新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に伴って、緊急事態宣言が発令されて7週間余りが経過する。安倍晋三政権は、生活困窮者らに、緊急支援を行うと発表しているものの、それが行き渡る前に、多くの小規模店舗が潰れ、また、失職する人が増えている。特に、安倍政権が掲げた“アベノミクス(注1後記)”の原動力のひとつとなると持ち上げられた高齢労働者が、いの一番に失業に追い込まれ、不十分な年金収入で住み家も追われかねないという、日本の厳しい現状について米メディアが報じている。
5月22日付
『ロイター通信』:「日本の高齢者、かつてアベノミクスの原動力と持ち上げられたが今やウィルス禍で最大の被害者に」
先週の土曜日(5月16日)、新宿区の路上で行われた日本版フードバンク(注2後記)には、100人以上が並んだが、そのほとんどが高齢者であった。
その中の一人A氏(72歳)は、パチンコ店の清掃人として雇用されていたが、COVID-19に伴う緊急事態宣言を受けて、同店が閉店となり失業したという。
A氏の収入は、このパートタイム以外、二月に一度受給する年金5万4千円(500ドル)のみしかなく、このままだとアパート家賃を賄えず、住み家を失う恐れがあるという。
また、別のB氏(60歳)は、葛飾区内の理容室で雇われていたが、外出自粛要請で来客が途絶え、4月半ばに解雇されてしまったため、目下は失業手当を申請中という。
安倍晋三首相が2012年に打ち出したアベノミクス政策において、高齢労働者も、不足する労働力を補完する重要な戦力となると持ち上げられていた。
何故なら、少子高齢化が進む社会にあって、しかし移民受け入れに消極的であることから、高齢者は、ショップ店員、清掃人、タクシー運転手等の非正規雇用の職種で重宝されたからである。
しかし、多くの高齢者は、A氏のように、これら就業収入が生活費の糧になっていたが、景気後退局面では、真っ先に切られる職種である。
生活困窮者救済NPO法人の藤田孝典共同代表は、“年金収入不足のために働かざるを得ない高齢者が、目下一番困難な状況になっている”とし、“家賃や電気代が払えないという高齢者の相談を多く受け付けている”と語った。
厚生労働省の資料によれば、労働人口のうち65歳以上が占める割合は約13%と、第二次安倍政権が始まった2012年時より9%も増えている。
そして、就労高齢者の4分の3以上が、非正規雇用のパートタイムや有期雇用労働者で、不景気の際に真っ先に解雇される立場にある。
また、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎研究員によると、“高齢者の場合、一度失職すると再雇用は非常に難しくなる”という。
そして同研究員は、“米国のように失業率が何パーセントも上下する国と違って、日本の場合は、失業率が僅か1%上がるだけで非常に大きい影響をもたらすことになる”と付言した。
日本全体の3月失業率(注3後記)は2.5%と、今年前月比+0.1%であるが、4月以降更なる上昇が見込まれ、また、高齢者に限ってみると大幅上昇が否めない。
そして、政府統計データによれば、高齢者の5分の1近く(約700万人)が、相対的貧困層(注4後記)に属している。
なお、2019年時点での日本の高齢者人口は28.4%と世界最多で、経済協力開発機構(OECD)平均の約14%の倍以上となっている。
(編注;総務省データによれば、その他主要国の高齢者人口比率は、イタリア23.0%、ドイツ21.6%、フランス20.4%、英国18.5%、カナダ17.6%、米国16.2%、韓国15.1%、中国11.5%)
(注1)アベノミクス:2012年12月に誕生した安倍晋三内閣の経済政策。エコノミクスとかけ合わせた造語で、レーガノミクス(1980年代・米レーガン政権の自由主義経済政策)にちなむ。「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で、長期のデフレを脱却し、名目経済成長率3%を目指した。
(注2)フードバンク:包装の傷みなどで、品質に問題がないにもかかわらず市場で流通出来なくなった食品を、企業から寄附を受け生活困窮者などに配給する活動およびその活動を行う団体。従来は廃棄されていたこうした食品の提供を原則として無償で受け、生活困窮者を支援しているNGO・NPO等の市民団体を通じて、野外生活者や児童施設入居者などの生活困窮者に供給する。
(注3)失業率:総務省データによれば、2017年通年2.8%、2018及び2019年通年2.4%、直近3ヵ月では、2019年12月2.2%、2020年1月及び2月2.4%。
(注4)相対的貧困層:世帯の可処分所得などから算出した数値が、国内に住む人々の中央値の半分(貧困線)に満たない層。
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