米国務省は21日、自国民の北朝鮮への渡航を禁止する措置を取ることを明らかにした。逮捕や長期にわたる拘束の深刻なリスクをめぐる懸念が高まっているためとしている。27日の連邦官報で禁止の通知がなされ、その30日後に発効する予定だ。
米国務省のヘザー・ナウアート報道官によれば、レックス・ティラーソン国務長官が、米国人の北朝鮮への入国を原則禁じる「地理的渡航制限」を承認したという。これが有効となれば、通常の米国のパスポートでは、北朝鮮を訪問、同国に滞在したり、同国を経由して他国へ移動したりすることができなくなる。米当局は、北朝鮮が世界で唯一、米国人が渡航を禁じられた国になるだろうとしている。これまで米国が渡航禁止措置を取った国としては、イラン(1987-97年)、イラク(1991-2003年)、リビア(1981-2004年)、キューバ(1963-77年)等が挙げられる。
ナウアート報道官は、「北朝鮮の法制度の下での逮捕や長期間の拘束といった重大なリスクをめぐる懸念が増大していること」によるものであると、その理由を説明した。国務省は来週、連邦政府の官報で通知することとしており、30日の猶予期間を経て、渡航制限が有効となる。報道官はさらに、今後は北朝鮮への渡航や滞在には特別の承認が必要になるとして、「ある一定の限られた人道的な目的等により」北朝鮮に渡航したい米国人は、そのための特別なパスポートを申請できると述べた。
この措置は、既に報道されたとおり、北朝鮮に拘束されていた22歳の米国人、オットー・ワームビア氏が、最近解放されたものの、すぐに死亡したことを受けて取られたものである。オハイオ州出身の大学生であるワームビア氏は、昨年北朝鮮をツアーで旅行中に、政治的な宣伝ポスターを盗もうとしたとして、15年の重労働刑に処せられた。およそ18カ月が経過した今年6月に人道上の理由で解放され、同月13日に米国に昏睡状態で帰国した後、19日に死亡している。彼の死をめぐる状況は、どうして昏睡状態に陥ったのかも含め、はっきりとしていない。北朝鮮はその国営メディアを通じ、ワームビア氏の死亡は謎であるとし、拘束中に拷問や殴打の結果死んだのではないかという他国からの疑いについては、これを強く否定した。
国務省の今回の措置については、北朝鮮が拘束した米国人を、これまでのように米国政府との交渉カードに使わせないという点で意義があると評価する専門家もいるが、未知の世界での新たな経験を勧める旅行会社や、米国人の渡航や行動の自由を尊重する人々からの反対意見もある。
現在、実際に何人の米国人が北朝鮮にいるのかはわからない。国務省は、特定の国に米国市民が何人在住し、旅行等で訪問しているかについては、明らかにしていない。北朝鮮は外国人旅行者の訪問を受け入れているが、同国内の旅行については厳しい制限がある。毎年、およそ4,000-5,000人の欧米からの旅行者がいるが、米国人の北朝鮮旅行者は800-1,200人程度であると言われる。
今回の措置の発表に先立って、欧米人向けの北朝鮮ツアーを扱う旅行会社2社が、米国メディア等に対し21日、渡航禁止措置について語っている。北京に拠点を置く高麗ツアーズは、北朝鮮で米国の利益代表を務めるスウェーデン政府当局から通知されたことを公表、同じく北京に本拠を置くヤング・パイオニア・ツアーズも、米国政府が今後北朝鮮への渡航を認めないと伝えられたことを明らかにした。両社とも官報による措置の通知が27日にあると伝えられたとしていたが、同日は朝鮮戦争の休戦協定が調印された記念日だ。ヤング・パイオニア・ツアーズは、ワームビア氏が参加した北朝鮮ツアーを催行していた会社で、ワームビア氏の死後、米国人を北朝鮮に渡航させない方針を発表していた。
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