欧州宇宙機関(ESA、注1後記)は先週末、2011年9月に中国によって打ち上げられ、2013年に役目を終えていた宇宙実験施設“天宮1号(ティアンゴン)”が、3月30日~4月6日の間に地球に落下する可能性が高いとの予測を発表した。
大気圏再突入時に大部分が燃え尽きるが、一部の残骸が北緯43度~南緯43度の範囲(日本のほぼ全土、南米、アフリカ大陸の他、ワシントン、北京、シドニーなど主要都市も含まれる広大な範囲)に落ちる恐れがあるとしている。
ただ、燃え残った破片が人を直撃する可能性は、「1年の間に雷に打たれる確率の1,000万分の1」と極めて低いという。
中国は、習近平(シー・チンピン)指導体制以前から、宇宙においても米国に追い付き・追い越せと、人工衛星の開発・打ち上げに拍車をかけてきている。
2015年末のデータであるが、世界各国がこれまでに打ち上げた人工衛星は合計7,200機余りであり、軌道上にある衛星は4,125機(うち運用中1,462機)である。その国別内訳は以下のとおり、中国が、2000年代に日本を抜いて以降、米ロ両宇宙大国に迫っている。
(1) ロシア:1,492機(うち運用中144機)
(2) 米国:1,266機(同494機と最多)
(3) 中国:207機(同163機と米国に次いで2位)
(4) 日本:149機(同70機)
(5) インド:63機(同37機)
人工衛星には、通信衛星(インターネット、テレビ放送用)、科学衛星(天体や気象観測用)、航行衛星(GPS)、軍事衛星(偵察用)があるが、上記のほとんどが軍事衛星で占められており、正に宇宙における軍拡競争と言えなくもない。
なお、冒頭で述べた、役目を終えた人工衛星の地球への落下であるが、これまで次のような事態が報道されているが、いずれの場合も人への被害は報告されていない。
●1978年1月 旧ソ連製“コスモス954号(レーダー海洋偵察衛星)”:カナダ北西部の無人地帯に墜落。人的被害はないが、発電用原子炉の破片が放射性物質であったため、除染費用として600万ドル(6億円)余りがかかり、カナダ・ソ連間交渉で半額補填された。
●1979年7月 米国製“スカイラブ(宇宙ステーション)”:大気圏再突入の際に燃え残った破片が豪州西部の民家の屋根を直撃したが、怪我人はなし。米国は、「宇宙損害責任条約(注2後記)」に基づいて補償。
●1991年2月 旧ソ連製“サリュート7号(宇宙ステーション)”:破片がアルゼンチン内に落ちたが怪我人の報告はなし。
●2001年3月 ロシア製“ミール(宇宙ステーション)”:米スカイラブを教訓に、予め補給船を打ち上げてドッキングさせた上で、徐々に高度を下げさせて南太平洋に落下させた。被害報告なし。
●2003年8月 日本製“おおすみ(衛星打ち上げ技術開発実験用衛星、1970年2月打ち上げ)”:エジプト・リビア国境上空で大気圏再突入の際に燃え尽きたため、被害報告等一切なし。
●2011年9月 米国製“UARS(上層大気観測衛星)”:太平洋上で大気圏再突入の際に消滅。被害なし。
(注1)ESA:欧州各国が共同で設立した、宇宙開発・研究機関。1975年設立当初の参加国は英仏独伊等10ヵ国、現在は21ヵ国が参加。人工衛星による地球観測や、惑星など太陽系内の天体観測のための探査機の研究開発にも力を入れ、米連邦航空宇宙局 (NASA) との共同研究も行っている。
(注2)宇宙損害責任条約:1971年国連総会で採択され、1972年発効。打ち上げ国が、宇宙物体によって何らかの損害を引き起こした場合、打ち上げ国が無限の無過失責任を負うと定める。日本は1983年に加入。
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