トランプ政権は昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの脱退を決定した他、地球温暖化防止のための国際的枠組み「パリ協定」からの離脱も表明している。そして同政権は6月19日、国連人権理事会がイスラエルに対して恒常的な偏見を示してきていることを理由に、突然同理事会からの脱退を発表した。ただ、この背景には、同理事会の貧困及び人権問題特別報告者の報告内容も気に入らなかったとみられる。すなわち、同報告者が、米国の貧困層は4,000万人に上り、極貧層も1,850万人もいると報告したことに対して、同政権は、極貧層の実数は25万人に過ぎないと猛抗議しているからである。
6月26日付
『ワシントン・ポスト』紙:「国連が米国には“極貧層”が1,850万人いると発表したことに対して、トランプ政権は僅か25万人だと猛反発」
国連人権理事会が公表した、米国に“極貧層”が1,850万人いるとの報告に対して、トランプ政権は6月22日、とんでもない誤解で、実数は僅か25万人だとして猛抗議した。
同理事会から任命された、貧困及び人権問題担当の特別報告者(注後記)であるフィリップ・アルストン氏が今年5月、米国には貧困層が4,000万人いて、極貧層も1,850万人に上るとする報告書を公表していた。...
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6月26日付
『ワシントン・ポスト』紙:「国連が米国には“極貧層”が1,850万人いると発表したことに対して、トランプ政権は僅か25万人だと猛反発」
国連人権理事会が公表した、米国に“極貧層”が1,850万人いるとの報告に対して、トランプ政権は6月22日、とんでもない誤解で、実数は僅か25万人だとして猛抗議した。
同理事会から任命された、貧困及び人権問題担当の特別報告者(注後記)であるフィリップ・アルストン氏が今年5月、米国には貧困層が4,000万人いて、極貧層も1,850万人に上るとする報告書を公表していた。
これに対して米国のニッキー・ヘイリィ国連大使は先週、同報告者の示した数値は、“誇張され”かつ“政略的”であると非難した。
アルストン特別報告者はメディアのインタビューに答えて、数十年間公表された米国政府の国勢調査のデータを基にしたもので、極貧層は貧困層の収入の半分以下の人たちを指しているとする。
同報告者によると、2016年の当該数値は家族4人で年収が1万2千ドル(約132万円)であり、これによる貧困率は1960年代から少々下がっただけだとしている。
一方、トランプ政権側は、米保守系シンクタンクのヘリテージ財団が公表している貧困率算定基準による極貧層は、様々な社会保障(医療費補助、食糧支援、住宅補助)を加えても一日4ドル(約440円)、年間1,500ドル(約16万5千円)しか収入がない人たちであり、それは全世帯数の僅か0.08%(25万人)だと主張した。
更に、同政権側は、1980年代に比較して、貧困層は77%も減少しているとの数値もあるとしている。
しかし、多くの専門家は、ヘリテージ財団の公表値を前面に出すことで、結果として極貧層救済の措置がおざなりになる恐れを指摘している。
例えば、無党派シンクタンクのアーバン・インスティテュートのグレゴリー・アクス氏は、2016年における“深刻な貧困層”は1,570万人に上るとしている。
米連邦予算などを分析するシンクタンクのセンター・オン・バジェット&ポリシー・プライオリティーズも、米国の貧困層は約18%と、他主要国と比べて高いと主張している。
更に、プリンストン大学の経済学者アンガス・ディートン氏は、米国では、社会保障サービスを加えても一日4ドル以下で暮らしている人たちが530万人はいるとしている。
同氏は、一日4ドル以下が1,850万人もいるということに異議を述べることに異論はないが、しかし、ヘリテージ財団のいう25万人であるはずは決してなく、この数値がまかりとおると、貧困層問題が過小評価されてしまうと警鐘を鳴らしている。
(注)特別報告者:国連人権理事会が任命した、個人資格の独立した専門家。北朝鮮・イラン・ミャンマー・シリア等の特定国を対象とする報告者と、貧困・人種差別・信仰の自由・表現の自由・女性差別等のテーマ別の報告者がいる。同報告者は国連スタッフではなく、その勧告は国連の見解ではないものの、国連から特定された役割を与えられている。
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