12月30日放送、映像の世紀バタフライエフェクト
ロックが登場したのは世界が壁で分断され米ソが対立する冷戦下のことであったが、当時、世界的にブームとなっていた英国のロックバンド・ビートルズに対してもソ連をはじめとする東側諸国は冷めた目で見ていた。
ソ連ではロックは西側の堕落した精神を象徴する病んだ音楽だと定義され、厳しい規制の対象となった。ビートルズを批判するプロパガンダ映像すら作られていた。
ソ連では病院で廃棄されたレントゲン写真で西側のロック音楽を刻んだレコード(通称:ろっ骨レコード)が秘かに作られて数百万枚も流通し、ビートルズのコピーバンドも作られた。...
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ロックが登場したのは世界が壁で分断され米ソが対立する冷戦下のことであったが、当時、世界的にブームとなっていた英国のロックバンド・ビートルズに対してもソ連をはじめとする東側諸国は冷めた目で見ていた。
ソ連ではロックは西側の堕落した精神を象徴する病んだ音楽だと定義され、厳しい規制の対象となった。ビートルズを批判するプロパガンダ映像すら作られていた。
ソ連では病院で廃棄されたレントゲン写真で西側のロック音楽を刻んだレコード(通称:ろっ骨レコード)が秘かに作られて数百万枚も流通し、ビートルズのコピーバンドも作られた。
秘密警察・シュタージが支配する東ドイツで生まれ育った歌手・ニナハーゲンは60年代にビートルズに感化された1人であるが、自由奔放なふるまいから当局に目をつけられてしまうこととなった。
ニナは1974年、自由のない国に対し怒りを込めた国民的なヒット曲「カラーフィルムを忘れたのね」を発表した。この歌は東ドイツの灰色の世界を象徴した内容で、東ドイツ市民の2人に1人が歌えるほどの大ヒットを記録した。後にドイツの首相となるアンゲルメルケルもこのレコードを擦り切れるほど聞いていたという(1992年2人はテレビの討論番組で顔を合わせた)。1976年にニナハーゲンは西側に亡命し、パンクロックやデビッドボウイの影響を受けることになる。
1968年チェコスロバキアでも、画期的な変化が起きつつあった。改革派の指導者が登場し「プラハの春」と呼ばれる社会主義と自由を両立させる民主化運動を始めたのである。平和な時代への祈りが込められたマルタグビジョバの歌う「マルタの祈り」は「プラハの春」を象徴する歌として大ヒットした。
チェコでは米国のロックバンド・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが圧倒的な人気を博したが、このバンドをチェコで流行らせたのは米国からヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードを持ち帰った若き劇作家ハベルだった。チェコではヴェルヴェット・アンダーグラウンドに感化されたPPUというグループも現れた。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの暗い抒情性と哲学は最先端の若者たちを熱狂させた。ロンドンに住むデビッドボウイもその1人だった。その後、デビッドボウイは奇抜な衣装と、どぎついメイクでグラムロックというカテゴリーを切り開きスーパースターとなった。
ニナハーゲンが西側に亡命したのと同じ1976年、皮肉なことに資本主義の喧騒を嫌ったデビッドボウイは東ドイツの孤島たる西ベルリンに移り住み、作詞作曲活動を行った。そこで生まれた曲がベルリンの壁の下で出会う男女を描く大ヒット作「ヒーロー」である。
一方、チェコスロバキアでは1968年8月、急激な民主化を警戒したソ連がワルシャワ条約機構軍を率いて軍事侵攻を始め、数千台の戦車が街を埋め尽くした。抵抗する市民は容赦なく殺され、数十人の市民が犠牲となった。劇作家ハベルはラジオ局に駆け込み「今は耐えるしかない」とのメッセージを放送した。
チェコ議会はソ連の圧力に屈し、軍隊の駐留を受け入れた。ソ連に忠実なフサークが第一書記に就任した。一方、ハベルは全ての作品の公開を禁じられ、ビール工場で働くことになった。PPUは退廃的な音楽を広めているとの理由で1976年逮捕されることとなった。ハベルは表現の自由が失われるとして、この逮捕に声をあげ反体制派のコミュニティを結成したが、政権を転覆させようとしているとの理由で逮捕された。
1980年12月8日ビートルズのジョンレノンが暗殺されたが、驚くべきことにこの死を西側だけでなく東側の人々も悲しんだ。チェコではプラハ市内の表通りにジョンの墓が描かれ若者がメッセージを書き連ねた。この壁はいつしかレノンウオールと言われるようになり、2014年には民主化運動が続く香港にも現れた。
1987年6月6日、デビッドボウイがライブを行い「ヒーローズ」を西ベルリンで熱唱した。実はスピーカーの4分の1を東ベルリンに向け東ベルリンの人々にも聞こえるようにしていた。この時、東ドイツ市民の自由になりたいという気持ちは大きく高まった。
1987年12月8日ジョンレノンの命日、チェコではジョンの追悼集会に当局が介入し参加者を逮捕した。この2年後、若者たちの自由への叫びは1人の高官の失言によってベルリンの壁崩壊という事態を生むことになり、世界を大きく揺るがすこととなった。
ソ連の侵攻から20年間あきらめなかったチェコではハベルが大統領となった。前代未聞のチェコの無血革命は絹のようになめらかになされたことからビロード革命ヴェルヴェットレボリューションと呼ばれることとなった。
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12月25日放送、BS1スペシャル プーチン 知られざるガス戦略 徹底検証 20年の攻防
ロシアから送り出される天然ガスは欧州の需要の約40%を占め、ドイツ国内で消費される天然ガスの55%をロシアからのガスに依存している。まさにロシア産のガスが欧州の行く末を左右するといっても過言ではない。
欧州に張り巡らされた全長15万2000キロに及ぶ天然ガスのパイプラインによって、欧州とつながりを深めてきたロシア・プーチン大統領。しかしその裏側には「豊富な天然資源で大国・ロシアを復活させる」との思惑が潜んでいた。...
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ロシアから送り出される天然ガスは欧州の需要の約40%を占め、ドイツ国内で消費される天然ガスの55%をロシアからのガスに依存している。まさにロシア産のガスが欧州の行く末を左右するといっても過言ではない。
欧州に張り巡らされた全長15万2000キロに及ぶ天然ガスのパイプラインによって、欧州とつながりを深めてきたロシア・プーチン大統領。しかしその裏側には「豊富な天然資源で大国・ロシアを復活させる」との思惑が潜んでいた。プーチン大統領はこの野望に向けて20年にわたって、突き進んできた。
早い段階から資源を政府の支配下に置き、戦略的に使うべきであると考えており、1997年に発表した博士論文の中に「膨大な天然資源をもつロシアは工業国の中でも特別な存在である」との文言が見られる。
プーチン大統領が就任してまず着手したことは、オルガルヒ達を縛り、国家に従属させ、国家統制を強化してエネルギーと権力を結び付けるということだった。さらに巨大ガス会社・ガスプロムとのつながりを強化した。ガスプロムはテレビ局、ラジオ、インターネット、映画などを次々と買収しロシア国内において巨大なメディアネットワークを構築し規模を拡大していった。
スポーツ事業にも積極的に参加し、各国の著名人を招待して、ヨットレースなどを開催したほか、ドイツのプロサッカーチームのメインスポンサーも務め、銀行や航空会社も所有した。
ガスプロムがロシアから送り出す天然ガスは、欧州の大陸や海底に張り巡らされたパイプラインを通じて欧州各地に運ばれるが、実はこうしたパイプラインはソ連時代の1960年代に作られたものである。ソ連崩壊後、これらのインフラをガスプロムが引き継ぎ拡大させていった。
ガスプロムCEOはプーチンの息のかかった人物であり、さらにガスプロムの子会社ワーニッヒCEOも80年代に東ドイツの秘密警察シュタージの諜報員であった過去がある。同じ80年代、プーチンはKGBの諜報員で交流があり、プーチンのエネルギー戦略上においてワーニッヒCEOは重要な役割を果たした。ガスプロムはある種の帝国でありガスブロムのトップは「ロシアへの敵意を克服しないとガスは手に入らない」とまで言っている。
プーチン大統領が目をつけたのがドイツである。エネルギーを売りたいロシアとエネルギーを必要としているドイツの利益が合致し、2005年4月11日、ロシアとドイツを直接つなぐ全長1224キロの巨大ガスパイプライン「ノルドストリーム」の歴史的な調印式が行われた。その時、壇上に立ったのがプーチン大統領とドイツのゲアハルトシュレーダー首相だった。
米ソ冷戦の最中の1973年にもソ連と西ドイツが天然ガスで手を結んだことがあり、当時から米国は2国の関係を懸念していた。
なぜ西ドイツがソ連と結んだのかといえば、その裏には「経済を通して深く結ぶことができれば戦争が回避され、利益も得られる」という「東方外交」という理念があったためである。この理念はシュレーダー首相やメルケル首相など歴代のドイツ首相に受け継がれていった。
米国は欧州のソ連依存が高まった場合、いざという時にNATOとして立ち向かえなくなると恐れていた。つまりソ連がエネルギーをNATO内の分断を図るための道具と見ており西ドイツに対し、ソ連とのパイプラインの契約を破棄するよう求めたが、西ドイツは米国の言うことに耳を傾けなかった。
欧米に対してはエネルギー問題で融和的な姿勢をとっていたプーチン大統領だが、大国ロシアの復活を目指し第二次チェチェン紛争などで強硬な弾圧を行うなど、徐々に違う面を出し始め、プーチン批判を行ったジャーナリストや関係者は次々と暗殺されていった。こうした事実にメルケル首相は目をつむっていた。
ドイツとロシアを結ぶ「ノルドストリーム」を快く思っていない国がウクライナだった。その理由は欧州へ送るガスのうち80%がウクライナを経由していたのにも関わらず「ノルドストリーム」はウクライナを経由しないからである。
ソ連からパイプラインの管理権限を引き継いだウクライナはロシアから莫大な通過料金を得ており、それが国家の重要な財源となっていたが「ノルドストリーム」はこうしたウクライナの利権を損なう可能性があった。
こうした利権争いがウクライナ内部の親ロシア派との対立に発展し、オレンジ革命やマイダン革命、ロシアによるウクライナ侵攻という泥沼の事態を招いてしまった。
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12月18日放送、核兵器“恐怖の均衡”が崩れるとき
1987年、米国・レーガン大統領とソビエト・ゴルバチョフ書記長は核の軍拡競争に終止符を打つべく中距離核ミサイルを全て廃棄する「INF全廃条約」に調印し、これをきっかけに世界の核兵器の数は減少に転じた。1991年には、より破壊力の大きい戦略核を削減するSTART1でも合意し、核兵器の数は20年間でおよそ7割も削減された。
2009年には、核兵器の廃絶を訴える指導者・バラクオバマ大統領が米国に登場し、2010年に、ロシアとの間で戦略核をさらに削減する新START(新戦略兵器削減条約)に調印するなど、世界は核なき世界に一歩近づいたようにみえた。...
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1987年、米国・レーガン大統領とソビエト・ゴルバチョフ書記長は核の軍拡競争に終止符を打つべく中距離核ミサイルを全て廃棄する「INF全廃条約」に調印し、これをきっかけに世界の核兵器の数は減少に転じた。1991年には、より破壊力の大きい戦略核を削減するSTART1でも合意し、核兵器の数は20年間でおよそ7割も削減された。
2009年には、核兵器の廃絶を訴える指導者・バラクオバマ大統領が米国に登場し、2010年に、ロシアとの間で戦略核をさらに削減する新START(新戦略兵器削減条約)に調印するなど、世界は核なき世界に一歩近づいたようにみえた。
しかし、この裏側でロシアは、新START、INF全廃条約の対象に入っていなかった戦場で使える戦術核の開発を加速させていた。さらに条約で禁止されているはずの中距離ミサイルの開発を再開させたとの疑惑も浮上した。米国はこうした事実をロシアに伝えたが、ロシアは違反行為を続けた。
今、ウクライナに侵攻したロシア・プーチン大統領は、核による恫喝とも取れる言動を繰り返しており、再び核戦争の恐怖がよみがえってきている。世界の核戦略の専門家に注目されているのが、ロシア軍内部で1999年に発表された研究論文である。
これまではひとたび核を使えば必ず核の応酬となり、最後は互いに滅亡するという相互確証破壊(MAD)と呼ばれる考え方が基本にあり、これによって実際には核は使用されず、恐怖の均衡によって戦争が抑止されてきた。
ところが、ロシア軍が提唱した「エスカレーション抑止」の考え方では、実際に核を使用することが想定され、戦況が不利になった場合、相手をひるませるか、ある程度のダメージを与えるために威力を調整した「戦術核」を使用してもよいとしている。
つまり、ロシアの「エスカレーション抑止」は事態をあえてエスカレートさせることによって、相手の戦意をくじき、ロシアに有利な状況で戦闘を終わらせる戦略ということになる。この論文が書かれた背景には、開く一方だったNATOとの戦力差を核兵器によって埋め合わせたいというロシアの思いがあった。
仮にNATOとロシアの間で戦闘状態になり、ロシアがエスカレーション抑止で核を使った場合、どうなるのかについて米国・プリンストン大学がシミュレーションを行った結果、米国本土も含む互いの30の都市に核弾頭が降り注ぎ、3410万人が即死、540万人が負傷するという地獄絵図となることがわかった。
実は世界各国が核への依存を再び強め始めている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所の予測によれば、世界の核兵器の数は今後10年で増加に転じるという。中でも急速に核戦力を増強しているとみられる国が中国である。現在、推定で350発の核兵器を保有しているとみられ、今のペースで核の増産を続ければ、2035年までに約1500発の弾頭を保有する可能性があるという。
中国の核戦力の増強、米中ロという核保有国の軍拡競争は核を持たない日本の防衛の在り方にも大きな影響を与えている。日本は米国が核の態勢を見直す場合、核の傘に影響がないようにしてほしいと米国の核戦略について異例の要望を行った。更に日本は相手から核攻撃がない限り、核による先制攻撃は行わないという「先行不使用」政策の検討を始めたオバマ政権に懸念を示し、結果的にこの政策は見送りとなった。
米ロの歴史的核軍縮の現場にも立ち会った経験を持つ、元駐ソビエト米国大使・ジャックマトロックは、核への依存を再び強め始めた世界について「冷戦時代に身につけた知性を我々は捨て去ってしまったようだ。核兵器は人類にとっての脅威であり、核兵器に関しては勝った、負けたというのはない。核軍縮は全員の利益になる。戦争で再び核兵器が使われてしまったら誰もエスカレートを止められないということを決して忘れてはならない」と強く警告した。
国連事務次長軍縮担当上級代表・中満泉は、核兵器をめぐる最近の風潮について「核兵器を保有することが究極的な安全保障のツールではないかという言説は非常に危険であり、核拡散の新しい理由を作り出しかねない。核を拡散させていくことでなく、むしろ核兵器を廃絶していくための道筋に戻ることこそ、安全保障にとっては重要」とした上で「日本は実際に核兵器が使用された場合の状況を身をもって体験し、理解している。被爆の実相を世界にきちっと発信していくことが、日本がとるべき道」と提言した。
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12月11日放送、金正恩の北朝鮮 “先鋭化”の実態を追う
これまで国際社会は北朝鮮に対し、国連の場で最大規模の制裁を科し核ミサイル開発を食い止めようとしてきた。こうした国際社会の圧力をよそに北朝鮮はかつてない頻度でミサイルの発射を繰り返し、核開発の動きを活発化させており、核実験も近く行われるとの話も出ている。さらには戦術核の開発も警戒されている。北朝鮮の軍事開発は一体どこまで先鋭化していくのか。
北朝鮮の兵器を長年研究してきた第一人者のミドルベリー国際大学院・ジェフリールイス教授は「北朝鮮はミサイルの開発から配備の段階に移行した。...
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これまで国際社会は北朝鮮に対し、国連の場で最大規模の制裁を科し核ミサイル開発を食い止めようとしてきた。こうした国際社会の圧力をよそに北朝鮮はかつてない頻度でミサイルの発射を繰り返し、核開発の動きを活発化させており、核実験も近く行われるとの話も出ている。さらには戦術核の開発も警戒されている。北朝鮮の軍事開発は一体どこまで先鋭化していくのか。
北朝鮮の兵器を長年研究してきた第一人者のミドルベリー国際大学院・ジェフリールイス教授は「北朝鮮はミサイルの開発から配備の段階に移行した。正恩は多様な場所から様々なミサイルを発射することで、最初の一撃を確実に与えようとしている」と語った。
ルイス教授は、今年に入って発射された北朝鮮のミサイルの種類の多さに注目している。時速5000kmを超え、迎撃が難しいとされる最新の極超音速ミサイル、米国全土を射程に収める可能性があるICBM級のミサイル火星17型、低空を変則軌道で飛行し、迎撃が難しいとされている短距離の戦術ミサイル。確認できただけでも10種類以上、合わせて90発を超える発射を北朝鮮は繰り返している。教授は「北朝鮮がミサイルの種類や発射地点を多様化させることで相手のあらゆる攻撃に対処する態勢を築いている」と分析した。
2011年、就任当初は核ミサイル開発と同時に経済政策にも力を入れる並進路線をとっていたはずの金正恩が軍事開発を先鋭化させることになった分岐点は米国・トランプ前大統領との米朝首脳会談が失敗したことにあった。
非核化を求める米国に対し、北朝鮮は制裁の解除と体制の保証を求めた。米国は制裁を緩和する見返りに、北朝鮮に全ての核開発計画や核施設を申告し廃棄することを求めた。このやり方はリビア方式と呼ばれ、既に米国がリビアに対して実践した方法だが、この結果、リビアは核開発を断念したが、カダフィ大佐は虐殺された。
このようなリビア方式に対して正恩が警戒感を強めたため、米朝の溝は埋まらず、2019年、米朝交渉は決裂した。これを境に正恩は核ミサイル開発をより先鋭化させていく。
会談の翌年、新型コロナウイルスの感染が拡大し、北朝鮮は国境を封鎖した。内部の状況は外からは見えなくなっていた。金正恩はコロナを利用して国内の統制強化にも乗り出した。番組が独自に入手した社会安全省による文書には、「住民が国境に近づけば、無条件に射撃せよ」などと統制の強化が記されていた。また、「わが国家第一主義」とのスローガンが打ち出され、「軍事力など、国力の強化が対外的な地位を高めた」との記載が確認された。
今、北朝鮮はロシアや中国など、権威主義国家の後ろ盾を得ることで強硬な姿勢を強めている。韓国国民大学教授・アンドレイランコフは「ロシアと米国の間で対立が起きたことは大国間の軋轢を自らの利益のために利用でき、正恩にとってはラッキーだった。一番の利益は北朝鮮に対するロシア・米国・中国の統一戦線が完全に破壊されたことだ」と語った。
北朝鮮はロシアとの武器取引の疑いについて全面否定しているが、米国国務省は先月、北朝鮮からロシアに武器が鉄道経由で供給されている情報をつかんだ。さらに制裁下にあるにもかかわらず、北朝鮮から中国へ多くの船が行き来するなど、中国が制裁の抜け穴となっていることもわかってきた。北朝鮮に対する国連の制裁はもはや形骸化してしまっているようだ。
11月14日、米国・バイデン大統領は中国・習近平国家主席と会談した。バイデン大統領は挑発行為を強める北朝鮮に懸念を示した上で、「国際社会が責任ある行動をとるよう促すことが共通の利益になる」と中国に訴えた。その4日後、北朝鮮は軍事演習などを続ける米韓に対抗するとしてICBM級のミサイルを発射した。
在韓米国空軍8000人を率いる米国軍第7空軍・スコットプレウス司令官は「地域の緊張は高まっている。前例のない数の挑発行為を憂慮している。米国・韓国・日本はいかなる挑発行為にも対応できるように日々備えており、全ての準備は整っている。目標は第一に休戦状態を維持すること。抑止力が鍵となる」と話した。
今後数十年にわたって権力の座にとどまるとみられている金正恩は核ミサイル開発をこれからも続けていく姿勢を強調している。
今後、国際社会は北朝鮮とどう向き合うべきなのか。米朝交渉で米国政府の代表を務めた米国元北朝鮮担当特別代表・スティーブビーガンは「抑止力の維持は必要。核兵器の使用は絶対に許されないと北朝鮮に示すことが重要。米国の強固な防衛力を示し、圧力を維持するべき。バイデン政権は対話にも関心を持っているが、北朝鮮が応じないためその努力は実っていない。あらゆるレベルで持続的な対話の手段を確立することが求められる」と語った。
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12月4日放送、ワイルドファイア 人類vs森林火災
今年の夏、世界中が山火事に襲われていた。北米の米国、ポルトガルやスペインなどヨーロッパの国々、炎は森林を焼き尽くし、人々が暮らす都市部にも迫った。南半球冬のアルゼンチン、海に囲まれ雨がよく降るハワイでも山火事が発生した。
地球上の至る所で発生している山火事は、その規模も拡大させている。今年2月、国連環境計画は山火事に関する緊急報告書を発表。このまま温暖化が進むと2030年には今より最大で14%、2100年には57%山火事が増える可能性があるとしている。...
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今年の夏、世界中が山火事に襲われていた。北米の米国、ポルトガルやスペインなどヨーロッパの国々、炎は森林を焼き尽くし、人々が暮らす都市部にも迫った。南半球冬のアルゼンチン、海に囲まれ雨がよく降るハワイでも山火事が発生した。
地球上の至る所で発生している山火事は、その規模も拡大させている。今年2月、国連環境計画は山火事に関する緊急報告書を発表。このまま温暖化が進むと2030年には今より最大で14%、2100年には57%山火事が増える可能性があるとしている。
世界有数の山火事多発地帯の米国・カリフォルニアはここ数年、異常な熱波に襲われている。2年前の9月にはロス近郊で49.4℃を記録した。熱波で水分が蒸発し、深刻な干ばつ状態が続いている。カラカラに乾いた植物が山火事の格好の燃料となるのだ。
CAL FIRE(カリフォルニア州森林保護防火局)は地上部隊、航空部隊合わせて1万人以上が所属する山火事のスペシャリスト集団で、年々巨大化する山火事に備えている。山火事における消火活動は建物火災への対応とは大きく異なる。
CAL FIREは最新テクノロジーを使い、山火事と闘っている。州内1300か所以上に設置されたカメラで山火事の発火を常に監視し、AI技術を駆使し火災の発生も予測することもできる。
その一方で、年々巨大化する山火事、それに伴う家屋やインフラ、人的被害など、巨大山火事との終わりの見えない闘いが消防士を追い詰め、自殺に追い込んでしまうこともある。ある研究によればカリフォルニアの山火事が米国にもたらす経済的損失は1年で21兆円に上ると推計されている。国連の報告書は山火事の監視や消防能力の強化だけでは限界があると指摘し、山火事の予防に予算を割くべきだと提言している。
山火事の原因の1つがドライライトニングと呼ばれる現象である。極度に乾燥した空気が途中で雨を蒸発させてしまい、雷だけを地面に届かせ、乾燥した木や草を直撃することで山火事を引き起こすのである。
落雷により多発した火災は各地で合流して大きくなり、消防隊の手におえない山火事に広がっていく。この時、山火事が作り出す雲である「火災積乱雲」が発生する。これは火を吐き出すドラゴンとも呼ばれている。
そのメカニズムは、まず山火事が起きると火災の熱で強い上昇気流が発生し、火災の周囲に空気が流れ込むことで、さらなる火災を発生させる。その雲は渦を巻きながら成長していき、その過程で飛び火することで新たな火災を生み出すという流れだ。
今、CAL FIREなどの消防機関や科学者、専門家たちが注目していることがある。それは火を災いのもととは考えず、火の恩恵を生かしつつ自分達の土地を守ってきた先住民ユロック族の野焼きである。
彼らは火災を予防する古来からの知恵を持っている。この知恵を消防士が学ぶことで山火事対策の突破口にしていきたい考えだ。過去には野焼きは禁止され、先住民が野焼きをしただけで、投獄されることもあった。今、野焼きによって、山火事の原因となる燃料となる下草が減ることもわかってきており、世界各地で見直され始めている。
野焼きを行うことによって例え火災が起きてもそれほど激しくなることはなく、制御することが可能だという。山火事が多いオーストラリアやカナダでは国を挙げた野焼きへの取り組みが始まっている。
ユロック族・マーゴロビンズは「われわれは自然を征服するのではなく、理解しようとする必要がある。きれいな水が飲めなければ、よい空気を吸えなければ、お金に何の意味があるのか。健全な生態系を持たなければ人類として存続することはできない」と語った。
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