中国が実効支配を進める南シナ海の西沙諸島(パラセル諸島)の永興島(ウッディー島)に22日、映画館がオープンした。これまで建設を進めていた滑走路等の軍事施設やインフラ設備に加え、娯楽施設を作ることで領有の既成事実をさらに積み重ねる狙いがあると見られる。ジャパン・タイムズ等がいち早くこの動きを報じていたが、アジアそして欧米のメディアも相次いでこれを取り上げた。
中国国営の新華社通信によると、22日に新しい映画館で初めての上映が行われ、島に駐留する軍人や民間人ら約200人が、中国の模範的な地方幹部を描いた2014年のドキュメンタリー映画を鑑賞した。映画館は、高画質の4K画像や3次元立体(3D)画像等の最新機器を導入しており、同館を運営する海南メディアグループのGu Shaoqing会長によれば、今後は中国本土と同じ時期に、人気作などを1日に少なくとも1本以上、上映する予定であるという。機器は小型化されており、他の島で上映を行う場合にも、簡単に持ち運びができる。
中国外務省の陸慷報道局長は24日の記者会見で、映画館が開館したことを認めている。陸局長は、島の実効支配強化につながるのではないかと問われ、「自国の領土に映画館を建てるのに、特に争いとなる点はない。」と反論した。
ウッディー島は西沙諸島で最大の島であり、面積は2.6平方キロメートル。人口は約2,000人で、その内中国軍の関係者が4分の3を占めている。台湾、ベトナムも領有権を主張しており、さらに領有権が激しく争われている南沙諸島の北側に位置する。南沙諸島では、中国が7つの人工島を建設するなど実効支配を強めている。
中国は2012年に西沙、南沙、中沙の3諸島を管轄する自治体として、「三沙市」の市庁をウッディー島に置き、軍事施設に加えて、汚水処理場などのインフラ施設、学校や警察署、裁判所、図書館や体育館といった公共施設、生活・文化施設を整備してきた。今後ホテルや商店をさらに建設し、南シナ海全体でモルジブ型のリゾートを目指す計画まであるという。今回の映画館のオープンにより、娯楽施設も整っていることを示し、既成事実をさらに積み重ねることによって、中国の主権を全面的に否定したハーグ仲裁裁判所の判断に対抗する狙いがあると見られている。
西沙諸島を巡っては、今月2日に、米国の駆逐艦がトランプ政権では2回目となる「航行の自由(Freedom of Navigation)作戦」を付近の海域で行った。横須賀を母港とする米海軍のミサイル駆逐艦「ステザム(Stethem)」が西沙諸島のトリトン島(中建島)の12カイリ以内の海域を航行している。中国はこれを自国の主権を侵すものとして強く反発し、艦船を派遣して追尾させた。
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