ロシアは、2014年のクリミア併合以来、欧州連合(EU)から経済制裁を課せられてきた。ロシア産天然ガス供給事業も同様で、東欧向けへのサウス・ストリーム・プロジェクト(注1後記)を立ち上げようとした途端、EU側主導で非ロシア産天然ガスを供給するナブッコ・パイプライン・プロジェクト(注2後記)をぶち上げられた。しかし、ここへきて、シリア問題で連携が強化されたトルコの協力を得て、ロシア産天然ガスをトルコ経由東欧へ供給するパイプライン・プロジェクトの完工を迎えることができて、ウラジーミル・プーチン大統領としては、EUとの天然ガス供給の争いで大きくリードすることとなり満足の様子である。
11月17日付
『オイル・プライス』エネルギーニュース:「ロシアが欧州向け天然ガス供給戦争で一歩リード」
ウラジーミル・プーチン大統領は11月19日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とともに、トルコ・ストリーム・プロジェクト第1期工事の完工式典に出席する。
同プロジェクトは、ロシア産天然ガスを、黒海海底を通してトルコ向けに、年間157億5千万立法メーター供給するパイプライン敷設計画で、その供給量は第2期工事完工後には倍増される。...
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11月17日付
『オイル・プライス』エネルギーニュース:「ロシアが欧州向け天然ガス供給戦争で一歩リード」
ウラジーミル・プーチン大統領は11月19日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とともに、トルコ・ストリーム・プロジェクト第1期工事の完工式典に出席する。
同プロジェクトは、ロシア産天然ガスを、黒海海底を通してトルコ向けに、年間157億5千万立法メーター供給するパイプライン敷設計画で、その供給量は第2期工事完工後には倍増される。
当初EU及び非EUのいくつかの国は、ウクライナ問題やロシア産天然ガスに依拠過ぎることを問題視してきた。
しかし、ロシア・トルコの連携で本プロジェクトの建設が進むに連れて、第2期工事完工後のガス供給が欧州市場にも及ぶことから、EU内の多くの企業がトルコ・ストリーム・プロジェクトに参画するようになり、ロシアにとっては天然ガス供給戦争で一歩リードしたと言える。
特にロシアにとっては、トルコの先の大口需要家としてギリシャとイタリアへの供給に期待しており、両国との良好な関係構築に腐心している。
一方、両国にとってもエネルギー政策上ロシア産天然ガスの直接供給は重要であり、イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は直近でモスクワを訪問し、EUによる対ロシア制裁は逆効果であると発言している。
なお、トルコ・ストリーム・プロジェクトは、クリミア問題からの対ロシア制裁を懸念して、プーチン大統領が計画の中止を発表したサウス・ストリーム・プロジェクトに比べて供給規模は半分ほどである。
しかし、主体企業のロシア国営ガスプロム社にとっては、EUがロシア依存度低下を目論む中、ドイツ市場他にガス供給するノルド・ストリーム 2(注3後記)も間もなく完工を迎えることから、トルコ・ストリーム・プロジェクトと併せて、欧州におけるエネルギー供給を牛耳るには十分な成果が得られつつあるとみている。
(注1)サウス・ストリーム・プロジェクト:ロシアが主導する露ガスプロム社と伊Eni社のパイプライン敷設計画で、ウクライナを回避してロシアから欧州へ天然ガスを輸送するパイプライン・プロジェクト。 2000年代後半からガス供給を巡って度々起きたロシア・ウクライナ間ガス紛争の影響を回避するため、ロシアから黒海およびブルガリアを経由してギリシャ・イタリア・オーストリアへと、ウクライナを迂回する形でルートが設定された。当初、ガス供給開始を2015年としていたが、クリミア問題での対ロシア制裁の影響から、2014年末にプーチン大統領は本プロジェクトの中止を発表。
(注2)ナブッコ・パイプライン・プロジェクト:カスピ海地域の天然ガスを、トルコを起点としてヨーロッパへ輸送するパイプライン計画。オーストリア・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア・ドイツ企業が出資。ガスの供給元及びルートからもロシアが外されているが、これは欧州のエネルギー安全保障の観点からロシアのエネルギーへの過度の依存を避けるためであり、ロシアが主導するサウス・ストリーム・プロジェクトのライバルプロジェクトと目されている。
(注3)ノルド・ストリーム 2:2005年に、ロシアとドイツが合意して建設が進められて2011年11月に稼働を開始した、バルト海底を経由してロシア・ドイツ間をつないだ天然ガスのパイプライン敷設プロジェクトの第2期計画。ロシア国営企業ガスプロムとドイツ、フランスなどの企業が出資。2019年完工を目指して建設中。
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