カナダから違法に輸出されたゴミが約5年にわたりマニラ港に放置され、フィリピンとカナダ間で外交問題に発展した。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、カナダとの戦争も辞さじと、対中国の弱腰外交とかけ離れた強気姿勢をみせた。更に、駐カナダ大使を帰国させるとの具体的方針をみせたことから、カナダ側も、これ以上国際社会から悪者扱いされることに耐えられず、遂に69コンテナー分の2,000トン余りのゴミを引き取ることとし、その積載船が6月末にカナダに到着した。これでフィリピン・カナダ間の論争はひとまず鎮静化しようが、日本を含めた先進国から輸出されたゴミがフィリピンの他、マレーシアやインドネシアに滞留しており、日本としても対応を迫られる時期が早晩訪れよう。
6月30日付米
『ロイター通信』:「フィリピンからのゴミ搭載船がカナダに到着」
フィリピンのマニラ港に滞留の、69コンテナーものゴミを搭載した貨物船が6月29日、カナダのバンクーバー港(ブリティッシュ・コロンビア州)に到着した。
当該ゴミは2013~2014年に、カナダ民間業者がリサイクル可能プラスチックとしてフィリピンに輸出したものだが、実際は産業廃棄物や家庭ゴミ等がコンテナーに納められていた。
そこでフィリピン側はカナダに対して、可及的速やかに回収するよう求めていたが、カナダ側は民間企業の所業として積極的に対応してこなかった。
遅々として進まない交渉に腹を立てたロドリゴ・ドゥテルテ大統領が今年4月、カナダとの戦争も辞さないと強硬姿勢を示した。
事態を重く見たカナダ政府が、5月15日を期限として当該ゴミの回収を約したものの、5月中の実行がなされず、フィリピン側は更に在カナダ大使を召還する決定をした。
フィリピン政府の度重なる強硬姿勢に遭い、遂にカナダ政府がボロレ・ロジスティックス・カナダ(フランス物流最大手傘下のカナダ企業)を起用して、当該ゴミの回収・運搬をすることになったものである。
なお、同様のゴミ問題は他の東南アジア諸国でも深刻な事態となっており、マレーシアは過日、日・米・フランス・カナダ・豪州・英国等の先進国から搬送された3千トンものプラスチック・ゴミを引き取るよう求める声明を発表している。
同日付カナダ『グローブ&メール』紙:「フィリピンからのゴミ搭載貨物船がカナダに到着」
カナダは、バーゼル条約(注後記)の締約国であり、フィリピンに輸出された当該ゴミが産業廃棄物であれば、フィリピン側に通知して了解を取得する必要があった。
当該民間業者の虚偽申告であったため、カナダ側の対応が遅れたものだが、フィリピン裁判所は2016年、カナダ側に引き取りを命じる判決を下していた。
当該ゴミのカナダへの到着で、ひとまず両国間の外交問題は鎮静化するとみられる。
しかし、カナダ側には、当該ゴミの輸送コスト114万カナダドル(約9,400万円)及びゴミ焼却費用37万5千カナダドル(約3,100万円)の費用負担問題が残る。
カナダの環境・気候変動省報道官は、当該費用を責任ある企業・関係者に負わせることになると表明している。
同日付フィリピン『マニラ・ブルティン』紙(『AFP通信』配信):「カナダが産業廃棄物を回収してフィリピンとの外交問題はひとまず決着」
先進国から出されたプラスチック・ゴミは長い間、中国がリサイクル用に輸入をしていたが、環境問題を優先して昨年から輸入禁止措置とした。
そこで、行き場を失った多くのゴミは、フィリピン、マレーシア、インドネシア等の途上国に輸出されることとなり、当該ゴミの処理が追いつかない当該国で、新たな環境問題を引き落としつつある。
そしてマレーシアは今年5月、カナダが多量の産業廃棄物をクアラルンプール港向けに輸出してきたとして、強硬に抗議した。
なお、カナダ産業審議会の調査データによると、国民一人当り排出する産業廃棄物の量は、日本や米国等の他先進国に比べて、カナダの方が多い結果となっているという。
一連の騒動に鑑み、環境保護活動家らは、今こそ先進国は、産業廃棄物を輸出するのではなく、自国内で処理することに努めるべきであるとして、その結果、ゴミ発生量の抑制にもつながるはずだと主張している。
(注)バーゼル条約:正式名称は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」といい、一定の廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組み及び手続等を規定した条約。国連環境計画が1989年3月、スイスのバーゼルにおいて採択、1992年5月5日発効。日本は1992年に国内法(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律、通称バーゼル法)を制定し、1993年に加盟。
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