った。この爆撃計画は実行されなかったが、ルーズベルト政権の中枢にいたソ連のスパイが大きく関わっていたという事実は間違いない。財務次官補・ハリーホワイト(コードネーム:ユーリスト)は米国国内の反対の声を押し切り武器や軍需品をソ連にも貸し与えることができる武器貸与法を成立させてもいる。
一方、日本海軍がハワイに送り込んだ吉川は真珠湾攻撃直前まで米軍に関する電報を計177通、日本海軍に送っていた。総領事の名前で暗号電報を打つのは国際法上許されていた行為だった。吉川は観光客向けの遊覧飛行で真珠湾を上空から偵察したり、観光客を装い遊覧ボートから港に停泊する米国艦艇の様子を偵察していた。双眼鏡で基地をのぞくと戦闘機の数まで確認できたという。鹿児島・桜島では吉川の情報を基にした海軍の奇襲作戦訓練が極秘裏に行われていた。真珠湾と桜島にある錦江湾付近の地形が似ていたためにこの場所が選ばれたという。
日本の真珠湾奇襲攻撃の切り札は、魚雷を積んだ攻撃機だったが、ある大きな弱点が海軍を悩ませていた。「真珠湾奇襲攻撃に成功しせり」を意味する「トラトラトラ!」という暗号文を打電した淵田美津雄総隊長は、真珠湾が浅すぎ(12メートル)るため従来の日本軍の雷撃は不可能と踏んでいた。そこで低空から発射して魚雷の沈み込みを小さく抑え込む訓練が桜島付近で行っていた。しかし、真珠湾に停泊している戦艦などに魚雷防御網が張られていれば日本には打つ手がなかった。そこでハワイの吉川に「米国の戦艦に防雷網が装備されているかどうか」を調べるという重要な指令が下った。吉川は「米国戦艦は防雷網は持っていないと思われる」と伝えた。
1941年11月26日、米国は日本との交渉の場で最後通告を突きつけた。これは国務長官・コーデルハルの名を取って「ハルノート」と呼ばれている。日本の中国からの撤退や日独伊三国同盟の事実上の破棄など、一切の権益放棄を米国は日本に求めていた。ハルノートでもソビエト連邦のスパイが暗躍した。この原案を作成したのはルーズベルト政権内に潜入したスパイ・ハリーホワイト財務次官補(コードネーム:ユーリスト)だった。彼が「ハルノート」に日本を挑発する内容を盛り込み、それに日本は乗せられてしまった。
1941年11月26日、日本海軍の大艦隊がハワイに向けて択捉島を出発、12月7日、日本海軍は真珠湾奇襲攻撃を開始した。奇襲成功の鍵を握っていたのは魚雷を抱えた日本軍の雷撃隊だった。彼らは高度な技術を桜島での訓練で磨いてきた。吉川の伝えた情報は正しく、米軍戦艦は防雷網を持っていなかった。結果、戦艦8隻が沈没や大破し、航空機約300機が破壊、損傷、2300人以上が死亡した。真珠湾攻撃直後、吉川らハワイの領事館職員は米国側に身柄を拘束された。実は吉川と東京のやりとりは米軍に傍受されていた。
2002年8月、ハワイ沖の深海で旧日本軍の特殊潜航艇が発見された。砲撃したのは米国の駆逐艦「ウォード」。「真珠湾で日本の特殊潜航艇を撃沈した」という史実は米国国内では伏せられてきた。報告書には日本の奇襲攻撃の1時間以上も前に特殊潜航艇を見つけた米国側が攻撃を行っていたことが記されている。「私たちは外国の戦争に参加することはない」と、選挙公約を掲げてきたルーズベルト大統領だが、日本の先制奇襲攻撃を米国参戦の根拠としてきた。このためこの事実を知られたくなかったルーズベルト大統領が、不都合な真実を歴史の闇に葬ろうとした可能性がある。1945年2月、米国、英国、ソビエト連邦の首脳が極秘に行われたヤルタ会談で交わされた秘密協定で、ルーズベルト大統領はソ連に対し、対日参戦の見返りに日本の領土だった南樺太と千島列島の領有権を認めると約束した。この秘密協定の裏側でもソ連のスパイが暗躍していた。
真珠湾攻撃から20年の節目に、米国テレビ局の呼びかけで真珠湾のスパイだった吉川は再びハワイの地へ降り立ち、ハワイの日系人への誤解を米国民に解くよう呼び掛けた。この後、吉川は1993年に死去した。今、ロシアゲートで揺れている米国・トランプ政権だが、77年前にもホワイトハウスでロシアスパイが暗躍していたという真実を知るとまるで見え方が変わってくる。
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