安倍晋三首相は、経済再活性化の一環で、女性の社会進出を狙って、関係法（注１後記）まで制定して“女性活躍社会の創生”を標榜した。しかし、今回の同首相辞任に当たって、後任候補の中に女性が1人もいないと米メディアが批判的に報じている。なお、世界経済フォーラムが昨年末に公表した「ジェンダー・ギャップ指数2019」によると、日本の順位は世界153ヵ国中121位と、これまでの最低値となる体たらくである。因みに、主要7ヵ国（G7）の中で圧倒的最下位のみならず、中国（106位）、韓国（108位）よりも評価が低い。

9月8日付『ブルームバーグ』オンラインニュース：「日本の最高権力者の後任候補に女性 は皆無」

安倍晋三首相は、8年近くに及ぶ長期政権下にあって、女性が“輝く”社会の実現を声高に叫んできた。

しかし、今回の同首相辞任に当たって、後任候補の中に女性は皆無である。

9月8日に告示された与党・自民党の総裁選の候補者として、正式に名乗りを上げたのは3人の男性候補だが、その3人ともジェンダー平等の強力な提唱者では全くない。...

9月8日付『ブルームバーグ』オンラインニュース：「日本の最高権力者の後任候補に女性 は皆無」

安倍晋三首相は、8年近くに及ぶ長期政権下にあって、女性が“輝く”社会の実現を声高に叫んできた。

しかし、今回の同首相辞任に当たって、後任候補の中に女性は皆無である。

9月8日に告示された与党・自民党の総裁選の候補者として、正式に名乗りを上げたのは3人の男性候補だが、その3人ともジェンダー平等の強力な提唱者では全くない。

非公式ながら、稲田朋美元防衛相（61歳）及び野田聖子元総務相（60歳）の2人の女性候補が名乗りを上げようとしたが、同党内規の国会議員20人以上の支援者を集められず断念している。

自民党は、過去65年間のうち60年政権与党となっており、女性進出の諸政策推進が不十分であったことの責任は重い。

直近の安倍政権が進めた女性支援政策も、少子高齢化で労働人口不足に遭って女性による穴埋めという意味合いが強かったと言える。

何故なら、官民における女性管理職の割合増が一部を除き全く達成されておらず、今回の首相後任候補に女性が入っていないことが好例である。

山猫総合研究所代表の三浦瑠麗氏（39歳、国際政治学者）は、“女性が重要なポジションに就かなければ、女性の地位向上等の事態は全く変えられない”とし、政界でも高い地位に女性が不在なことから、“例えば、婚姻夫婦の別姓を認めることに消極的であるように、（女性支援の）政策等が推進されない”とコメントしている。

唯一の例外と言っても良いのが、小池百合子東京都知事であろう。

小池氏は、長らく自民党にあって女性の立場擁護、向上に努めてきたが、道半ばにして脱党したものの、2016年の都知事選挙において、自民党の支援がない中で圧倒的多数の得票で当選している。

その後も非自民の立場で支持率を上げ、今年の都知事選においても、新型コロナウィルス（COVID-19）感染流行問題での対応を評価され、難なく再選を果たしている。

一方、安倍首相が提言した、2020年までに女性管理職比率を30％に引き上げるとした目標については、政界においては全く達成できていない。

国会における衆議院内で女性議員が占める割合は僅か10％であり、列国議会同盟（IPU、注２後記）によると、193ヵ国中166位と、パキスタンやサウジアラビアのイスラム教国家をも下回っているという。

自民党においては7%弱であり、主力野党勢力が14%であることから、平均を僅かに上昇させているだけである。

従って、安倍首相提言の30％構想は自身が率いる自民党では全く達成できていないことになる。

特に、日本の政界にあっては、他主要国が採用しているジェンダー・クオーター制（注3後記）を決して採用しようとしたことはないことも原因であると言えよう。

政治・行政学者で上智大学法学部の三浦まり教授（52歳、共著「ジェンダー・クオーター制：世界の女性議員は何故増えたのか」）は、“安倍首相や、東京の人たちが女性登用を説いても、地方の政界は全く理解できない”とし、“何故なら、根本的に男性優位文化が根付いているから”だとコメントしている。

なお、政界以外についてみてみても、世界経済フォーラムによると、日本における男女間賃金格差は先進国の中にあって著しく開いており、今回のCOVID-19不況に遭って更に拡大しているという。

（注１）女性の職業生活における活躍の推進に関する法律（通称は女性活躍推進法）：安倍首相の唱える「すべての女性が輝く社会づくり」の要となる法律として、2015年9月に制定、施行。10年間の時限立法で所管官庁は内閣府。職業生活における女性の活躍、賃金含め男女間の格差の是正、管理職に占める女性比率の向上等を謳う。

（注２）IPU：主権国家の議会による国際組織で、本部はジュネーヴ（スイス）。英国のウィリアム・ランダル・クリーマー卿とフランスのフレデリック・パシーの提唱により、1889年6月、パリで設立。誕生の背景には、機能主義的国際組織化の潮流があった。

（注３）ジェンダー・クオーター制：民主主義の帰結として国民構成を反映した政治が行われるよう、国会・地方議会議員候補者など政治家や、国・地方自治体の審議会、公的機関の議員・委員の人数を制度として割り当てること。社会に残る男女の性差別による弊害を解消していくために、積極的に格差を是正して、政策決定の場の男女の比率に偏りが無いようにする仕組みである。