世界を恐怖に陥れる新型コロナウィルス感染問題は、依然衰える様子をみせない。そうした中、唯一自国内の感染収束がみえたと嘯く中国は、南シナ海周辺国がウィルス禍にかまけている間に、同海域内の海底に眠る天然ガスを採掘する技術を高度化して、益々制海権を強化しようとしている。
4月2日付米
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「中国、南シナ海での天然ガス採掘技術高度化で制海権強化」
中国国営『新華社通信』は先週、中国が南シナ海の海底から、天然ガスと水が凍って固まった可燃性氷塊を採掘したと報じた。
報道によれば、中国国土・資源部(編注;2018年3月に新組織の天然資源部が吸収)が、約20年の資源探査を経て初めて可燃性氷塊を採掘することに成功している。
その場所は、南シナ海の、中国が領海内と主張する福建省(フーチェン)深沪湾(シェンフ)沖で、中国本土から320キロメートル離れている。
そしてこの程、2月から探査・採掘を開始して、少なくとも86万1,400立方メートルの可燃性氷塊を採掘したという。
可燃性氷塊は、例えば北極のツンドラ(編注;地下に永久凍土が広がる降水量の少ない地域)にも賦存する、クリーンで搬送が容易なエネルギー源であるが、今のところ収益化は難しい資源である。
国際監視グループは、中国が新たなエネルギー供給源を得ただけでなく、南シナ海における領有権主張を益々強くすることになると分析している。
また、別の専門家は、同海域で領有権問題を抱える他の周辺国に当該技術を売り渡したり、あるいは新エネルギー資源の共同開発を提案することで、中国の影響力が更に高められることになるとコメントしている。
例えば、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策学院のエドュワルド・アララル氏は『VOA』のインタビューに答えて、この技術革新によって、何故中国が南シナ海の領有権主張にこだわってきたか、明確な成果を獲得したことになると述べた。
また、豪州のディーキン大学(1974年設立のビクトリア州立大学)のスチュアート・オア教授は、可燃性氷塊は他の大海にも賦存しているとみられることから、中国以外の国々も同資源回収技術に興味を持つことになろうという。
ただ、目下のところ、南シナ海周辺国は、新型コロナウィルス感染問題対応で手一杯の状態となっている。
ホーチミン市人文社会科学大学(1955年設立のベトナム国立大学)国際問題研究センターのグエン・タン・トゥルング所長は、ベトナム政府から公式な抗議は出されていないが、当然のことながら同政府は中国の行動を注視しているはずだ、とコメントしている。
3月27日付中国『環球時報』(『新華社通信』配信):「中国、可燃性氷塊採掘の世界記録を達成」
中国天然資源部は3月26日、南シナ海において、世界で初めて大量の可燃性氷塊の採掘に成功したと発表した。
声明文によると、深沪湾沖で深度1,225メートルの海底から、約1ヵ月の掘削作業で合計86万1,400立方メートル、一日平均2万8,700立方メートルの可燃性氷塊を回収しており、総量及び平均値ともに世界記録だとする。
中国は2017年に、60日間の掘削作業で約30万8千立方メートルを回収した実績を持つが、今回はそれを2.8倍も上回ることになった。
可燃性氷塊は通常、海底やツンドラ地域に賦存しているが、高圧かつ低温の地層内でのみ安定が保たれ、かつ、エタノール(揮発性アルコール)のように引火性が強いため、採掘・回収には高度な技術が必要となる。
なお、可燃性氷塊、すなわち水和物天然ガスは、1立方メートルで通常の天然ガスの164倍にも相当するため、科学者は、石油と天然ガスに取って代わる最高のエネルギー資源となると評価している。
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