世界は今、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行や気候変動問題を抱えて、世界規模の経済危機を乗り越えるべく懸命に努力している。しかし、この次に静かに進行しているのが、別の形で世界経済危機をもたらす人口高齢化であるとして、米メディアが、日本を例に挙げて警鐘を鳴らしている。
10月21日付
『ブルームバーグ』オンラインニュース:「人口高齢化が次の世界経済危機」
世界は現在、蔓延したCOVID-19問題も然ることながら、長い間気候変動問題にどう対処すべきか頭を悩ませている。
しかし、多くの人が余り関心を寄せていないが、次に大きな世界経済危機をもたらす恐れがある問題として人口高齢化がある。
人類はこれまで、爆発的急成長を続けてきているが、今後、横ばいから減少に転じていった場合、世界経済は非常なリスクを負うことになる。
この問題における好例として、日本が炭鉱のカナリア(危険のサイン、注1後記)と言えよう。
日本の出生率は他先進国に比べて低過ぎるということはないが、長い間低出生率が続いてきている。
そして現在では、日本は全人口の中央年齢で最も高齢な国となっている。
<米中央情報局(CIA)ワールド・ファクトブック2019年版>
①日本48.6歳、②ドイツ47.8歳、③イタリア46.5歳、④スペイン43.9歳、⑤韓国43.2歳、⑥カナダ41.8歳、⑦フランス41.7歳、⑧英国40.6歳、⑨ロシア40.3歳、⑩米国38.5歳
ある点では、人口減少に陥っても自動的に貧困になることはないと日本は示している。
ひとつには、人口減少が徐々に進み、この程20年前の水準まで落ちたが、この間においても生産性の向上や女性の労働参加が進み、依然一人当たりの収入は増え続けている。
しかし、日本のような著しい人口高齢化は経済コストがかかることになる。すなわち、毎年労働人口が減少する中、支えるべき高齢者が増え続けるという現象が起きているからである。
この結果、日本の生活水準は他富裕国に比べて低くなってきている。
<セントルイス連邦準備銀行2019年データ/一人当たりの国内総生産高の2000年比伸び率>
①カナダ+29%、②ドイツ+24%、③米国+23%、④英国+20%、⑤日本+15%
この意味するところは、高齢者が増えることによって年金や介護等でより多く税金支出が必要となり、結果として高齢者の生活水準の低下につながるということである。
別の見方をすると、人口高齢化はマクロ経済学理論上の機能障害をもたらすとされる。
すなわち、どの国も自然利子率(注2後記)を有しているが、実質金利が自然利子率を上回るようだとその国はデフレに陥る。
何故なら、同理論によれば、自然利子率はその国の将来の成長率と連動しているため、人口減少が自然利子率を押し下げることとなり、その結果、金融政策上でデフレ脱却を困難にさせるからである。
従って、日本の人口が横ばいになっているので、早晩経済が永久にデフレ状態か、あるいはそれに近い形に陥るとみられる。
安倍晋三首相(66歳)が2012年末に政権を奪取して以来、長年のデフレ脱却を目標に掲げ、日本銀行が中心になって大規模景気刺激策を展開し、物価上昇率を2%まで上げると標榜した。
しかし、実際にはそのレベルには到達できず、0%で推移することとなった。
そして追い打ちをかけるように、今回のCOVID-19に伴う景気後退に遭い、日本は再びデフレに戻りつつある。
多くのマクロ経済学者が言うように、デフレが持続することになると経済成長が困難となり、物価は全く上がらず、一方で悲観的な失業率が続く“長期停滞”に陥ることになるという。
幸い、日本ではまだ失業率が高くないが、その代わりとして現れるのが、生産性の低下であり、かつ、多くの労働者が低賃金の不定期雇用とされるという現象である。
更に言えば、直近の国際通貨基金(IMF)報告によると、長期停滞に陥った際によく採用されるのが財政刺激策であるが、高齢化社会では大きな効果は期待できないという。
従って、高齢化社会の日本において、経済規模を維持するため、高齢者が長く働く必要となり、また若い夫婦も、子供の世話よりも外に働きに出ることを優先せざるを得なくなる。
この一環で、労働力を補うべく、日本がロボットの開発・活用を先進的に取り組んでいるのは他に選択の余地がないことである。
なお、労働人口不足を補うため、カナダ、米国、英国、ドイツでは積極的に若い移民を受け入れてきており、ここへきて日本も漸く重い腰を上げた。
しかし、この解決策は短期的なものと言わざるを得ない。
何故なら、世界中で小家族化が進んでおり、また、かつては人口の爆発的増加傾向を示していたイスラム国家のみならず、アフリカ諸国においてもここへきて出生率が減少に転じているからである。
世界はこれまで、人口減少、高齢化という事態に余り深刻に取り組んでこなかった。
その意味で、今後の日本が取っていく方策に注目が集まることになる。一例が、自動化の促進等の先端技術開発であろう。
(注1)炭鉱のカナリア:坑内掘り炭鉱において、炭鉱夫が鳥籠に入れたカナリアを携行し、炭坑内に一酸化炭素等の有毒ガスが充満していないか調べた。転じて、危険を知らせるシグナルの意味を表す。
(注2)自然利子率:インフレでもデフレでもない、景気に中立的な実質金利水準のことで、「均衡実質金利」とも呼ばれる。潜在成長率並みの経済成長を持続的に達成するためには、実質利子率を自然利子率に一致させるような金融政策が望ましいとされる。
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