既報どおり、ドナルド・トランプ大統領は、対中国貿易交渉で“第1段階”の合意に達したことを大いに喧伝している。そして、今秋の大統領選再選に向けて成果を上げるべく、重点対策として次に突き進もうとしているのは、対欧州連合(EU)、EU離脱後の英国、インド、そして“第2段階”の日本との貿易交渉である。なお、対中国“第2段階”貿易交渉も重点項目に挙げられているが、さすがにこれは選挙前の進展は難しいとみられている。
1月23日付米
『ロイター通信』:「トランプ大統領、対中国貿易交渉決着の次は対EU及び英国」
ドナルド・トランプ大統領は、北米自由貿易協定(NAFTA)改定に加えて、昨年12月に懸案の対中国貿易交渉で“第1段階”の基本合意に達し、己の成果を声高に叫んでいる。
そして次の標的としているのが、対EU及びEU離脱後の英国との貿易交渉で、これまでの協定を破棄して、米国に有利な条件で締結すべくのろしを上げている。
*(参考)米国向け主要輸出国:1中国、2カナダ、3メキシコ、4日本、5ドイツ、6韓国、7英国、8フランス、9インド、10イタリア
<EU>
米・EU間では、航空機産業への補助金、貿易障壁、そしてEUが導入を検討しているデジタル税(注1後記)問題で軋轢が生じている。
そしてトランプ大統領は今週、EUとの貿易交渉に臨むに当たって、場合によって“セクション232(注2後記)”を適用して、EUからの自動車に25%の追加関税を賦課すると強硬な発言をしている。
この脅しに先立って、フランスは1月20日、米国向けフランス産品総額24憶ドル(約2,640憶円)に最大100%の関税賦課との脅しに屈し、米IT企業へのデジタル税3%賦課を一時凍結する決定を行っている。
<英国>
トランプ大統領及びスティーブン・ムニューシン財務長官は今週、もし英国がデジタル税を導入するならば、英国産品に追加関税を賦課すると異口同音に発言している。
しかし、英国のサジード・ジャビド財務相は、デジタル税は予定どおり4月に施行するとした上で、英国の“優先事項”は、対米貿易交渉よりもまず対EU交渉だと表明した。
なお、トランプ政権は、大統領選に向けて成果を上げるべく、次の貿易交渉も視野に入れている。
<インド>
米国は昨年6月、インド側が新たに定めたデジタル取引制限への対抗措置として、56憶ドル(約6,160憶円)に上るインド産品に対する一般特恵関税制度(GSP、注3後記)適用を取りやめた。
両国はその後交渉を続け、9月には限定的な貿易協定締結を目論んだが、結局物別れに終わっている。
なお、トランプ大統領が今年2月に訪印を予定していることから、再度交渉が熱を帯びてきている。
<日本>
両国は昨年9月、限定的な貿易協定に基本合意している。
そして今年4月には、自動車取引に関わる交渉の第2ラウンドが開始されると予想される。
<中国>
昨年12月に第1段階の貿易協定が合意されたが、中国政府が国営企業に付与している補助金問題等、第2段階の交渉はこれからとなる。
専門家は、11月の大統領選前の決着は望めないとみている。
同日付フランス『AFP通信』:「トランプ大統領、EUとの貿易交渉再開に当たって輸入車への関税賦課の脅し」
トランプ大統領は1月22日、もしEUが米国との貿易協定締結に合意できなければ、EUからの輸入車に追加関税を賦課する他ないと強調した。
フランスは、米国側との交渉進捗を期待して、米国が批判していたデジタル税導入を一時棚上げすることに同意している。
一方、英国は、EU離脱後に米国との独自の貿易協定締結を望んでいるはずだが、当該デジタル税導入は予定どおり実施すると表明している。
(注1)デジタル税:EUで導入が検討されている、IT分野の巨大企業GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などを対象に、デジタルサービス税(DST)及びデジタル法人税(SDP)を賦課しようとする税制。DSTは域内での売上高に一律3%を課税するもので、SDPは、域内に恒久的施設を持たないGAFAらに対しても、域内での取引から得られる利益に対して課税しようとするもの。
(注2)セクション232:米国通商拡大法232条。ある産品の米国への輸入が米国の国家安全保障を損なうおそれがある場合、関税の引き上げ等の是正措置を発動する権限を大統領に付与する規定。
(注3)GSP:関税に関する国際的な制度の一つ。先進国が開発途上国から輸入を行う際に関税率を引き下げるもので、開発途上国の支援を目的としている。
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