GLOBALi等で既報どおり、先月下旬に西インド洋島嶼国モーリシャス沖で発生した、日本の船社が傭船・運航している大型鉄鉱石運搬船の座礁事故によって、海洋汚染による生態系への悪影響がどの程度深刻で、また、観光立国であるモーリシャスの損害額がいくらになるのか、注目されている。欧米メディアは、関係国際条約に基づき本船船主が損害賠償責任を負うと報じている。
8月14日付
『ロイター通信』:「モーリシャス沖の燃料油流出汚染事故は誰がいくら損害賠償?」
日本の船社が運航する大型貨物船が7月25日、インド洋の島嶼国モーリシャス(1968年英連邦から独立、アフリカ連合所属の共和国)のサンゴ礁に座礁して燃料油約1,000トンが流出し、海洋汚染含めた甚大な“環境破壊危機”をもたらす恐れがある。
本船は大型鉄鉱石運搬船“わかしお”(総可載数量約20万トン、全長約300メートル)で、岡山県の長鋪汽船(創業1860年代)が保有する貨物船である。
本船を傭船・運航している商船三井(前身創業1884年、親会社設立1964年)によると、本船は中国北東部の天津港(ティエンジン)で鉄鉱石を荷揚げした後、南米ブラジルで鉄鉱石を積むためにインド洋を航行中に座礁事故を起こしたというが、何故本船がサンゴ礁近くを航行したのか等については明らかにしていない。
今年3月に本船の年次検査を実施した日本海事協会(創立1899年)によると、何ら異常は認められなかったという。
本船は、燃料油約4,000トン(重油3,800トン、経由200トン)を積載していたが、燃料タンクの一部が破損して約1,000トンが海洋流出してしまった。
モーリシャスのプラビンド・ジュグノート首相は8月12日、長鋪汽船が発表したとおり、本船に残った燃料油全てが抜き取られたことを確認したと発表した。
今回の座礁事故に伴い、海洋汚染を含めた生態系への影響、更には観光立国のモーリシャスの観光業への打撃によって、どれ程の損害が発生するかが注目される。
2001年3に開催された国際海事機関(IMO、注1後記)の外交会議において採択され、2008年に発効した「燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(通称バンカー条約、注2後記)」によると、損害賠償責任は傭船・運航の商船三井ではなく、船主の長鋪汽船が負うことになる。
ただ、賠償額については、2つの種類の船主責任制限条約によって上限が異なる。
東京の戸田法律事務所によると、モーリシャスが批准しているのは1976年採択の条約で、これに定められた上限額は20億円(1,870万ドル)、一方、日本が批准している1996年改定条約の上限額は70億円となっているという。
そして、どちらの条約を適用するかは管轄裁判所が決めることになるとする。
一方、賠償金の支払いについては、長鋪汽船が加入している日本船主責任相互保険組合(JPIC)が行うことになる。
JPICの広報担当は8月12日、損害予想額がどれ程になるのか“内部で精査中”と表明した。
なお、座礁本船の撤去作業は複雑で数ヵ月かかると予想されている。
このため、日本側は専門家を派遣し、IMOが技術的な助言を与えているが、かつてモーリシャスを植民地としていたフランスも支援すると発表している。
同日付『AFP通信』:「モーリシャス沖燃料油流出事故、事故後の対応を求める声高まる」
7月下旬にモーリシャス沖で座礁した大型貨物船から流出した燃料油のため、すでに深刻な海洋汚染が始まっている。
本船残存燃料油は既に抜き取り作業は完了しているとするが、地元漁師によると、まだ本船に一部燃料油が残っているのか、8月14日現在、再び海上での油膜拡散が認められるという。
海水洗浄作業に当たっている作業員が匿名条件で語ったところによると、本船機械室等にまだ100トン程度の燃料油が残っているとみられるが、船内に入ることは窒息する危険もあって無理で、ここからポンプで抜き取り作業を行うことは不可能だとする。
一方、モーリシャス政府は事故対応につき具体的措置を講じておらず、また、船主長鋪汽船が専門家を送ってくるのに3週間もかかっているとして、現地での不満が爆発している。
自然保護団体グリーンピース(注3後記)は長鋪汽船に宛てた書簡の中で、“何故本船がサンゴ礁近海を航行したのか、何故座礁からだいぶ経つのに具体的対応策を講じようとしないのか、環境破壊への影響をどうやって食い止めようとするのか、また、この事故に伴う人々への補償はどうするのか”と訴えている。
これに対して長鋪汽船代表は、海洋汚染に伴う被害について“誠心誠意”補償要請に応えていく旨表明している。
なお、ジュグノート首相は8月13日、『AFP通信』のインタビューに答えて、“目下座礁原因等を調査中で、この過程で、何故このような大型船が座礁リスクの高いサンゴ礁近海を航行したかという疑問も解明されよう”とコメントした。
(注1)IMO:国連経済・社会理事会傘下の専門機関。海上航行の安全性と海運技術の向上やタンカー事故などによる海洋汚染の防止や諸国間の差別措置の撤廃を目的とする。1948年国連海事会議で前身の政府間海事協議機構設置の条約が採択され、1958年に発効。現行組織は1982年活動開始。2018年6月時点で加盟国は174ヵ国。日本は原加盟国で、他に香港、マカオ、フェロー諸島が準加盟。本部はロンドン。
(注2)バンカー条約:船舶の燃料油流出事故の補償につき規定したもので、船主の厳格責任と責任制限権、登録船主の付保義務、被害者の保険者への直接請求権等をカバーする条約。2018年11月時点で90ヵ国が批准。
(注3)グリーンピース:39ヵ国以上に拠点を置く非政府の自然保護団体。オランダのアムステルダムに国際統制機関を置く。1971年、カナダと米国の環境保護活動家により設立された。「地球が多様性の中で生命を育む能力を確保する」ことを目的として標榜し、気候変動、森林伐採、乱獲、商業捕鯨、遺伝子工学、反核問題といった国際問題のキャンペーンに取り組む。
閉じる