ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領は、自身が最優先に取り組んでいる麻薬犯罪撲滅政策について、内外から超法規的殺人を容認していると責められてきたが、全く聞き入れようとしなかった。あろうことか、大殺戮に伴う人権侵害を捜査するとした国際刑事裁判所(ICC、注後記)に対しても、一向に怯むことなく、むしろ同組織締約国グループから脱退するとまで宣言していた。そしてこの程、フィリピン最高裁が同大統領の決定を差し止めるよう求めていた人権団体からの申し立てを却下したことから、フィリピンが正式にICCから脱退することになった。親中路線をいく政権下では、司法もいよいよ中国化していく模様である。
3月17日付米
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「フィリピン、公式にICCから脱退」
フィリピン政府は1年前、ロドリゴ・ドゥテルテ政権の麻薬撲滅政策に伴う超法規的殺人について捜査するとしたICCの発表を不服として、同組織締約国グループから脱退すると宣言していた。
これに対して、人権団体はフィリピン最高裁に、同大統領の決定を差し止めるよう申し立てていたが、この程最高裁は、同申し立てを却下する判断を下した。
この決定に基づき同政府は3月17日、公式にICCから脱退することになった。これは、2017年に脱退したブルンジ(1962年にベルギーから独立した東アフリカの国)に続いて2ヵ国目である。
最高裁に申し立てていた人権団体代表のロメル・バガレス弁護士は、この司法判断の結果、“フィリピンで長く行われてきた刑事免責反対運動が大きく後退”することになると嘆いた。
昨年、ICCは、ドゥテルテ大統領及び政府高官・警察組織が、麻薬犯罪撲滅の名の下に大量殺戮を犯している容疑があるとして、捜査に着手すると発表していた。
これに対して同大統領は、フィリピンには十分な司法制度があり、ICCの捜査は不要かつ内政干渉だとした上で、ICC検察局のファトゥ・ベンソーダ主任がもしフィリピンに入国した場合、即刻逮捕するとまで言って脅している。
同大統領が2016年就任以来取り組んできた、麻薬犯罪撲滅政策の結果、5千人以上が麻薬犯罪被疑者として殺害されている。
しかし、人権団体によれば、更に多くの罪のない人たちが、警察や自警団によって無残に殺害されているという。
一方、同大統領は3月14日、新たに46人の“麻薬犯罪関与の政治家”リスト公表し、残りの任期3年の間、もっと多くの麻薬犯罪者を血祭りに上げると発言している。
これに対して国際人権監視団は、当該リストは“紛れもなく殺人予告リスト”で、同大統領の政敵を標的にしたものだと批判した。
同日付フィリピン『マニラ・ブルティン』紙:「大統領府、“存在価値のない”ICCに復帰することはないと主張」
フィリピン大統領府のサルバドール・パネロ報道官は3月17日、ICCは“全く役に立たない機関”であり、フィリピンが再びメンバーになることはないと表明した。
同報道官はまた、もしICCが麻薬撲滅政策に関わりドゥテルテ大統領を捜査するとするなら、それは明らかに内政干渉であり、断固として拒否すると強調した。
更に、同報道官は、フィリピンには十分な司法制度があり、ICCの助けなど一切不要であるとした。
例えば、昨年11月、麻薬容疑者と間違えて青年を殺害した3人の警官について、きちんと裁判にかけて有罪判決を下しており、最近米国務省がリリースした人権報告書においても評価されているとも付言した。
(注)ICC:1998年に国際連合全権外交使節会議において採択され、2002年に発効した「国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程」(以下「ローマ規程」)に基づき、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪)を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰するための常設の国際刑事裁判機関。ICCは、各国の国内刑事司法制度を補完するもので、国家間の紛争について裁判を担う国際司法裁判所(国連の主要機関のひとつ)とは別の独立した組織。締約国:123ヵ国。
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