南シナ海において、ロシア支持を得た中国がその存在感を益々強烈に表していて、米国の影響力が薄くなっているとの報道に反発してか、米軍がこの程、昨年10月以降差し控えていた“航行の自由作戦（FONOPS）”を再開した。トランプ政権としては、親中路線に舵を切っていると見られていた訳だが、5月20日付Globali「習主席、ドゥテルテ大統領を恫喝」で触れたとおり、ドゥテルテ大統領が常設仲裁裁判所（PCA）裁定に則ってフィリピン領海とされた海域での石油探査活動を匂わせたところ、中国側は、その場合は戦争になると脅したと報道されているが、かかる暴挙を看過できないと判断したためともみられる。なお、中国側はいつものとおり、自国のことは棚に上げて、軍事的圧力反対として抗議している。

5月25日付米『ワシントン・ポスト』：（『AP通信』配信）：「中国、南シナ海での米海軍監視航行に抗議」
中国外交部の陸慷（ルー・カン）報道局長は5月25日、米海軍の軍艦が南シナ海の中国主権内と主張する海域に無断で侵入したとし、同海域の平和と安定を損ない、かつ、米中両国間の協調体制を壊しかねないと抗議した。中国側発表によると、ミサイル駆逐艦デューイが南沙（スプラトリー）諸島のミスチーフ礁に築いた人工島から12海里（約22キロメーター）内を無断で航行したという。...

5月25日付米『ワシントン・ポスト』：（『AP通信』配信）：「中国、南シナ海での米海軍監視航行に抗議」
中国外交部の陸慷（ルー・カン）報道局長は5月25日、米海軍の軍艦が南シナ海の中国主権内と主張する海域に無断で侵入したとし、同海域の平和と安定を損ない、かつ、米中両国間の協調体制を壊しかねないと抗議した。中国側発表によると、ミサイル駆逐艦デューイが南沙（スプラトリー）諸島のミスチーフ礁に築いた人工島から12海里（約22キロメーター）内を無断で航行したという。

中国国防部の任国強（レン・コーチアン）報道官も、米軍艦が中国側許可を得ずに侵入してきたので、中国軍フリゲート艦2隻を派遣して退去するよう警告したと発表した。

これに対して、米国防総省報道官のジェイミー・デービス少佐は、米国は引き続き、南シナ海を含めたアジア太平洋地域において、行き過ぎた海洋活動を牽制し、国際法に則った海洋安全や自由航行を確保するため、日常的にFONOPS作戦を実施していくと明言した。

なお、前回のFONOPS作戦は昨年10月が最後であったが、米上院超党派グループは今月初め、アジア太平洋地域の安定を図るため、米国のプレゼンスを発揮すべきだとして、トランプ政権に同作戦を再開するよう訴えていた。

同日付英『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』オンラインニュース：「中国軍艦、“偶発的衝突”を避けるため米軍艦に南シナ海の中国領域から退去するよう警告」
中国外交部の陸報道官は、中国の許可なく中国主権内の海域に米軍艦が侵入することにより、“偶発的衝突”も起こりかねず、米国はFONOPSを口実にした領海侵犯を即刻止めるべきだと抗議した。

トランプ政権は、北朝鮮問題対応のため中国の協力が必要だとして、中国を刺激するような対応は取らないものとみられていたが、米太平洋軍司令官は、領有権問題のある海域での中国の横暴を諌める必要があるとしている。

同日付フランス『フランス24』オンラインニュース（『AFP通信』配信）：「中国、米軍艦が“許可なく”中国主権海域に侵入したと発表」
中国外交部の陸報道官は、米ミサイル駆逐艦デューイが5月25日朝、中国の許可なくミスチーフ礁の中国領海内に侵入してきたが、中国の主権や海洋権を脅かすような挑発行為は止めるよう同軍艦に警告したと発表した。

トランプ政権下では、FONOPS作戦が実行されたのは初めてである。

同日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース：「中国外交部、米軍艦の領海侵入により南シナ海の軍事化を進めるものだとして抗議」
中国国防部の任報道官は、中国が争うことがない主権を有している南シナ海の南沙諸島海域に、米軍が武力を見せびらかして同海域の軍事化を推し進めることに断固反対し、米国側に対して厳正な対応を求めたと表明した。

なお、米シンクタンクのアジア海洋透明性イニシャチブ（AMTI）は今年3月下旬、中国が築いた南沙諸島内の人工島に、軍用施設等の建設を既に終えていると報じている。

一方、同日付中国『チャイナ・デイリィ』：「国防部、米軍艦の南シナ海領海立ち入りに抗議」
国防部の任報道官は、5月25日朝に米軍ミサイル駆逐艦デューイが、中国の許可なく南沙諸島内の美済礁（メイジー、英文名ミスチーフ礁）領海内に侵入してきたため、中国のミサイルフリゲート艦“柳州（リゥチョウ）”と“瀘州（ルチョウ）”2隻を派遣して、即刻退去するよう警告したと発表した。

同報道官はまた、かかる暴挙によって空・海での偶発的衝突が発生しかねず、また、武力によって地域の軍事化を図ることに断固反対するとして、米国側に厳正な対応をするよう申し入れたと明かした。

なお、中国と東南アジア諸国連合（ASEAN）双方の努力によって、目下南シナ海の安定と平和が保たれている。