2月26日付
『AP通信』:「人権団体、北京冬季大会のスポンサー企業に狙いを絞って中国の人権政策を問題視するようはたらきかけ」
2022年2月開催まで1年と迫った北京冬季オリンピックでは、著名なスポンサー企業が名を連ねている。
宿泊サイト運営のAirbnb(2008年設立)、コカ・コーラ(1892年設立)、Visa(1958年設立)、トヨタ(1937年設立)、サムソン(1938年設立)、ゼネラル・エレクトリック(1892年設立)等15社で、目下国際オリンピック委員会(IOC)に総額10億ドル(約1,060億円)を拠出しているが、今後4年間で20億ドルに倍増する。
これらの主要スポンサー企業は、オリンピックに関わる商権拡大を望んでいるが、一方で、中国において起こっているウィグル族イスラム教徒、チベット族及びその他少数民族への人権蹂躙問題を原因として、スポンサー自身のブランド・イメージが損なわれることを望んでいない。
そこで、これらの政策が“民族大量虐殺”だとして猛烈な反対運動を展開している国際弁護士や活動家が、IOCや国際競技団体はもとより、これらスポンサー企業に対しても、実態を把握するよう訴えている。
一方、肝心のオリンピック参加選手については、一生に一度の名誉とメダルをかけて同大会に臨もうとしているため、目立った行動を取ることによって、出身国のオリンピック委員会から出場を止められたり、支援元のスポンサー企業から反対されたり、あるいは中国から脅されたりすることを恐れて、沈黙を守らざるを得ないと考えられる。
そこで、英国の「ウィグル族大量虐殺阻止運動」を主導しているブレア・マクドーガル代表(英国労働党所属の政治活動家)は『AP通信』のインタビューに答えて、“これらの巨大組織や企業が、かかる人権問題について判断したり意見を述べるかどうかについて選手個人に委ねてしまうのは不公平”だとした上で、“問題だとして声を上げる力のある各国オリンピック委員会、IOC、はたまたスポンサー企業こそが実際に動く必要がある”と訴えている。
また、世界の競技選手の権利擁護・組織的支援活動を行っている「グローバル・アスリート」のロブ・コウラー事務局長(元世界アンチ・ドーピング機関事務局次長)も、“選手は大会の駒として扱われている”として、彼らに人権活動を強く求めようがないとコメントしている。
人権擁護団体は初め、開催地を北京から他へ移すようIOCに求めたり、また各国オリンピック委員会や国際競技団体にボイコットをはたらきかけてきたが、最近はスポンサーを対象とした運動を始めている。
彼らはまず、Airbnbをターゲットに絞り、同社共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のブライアン・チェスキー氏(39歳)に揺さぶりをかけた。
しかし、マクドーガル代表によると、“同社は、信念を持つことを旨とする会社だと標榜しているが、今のところ彼らは我々の活動を無視している”と非難している。
また、日本企業からも明確な賛同表明が得られていないという。
トヨタの回答が代表的で、“新疆ウィグル自治区の最近の状況について、コメントする立場にない”とのことだった。
更に、同代表は世界カーリング連盟(1966年設立)にコンタクトしたところ、最初はコンタクトを遮断され、その後遮断は解除されたが、“以降沈黙したまま”だという。
それでも、同代表は、今後もスポンサー企業に対して、“黙ったままで北京大会を支援することになると、大会を催すことで人権問題から国際社会の目を逸らそうとしている中国の思惑に加担することになってしまう”とし、“まず自らが、ウィグル族や強制収容所から逃れてきた人たちと面談して、事態の把握に努めて欲しい”と訴えていくと表明した。
一方、英国のマイケル・ポラック人権弁護士は、IOC倫理委員会に対して、“中国はオリンピック憲章に違反している”と訴えている。
同憲章の“オリンピズム根本原則第6項”では、“人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も認めない”とされている。
しかし、目下のところIOCが表明しているのは、“国際スポーツイベントを主催する団体であって、開催国の法律や政治体制を変えるとかの権限もなければ、そのような能力もない”という回答である。
そこで同弁護士は、IOC倫理委員会の潘基文委員長(パン・ギムン、76歳、前国連事務総長)に直接はたらきかけて、IOCの再考を促そうとしている。
ただ、同弁護士は同時に、“北京大会が予定どおり開催されることは、逆にウィグル族にとって有利に運ぶことになるかも知れない。何故なら、大々的にテレビ放映されることで、メディアが益々人権蹂躙の話題にも焦点を当ててくると期待されるから”だともコメントしている。
なお、『AP通信』がIOCに対して、北京大会準備委員会のフアン・アントニオ・サマランチ・ジュニア委員長(61歳、スペイン人、故フアン・アントニオ・サマランチIOC元会長の長男)へのインタビューを申し込んだが、マーク・アダムズ広報担当(56歳、英国人ジャーナリスト)はこれを受け付けなかった。
同委員長は、直近の中国メディア『新華社通信』のインタビューに答えて、北京大会の準備状況は“本当に素晴らしい”と表明している。
また、IOCのトーマス・バッハ会長(67歳、ドイツ人弁護士、元フェンシング選手)もこれに倣って、同大会準備は“ほとんど奇跡的”だとの公式コメントを出しているが、強制収容所や拷問の話はおろか、“ウィグル族”という言葉さえ一切言及していない。
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