「アメリカVS.中国 “未来の覇権”争いが始まった」(1/21)
激しい対立が続く米国と中国の貿易戦争。トランプ政権が、高い関税を中国に対し次々とかけてきた背景には、「中国がハイテク技術の覇権を握ろうとしている」という危機感があった。水面下で両国の激しい攻防が繰り広げられている中、日本はどう生き残りをかけるのか?世界の行方を左右する米中の攻防の最前線を追った。
中国のハイテク企業が集積する巨大都市、深センで自動運転の技術を開発している「ロードスター.ai」。...
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激しい対立が続く米国と中国の貿易戦争。トランプ政権が、高い関税を中国に対し次々とかけてきた背景には、「中国がハイテク技術の覇権を握ろうとしている」という危機感があった。水面下で両国の激しい攻防が繰り広げられている中、日本はどう生き残りをかけるのか?世界の行方を左右する米中の攻防の最前線を追った。
中国のハイテク企業が集積する巨大都市、深センで自動運転の技術を開発している「ロードスター.ai」。車に搭載されたカメラやセンサーで外部の情報を収集し、AI・人工知能がそれらの情報を分析し車を自動運転させる。高速道路など特定の場所に限り人に代わって自動運転ができる「レベル4」の技術をわずか1年で実現。これは先行してきたグーグルやウーバー、テスラなど米国の巨大IT企業をしのぐ開発スピードである。創業者の1人衡量CEOは車や人を高い精度で認識する独自のAIを開発したため開発スピードが上がったとしている。先月、グーグルのグループ会社が自動運転をいち早く実用化させ、配車サービスを始めた。シリコンバレーを中心にカリフォルニア州ではここに開発拠点を置く中国企業など60社以上が熾烈な競争を繰り広げている。自動運転は従来の産業構造を一変させるハイテク技術となる。
これまで自動車産業は車を作るメーカーがトップに君臨してきたが、自動運転の時代が到来すれば車の頭脳となるAIの技術を握った企業が優位に立つ。世界の名だたる自動車メーカーにAIを供給することで巨額の利益を得て、さらにそれぞれのAIから膨大なデータを収集することもできる。これが次世代のハイテク覇権となる。どうやって中国企業が驚異的な成長を遂げることができたのか。取材の中でその秘密が見えてきた。わずか1年でレベル4に到達した「ロードスター.ai」。開発の中核を担っていたのはアップルなどIT企業で最先端技術を学んできた若者達だった。彼らのように海外の企業や大学で知識や技術を身に着けて帰国し起業する人材は「海亀(ハイグェイ)」と呼ばれ、中国政府が手厚い支援を行っている。衡量CEOもテスラやグーグルで自動運転の技術を開発していた海亀の1人だが「私たちが開発しているものは全て新しい技術です。前にいた会社の技術は直接使うことはできない」と主張している。
中国政府はハイテク技術を成長の柱に据えた国家戦略「中国製造2025」を打ち出している。今後30年を見据えAIや5Gの技術で米国と並び、世界トップとなることを最終目標としている。この戦略を支える中核となるのが「海亀」であり、中国政府は起業資金を補助するなど手厚く支えてきた。その数は5年間で200万人を超える。中国科学院自動化研究所・王飛躍は「海亀は中国にとって非常に重要な役割を果している」と述べた。
中国のハイテク技術の波は日本にも押し寄せている。大阪で10社以上のタクシー会社がAIを使った中国の配車サービスを取り入れている。中国IT企業「滴滴(ディーディー)」が開発した最先端のAIがスマートフォンを使った利用者と一番近い車を瞬時にマッチングするアプリで、乗客の利用傾向や車の移動情報を瞬時に分析。近く東京にも進出する予定だ。収集した膨大なデータは中国・北京にある本社に集積されている。「滴滴(ディーディー)」は創業からたった7年で世界トップを走るウーバーに肩を並べた。430都市を走るタクシーなどの車からリアルタイムの位置情報を一手に集めている。利用者は5億人以上、1日3000万件の乗車データを処理し続けるAIは独自に進化している。時間や場所、気象データを分析し利用者の動きを予測。AIで都市全体をコントロールするプロジェクト「交通大脳」を進めている。中国政府の協力を得て電車やバスなど都市のありとあらゆる交通データを掌握。AIが信号や車に指令を送ることで渋滞を解消するなど限りなく効率的な都市を作り上げることができる。滴滴・張博CTOは「我々のAIをあらゆる都市に置くことを理想としている。世界中の都市と連携して我々のAIとビッグデータで全世界の交通を変えたい」と語る。
グーグルやアップルなど巨大IT企業を抱え、ハイテク分野で世界の覇権を握ってきた米国。米国はすでにAIやロボットの技術を軍事的に利用しているが、中国の急速なハイテク技術の進展に警戒感を露わにしている。中国は民間のハイテク技術の兵器への転用を進め、国家戦略「軍民融合」を掲げている。先月には中国版GPSを全世界で運用開始させた。さらにはAIを駆使した軍事用ドローンの開発も進めている。米国は中国の急速な発展の裏に技術の盗用があるとみて取り締まりを強化している。FBIなどで専門チームを作り、この2年間で少なくとも37人を産業スパイなどの疑いで摘発した。この中には中国の情報機関の幹部まで含まれている。勾留中の被告は無罪を主張し中国政府も否定しているという。
こうした状況の中、世界に衝撃を与えたのが中国通信機器大手ファーウェイ副会長の逮捕だった。容疑は米国が制裁を科すイランとの取り引きをめぐる詐欺容疑。逮捕の背景には米国政府のファーウェイの技術に対する強い懸念があるとみられている。ファーウェイ国際メディア担当・ジョーケリー副総裁は「我々の技術は世界の競合他社よりはるかに進んでいるが、安全保障の面で危険な存在にはなり得ない。不当な扱いを受けているが、そんな証拠があるのなら出してほしい」と主張している。5Gは次世代の情報インフラになるとみられているが、ファーウェイがこうしたインフラを握れば機密情報までも中国に漏洩するのではと米国は警戒している。ハイテク技術で台頭する中国だが、米国国内の危機感には温度差がある。軍や民間企業の関係者が集まるシンポジウムで米国国防総省・マイケルブラウンは「中国はテクノロジーの分野で米国を脅かす力をつけてきている。シリコンバレーをはじめ全米の企業は注意が必要だ。これは国家の安全保障に関わる問題だが、米国では中国とハイテク覇権戦争が起きているという共通認識がない。まずそこから米国民に伝えることから始めないといけない」と技術流出を避けるよう警鐘を鳴らした。企業側の危機感は薄く、規制を強める政府への反発の声まであがっている。政府の危機感をよそにハイテク技術を開発する米国企業の一部は中国との結びつきを強めている。米国のベンチャー企業に対する中国からの投資額が急増し、特にAI分野では5年で20倍に増えているという。
米国と中国は表舞台では互いに高い関税を掛け合う貿易戦争を繰り広げている。中国・福建省の半導体メーカー「福建省晋華集成電路」に対し、米国から部品などの輸出を制限する措置に踏み切った。米国との貿易戦争で景気が減速する中、中国は「一帯一路」の構築を急いでいる。中国はアジアやアフリカなど米国が開発しきれていない新興国に市場を拡大しようとしている。
世界最大のネット通販アマゾンに匹敵するアリババ。年間の売り上げは約4兆3000億円。利用者数は6億人。買い物履歴や購買者のプロフィールなど膨大な個人情報を集積しビジネスを拡大している。ジャックマー会長は中国政府から経済発展に多大な貢献をしたと表彰されたが、アリババは巨大なネットワークを中国国外に広げ始めている。画期的な国際送金の仕組みを開発し、香港とフィリピンの間で実用化することに成功した。これまで銀行を介さなければ出来なかった国際送金をスマホだけでできるようにした。狙うは銀行口座を持たない新興国の人々だ。アリペイHK・陳婉真CEOは「今後、インドネシアから出稼ぎに来ている労働者を通じても市場を開拓していく予定だ」と語る。
中国の市場拡大を後押しするアリババの送金システムを実現させたのは仮想通貨で使われているブロックチェーン技術だ。これまで国際送金はいくつもの銀行を経由して行われてきたが、ブロックチェーンを使えば直接スマホやパソコンで国際送金ができるようになる。この技術によって中国は米国のドルによる金融覇権にも風穴を開けようとしている。ドルは基軸通貨として世界で流通し、貿易の約5割はドルで行われているため、ドルで行われる金融取引の情報は米国に集まる。米国はドルの取引情報を通じてテロ組織や国際ルールを守らない国の資金の流れを把握することもできるのだ。一方、中国は官民共同のブロックチェーン研究所を設立した。高い技術力を中国政府に認められブロックチェーンの普及を担っているのがIT企業「太一クラウド」。中国政府の支援のもと、アジアや中東の国々にドルを介さない金融システムを作ろうとしている。カザフスタンは一帯一路の西への玄関口で、中国はここでブロックチェーンを普及させようと考えていた。トウ迪CEOのもとには米国の金融覇権に不満を持つ業者からの商談が次々に舞い込んできている。金融覇権を握る米国はこうした中国の動きを警戒感を示している。元国防総省・情報分析官・スティーブアーリックは「もし中国がブロックチェーンのスタンダードを作り上げそれを広めることになれば、多くの国や企業が中国の経済圏に組み込まれていくことになりかねない。そうなれば中国によってルールが決められてしまう」と警鐘を鳴らす。
今後、米中の覇権争いはどのようになっていくのか。国際政治学者のイアン・ブレマーに予測してもらった。ブレマーは「これは技術をめぐる新冷戦といえる。これまでは米国が技術を主導した時代であり、世界を席巻したインターネットはその象徴だった。これから世界は米国と中国のハイテク技術によって分断されるだろう。ひとつは中国とその影響下にある企業が主導する世界、もうひとつは米国と同盟国が主導する世界だ。ハイテク技術で2つの世界が構築され、グローバリズムの時代は終わりを迎える。中国は特定の分野ではすでに超大国になっている。日本は安全保障面では米国との関係を維持したい一方で経済では中国が大事なので増々難しい立場になっていくだろう」と予測した。
トヨタ自動車は独自の自動運転技術を開発し、米国と中国のハイテク覇権争いで遅れを取らないよう自動運転の実用化を急いでいる。その一方で、中国へのアピールも欠かしていない。豊田章男会長は「中国の大市場と成長のスピード。そのスピードにどれだけついていき、先方から選ばれる会社になっていくかが重要」と語った。米中の攻防が激しさを増す中、日本はどうかじ取りをするべきなのか、その手腕が問われている。
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11/30「追跡“ゴーンショック”」
カリスマ経営者といわれてきたカルロスゴーン前会長が逮捕された。逮捕の容疑となったのは有価証券報告書への虚偽記載。平成22年度から5年間で役員報酬を合わせて50億円あまり少なく記載していた。深刻な経営危機に陥っていた日産を大胆なリストラ策でV字回復させたゴーン前会長。世界第2位の自動車グループのトップが起こした事件に世界に衝撃が広がっている。その一方で日産の組織的な陰謀を疑う声も上がっている。...
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カリスマ経営者といわれてきたカルロスゴーン前会長が逮捕された。逮捕の容疑となったのは有価証券報告書への虚偽記載。平成22年度から5年間で役員報酬を合わせて50億円あまり少なく記載していた。深刻な経営危機に陥っていた日産を大胆なリストラ策でV字回復させたゴーン前会長。世界第2位の自動車グループのトップが起こした事件に世界に衝撃が広がっている。その一方で日産の組織的な陰謀を疑う声も上がっている。逮捕に至るまでの内幕をNHKが総力取材した。
カルロスゴーン前会長による巨額の不正はどのようにして行われたのか。ゴーン前会長が英雄視され、切手にもなっている中東のレバノンにある高級住宅が事件の鍵を握っていることが明らかになってきた。ゴーン前会長が使っていた3階建ての建物には約17億円が投じられていた。不動産登記に記されていた所有者はフォイノスインベストメンツという会社。この会社にはタックスヘイブンにあるペーパーカンパニーを介してZi-A(ジーア)という別の会社から資金が流れていた。NHK取材班はZi-A社の所在地がアムステルダムにあることを突き止めた。この会社は驚くべきことに日産の別の子会社だった。Zi-A社は日産から60億円が出資された実体のないペーパーカンパニーで、この会社が不正の温床となっていた疑いが浮かび上がっている。
ゴーン前会長は世界各地の豪華な住宅や家族旅行の代金を日産に負担させていたとされている。この一連の不正が明らかになるきっかけとなったのが実体のないペーパーカンパニーZi-A(ジーア)社の役員になっていたこと。一連の不正行為を指示した疑いが持たれている。ゴーン前会長はごく限られた側近たちを使って極めて巧妙に不正を繰り返していた疑いを持たれている。
関係者によると日産内部で不正の疑いが浮上したのは逮捕8か月前の今年3月ごろ。不正の疑いを把握したのは日産の監査役や役員などごく少数のメンバーで、ゴーン前会長にまつわる不透明な資金の流れに不信感を抱き、極秘調査を始めた。ゴーン前会長をめぐってはその派手な生活やビジネスジェット機の利用などで様々な憶測が広がっていた。海外などでの調査が進むにつれ、Zi-A社を隠れみのに不正が行われているのではないかと数々の不正の実態が判明してきた。レバノンやブラジルの住宅を購入するためZi-A社を通じて20億円あまりが支出され、ヨットクラブの費用や家族旅行の代金まで会社側に負担させていた。それとは別に株価に連動した報酬を受け取る権利40億円分を公表していなかった。調査を進めていたメンバーは取締役会で不正の責任を問うことも検討したが、社内の主要なポジションをゴーン前会長に押さえられていたため、取締役会での不正の追及は難しいと判断。刑事責任を問うしかないと決断した。目をつけたのが近く日本で導入される予定になっていた司法取引だった。ゴーン前会長の不正に関与した人物でも捜査に協力すれば起訴が見送られる可能性がある。メンバーは実行役の1人とみられる外国人の執行役員に注目した。男性は不正への関与に戸惑いを感じていたことを把握していた。司法取引の存在を説明して説得したところ執行役員は説得を受け入れ、司法取引への協力を約束した。
ゴーン前会長の不正を追及する動きと時を同じくして日産内部では社内を揺るがす大きな出来事があった。2月、ルノーのCEOに再任されることが決まったゴーン前会長は「ルノーと日産の関係は不可逆的、元に戻れない関係を築いていく」との声明を出した。海外ではルノーが日産と合併の協議をしていると報じられていた。ルノーの筆頭株主であるフランス政府はこれまで日産との関係を強化するようゴーン前会長に再三求めてきた。これに対してゴーン前会長は日産の独立性を担保すると繰り返し主張していた。日産の社員たちにはゴーン前会長が再任を機に態度を一変させ、フランス政府の要請を受け入れたのではないかと疑っていた。翌月には追い打ちをかけるようにゴーン前会長はルノーと日産のそれぞれの研究開発部門を統合すると発表した。車の開発までルノーの主導になれば、日産の核心部分を失いかねないと社員は不安を募らせた。当時の日産内部の空気について日産の幹部は「開発部門を一緒にされて日産より技術の劣るルノー勢が日本に大量に来るようになっていろいろ口出しするようになり、日産の開発部門の人間が大量に辞めていった。日産側のルノーに対する不信感はピークに達し、風船が破裂しそうな状態になっていた」と指摘した。かつてはルノーの出資を受けて深刻な経営危機を脱し、業績が回復した日産。売上高や販売台数などは日産がルノーを大きく上回っている。自動車ジャーナリスト・井上久男は「日産の今の経営状況を見るとルノーに頼らないといけないほど悪いわけではなく、むしろ安定してきている。社内の人は外国人が日産を植民地支配しているようだと見ていた」と分析した。
逮捕1か月前。東京地検特捜部は全国から語学が堪能な検事を招集して捜査体制を拡充。海外を頻繁に行き来するゴーン前会長の動向を見極めようとしていた。逮捕の11日前にゴーン前会長はマクロン大統領を工場に招き、日産の車を生産すると発表。ルノーの経営強化をアピールしていた。11月19日。特捜部から羽田空港の関係者に特別な許可がいる駐機場に特捜部の車両が入ることを求める連絡が入った。逮捕発表の2時間後に日産・西川廣人社長が会見を行った。日産は繰り返しクーデターではないと否定しているが、ゴーン逮捕は周到に準備されていたことが分かる。日産自動車の取材をしてきた中西孝樹は「クーデター説があってもおかしくない状況。色々な不満の中があり日産を守りたいという動機付けがあってもおかしくない。経営がどういうふうに関与しているのかというのは今の段階では非常に判断が難しい。一歩間違えば本当に会社の未来を大変な状況に陥れる。これからどうなるか予測がつかない状況」、作家・真山仁は「一番気になるのは普通こういう告発は企業が傾いた時になされるものだが、今、日産が絶好調な時で、絶好調のときにこの種の告発をすること自体信じられない。結果ではなくて何かの始まりではないのか」と分析した。
日産はゴーン前会長の告発に踏み切ったきっかけとなったのがルノーが日産の合併に踏み切るのではないかという危機感だった。今は、販売台数も売上高も日産がルノーを上回っている。ルノーの純利益の半分は日産の貢献によるものだが、資本関係は逆でルノーが日産の株式を43%持ち、議決権も持っているのに対し、日産のルノーへの出資は15%であり、議決権すらない。日産の取締役9人のうち日産の出身が3人であるのに対しルノーは4人。自動車アナリスト・中西孝樹は「ゴーン前会長の行動が少し変わってきた。日産の未来を案じる声が強くなっていったと思う」と分析した。
ゴーン前会長は平成11年に危機にあった日産の社長に就任。主力工場の閉鎖や2万人を超える人員削減など徹底した合理化を押し進め、僅か4年間で1兆3000億円に上っていた負債をゼロとし、業績のV字回復を果たした。ルノーの経営トップも兼任し、カリスマ経営者として世界に知られるようになった。転機とみられているのは就任13年目に発表された中期経営計画。それまで掲げた経営目標を達成してきたゴーン前会長は世界シェアの8%を握るという大胆な目標を掲げ達成できない場合は自身の退任も辞さないと語っていた。ところが販売は伸び悩み目標達成は困難となった。志賀俊之最高執行責任者が責任をとり退任した一方でゴーン前会長は社長のポストにとどまった。この頃からゴーン前会長の強引な経営手法に対する不満が高まってきた。ゴーン前会長の経営に対する関与は少なくなっていった。自動車業界は現在、電気自動車や自動運転など100年に一度の大変革期を迎えている。迅速な判断が求められる中、ゴーン前会長は1か月に2日、3日しか出社しなくなっていた。高まる不信感に拍車をかけたのが業績の良し悪しに関わらず、毎年支払われる多額の役員報酬だ。さらに今回、ゴーン前会長が生まれ育ったブラジルなど世界各地で高級マンションを会社に提供させていたことが明らかになった。法令順守の徹底を求められてきた社員たちの間には怒りが広がっている。2年前のリオデジャネイロオリンピックで会社を通して4500台の車を提供。地元のサンバチームにも多額の資金を援助。ブラジルでは大統領を目指しているのではないかという憶測も出ている。自動車アナリスト・中西孝樹は「結果として長く経営に居過ぎて不正の温床を生んでしまった」とまとめた。
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クローズアップ現代+ 11/12 「カメラが追った!東芝の7か月」
小さな町工場から出発し140年以上の歴史を持つ東芝。洗濯機や冷蔵庫など国産家電の第1号を生んだ。ところがその後、韓国や中国のメーカーに追い上げられ、厳しい価格競争にさらされることとなった。さらに悪化する業績を隠そうとして不正会計に手を染めることにもなった。米国の原発事業にも失敗し、稼ぎ柱だったフラッシュメモリーや家電、パソコンなど主力事業と次々と売却することになった。今後、芝に生き残る道はあるのか。...
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小さな町工場から出発し140年以上の歴史を持つ東芝。洗濯機や冷蔵庫など国産家電の第1号を生んだ。ところがその後、韓国や中国のメーカーに追い上げられ、厳しい価格競争にさらされることとなった。さらに悪化する業績を隠そうとして不正会計に手を染めることにもなった。米国の原発事業にも失敗し、稼ぎ柱だったフラッシュメモリーや家電、パソコンなど主力事業と次々と売却することになった。今後、芝に生き残る道はあるのか。
今年4月にトップに就任した車谷暢昭CEOがまず切り込んだのが幹部クラスの意識改革だった。就任直後から旅費や交際費などコスト削減を厳しく指示していたが、集まった管理職から出された昨年の実績や目標はいずれも甘いと副社長が怒りをあらわにする内容だった。
どうすれば東芝に活力を取り戻せるのか。車谷は製品開発の方法を見直すプロジェクトチームを作り、分析した結果、製品ができるまで時間がかかりすぎ、顧客のニーズに合わなくなっていたことがわかった。そこでこれまで縦割りだった開発を職場横断で進め新事業開発を若手社員にゆだねるプロジェクトを始めることにした。車谷CEOへのプレゼンテーションで若手社員たちが提示したのが、技術を掘り起こして新事業を開発することで、その事業化を若手に任せてほしいと訴えた。
東芝が直面する課題の多くは日本企業が抱えているものと同じだ。車谷CEOは「東芝は極めて大企業的な組織で、トップの意思が正確に届きにくい。意思決定が遅いことは企業価値を失う原因となる」と分析している。今、日本にGAFAと呼ばれる巨大IT企業がネットの枠にとらわれない事業で攻め込もうとしている。例えばグーグルが自動運転車の開発を進めたり、アマゾンがスマートスピーカーやリアルな世界で店舗を作ったりする動きが加速している。
このGAFAに対抗し、日本企業はネットに打って出て迎え撃とうとしている。サイバーとフィジカルの境界線がなくなっていくことをサイバーフィジカルと呼ぶが、東芝も今日発表した再建計画の中で「人員削減」などに加えて「サイバーフィジカル」をキーワードとしてあげた。
サイバーフィジカルを推し進めたい東芝は海外の企業からのヘッドハンティングも積極的に進めている。島田太郎は車谷CEOがドイツ・シーメンス社から引き抜いたデジタル戦略のエキスパートだ。シーメンス社はドイツを代表する老舗のメーカーで、いち早くサイバーフィジカルに力を入れてきた企業でもある。
東芝に現在、残されているのはエレベーターや鉄道システムなど22の事業分野だが、島田はサイバーフィジカルと組み合わせることで、これらの事業を強みに変えられる可能性があると考えている。例えば建物や工場の設備にセンサーを取りつけデータを収集。老朽化をいち早く把握し、故障を未然に防いだり、効率化のプランを提供するなど、新たなサービスを拡大できると考えている。
車谷CEOは埋もれている日本の技術がサイバーと融合することで、再び世界のニーズを開拓できると考えている。車谷CEOは「GAFAのような大きなサイバー企業がデータ顧客を囲い込んで大きな価値を作るという日本が苦手な分野でグローバルな成長が形成されてきた。今後20年は大きな技術革新が起こってくる。サイバーフィジカルな世界での製造業。フィジカルサイドの強さが一番重要になる」としている。
東芝は3年間で利益を4倍にするとしているが、東芝の再建計画はどうやって利益につなげていくかは書かれていない。東芝の外国人株主は7割。彼らは業績の改善を気長に待っていてはくれない。世界ではGAFAだけではなく、中国の大手IT企業も急速に力をつけ、米国との間でデジタル覇権争いを繰り広げている。東芝元々持っているモノづくりという強い分野を磨きながらネットやデジタルの世界を取り込んでいく。思い切った経営判断が必要になっているようだ。
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10/16 「AI×健康寿命」
様々な日本の課題の解決策を考えAIに聞いてみるシリーズの第3回。今回のテーマは健康寿命。日本人の平均寿命:男性81.09歳、女性87.26歳に対し日本人の健康寿命:男性72.14歳、女性74.79歳と、平均寿命と健康寿命の間にある10年の開きがある。この差は何なのか。これをうまく縮めることができれば医療費や介護費を最大5兆円抑えられるとの試算もある。AIヒロシを活用しながらその方法を探っていく。...
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様々な日本の課題の解決策を考えAIに聞いてみるシリーズの第3回。今回のテーマは健康寿命。日本人の平均寿命:男性81.09歳、女性87.26歳に対し日本人の健康寿命:男性72.14歳、女性74.79歳と、平均寿命と健康寿命の間にある10年の開きがある。この差は何なのか。これをうまく縮めることができれば医療費や介護費を最大5兆円抑えられるとの試算もある。AIヒロシを活用しながらその方法を探っていく。
AIひろしが41万人の高齢者の膨大なデータを基に導き出した結果が健康寿命を延ばすには「運動よりも食事よりも読書が大事」「本や雑誌を読む」というものだった。
この結果にマツコは驚き、「画期的な結果だと思う。どちらかというとまだ日本は体育会系の方が正義だ的な論調が多いけど、もし本を読むと健康になれるのだとしたら、アタシは明日からでも本を読むわよ。その代わり運動は一切しないわ」と言い、スタジオを笑わせた。
米国・イェール大学の研究でも「読書習慣のある人は、無い人に比べて23カ月寿命が長い」との研究結果も出ているし、日本の例で言えば、山梨県は「人口に対する図書館の数」が全国1位だが、健康寿命の長さも1位である。千葉大学・近藤克則教授は「ある地域でどういう地域に要介護の人が少ないのかを分析した時に、図書館が近くにある人は要介護リスクの人が低いというデータがあったので、ひょっとしたら今回のAIの分析はヒットかもしれないですね」と興奮した面持ちで語った。
マツコは「図書館を夜遅くまで開けておけば日本全体に健康効果があるのではないか」と提言したが、少なくとも本や雑誌を読むことが行動を起こすきっかけを与え、健康寿命を延ばす結果につながるのかもしれない。
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10/14 「マネーワールド~資本主義の未来~第3集・借金に潰される!?」
これまで借金をエネルギーに成長を続けてきた資本主義。資本主義の中では手元の資金が少なくても借金をすることで経済活動を増やし、成長を勝ち取ってきた。今、逆にその借金が成長の足かせとなっているという。資本主義はこのまま存続できるのか、NHK取材班がその行方を追った。
世界の借金は164兆ドル(1京8500兆円)と言われている。GDP(世界が生み出した富や価値の合計)と借金を比較すると借金が倍以上になってきている。...
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これまで借金をエネルギーに成長を続けてきた資本主義。資本主義の中では手元の資金が少なくても借金をすることで経済活動を増やし、成長を勝ち取ってきた。今、逆にその借金が成長の足かせとなっているという。資本主義はこのまま存続できるのか、NHK取材班がその行方を追った。
世界の借金は164兆ドル(1京8500兆円)と言われている。GDP(世界が生み出した富や価値の合計)と借金を比較すると借金が倍以上になってきている。借金には悪いイメージがあるが、資本主義の経済の中では、借金は経済成長のエネルギーでもある。資本金900万円から立ち上げた会社RIZAPの瀬戸健社長は「借金というのは重要な役割を果たす時もある」と語った。一方、法政大学・水野和夫教授は「借金が成長のエネルギーだというのはあくまで利潤を生む限りにおいてのことであり、今問題なのは利潤を生まない投資が多すぎるということにある」と指摘した。
歴史上類を見ないほどに増え続けている世界の借金のうち約3割の5500兆円が個人の抱える借金だという。中でも個人の借金が大きな社会問題となっている国の一つが米国。若者の借金が増え過ぎて米国経済の成長が脅かされており、現在米国で学生ローンの返済が滞っている人の数は史上空前の690万人にも及ぶ。学生ローンで限界を超える借金を背負った若者が急増した結果、消費が冷え込み景気を悪化させているという。資本主義は学生ローンだけでなく自動車や住宅をローンを購入することで市場が拡大し経済成長を促してきたが、今こうした経済の循環が成り立たなくなってきている。
世界規模で広がる個人の借金の急激な膨張。中でも深刻な状況にあるのが韓国で、2000年代以降増え続ける多重債務者は380万人にもなる。若者の失業率は10%で自殺に追い込まれる人も数多くいる。こうした中、韓国政府は資本主義の常識を覆すような驚くべき政策を打ち出した。文大統領が10年以上借金を返済できていない個人を対象に借金の帳消しを行うという政策を始めたのだ。そこには人々を借金から解放して再び消費させ経済成長につなげようという狙いがある。韓国政府は借金帳消しの対象を119万人まで広げる予定だという。
法政大学・水野和夫教授は「韓国のやり方を見ていると近代社会のやり方ではなく、中世社会のやり方。中世において利子を取る高利貸しが広まったが、当時はあまりお金を借り過ぎると教会が間に入り許してくれるというようなことをやっていた。近代に入って禁じ手とされたこの借金帳消しが今再び行われるようになったということ自体に資本主義の限界を感じる」と指摘した。
お金が供給されれば経済はそれを上回る成長をする。高度経済成長期の日本がまさにそういう形をとった。借金をして設備投資やインフラ建設に邁進し、新たな生産や消費が生まれ、企業も国も個人も経済成長を謳歌していた。だが、1971年のニクソンショックまでは金本位制で発行できるお金の量には制限あったが、ニクソンショックで制限が撤廃され自由に通貨が発行できるようになった。1970年代以降、新たな成長を呼び込もうと通貨の供給量が劇的に増やされ、1980年代になると余ったお金が不動産市場に流れ込み、急激なバブルとその崩壊をもたらした。
1990年代には世界はそれでも成長を求め、通貨の供給量を増やし続けた結果、アジア通貨危機を招き、2008年のリーマンショックにつながった。100年に一度ともいわれたこの危機に対し、冷え込んだ経済を立て直そうと再び世界中で空前の量の通貨供給が行われるが、その狙いほどの成長が起きていない。ありあまったお金は世界中の個人や企業、政府へと貸し付けられ今、膨大な借金として積みあがっている。
ダブつくお金は借り手を求め、市場すら整っていないアジアの辺境にまで及んでいた。今後、成長を見込めるというのがその名目だ。ミャアウン村では住民が自給自足の生活を続けている。担保を取らないかわり借り手はグループを組み仲間が連帯責任で返済する決まり。NGOが貧困対策として始めたが最近は外資系金融機関が次々と参入し、把握できただけで日本を含め10か国41の企業や団体に及んでいる。
法政大学・水野和夫教授は「資本主義の悪い面が前面に出てきている。資本主義の中に倫理というものはなく、資本はどういう目的であろうと永久に増やさない。もはや成長のフロンティアがなくなっているので収益を生まないところに辺境にまで進出して返せないぐらいの貸し付けを行っている状況」と指摘した。
借金をてこに、際限のない成長を求め続け、ついに行き詰まりを見せ始めた資本主義。マレーシア・マハティール首相は、国が抱える膨大な借金への危機感から15年ぶりに首相の座に返り咲いた。前政権はマレーシアの経済成長を促す狙いで、中国から融資を受け国土を縦断する高速鉄道建設の契約を交わしてきた。利息を含めた支払い総額は2兆5000億円に上るとされており、マハティール首相は「身の丈を超える借金は国を危うくする」とこの計画の白紙撤回を宣言した。
マハティール首相は過度な借金に依存する成長ではない新たな経済モデルを掲げようとしている。国策として力を入れているのがイスラム金融だ。イスラム金融の基本理念は過度な成長を求めた無理な貸し出しはしないこと。イスラム金融では貸し手が借り手から利子を取らない。事業がうまくいかなくても借金を取り立てず一緒に解決策を考えるかわりに事業が成功した時に利益の一部を手数料として受け取るというものだ。融資先の企業の利益を最優先に考えることが結果的に銀行自身の利益にもつながるという考え。去年、イスラム金融で融資を受けた貸出先の倒産割合は僅か1%だった。
低成長時代を迎え借金をしても成長につながらない時代になってきたことについて、法政大学・水野和夫教授は「本来は通貨供給量を増やせば経済成長につながるという経済理論があってうまくやれていたが、低成長時代になって経済成長率が伸びないのに、ますます通貨供給量をふやして経済成長率を高めようと先進国は躍起になっている。だが、この先、経済成長は期待できない。日本で起きた典型的なものは数千億円かけてパネル工場を作った(シャープの)例だが、数年で稼働率が半分しか上がらないということが起きた。大きな借金をして最新鋭のパネル工場を作ったにも関わらず、利益が出なかった。ここが非常に大きな問題点。日本は身の丈に合った資本主義をやらねばならない」と指摘した。
こうした状況を突破するヒントがイスラム金融やクラウドファンディングあたりに隠されているのかもしれない。
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