ドナルド・トランプ大統領は、台頭する中国に対して、事ある毎に対抗意識を剝き出しにしている。例えば、米国家安全保障戦略の中で中国を最も主要な脅威としたり、また、貿易不均衡の槍玉として中国製品への関税賦課を打ち出したりである。そして台湾政策も同様で、四十年前に米中間で合意された“一つの中国”原則を翻すかのように、台湾向け武器輸出を増やしたり、米台間高官往来を後押しする法案に署名している。しかし、直近では中国本土への経済的依存度が大きい台湾としては、結果的に中国をして対台湾政策厳格化を促進させてしまう恐れから、本音ではトランプ大統領に中国揺さ振りのための政争の具にして欲しくないとみられている。
4月29日付
『ワシントン・ポスト』紙社説:「台湾はトランプ政権下で恩恵を受けているかも知れないが何故誰も喜んでいないのか?」
ドナルド・トランプ大統領(71歳)が就任して15ヵ月経つが、アジアの中で同大統領の政策の恩恵を受けているのは台湾であろう。
就任前に蔡英文(ツァイ・インウェン、61歳)総統からの祝辞電話は受けるし、40年前に米中間で合意された“一つの中国”原則に疑問を呈し、更には、台湾向けに14億ドル(約1,526億円)の武器輸出を許可している。...
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4月29日付
『ワシントン・ポスト』紙社説:「台湾はトランプ政権下で恩恵を受けているかも知れないが何故誰も喜んでいないのか?」
ドナルド・トランプ大統領(71歳)が就任して15ヵ月経つが、アジアの中で同大統領の政策の恩恵を受けているのは台湾であろう。
就任前に蔡英文(ツァイ・インウェン、61歳)総統からの祝辞電話は受けるし、40年前に米中間で合意された“一つの中国”原則に疑問を呈し、更には、台湾向けに14億ドル(約1,526億円)の武器輸出を許可している。
更に、今年3月には、米議会が全会一致で制定していた“台湾旅行法(TTA、注1後記)”に署名して発効させている。
しかし、実際のところ、台湾においてトランプ政権の後押しを評価している人は余り見受けられない。
台湾の前国家安全保障顧問の邱義仁(キウ・イジェン、67歳)氏は、米政府が台湾関与戦略を見直そうとしていることは覗えるが、その内容は不詳であることから、従来に換えてどのような戦略を構築・遂行しようとしているのかが最も知りたいことだと強調している。
特に、トランプ大統領の言行不一致に不安を覚えている。例えば、3月16日にTTAに署名した数日後、アレックス・ウォン国務次官補代理が訪台したところ、同大統領は、この事態が習近平(シー・チンピン、64歳)国家主席を苛立たせるかも知れないのに、事前に報告がなかったとして激怒したという。
台湾の現状をみると、中国本土への経済的依存度が非常に大きく、規模的には中国の1省のレベルと同等になっているからである。
すなわち、30年前は、台湾の経済規模は当時の中国全体に匹敵する程であったが、現在では中国の6省を合わせた規模より小さくなっている。更に、台湾の輸出高の40%が中国及び香港向けであり、また、100万人以上の台湾人が中国本土で就業している現実がある。
従って、台湾の本音は、中国に呑み込まれるのは欲していないものの、トランプ政権が中国に抗うような対台湾政策を表す度に、中国政府による台湾への風当りが強くなることを大いに憂慮していると見られる。
実際問題、蔡政権が“1992コンセンサス(注2後記)”の再確認を拒否していることから、中国政府は台湾への渡航制限措置を講じたり、台湾海峡に軍艦を派遣したりと、対台湾政策を益々強硬化してきている。
なお、蔡総統は国防力増強に努めているが、邱氏によれば、同総統は、台湾が台湾として存在するために最も重要なことは“民主主義”に依拠することだと理解しているとする。
一つの実例を挙げれば、先週リリースされた“2018年報道の自由度ランキング(注3後記)”によれば、台湾は42位と、45位の米国より3つも高く評価されている。
(注1)TTA:閣僚級の安全保障関連の高官・行政機関職員など、全ての地位の米政府当局者が台湾に渡航し、台湾側の同等の役職の者と会談することや、台湾高官が米国に入国し、国防総省や国務省を含む当局者と会談することを認めることを定めている。なお、1979年に米国が台湾との断交を決定以降、米台高官の相互訪問等は自粛されてきていた。
(注2)1992コンセンサス:中国と台湾の当局間で、“一つの中国”問題に関して達成したとされる合意の通称。但し、合意内容について、台湾側の主張は「双方とも“一つの中国”は堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」に対して、中国側の主張は「双方とも“一つの中国”を堅持する」であるため、必ずしも一致していない。
(注3)2018年報道の自由度ランキング:国境なき記者団が4月25日に発表した、各国の報道に関する自由度ランキング。トップ5は北欧諸国が占め、他主要国では、15位ドイツ、18位カナダ、19位豪州、33位フランス、40位英国、42位台湾、43位韓国、45位米国、67位日本、70位香港、148位ロシア、176位中国、180位(最下位)北朝鮮。
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