世界貿易機関(WTO)が23日に発表した年次報告書によると、100カ国以上の国が新たな産業政策のための計画を採択しているという。こうした動きは、各国が国内経済をデジタル移行に適応させ、デジタル先進国に後れを取らないようにすることを狙いとしている。この流れが加速する中、世界貿易ルールの調整が必要だとの声が上がっている。
仏
『ルモンド』は、世界で新型コロナウィルスのパンデミックが続く中、デジタルグローバリゼーションが加速していると報じている。電子決済ソリューションは、中国ではWeChat Pay、インドではWhatsAppで確立し、一握りのEコマース大手が5大陸すべてで過去最高の売上を記録した。世界貿易機関(WTO)は、23日に発表された年次報告書の中で、この新しいアルゴリズムベースの経済に対しより良い規制と国際的な調整が求められていると指摘している。
WTOは、デジタルデータが「経済生活のあらゆる側面の動力となっている」とも述べている。1992年には世界で1日に100ギガビットのデータが交換されていたのに対し、2017年には世界で毎秒4万5000ギガビットのデータが交換されるようになっている。報告書は「データの量と多様性は、人工知能システムの開発に不可欠なものになるだろう 」とも指摘している。
特定の業界では、業界全体がこうしたデータに依存している場合もある。データの収集からデータの保存、分析、普及に至るまでのデジタルバリューチェーンを通じてグローバル経済が構築されている。そして、サプライチェーンの編成、製品設計、消費者分析など、あらゆるところに浸透し、なくてはならない存在になっている。こうした流れは人工知能などの革新を促進し、「人々の生き方や働き方を変革する」第4次産業革命の出現に貢献しているという。
しかし、WTOは、こうした動きは個人データ保護やサイバーセキュリティに関する各国の規制によって「制限されている」と指摘し、「保護的政策」の拡散を避けるために、各国に「基準を調和させる」よう求めている。
なお、ここ数カ月、デジタル分野では紛争が多発している。米国は、米国技術を使用する企業が中国のファーウェイと取引することを禁止している。米国はさらにデジタル税をめぐるOECDの議論から撤退した。アジアでは、インドが動画プラットフォーム「TikTok」を含むいくつかの中国製アプリを禁止した。
仏『レゼコー』は、WTOが、世界で115カ国が、「新産業政策」「インダストリー4.0」「デジタルトランスフォーメーション」などの計画を策定したことを指摘していると報じている。こうした政策の主な目的は、機械的・アナログ的な生産からよりデジタルベースのプロセスへの移行を促進するために、伝統的な製造業を含む経済の近代化を図ろうというものである。
アメリカでは「米国先進製造業リーダーシップ戦略」、ドイツでは「ハイテク戦略2025」、日本でも「日本再生戦略・産業競争力強化法」など、経済を支えるために、特に新技術の開発を奨励するために政府が国内政策を打ち出している。
ハーバード大学国際経済学教授のダニー・ロドリック氏は報告書の中で、「中国が多くの分野でテクノロジーのリーダーとして台頭したことで、欧米政府はこれに対応するために、より積極的な産業戦略やイノベーション戦略を採用するようになった」と指摘している。
また、こうした流れの中、ある政府が世界規模で独占的な力を持つ先端技術の輸出を制限し、国家安全保障上の理由ではなく、世界市場での価格を引き上げるためにそうした場合、「隣人を困窮させるという政策の明確な例であり、そのような行為に対する国際的なルールが必要である」とも指摘している。
事務局次長の易小準氏は、こうした「新たな課題と要求に対応するためにWTOの枠組みを一新する必要があるだろう」と述べており、今後、消費者保護の問題、電子商取引の自由化、データの転送や位置情報の規制などに取り組んでいく必要性に迫られている。
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