訴状によるとトランプ米大統領は自身の事業から米議会の承認なしに外国政府から報酬を得ていること、また連邦政府と州政府からの支払いを受け取ることを禁止するという点についても合衆国憲法に違反しているとしている。ラシーン米ワシントンD.C.司法長官とフロシュ米メリーランド州司法長官は記者会見で、米国の歴史でこのように様々な事業を行い自分の財産から距離を置くことを拒否した大統領はいなかったと述べた。また税務申告書を含むトランプ米大統領の財務情報の提出も求めていると述べた。トランプ米大統領は、数十年の慣例となっていた米大統領候補者や米大統領が税務申告書を一般に公開することを拒否している。この訴訟はトランプ米大統領の利益相反について州政府が起こした最初の提訴であり、トランプ米大統領に圧力をかける見込みだ。トランプ米大統領にとっては、ロシア問題、入国制限差し止め訴訟等、ますます法的な問題が増えている。
1月20日の就任式前にトランプ米大統領はトランプ・オーガナイゼーションの運営を息子のエリックとドナルド・ジュニア、最高財務責任者のワイゼルバーグに委任する文書に署名した。しかしトランプ米大統領は持分を完全に処分してはいなかった。またトランプ米大統領は不動産に関する日常業務を行わないと約束していたが、息子のエリックはトランプ米大統領に定期的に財務報告をしていると認めている。トランプ・オーガナイゼーションは昨年オープンしたワシントンD.C.のトランプインターナショナルホテルを保有する。トランプ米大統領の就任以来、このホテルは外交官向け事業に力を入れている。米大統領選挙後わずか1週間で約100人の外国の外交官がホテルに宿泊してイベントを開催した。また、ホテルは外交官向け事業推進のため、専門の販売促進担当役員を採用した。ホテルにはムニューチン米財務長官を含むトランプ米政権のメンバーが住んでいる。また、このホテルはメリーランド州東部にある他のホテルやビジネス施設から顧客を奪っている。
スパイサー米大統領報道官は、トランプ米大統領の持分は報酬条項に違反しないと述べ、提訴したラシーン米ワシントンD.C.司法長官とフロシュ米メリーランド州司法長官が民主党員であることから、政治的な動きが訴訟の背後にあるのではと語った。米司法省は、この提訴の原告はいかなる形でも苦しんでおらず、訴訟の根拠はないと述べ、米大統領を召喚することは違憲だとした。また米司法省は、米大統領はホテル、ゴルフ場、事務所賃料などで公正な市場取引で商品代金やサービス料を受け取ることができると主張している。
この提訴が直面する最初の問題は適切な法的根拠があるかである。米連邦裁判所がどのように反応するかはまだ分からない。トランプ米大統領のように実業家から米大統領になった人物はこれまでなかったので、このような訴訟の判例はない。ワシントンD.C.とメリーランド州の提訴がうまく裁判所に取り上げられれば、他の問題にも波及する可能性がある。報酬条項と呼ばれる米国憲法の条項は米大統領が外国政府から受け取ることができるものを制限している。米国の建国者は米国の指導者が外国政府に取り込まれないようにするため、この条項を設けた。法律の専門家は、メリーランド州等による今回の提訴は非政府組織による同様な問題の提訴よりも裁判所が取り上げてくれる可能性が高いとし、また他の地域の裁判所で同様な裁判を起こせる道筋を切り開いたと評価している。
別の法律の専門家はトランプ・オーガナイゼーションが海外で税制や土地の権利などで特別の計らいを受けると条項に違反する可能性があると述べ、海外からの利益も潜在的に違反と解釈される可能性があるとしている。これに対しトランプ米大統領の弁護士は報酬条項は、米連邦政府が外国政府からの特別な配慮による金品を受け入れないようにすることを目的としているだけで、ホテルの部屋代などの支払いには適用されないと主張している。
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