欧州連合(EU)の首脳会議が22日、本部のあるブリュッセルで始まった。メイ英首相は同日行われた夕食会で、19日に正式に開始した離脱交渉の最優先分野の1つとなっている、在英EU加盟国市民の権利保障の問題に関し、その居住権を容認する提案内容を示した。これを受けて、英国を除く27カ国の首脳は、離脱問題のEU側の交渉担当者であるバルニエ首席交渉官とともに、今後の対応を検討した。23日は、英国がEUからの離脱を選択した国民投票から丸1年を迎える。
メイ首相の提案によれば、5年以上英国に居住するEU市民に対しては、英国民と同等の権利を与える。これは新しい「定住したEUの(settled EU)」移民という身分を持つ、英国内320万人いると言われるEU市民に対し、引き続き英国内に居住する権利だけでなく、健康保険や教育、年金他の福祉政策の恩恵を受ける権利を与える方向性を示したものだ。一方、英国に在住するEU市民の権利について、EUの司法権が及ぶことは認めなかった。
メイ首相は、「英国は公平で真剣な提案(fair and serious offer)をしており、これは英国内に移住し、キャリアを築いて生活し、英国社会に多大な貢献をしている市民に対し、可能な限り確かな権利を与えることを狙ったものだ。」と述べている。但し、EU条約50条に基づき離脱の手続が開始した本年3月、あるいは離脱が完了する予定の2019年3月等で線を引き、それ以降に移住してきたEU市民については、居住権や就業を認めない可能性を示唆した。また、全てはEU国内に居住する英国人に対し、同等の権利が与えられれば、という条件付きであることを示した。
メイ首相はEU首脳へのプレゼンテーションを終えると退席し、英国以外の首脳らは、これを受けて今後の対応を協議した。欧州理事会のドナルド・トゥスク議長(EU大統領)は「奇跡が起きた。」と述べた。ドイツのメルケル首相は、EU市民の権利が保証されたことで「良いスタートが切れた。」と評価したが、解決されていない問題も多いとも指摘している。
またEU首脳らは、英国内にある2つのEUの機関である欧州銀行監督機構(EBA)と欧州医薬品庁(EMA)の移転先を10月末までに決めることで合意、EU軍による共同防衛体制についても話し合った。
英国のEU離脱に向けての正式交渉は、ブリュッセルで19日に第1回目の協議が行われたが、EUが支払いを要求している未払いの分担金(手切れ金)の問題などを優先して行うこととし、英国が主張する自由貿易協定(FTA)を後回しにすることとすることで一致した。お互いの市民の権利保証の問題は最優先事項の1つとなっており、今後集中して協議する作業部会を設置して詰めていくこととし、19日には具体的な内容に入らなかった。離脱に向けての全体交渉は、今後月に1度、1週間かけて行うこととしており、次回は7月17日の週に予定されている。
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