今年6月上旬にシャルルボア(カナダ・ケベック州)で開かれた先進7ヵ国首脳会議(G7)では、ドナルド・トランプ大統領が、ロシア処遇と貿易問題で他6ヵ国首脳と対立したまま、米朝首脳会談に向かうため、途中退席するという前代未聞の事態が起こったことで注目された。
しかし、これら大きな問題とは別に、地球規模の問題であるプラスチックゴミの対策を推奨する「海洋プラスチック憲章(注後記)」について決議されたが、日本は合意文書に署名できない結果となり、他主要国から厳しい目を向けられた。
プラスチックゴミによる海洋汚染は、20世紀後半以降顕著になってきている。
具体的には、土にも水にも溶けないレジ袋・包装紙等のプラスチックゴミが大量に海洋に投棄・流出しており、特に北太平洋上に溜まった浮遊プラスチックゴミは、“北太平洋ゴミベルト”と呼ばれ、深さ30メートルでその広さは340万平方キロメーターとなっている。
この広さは、今やフランス国土の6倍ともなり、環境保護活動家らからは“7番目の大陸”だと皮肉を込めて、国際社会の対策遅延への非難の象徴としている。
日本側が当該事項の対策についての合意文書に署名できなかったのは、国内法の整備ができておらず、社会にどの程度影響を与えるか現段階で判らないとの理由からであった。
一方、他先進国では、早くからプラスチックゴミによる海洋汚染問題対策が協議されていて、次のような動きが報告されている。
・イタリア:2011年、レジ袋の使用を禁止。
・米カリフォルニア州:2015年7月、レジ袋の消費者への提供を禁止する条例制定。
・フランス:2016年7月以降、レジ袋の使用禁止。違反者に最高罰金10万ユーロ(約1,300万円)賦課。
・欧州連合(EU):2016年8月、EU加盟国に対して、2025年までにレジ袋使用を1人当り年間40枚までに削減するよう指示。2018年5月、新たにレジ袋等使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法案を提案。
以上の動きに対して、日本においては今年6月下旬、“プラスチック資源循環戦略”を策定する委員会が新たに立ち上げられたばかりである。
なお、海外から日本の対策の遅さについて厳しい目が向けられるのは、プラスチックゴミの中でも、特に海洋生物、ひいてはそれを食するヒトへの影響が深刻になりつつある、マイクロプラスチック(プラスチックゴミが化学変化等で分解して直径5ミリ以下の微小粒子ゴミとなったもの)問題もある。
すなわち、マイクロプラスチックを魚やプランクトンが飲み込み、多くを死滅させるだけでなく、それら汚染された魚などをヒトが食することによって、健康被害を増大させる恐れがあるからである。
日本の大学他研究機関が調査した結果によると、日本近海に浮遊するマイクロプラスチックは、調査対象50ヵ所の平均で、1平方キロメーター当り172万片も認められ、これは世界平均の実に27倍となっている。
国連等国際機関の集計したデータによると、プラスチックゴミの年間の海洋投棄・流出量は、①中国400万トン、②インドネシア150万トン、③フィリピン100万トン、④ベトナム90万トン、⑤スリランカ80万トン、・・・、⑳米国20万トン、・・・、㉚日本10万トン、とアジア諸国が上位を占めている。
日本の数値は低い方とは言え、東南アジアから海流が日本近海に流れ込む関係で、それら諸国から投棄・流出したプラスチックゴミが、化学分解等してマイクロプラスチックとなって、日本近海まで流れ込んでいると考えられる。
しかし、これらの原因やそれから予想される結果は、早くから想定されていたことである。
従って、国際社会は、東南アジア諸国へのプラスチックゴミ対策を積極的にはたらきかけるためにも、G7における「海洋プラスチック憲章」署名を含めて、日本は世界にもっと積極的対策を以てアピールしていく必要があるとみている。
(注)海洋プラスチック憲章:海岸でのゴミの回収活動に加えて、不必要な使い捨てプラスチック製品の削減、2040年までのプラスチック容器のリサイクル率100%達成など、プラスチックゴミの削減に踏み込む発生源対策を、世界規模で促進するための行動宣言。
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